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第4章:地球での戦い
第65話 マサノリの焦り
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「もう一度言う。賢者のラーメンが完成した」
突如マサノリに届いたメッセージの内容に、他のメンバーからも立て続けに反応があった。エヌに召喚された彼らにとって、賢者のラーメンという言葉は非常に大きな意味を持つ。
「ちょっと待って花村さん。 あのラーメンが完成って、こっちで作れるって本当?」
「花村、本当にあの味なんだな!?」
「どういうこと? しっかり説明して!」
エヌの王城にいるハルや黒き島にいる大木、さらに地球を飛び回っているナツの3人から興奮気味に連絡が届いた。その慌てようにマサノリも同調する。
「花村さん、こっちは今非常に重要な場面なんだけど、ここでそんな爆弾をぶつけないでくれ。というよりあのエヌで食べたラーメンが、本当にあの味がこっちで再現できたのか?」
「そうなんだよ。ありとあらゆる材料を使って再現できなかった味が、ついに完成したんだよ」
「でも、どうやって?材料は向こうから持ってきてないですし…」
「ヒントは魔力にあった。あの味はエヌで賢者が残したレシピをもとにしていると言われているが、確かにあの星にしかない材料は使われていた。もちろん全く同じ食材は地球にはなかったが、地球にある材料を素材に特定の魔力を加えることで味が大きく変化し、エヌの食材に近づくことがわかった。エヌには土壌に魔力が含まれていることで、食材の味に変化があったんだと思う。地球の土壌には魔力がないから、完全に美代の精霊頼みになるけどな。その味加減というか魔力味加減はかなりシビアだが、試行錯誤の上やっと完成したんだよ。美代も太鼓判を押す完璧な出来栄えだと思ってる。どうだ、今から食べに来るか?」
「もちろん!」
「今すぐ行く!」
「40秒で支度する!」
マサノリを除く3人は二つ返事で花村の誘いに答えると、結局3秒も経たず花村の中華料理屋に転移した。
「あれ、マサノリさんは来ないの?」
マサノリの事情を知らないハルはのんきに問いかけているが、マサノリとて今はそれどころではない。現在、ビッグエッグドームの地下にある闘技場では、エヌから戻った転移者のサトルとサクラが対決しているところであった。
まだ始まってから数分も経っていないが、その過酷な戦いにはマサノリも思わず見入るほど。この戦いを録画で済ますなんてことは出来ない。そもそもマサノリがこの状況に誘導したわけで、ラーメンのためにこの場を放り出すことは、目の前で作業するスタッフを前にできることではなかった。
「非常に歯がゆいけど、今すぐは動けない。頼む、頼むから俺の分を残しておいてくれ…」
マサノリにとってはあまりにも苦渋の決断。絞り出すように仲間に頼むことで精一杯であった。
その間もサトルとサクラの戦いは続いている。マサノリは早く終わってくれと焦りながら二人の戦いを見ているが、当然こういった場合は長引くのが世の常。サトルとサクラはお互いに楽しみながら、まるでダンスを踊るかのように戦い続けた。
その時間はおよそ2時間。マサノリにとって、これほど2時間が何倍にも感じたことはないだろう。
サトルとサクラの戦いは終わり、それを見届けると、マサノリは瞬時に転移を行った。そして花村の店に入った瞬間、マサノリは衝撃を受ける。エヌで食べた、あのラーメンの匂いがそのまま店に広がっていたのである。
「マサノリさん遅い。もう5杯も食べたわよ」
「私も3杯完食」
「俺なんて12杯だ」
「お前らどういう胃袋してるんだ、というより俺の分は残ってるんだろうな?」
「大丈夫よ。ちゃんとマサちゃの分も残っているわよ。2杯ぶんしかないけど」
料理人花村を妻として支えながら、お店を切り盛りする美代は、マサノリにとって頭が上がらない一人。一見普通の定食屋のおかみさんとしか見えないが、召喚されたエヌで身につけた精霊召喚術は特筆すべきもので、契約した精霊をその場に顕現させ、精霊の能力によってさまざまなことができる。
