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去る者③
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「よっ、起きたか哲也」
目を覚ますと俺を見おろす京士郎の顔があった。
頭がボォとする。どうやら今までで気を失っていたらしい。
「どうだ体のちょう痛い痛い痛いィ!!」
俺は体を勢いよく起こし、京士郎の頭をガシリと掴む。なぜか。それはこっちは気絶してたというのに、一緒に吹っ飛ばされたはずの京士郎は傷ひとつ付いていないからだ。
「なんでテメエはそんなにピンピンしてんだ?」
俺より貧弱ボディであるはずのコイツが無傷だなんてありえん。起きてから妙に感じる背中のジンジンとした痛みも気になるし、これは京士郎を縛り上げなければ、と思ったそのとき
「ん?」
「ノオオォ!!」
ふとなにやら騒がしいことに気付く。京士郎の唸り声とは別に。
なんだと思い立ち上がる。よくよく周りを見てみると、どうやらここはどこぞの通路らしい。そもそも俺が寝かされていたのも、ベットではなくただのベンチだ。
てっきり保健室か医務室あたりに運ばれたと思っていたんだが。
すぐ近くに通路の出口があったので、俺は京士郎の頭を掴みあげながらくぐり抜ける。
「なに!?」
そして俺は驚きのあまり目を見開いた。
まず見えたのは、大きな円形に作られた闘技台。それをグルッと囲むように設置された観客席。さらにその観客席より上。相対するように両端に建てられた龍と鳥を模した二つの巨大なオブジェ。
まさかと思ったがその二つのオブジェを見て確信した。
アレがあるってことは間違いない。ここは紛れもなく
「南東アリーナッ!」
「出る出る! 哲也それ以上やったらなんか出ちゃうゥ!!」
「おい、これはどうなってんだ京士郎!」
「それならまず手を放してェ!」
パッと頭を掴んでいる手を放す。解放された京士郎はヨロヨロと頭を押さえながら、何があったのか話し始めた。
「聞いて驚かないでくれよ哲也。あのとき風紀委員に飛ばされた俺たちが落下した場所。
俺も最初は信じられなかったけど、その場所っていうのがなんと偶然にも、ここ、南東アリーナだったんだよ!」
どうだ驚いたかってな表情で言い放つ京士郎。こいつは。
「あのな……そんなもん聞かなくても分かるわァ!」
「あれ? 違うのか?」
「違う。俺が聞きてえのは、なんでまだ決闘が始まってねえのかってことだ!」
そう、どれくらい気絶していたかは分からないが、少なくともすでに開始時間はとうに過ぎているはず。なのに、観客席は生徒たちで埋まり、闘技台の上では整備作業が行われている。これではまるで決闘前としか思えない雰囲気だ。
「それは恐らく、伝えられた時間がそもそも間違っていたのかと」
突如、誰かが俺たちの話しに割って入る。
「お前は――」
そこに立っていたのは一人の少女。
赤い髪に真紅のカチューシャ。小柄な体を包む上下とも黒のスーツ。俺はコイツを知っている。
「――紅か」
「はい。どうやらお元気そうでなにより」
言葉とは裏腹に不機嫌そうな半開きの目でこちらを見つめてくる。
「そっちは相変わらず眠たそうな顔してるな」
「生まれつきこの顔ですので。こればっかりは何とも」
「お前がそう言うってことは……本当にまだ決闘は始まっていないんだな?」
「私どもが信用できるのであれば」
そう言いながら強調するように自分の胸元へと手を添える。そこにはワッペンが付けられており、独特のデザインで『審』と書かれた装飾が施されている。……べつに関係無いが、コイツと初めて会ったときは男かと勘違いしたことがある。べつに関係ないが。
「へっ、安心しろ。お前、いやお前たち『審判委員』を疑うようなことはしねえよ。こと決闘ごとに関してはな」
「こちらとしては最高の褒め言葉です。久々ですから世間話のひとつでもしたいところですが……お相手もいらっしゃったようなので、また今度にいたしましょう」
