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第三章:エヌという星

第42話 邂逅

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 狼の谷ダンジョンをクリアしたサトル達は、すでに王都に戻っている。今回の攻略は過去のどのチームよりも早いものであったが、4人にとっても肉体的、精神的疲労は相当なものであった。

 まずは疲労の回復、装備の点検、次のダンジョンの情報収集と攻略法をまとめること。サトルは事前の準備が攻略の効率化につながるとわかっている。ゆえに抜かりはない。

 その王都には北海道東北チームが滞在しているが、当然サトルたちは知る由もない。

 その北海道東北チームは熊の山ダンジョンを攻略した直後で、そのチームにはサトルの同級生であり、サトルを探しているサクラがいる。

 彼らの場所を地図上で見れば、サトルたちは馴染みの宿の食堂で、サクラたちはそこから200mほど離れた鍛冶屋で装備の修理を依頼している。

 2人が再会するかどうか、それはこれからの行動次第である。




「当分狼は見たくないな。昨日は夢に出てきたよ」

「俺もだ。倒しても倒してもきりがなく、永遠に倒し続ける夢だった」

「これからの予定はどうするの?」

「昼飯が終わったら王城へ行きたい。王女に聞きたいことがあるし。そのあとは鍛冶屋で武器の点検、そして夜は明日から挑む次のダンジョンの攻略プランのまとめ、そんなところだな」


 サトルの計画に全員が頷いている。これまでサトルの計画で不満に感じたことはないし、実際にミスもなくすべてがスムーズだ。

 彼らは昼食を済ませると、その足で王城へ向かった。




 サトルをサポートするボンは、スカーレット王女が召喚した召喚獣であり王女と繋がっている。サトルがみんなに王城へ行く考えを述べると、即座に王女へメッセージを送った。


““ハル様。サトル様のチームがこれから王城へ行くとのことです。ハル様に確認したいことがあるようです””

「あちゃ~、これから(地球の)花村さんとこでランチの予定だったのに。時間を遅らせることはできない?」

““その場合、先に鍛冶屋にいく可能性があります””

「それはマズイわね。まだサクラのチームがいるし、まだ顔を合わせたくないのよね。わかったわ。そっちを優先するわ」



 そう念話でボンに伝えると、スカーレット王女はラフなワンピースから王女用のドレスに着替えなおした。

「久しぶりに地球のラーメンを食べるところだったのにね。くだらない内容なら怒るわよ」




 その頃、鍛冶屋で装備を点検しているサクラのチームは、ひとつの問題に直面していた。

 サクラがチームからの脱退をほのめかしているのだ。

 チームとしてはここまで特に大きなトラブルもなく、順調にダンジョンを制覇している。ただそれは卓越した魔法使いであるサクラの功績が大きく、階層が進めば進むほど他の3人はサクラに依存する傾向が強い。

 そのバランスにサクラがチームとしての限界を感じたのだ。

 しかし脱退の理由はそれだけではない。

 サクラはサトルを探したいのである。しかしこの本心は誰にも明かしていない。



「装備の点検が終わるまで2時間ほどか。大きな傷もなかったみたいだし、これなら次のダンジョンも大丈夫だな」

 サクラの北海道東北チームメンバーで戦士のタツオが呟く。

「ちょうどいい時間ね。もう一度話し合いましょう、今後のことを」

 サクラの言葉に3人は来たかと、緊張を高めた。なんとなく気付いていたのだ。そろそろサクラが言い出すんじゃないかと。

「今後のことって、何かしら」

 僧侶のサナエは恐る恐るサクラに尋ねる。

「前にも言ったけど、チームのバランスが悪いわ。タツオさんも攻撃が甘いし、ノブさんも魔法戦士としてはサポートが悪すぎる。魔法使いの私が前衛に立つっておかしくない?」

「それは… 俺たちがどうこうじゃなくて、サクラが凄すぎるんだよ…」

「私が知る魔法戦士はそんなことを絶対に言わないわ。それだけでノブさんはダメよ」

「じゃあ、どうするの?」

「一度チームを解散して、自分たちに合ったチームを探す方がいいんじゃないかしら?」

「それは難しいよ。今までも会ったことがないのに、これから他のメンバーを探すなんて」

「そんなことないわ。あの王女は絶対に何かを隠しているし、他のメンバーのことも知っているはず。あの人から色々聞き出せば、きっと見つかるはずよ」

「そうは言っても…」

(私は早くサトルさんに会いたいのに…。あの人なら、絶対にこの世界に来ているはず。そしてサトルさんとなら絶対に…)


 サクラはそう考えながらも、サトルの存在を口に出すのは避けている。サクラがその想いを口にすることで、チームメンバーがサトルに対してマイナスなイメージを持つかもしれないからだ。

「あとで王城へ行ってみましょう」

 煮え切らない思いを抱えたまま、サクラはそう言ってひとまずこのやり取りを終えた。




 王城へ着いたサトルたちは、城門の前で王女が準備できるのを待っている。

 それほど長く待たされたわけではなかったが、時間を持て余したサトルは城門横の地面に落書きをして時間をつぶしていた。

 そして王女の用意ができたことを聞き、城門をくぐっていった。


 サトルたちとスカーレット王女は何度も顔を合わせていることもあり、特に緊張感もなく談笑している。

 そして相変わらずサトルの質問をのらりくらりとかわす王女だが、次の質問には驚かされた。


「最後の質問ですが、他のチームと鉢合わせしないように調整しているのはあなたの判断ですか?それとも誰かの指示ですか?」


(やっぱり切れるわね、この子は。マサノリ様が目をかけるだけのことはあるわ)


 しばしの沈黙が、その質問を肯定するかのようだった。少なくともサトルはそう感じている。


「何のことかしら、とだけ言っておきましょう。

今すぐにすべてを知る必要はないですよ。知ることが足を引っ張ることもあります。

ただ、皆様もいずれはすべてを知る時が来ます。

その時に何を感じるかは、それまでに皆様がどのようにこの世界を過ごすかによって決まるでしょう」


 王女が何とかその場をしのぐと、サクラの召喚獣から念話で報告があった。

(ぶっ!なんでこのタイミング?なんであのチームがここに来るのよ!)

(この時期にサトルとサクラが顔を合わせるのはマズイわね)

(しょうがない。私は不在ということにしておきましょう。)


「皆さん。せっかくここまでいらっしゃったので、私が知るイスタ王国でもとっておきの場所をお見せしますわ。ぜひご一緒にいかがですか?」

 王女はサトルたちを連れて城から抜け出し、サクラたちと合流しないよう調整することにした。

 突然の提案にサトルは何かを感じたが、エリやワカナが乗り気だったこともあり、結局はその提案に乗ることにした。


 そして数分後、王女はサトルたちとともにイスタ王国でも絶景と名高い海の街シーレックに転移。サトルたちも地球では見たこともないような景色に感動を受けたのである。




 その頃王城に到着したサクラたちは、王女が不在で接見することができなかった。

「なんだ骨折り損のくたびれ儲けってやつね」

 サクラはがっかりしているが、ふと見た城門横の地面に書かれていた落書きを見て衝撃を受ける。

(これは、大学の校章。なんで?誰が?やっぱりサトルさんだよね。サトルさんが私にメッセージを残してくれたんだわ!)



 もちろんサトルはサクラのためにメッセージを残したわけではない。単なる暇つぶしでしかなかったその落書きが、後に2人の運命を大きく変えていくことになる。



「サクラとサトル」へつづく
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