王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

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第6話 お土産

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 俺は一人になるのを見計らって【ライト】の練習に励んだ。ライトと心の中で念じると、閃光のように眩い光が発せられてしまう。こんなものをスカートの中で使ってしまえば、何事かと大騒ぎになってしまう。それに明るすぎて、目的である物も拝むことが叶わない。
 いろいろと試行錯誤を繰り返し光量の調節と持続時間の延長を試みていた。

 俺がそんな事をしているとお兄様が実地訓練とやらから帰ってきたらしく出迎えようという事でメイドに抱えられ玄関へと連れていかれる。
 
 お兄様は6歳の頃から剣術の稽古をしており、今回実践経験を積むためにどこかに出かけて3日間家にはいなかったのである。

 旅立つ前にお母様は大変心配して、「まだ、行く必要なんてないわ」「まだ早すぎるんじゃないかしら」「ヨハンの身に何かあったらどうしましょう」なんて家では大騒ぎしていたので、自然とお兄様の動向を俺も知ることができた。

 何度もお兄様を引き留めていたが、最後はお兄様の意思が固いことを悟り説得を諦めていた。

 そんなお兄様が家に帰ってきたので、お母様も玄関までお出迎えだ。

「お帰りなさい。ヨハン」
「お帰りなさいませ」
 お母さまに続きメイド達もお兄様の帰宅を歓迎する。
「おあいああい、にいに」
 俺も皆に続く。

「ただいま」
 お兄様は笑顔でご帰還し、まったく疲れた様子もなくいつもと変わらない。

「大丈夫だった? 怪我はない?」
 お母様は心配そうにお兄様に近づいて怪我をしていないか確かめる。

「心配してくれてありがとう。けど、全然大丈夫だよ。ほら。ホコリ一つ、ついてないでしょ。安全に行動したからね。危険な事は一つもなかったよ」
 手を挙げて、その場をくるりと回るお兄様。見たところ服にさえ汚れが一切ついていないご様子。ただその場で回転しただけなのに、その振る舞いは優雅で目を奪われてしまいます。

「そう。それなら良かったわ。けどヨハンなら大丈夫だって分かってたわ。魔法だけでなく、剣術も素晴らしいって聞いてたからね。そうだわ。今日は無事に帰ってきた事をお祝いして御馳走にしてもらいましょう」
 行く前はあんなに心配していたというのに……
 けどヨハン兄様は回復魔法も使えるから、滅多な事では傷つかないのではとも思う。そして剣術もできるなんて本当に隙がないな。

「そうだ。これをお母様に」

「これは何かしら?」
 何やら宝石のような物体がはめ込まれたものをお母様に渡す。

「今回王都から離れた場所まで行けたから、せっかくだから何か買ってこようと思って。それはエスリム地方で採れる鉱石をはめ込んだ髪飾りだよ。お母様に似合うと思って」

「まあ!! 嬉しいわ。 わざわざ買ってきてくれるなんて、ヨハンは何ていい子なんでしょう」
 お母様は早速、メイドに言ってとりつけ、「似合うかしら」なんて笑顔で聞いている。

「あとこれはメイドの皆さんに。いつも僕達の世話をしてくれてありがとう」
 そう言って手鏡のようなものを皆に渡す。これもエスリム地方で採れる鉱石を装飾されているようでなかなかの代物の雰囲気がする。

「あ、ありがとうございます。こんな高価そうなもの貰っても宜しいんですか?」
 マーレはそう言いながら、鏡に映った自分を見て、その後裏返して装飾品を確認すると、丁寧にハンカチに包みポケットにしまい込んだ。全く持って返却するそぶりは感じられなかったが、それもまたよしだろう。
 他のメイドも礼を述べた後、お兄様のお土産に喜んだ。

「あと、ジークにもお土産があるんだ」
 何ですと。流石です。お兄様。

あいあおうありがとうにいにお兄様
 俺は満面の笑みで喜びを表現した。

 そして、取り出したのは飲み物を入れる水筒のようなものだった。
「これを手に入れるのにちょっと苦労したんだ」
 お兄様が苦労をかけてまで手に入れてくれたなんて、一体何なんですか。
 水筒からコップに注がれたのは白濁の液体だった。

「それは何かしら?」
 お母様が尋ねる。

「ミルクですよ。絞ってから1日も経ってないですから新鮮ですよ」

「わざわざヨハンが絞ったの?」

「そうですね。なかなか難しかったです」
 ヨハン兄様でも乳絞りには悪戦苦闘したのですね。しかし、俺のためにわざわざ絞って来てくれるなんて有難いですよ。お兄様が絞ってきたのであれば、たとえ新鮮でなくても、腐りかけであっても飲む所存ですよ。

「そうなのね。ジーク、良かったわね。わざわざヨハンがあなたのためにミルクをとって来てくれたみたいよ」

「だー」
 俺はコップに手を伸ばす。お兄様はそんな俺の手にミルクの入ったコップを手渡した。
「ゆっくり飲むんだよ」
 わざわざお兄様が絞ってきてくれたミルクです。一気に飲み干すなんてもったいない事はしませんよ。存分に味わわせてもらいますよ。

「んくっ、んくっ」
 俺はコップを傾け、口の中に流し込む。その液体が俺の舌に触れた瞬間、脳裏に稲妻が走った。
 
 ……なんだコレはーーーッ!!

 濃厚なミルクの味わいが俺の舌を刺激する。その凝縮された味は決して不快なものではなく、独特な甘みと旨味が絶妙に混ざり合い、ほんのりと漂う塩のような味がさらに甘味を増幅させる。それはまるで口の中でオーケストラを奏でているが如くそれぞれの味がお互いを高め合っているぅーーーッ。

 口の中に流し込まれた液体は適度な粘度を持って舌に纏わりつき、旨味が口の中から鼻へと抜けていく。

 俺はあと一口、あと一口と夢中で飲むと、いつの間にかコップの中にあったミルクは空っぽになっていた。

「あらあら、そんなに慌てて飲んじゃ駄目よ」
 お母様が俺に注意をする。

 いや、これは仕方ないですよ。こんなに美味いのですから。
 というかこれは本当に牛乳か? これが牛乳と言うのなら前世の記憶にあるあの牛乳は何だったのだ。あれは水で薄められたしゃばしゃばのミルクだったのか。
 そしてさっきから、何やら体温が上がって体中の血液が踊っているようなよく分からない感覚が全身を駆け巡る。
 そこでハッ気付いた。このミルクは牛から採れたとは言っていない。苦労してとって来たとの事。この完璧なお兄様が苦労するなんて、一体このミルクは何から採れたものなのか。

あうあうあこれは何の乳あい、あいなんですか?」
 俺はコップを突き出して、お兄様を問い詰めた。
「本当に気にいったみたいですね。お代わりをねだってますよ」
 マーレはまたしても見当違いの翻訳をしてくる。この駄メイドが。

「それは良かったよ。苦労してとってきたかいがあった」
 お兄様が笑い、お母様も、メイド達も微笑む。
 俺はそこで冷静になった。
 お兄様が苦労してとってきてくれたのだ。何の乳でもいいじゃないか。そもそも不味いならまだしも、美味しいのだから、今はこだわる必要なんてないのだ。

 皆につられて俺も微笑んだ。

 
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