店のマスコット的キャラクターである猫のような動物は、美代が召喚したエヌの精霊であり、レベルに換算すれば500を超えるほどの実力がある。
特に生物の本能に訴えかける“威嚇”は、ネズミや虫といった害虫などを店に近寄らせないという意外な効果もあった。
「ようやく来たか。じゃあこれから麺を茹でるからな。まぁ楽しみにしてくれ」
マサノリにとってエヌの食事を地球で再現するのは悲願であった。それがようやく叶うのだから、これから彼らと同じ感動を得ることになるだろう。
地球とエヌはかなり離れた距離にあるが、そこに住む人の生活に大きな違いはない。朝起きて身支度をと整え、昼は働き、夜は寝る。その間に食事があり、学びや物作り、そして恋愛も結婚も子育てもある。当然のことながら、最後に老いて死ぬ。なんら地球の生活と変わりはない。
大きな違いがあるとすれば、エヌには賢者が伝えた魔法があり、その魔法を元にしたスキルが存在する。一方で地球のように科学が発達しているわけではない。地球の歴史的位置付けで比較すれば、中世のヨーロッパに近いと言えるかもしれない。
食文化に関しても大きな違いはなく、米のようなもの、肉料理や麺類のようなもの、野菜を使った炒めものや魚を蒸したものもある。さらに独自の調味料もあり、味は違えど料理に対する考え方は地球と同じだ。
だが、この賢者のラーメンのように地球では食べられない味も存在する。
マサノリは将来的な目的のために、いずれエヌの味を元にした商品や飲食を地球で広めたいと考えているが、今はいずれ地球に来襲するであろう魔物(デュベリス)との戦いが最優先。それらをすべて乗り越えた後、次のステップに進もうと考えている。
しかし今回花村がエヌの味を再現できたことで、その目標に向けて大きな一歩踏み出すことができた。これはマサノリのモチベーションを上げるに十分な効果があったといえる。
さてサトルとサクラの戦いはどうなったか。
現状はまだ戦闘データをスタッフが分析している段階だが、マサノリも唸ったその戦いは、今後の方針を変える大きなきっかけとなったようだ。
「それぞれの決断」へつづく
突如マサノリに届いたメッセージの内容に、他のメンバーからも立て続けに反応があった。エヌに召喚された彼らにとって、賢者のラーメンという言葉は非常に大きな意味を持つ。
「ちょっと待って花村さん。 あのラーメンが完成って、こっちで作れるって本当?」
「花村、本当にあの味なんだな!?」
「どういうこと? しっかり説明して!」
エヌの王城にいるハルや黒き島にいる大木、さらに地球を飛び回っているナツの3人から興奮気味に連絡が届いた。その慌てようにマサノリも同調する。
「花村さん、こっちは今非常に重要な場面なんだけど、ここでそんな爆弾をぶつけないでくれ。というよりあのエヌで食べたラーメンが、本当にあの味がこっちで再現できたのか?」
「そうなんだよ。ありとあらゆる材料を使って再現できなかった味が、ついに完成したんだよ」
「でも、どうやって?材料は向こうから持ってきてないですし…」
「ヒントは魔力にあった。あの味はエヌで賢者が残したレシピをもとにしていると言われているが、確かにあの星にしかない材料は使われていた。もちろん全く同じ食材は地球にはなかったが、地球にある材料を素材に特定の魔力を加えることで味が大きく変化し、エヌの食材に近づくことがわかった。エヌには土壌に魔力が含まれていることで、食材の味に変化があったんだと思う。地球の土壌には魔力がないから、完全に美代の精霊頼みになるけどな。その味加減というか魔力味加減はかなりシビアだが、試行錯誤の上やっと完成したんだよ。美代も太鼓判を押す完璧な出来栄えだと思ってる。どうだ、今から食べに来るか?」
「もちろん!」
「今すぐ行く!」
「40秒で支度する!」
マサノリを除く3人は二つ返事で花村の誘いに答えると、結局3秒も経たず花村の中華料理屋に転移した。
「あれ、マサノリさんは来ないの?」
