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第4章:地球での戦い

第61話 再会

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 サトルたち4人を地球へ転移させたあと、マサノリとハルだけが残った。


「これで一段落したな。まぁ、今回はあいつらにすれば新たなスタートだろうが」

「あの4人はどうですかね…」


 ハルも安どの表情でマサノリに話しかける。


「もちろん参加してもらわないと困る。俺たち召喚者は確かに強いが、能力は召喚を行った王族の特性に偏っている。その点、彼らは4人で1チームとなればかなりバランスがいい。そのためのソーマジック・サーガでもあるし、あの人選でもある」

「それに俺たちではできなかった蘇生魔法も、あいつらなら、もしかしたら作り出せるかもしれない」


「ホノさんもカナちゃんも、まだそのままだしね」

「次の戦いで俺達が生き残れるかはわからない。その時のためにも、これからが重要だ」






 マサノリの転移魔法は不思議な感覚だった。白い世界を旅しているような、空を飛んでいるような、いずれにせよサトルたちには未体験のものであった。そして気が付くと会議室のような部屋に転移していた


「ここは…?」


「皆様、おかえりなさいませ。ここは成田空港にある部屋です。始めまして、私は内閣特命係の日高です。マサノリさんから話は伺っています。これから皆様をサポートさせていただきますので、よろしくお願いいたします」


 その部屋に入ってきたのは、スーツを着たいかにもお役人といった日本人。いきなりの衝撃発言に4人は驚きを通り越して混乱している。


 数秒が過ぎ、最初に落ち着いたサトルが声を振り絞って日高に話しかける。


「ということは、ここは日本ってことだよな。俺たちは戻ってきたってことでいいんだよな…」


「はい。間違いございません。皆様はただ今エヌから帰還されました。今後のことについて説明したいのですが、よろしいでしょうか?」


「ドッキリとか、そういう落ちは無しだぞ」


「え、えぇ、まだ混乱しているけど、お願いするわ」


 エリもマッキーも急な展開に動揺している。


 「本日は2022年の×月×日でございます。皆様がエヌに転移してから、およそ3か月が過ぎております。年も明けました。念のため、紅白歌合戦や日本シリーズの結果については触れないでおきましょう。この間、皆様のご家族、職場、学校などには、国の特派員という肩書で海外を転々としているとお伝えしておりますので、混乱はありません。

 これから皆様は一般のお客様に混ざって入国ゲートに並んでいただきますが、まずは今後の流れを説明いたします。

 まず最初に、洋服はこちらで用意したものに着替えていただきます。これは日本の特派員を示す制服です。

 次に皆様がエヌに行かれた時点で、すでに1億円と毎月100万円の報酬が支払われております。支払先の口座は後ほどお伝えします。そして追加の報告ですが、来たる戦いに参加されて相手を撃退できた際には、追加で10億円の報酬が支払われますので、お伝えしておきます。当然ですが非課税の扱いとなっております。

 今後は国が保有するマンションで住んでいただくか、もともと住まれていた場所に戻るかお選びいただきます。そのうえで、1週間後に今後の選択をお伺いに参ります。

 こちらに皆様のスマートフォンや財布、特別なパスポートも用意しております。財布の中に見慣れないクレジットカードがありますが、それは自由に使っていただいて構いません。用途の報告も領収書の提出も必要ありません。ただし悪用は無しですよ。

 またこちらの身分証明カードもお渡しします。国の特派員であることを示すもので、緊急連絡先としても番号が書いてあります。何かありましたらそちらにご連絡いただければ我々の方ですぐに対応いたします。

 なお派遣先に関する詳細は、守秘義務があって話せないということでお願いします。

 会社、学校にはすぐに行く必要はありません。ただし行っても問題ありません。1週間後の返答を踏まえて対処いたしますので、まずは久々の日本を楽しんでください。

 私からは以上ですが質問はありますか?」


 日高の説明を聞いていた4人には困惑の表情が見られる。確かにそうだろう。あのダンジョンのラスボスを倒し、マサノリから話を聞いてまだ1時間も経っていない。わずかこれだけの時間で日本に戻り、そして今後の説明を受けているのだ。ここ数ヶ月エヌで過ごしていた日々とのギャップに整理が追い付いていない。


 少しの時間が過ぎた後、ようやくサトルが口を開いた。


「日高さんはどこまで知っているんだ?」


「私はエヌに行ったことはありませんが、デュベリスという魔物が存在し、いずれ地球に侵略する。そしてそのための戦士として、皆様方がエヌで訓練をしているという話は伺っています。それ以上、今後の戦闘に関する計画や皆様のプライベートに関しては承知しておりません」


「1週間の行動は完全に自由でいいんだよな」


「はい。大丈夫です。そして何か困ったことがあれば、私までご連絡ください。皆様のスマートフォンに連絡先が登録されていますので。

 他にご質問がなければ、隣の部屋で着替えていただき、その後一般客に紛れて入国審査へ移動したいと思います。

 さてこの後に関してですが、成田空港を出てからは、東京のある場所に向かいます。まぁ政府が管理するちょっと特殊なマンションという感じです。

 そこには皆様のお部屋を用意しておりますので、そこですぐに暮らしていただける環境となっています。なお今までお住まいだった部屋もそのままの状態にしてあります。家賃や光熱費は国の方で支払っておりますのでご安心下さい。どちらに住むかはご自由です。

 皆様の会社や学校、ご家族には国の方で対応しておりますのでご安心ください。そして本日帰国することもご連絡しております。特にエリ様の家族に関しては、すでに成田空港でお待ちになっていますので、後ほどお会いいただけます」


「えっミナが来てるの?」


「はい、エリ様のご両親と一緒にゲートの外でお待ちになっています」


「早く、早く行きましょう!」


 エリは娘が迎えにきていることで一気に表情が明るくなった、


「他にご質問がなければ、さっそく着替えをお願いします」



 4人はエヌで着ていた装備を外し、用意されていた制服に着替えた。驚くことに制服を着た瞬間魔法が発動し、体に付いていたほこりや泥、そして汗など一切の汚れが取り除かれた。おそらくあのマサノリという男が用意したものだろう。そうサトルは考えた。

 その後4人は日高に先導され、海外旅行客に波に紛れ、ゲートを出た。懐かしき成田空港そのものであった。



「ママー!」



 エリの一人娘であるミナがエリの胸に飛び込んできた。およそ3か月ぶりの再会である。みんなも自然と笑みがこぼれる。


「ごめんね、ごめんね、寂しい思いをさせちゃって…」


 エリは涙ぐみながらミナを抱きしめた。


「ちょっと寂しかったけど、すぐマサノリおじちゃんが遊んでくれたし、たくさん友達もできたの。それにペットもいるの。ママに見てもらいたいんだ」


「え、マサノリ、それにペット…」


 エリは動揺を隠せなかったが、その不安を娘の笑顔が引き飛ばした。


「お取込みのところ申し訳ございません。バスを用意してありますので、ご移動をお願いします」


 全員が日高の言葉で現実に戻されバス乗り場へ移動、ちょっと豪華な大型バスに乗り込み、成田空港を後にした。




 バスは高速道路を西へ走る。畑やビル、看板に観覧車、見慣れた日本の景色を見ながらサトルは考えていた。


(早くエヌに戻りたい。もっと戦いたい。でもその前に会わなければいけない人がいる)



 サクラとの再会は、翌日に迫っていた。


「サトルとサクラ」へつづく
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