全力を出すと全裸になる男の学園生活(仮)

きんぺー

文字の大きさ
2 / 6

去る者②

しおりを挟む
 帝立ヤサカニ学園。国内でも随一の生徒数を誇るこの学園は、その生徒数に比例して敷地も広大だ。
なにせこれまた国内でも一、二を争うような大きさの山ひとつをまるまる使って学園を形成している言うのだから、どのくらい広いか簡単に想像でき……ないな。
とにかく、初めてその外観を見た者は皆、否応なく圧倒されること間違いなし。それくらい広い。
……さっきから広い広いと俺が何を言いたいかと言うとだ。
「遠いわあァ!」
 山ひとつとかふざけんじゃねえよ! 広すぎるわバカ!
 設計者はそこで生活送る奴のこと少しは考えろよ!
 校舎間の移動だけでどんだけかかると思ってんだ!
「間に合わねえ。ぜってえ間に合わねえ。でも退学は嫌だあァァ!」
「大声出しながら走ると苦しくないか?」
 叫んでいるさなか急に話しかけられる俺。しかも真横から。
聞き覚えのある声だ。チラリとそちらに視線を向けると、やっぱり知っている奴だった。
 そいつは不思議そうな顔をしながら俺の横をバイクで併走している。バイクで。
「哲也、その俺を見て「鴨がネギしょって来やがったぜ!」みたいな顔するの止めてくんないかな。なんか怖いんだけど」
「鴨がネギしょって来やがったぜ!」
「言った!?」
「ありがとう京士郎、俺のために快くバイクに乗せてくれるだなんて!」
「言ってないよ! 俺そんなこと一言も言ってないよ!」
 文句を言う鴨、もとい京士郎。このままではらちが明かないので俺は半ば強引にバイクの後ろへと乗り込んだ。
 京士郎は不満そうな顔をするが、そんなものは関係ない。こちとら退学するかしないかの瀬戸際なのだ。
「あんまり無茶はやめてくれよ、これ借りものなんだからさ。それに重いよ哲也。自分が何キロあると思ってんの?」
「ざっと十万グラムってとこか。良いからさっさとスピード出せ!」
「グラムで誤魔化そうとしてもダメだぞ。キロに直したら千キロにもなっちゃうじゃないか!」
 我が友人の頭の出来に少し悲しくなる俺。
「あ。でも千キロもあったら一トンてことに……体重増えすぎだろ!」
「どんだけバカなんだテメエは!?」
 時間も無いのにああだこうだする。しかし流石にそこはバイク、自分で走るより幾分も速い。
 この調子なら間に合いそうだと心に余裕が生まれる――

ファンファンファンファン

――かと思われたのもつかの間。どこからか聞き慣れた嫌なサイレン音。
というか俺たちの後方からだ。
『こちら風紀委員ス。そこのバイクの二人乗り止まりなさいッス』
「げえ!?」
 後ろを振り返るとそこには黒と白のモノトーンで塗られた一台の車。その車体にはでかでかと『風』の文字。
違ってほしかったがあれは間違いなく風紀委員。
 この急いでる時に厄介な奴らがきやがった!
すると一気に風紀委員との距離が縮まっていく。速度を上げてきた? いや違う。俺たちの方がどんどん減速しているのだ。
「おい京士郎! 何やってんだ。このままだと追いつかれちまうぞ!」
 だが京士郎は速度を上げようとはせず、さらに減速する。そしてポツリとこう呟いた。
「ごめん哲也。でも俺、お前と違って風紀委員のお世話になるの慣れてないんだ」
「俺が慣れてるみたいな言い方はやめろォ!」
 週に二、三回くらいだっての!
『良いッスよ、そのまま脇に止め――』
 風紀委員が誘導しようとしたその時
『パァン!!』
 突如、乾いた音と共にヒュッと俺の耳のすぐ近くを通り過ぎる何か。いや、何かは分かる。分かっているから青ざめる俺。そして京士郎。
『ちょ! 先輩いきなり何やってんスか!? いや待って、こっちに銃口向けないでくださいッス! ああ!? そのボタンは押しちゃダメッスよ!』
 物騒な話がスピーカー越しから聞こえてくる。やっぱり奴か、奴も乗っているのか!
 ビュゥン! とさっきまで止まる勢いだったバイクが一気に加速する。京士郎もどうやら俺と同じ考えに至ったらしい。そうだ、それで良い。もっとだ。もっと奴から距離をとるんだ!

だが遅かった。

 俺は加速する最中もずっと風紀委員の車を観察していた。いつでも脱出できるように。
そして見た。ボンネットがパカーと開き、そこからやけにメカメカしい砲台が出てくるのを。
そして出てきてからから一瞬、ほんの一瞬で、俺は、いや俺たちは光の奔流に呑みこまれた。
……つまりふっ飛ばされたのだ。バイクごと俺と京士郎が。その砲台から発射された魔力によって。
「ぐわあああああ!!」
 絶叫と共にヒューンと体が宙を舞っている感覚を味わいながら俺は思った。

ああ、これで最後なのかよ。と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...