マサノリの事情を知らないハルはのんきに問いかけているが、マサノリとて今はそれどころではない。現在、ビッグエッグドームの地下にある闘技場では、エヌから戻った転移者のサトルとサクラが対決しているところであった。
まだ始まってから数分も経っていないが、その過酷な戦いにはマサノリも思わず見入るほど。この戦いを録画で済ますなんてことは出来ない。そもそもマサノリがこの状況に誘導したわけで、ラーメンのためにこの場を放り出すことは、目の前で作業するスタッフを前にできることではなかった。
「非常に歯がゆいけど、今すぐは動けない。頼む、頼むから俺の分を残しておいてくれ…」
マサノリにとってはあまりにも苦渋の決断。絞り出すように仲間に頼むことで精一杯であった。
その間もサトルとサクラの戦いは続いている。マサノリは早く終わってくれと焦りながら二人の戦いを見ているが、当然こういった場合は長引くのが世の常。サトルとサクラはお互いに楽しみながら、まるでダンスを踊るかのように戦い続けた。
その時間はおよそ2時間。マサノリにとって、これほど2時間が何倍にも感じたことはないだろう。
サトルとサクラの戦いは終わり、それを見届けると、マサノリは瞬時に転移を行った。そして花村の店に入った瞬間、マサノリは衝撃を受ける。エヌで食べた、あのラーメンの匂いがそのまま店に広がっていたのである。
「マサノリさん遅い。もう5杯も食べたわよ」
「私も3杯完食」
「俺なんて12杯だ」
「お前らどういう胃袋してるんだ、というより俺の分は残ってるんだろうな?」
「大丈夫よ。ちゃんとマサちゃの分も残っているわよ。2杯ぶんしかないけど」
料理人花村を妻として支えながら、お店を切り盛りする美代は、マサノリにとって頭が上がらない一人。一見普通の定食屋のおかみさんとしか見えないが、召喚されたエヌで身につけた精霊召喚術は特筆すべきもので、契約した精霊をその場に顕現させ、精霊の能力によってさまざまなことができる。
店のマスコット的キャラクターである猫のような動物は、美代が召喚したエヌの精霊であり、レベルに換算すれば500を超えるほどの実力がある。
特に生物の本能に訴えかける“威嚇”は、ネズミや虫といった害虫などを店に近寄らせないという意外な効果もあった。
「ようやく来たか。じゃあこれから麺を茹でるからな。まぁ楽しみにしてくれ」
マサノリにとってエヌの食事を地球で再現するのは悲願であった。それがようやく叶うのだから、これから彼らと同じ感動を得ることになるだろう。
地球とエヌはかなり離れた距離にあるが、そこに住む人の生活に大きな違いはない。朝起きて身支度をと整え、昼は働き、夜は寝る。その間に食事があり、学びや物作り、そして恋愛も結婚も子育てもある。当然のことながら、最後に老いて死ぬ。なんら地球の生活と変わりはない。
大きな違いがあるとすれば、エヌには賢者が伝えた魔法があり、その魔法を元にしたスキルが存在する。一方で地球のように科学が発達しているわけではない。地球の歴史的位置付けで比較すれば、中世のヨーロッパに近いと言えるかもしれない。
食文化に関しても大きな違いはなく、米のようなもの、肉料理や麺類のようなもの、野菜を使った炒めものや魚を蒸したものもある。さらに独自の調味料もあり、味は違えど料理に対する考え方は地球と同じだ。
だが、この賢者のラーメンのように地球では食べられない味も存在する。
マサノリは将来的な目的のために、いずれエヌの味を元にした商品や飲食を地球で広めたいと考えているが、今はいずれ地球に来襲するであろう魔物(デュベリス)との戦いが最優先。それらをすべて乗り越えた後、次のステップに進もうと考えている。
しかし今回花村がエヌの味を再現できたことで、その目標に向けて大きな一歩踏み出すことができた。これはマサノリのモチベーションを上げるに十分な効果があったといえる。
さてサトルとサクラの戦いはどうなったか。
現状はまだ戦闘データをスタッフが分析している段階だが、マサノリも唸ったその戦いは、今後の方針を変える大きなきっかけとなったようだ。
「それぞれの決断」へつづく
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