紅が俺たちのいる場所の反対側、ちょうど同じような通路口のあるあたりに顔を向ける。
相手とはもちろん俺の決闘相手のことだろう。
「哲也、決闘の相手はどんな人なんだ?」
「いや分からねえ。嵐山の奴は何も言ってなかったし、聞くヒマも無かったんでな」
「それもそうか。人のバイクに乗りこんで風紀委員に砲撃されるくらい余裕なかったもんな」
「テメエは過ぎたことをゴチャゴチャと」
いや待てよ。元々、時間が迫ってるって言ったのは嵐山だ。だが実際はまだまだ時間の余裕はあったわけで、だったら決闘相手の話しくらいできたはず。まさかあの野郎、ワザと嘘の時間を教えて俺を急がせたんじゃ。しかし何のために……。
「お、相手が出てくるみたいだぞ」
チッ、大事な決闘だってのにいまいち集中できねえ。
俺はいったん考えるのをやめ、どんな奴が『『『キャーー!!』』』
「なんだァ!?」
『こっち向いてェ!!』『付き合ってェ!』『結婚してェ!』『抱いてくれェ!』
いきなり会場中から一気に湧きあがる黄色い歓声。一部おかしいのもあるが。
突然どうしたんだと不思議に思う俺。しかし、この歓声の理由はすぐに分かった。
闘技台をはさんだ俺たちの正面に男が立っている。しかもただの男じゃねえ、美男だ。イケメンだ。なんか無駄にキラキラして、観客席からは花束が投げ込まれている。よりにもよってアイツかよ。
「なあ哲也。あの人、もしかして美陰じゃないか?」
京士郎の言うとおり。奴の名は美陰――美陰 凍治! 俺たちと同じ二年生で学年首席。その実力は学園でも指折りとされている。
畜生、なんて厄介な奴が出てきやがったんだ!
「哲也……」
京士郎がポンと俺の肩に手を乗せる。お前との学園生活は楽しかったよ、とか言ったらどうしてくれよう。
「お前との学園せいかグアアァ!!」
京士郎の頭を脇に抱え一気に締め付ける。
俺は頭を締め付けながら、今日の決闘、中止にでもなんないかなあと少し願ってしまっていた。
目を覚ますと俺を見おろす京士郎の顔があった。
頭がボォとする。どうやら今までで気を失っていたらしい。
「どうだ体のちょう痛い痛い痛いィ!!」
俺は体を勢いよく起こし、京士郎の頭をガシリと掴む。なぜか。それはこっちは気絶してたというのに、一緒に吹っ飛ばされたはずの京士郎は傷ひとつ付いていないからだ。
「なんでテメエはそんなにピンピンしてんだ?」
俺より貧弱ボディであるはずのコイツが無傷だなんてありえん。起きてから妙に感じる背中のジンジンとした痛みも気になるし、これは京士郎を縛り上げなければ、と思ったそのとき
「ん?」
「ノオオォ!!」
ふとなにやら騒がしいことに気付く。京士郎の唸り声とは別に。
なんだと思い立ち上がる。よくよく周りを見てみると、どうやらここはどこぞの通路らしい。そもそも俺が寝かされていたのも、ベットではなくただのベンチだ。
てっきり保健室か医務室あたりに運ばれたと思っていたんだが。
すぐ近くに通路の出口があったので、俺は京士郎の頭を掴みあげながらくぐり抜ける。
「なに!?」
そして俺は驚きのあまり目を見開いた。
まず見えたのは、大きな円形に作られた闘技台。それをグルッと囲むように設置された観客席。さらにその観客席より上。相対するように両端に建てられた龍と鳥を模した二つの巨大なオブジェ。
まさかと思ったがその二つのオブジェを見て確信した。
アレがあるってことは間違いない。ここは紛れもなく
「南東アリーナッ!」
「出る出る! 哲也それ以上やったらなんか出ちゃうゥ!!」
「おい、これはどうなってんだ京士郎!」
「それならまず手を放してェ!」
パッと頭を掴んでいる手を放す。解放された京士郎はヨロヨロと頭を押さえながら、何があったのか話し始めた。
「聞いて驚かないでくれよ哲也。あのとき風紀委員に飛ばされた俺たちが落下した場所。
俺も最初は信じられなかったけど、その場所っていうのがなんと偶然にも、ここ、南東アリーナだったんだよ!」
どうだ驚いたかってな表情で言い放つ京士郎。こいつは。
「あのな……そんなもん聞かなくても分かるわァ!」
「あれ? 違うのか?」
「違う。俺が聞きてえのは、なんでまだ決闘が始まってねえのかってことだ!」
そう、どれくらい気絶していたかは分からないが、少なくともすでに開始時間はとうに過ぎているはず。なのに、観客席は生徒たちで埋まり、闘技台の上では整備作業が行われている。これではまるで決闘前としか思えない雰囲気だ。
「それは恐らく、伝えられた時間がそもそも間違っていたのかと」
突如、誰かが俺たちの話しに割って入る。
「お前は――」
そこに立っていたのは一人の少女。
赤い髪に真紅のカチューシャ。小柄な体を包む上下とも黒のスーツ。俺はコイツを知っている。
「――紅か」
「はい。どうやらお元気そうでなにより」
言葉とは裏腹に不機嫌そうな半開きの目でこちらを見つめてくる。
「そっちは相変わらず眠たそうな顔してるな」
「生まれつきこの顔ですので。こればっかりは何とも」
「お前がそう言うってことは……本当にまだ決闘は始まっていないんだな?」
「私どもが信用できるのであれば」
そう言いながら強調するように自分の胸元へと手を添える。そこにはワッペンが付けられており、独特のデザインで『審』と書かれた装飾が施されている。……べつに関係無いが、コイツと初めて会ったときは男かと勘違いしたことがある。べつに関係ないが。
「へっ、安心しろ。お前、いやお前たち『審判委員』を疑うようなことはしねえよ。こと決闘ごとに関してはな」
「こちらとしては最高の褒め言葉です。久々ですから世間話のひとつでもしたいところですが……お相手もいらっしゃったようなので、また今度にいたしましょう」
紅が俺たちのいる場所の反対側、ちょうど同じような通路口のあるあたりに顔を向ける。
相手とはもちろん俺の決闘相手のことだろう。
「哲也、決闘の相手はどんな人なんだ?」
「いや分からねえ。嵐山の奴は何も言ってなかったし、聞くヒマも無かったんでな」
「それもそうか。人のバイクに乗りこんで風紀委員に砲撃されるくらい余裕なかったもんな」
「テメエは過ぎたことをゴチャゴチャと」
いや待てよ。元々、時間が迫ってるって言ったのは嵐山だ。だが実際はまだまだ時間の余裕はあったわけで、だったら決闘相手の話しくらいできたはず。まさかあの野郎、ワザと嘘の時間を教えて俺を急がせたんじゃ。しかし何のために……。
「お、相手が出てくるみたいだぞ」
チッ、大事な決闘だってのにいまいち集中できねえ。
俺はいったん考えるのをやめ、どんな奴が『『『キャーー!!』』』
「なんだァ!?」
『こっち向いてェ!!』『付き合ってェ!』『結婚してェ!』『抱いてくれェ!』
いきなり会場中から一気に湧きあがる黄色い歓声。一部おかしいのもあるが。
突然どうしたんだと不思議に思う俺。しかし、この歓声の理由はすぐに分かった。
闘技台をはさんだ俺たちの正面に男が立っている。しかもただの男じゃねえ、美男だ。イケメンだ。なんか無駄にキラキラして、観客席からは花束が投げ込まれている。よりにもよってアイツかよ。
「なあ哲也。あの人、もしかして美陰じゃないか?」
京士郎の言うとおり。奴の名は美陰――美陰 凍治! 俺たちと同じ二年生で学年首席。その実力は学園でも指折りとされている。
畜生、なんて厄介な奴が出てきやがったんだ!
「哲也……」
京士郎がポンと俺の肩に手を乗せる。お前との学園生活は楽しかったよ、とか言ったらどうしてくれよう。
「お前との学園せいかグアアァ!!」
京士郎の頭を脇に抱え一気に締め付ける。
俺は頭を締め付けながら、今日の決闘、中止にでもなんないかなあと少し願ってしまっていた。
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