王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

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第45話 戦場のヴァルキリア

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 植物を育てるために風の魔力を多用していたために、ワムウさんに戦棋を打たせろとせっつかれてしまった。俺の作った戦棋は盤と駒が簡易版らしく、本格的なやつが打てるところに行きたいということだ。風魔法にはいろいろとお世話になっているので、二つ返事で引き受けた。
 俺はこんな事もあろうかと、戦棋の打てるところをリサーチ済みであったのだ。王都に出かけた時に、戦棋所と書かれた建物があり、中を覗くと向かい合って真剣な顔をしている人達がいっぱいいるのを確認していたのだ。多分あそこは、戦棋を打てるところに違いない。娯楽の少ない世界なので、結構人がいっぱいいたので、中には強い人もいるだろう。
 俺は昼ご飯を食べた後、光魔法で抜け出して、戦棋所を訪れた。

 「ごめんください」

 扉を開けると、カウンターには若い女性が俺を出迎えた。

 「いらっしゃいませ。こちらは初めてですか?」

 「はい。初めてです。ここは戦棋が打てるんですか?」

 「そうですね。魔導盤もおいてありますよ。どちらをご利用でしょうか?」

 「魔導盤?」

 「戦棋は打たれたことは?」

 「ありますけど、簡易版だけです」

 「なるほどですね。本物の戦棋は魔道具を使用してのものになりますので、こういった専門のところでしか打てないんですよ」

「魔道具ですか……」
 俺はいまいちピンときていない。

 「今日はどちらで対戦なされますか?簡易版ですと1時間で銭貨3枚、魔導盤ですと1時間で銅貨1枚になります。フリータイムですと簡易版で銅貨3枚、魔導盤が銀貨1枚になります。あと、初回に限り登録費として銅貨1枚頂いております。魔導盤はルールが簡易版とは異なりますので、初めてならやったことのある簡易版の方がいいかと思います」

 簡易版と魔導盤だと、300円か1000円で3倍近く値段に違いがある。ここには本格的なものをうちに来たのだから当然選択肢は一択である。

「魔導盤でお願いします」

「えっ? わかりました。魔力は大丈夫でしょうか?」

「魔力?」

「はい、魔導盤は魔力を通して駒を動かすことになりますから、魔力保有者しか打つことができません」

「大丈夫です。ひとまず3時間ほどお願いします」

「わかりました。銅貨3枚と初回登録費として銅貨をさらに1枚で合計銅貨4枚になります。そして、こちらが初回登録時に発行されるカードになります。こちらの方に名前の記入をお願いします。こちらに対戦成績が記録されますので、次回からスムーズに対戦相手を決めることができます」

 俺は銅貨を4枚渡す。そして名前をどうするか。例のごとく俺はお忍びで来ているので、本当の名前を書くわけにはいかない。ここは前に使った【グリフィス】という名前を記入することにした。

「対戦相手はどうやって決めるんですか?」

「初回は今空いている人とランダムになりますね」

「できるだけ強い人とやりたいんですがいけますか?」

「………今日が魔導盤初めてですよね?」

「そうなんですけど………簡易版で鍛えてますので」

 どうせ俺が打つわけではない。ワムウさんが打つのである。できるだけ強い人と打って満足してもらいたい。
「………簡易版とは似て非なるものなんで、場合によってはすぐ負けてしまいますよ」

「大丈夫です」

 俺みたいな子供がコテンパンにやられてしまうのを気の毒に思っているのだろう。お姉さんはどうするか迷っている。その時、同じ年くらいの子供が俺に声をかけた。

「ほんじゃあ、ワイと一戦打とか?」

「ん~、でも俺結構強いから、大人と打ちたいんだけど………」

 子供と打ってもワムウさんが満足してはくれないだろう。それなら、俺と家で戦棋を打ってるのと一緒である。

「ほ~、言うやないか。それじゃあ銀貨1枚ニギるか?」

「ニギる?」

「銀貨1枚賭けるっちゅうこっちゃ。ここでは双方の合意があれば、銀貨1枚までの賭けは認められてるんや」

「ちょっ、ちょっと、アレン君。この子、今日が魔導盤で打つのが初めてなのよ。上限いっぱいでBetするなんて可哀そうよ」

 なるほど、ここは勝敗でお金も動く場合があるから、強い人を勧めなかったのか。来なくなっちゃうしね。でも、そんなことは関係ない。

「いいですよ。やりましょう」

 そんな大金をかけるという事はそこそこ自信があるのだろう。

「そういうこっちゃ。アメリアはん。奥の魔導盤借りるで」

「はいはい。ちょっとは手加減してあげてくださいね」

「わかってるって」
 俺たちは魔導盤を挟んで向かい合って座る。

「手加減しなくてもいいよ。負けた言い訳にされたくないしね」
 本気出して貰わないと困るのだ。ワムウさんの望みは血沸き肉躍る頭脳戦なのだから。

「ほう、言うやないか。一応確認やで、相手の陣地の急所に自分の大将駒が入るか、相手の大将駒を打ち取るかした方の勝ちでええな?」
 そこは簡易版と同じであるので、俺は頷いた。

「盤は野戦タイプでええか?」

「野戦タイプ?」

「魔導盤を見たのは初めてか。盤の地形は数種類の中から選べるんや」

 アレン君が、横にあるボタンを押すと、盤には川や丘や山の模様が出現した。その後、ルールの説明を簡単にしてくれる。聞いた感じだと、前世でやったことのある【戦場のヴァルキリア】にそっくりである。簡易版と違い相手には自分の駒が見えなくなるようである。ある程度接敵すると駒が見えるようになるし、駒自体に攻撃力と射程距離それに体力なんかも備わっており、単純に相手の駒のマスに止まれば相手の駒をとれるわけではないらしい。
 たしかに説明を聞くと、簡易版の戦棋とは全然別のゲームである。これは本格的に戦争を想定して作られたゲームといって良いだろう。

 「どや。理解できたか?」

 「大丈夫」

 ワムウさんにとっては普通に知っていることのようであるので、俺が正しく理解する必要はない。

 「では始めよか。先に陣地を構築した方が先行になるからな」

 アレン君がボタンを押すと目の前にある魔導盤に数字が表示された。一ターンに動かせる駒の数が表示されているらしい。

 『では、大将をD4に、そして偵察をF6………』
 俺は駒を指定されたマスへと置こうとする。

 「アホか!! 手で置いたら位置がばれるやろ。そこに手を置いて魔力を流しながら念じるんや。そうすれば思ったところへと駒が動くんや」

 「へ~、なるほど」

 「ホンマに素人かいな。でも銀貨1枚はまけへんからな」

 「大丈夫、大丈夫」

 「ふん、やっぱり貴族のお坊ちゃんかい。それなら遠慮なくいかしてもらうわ」

 横に立っているワムウさんの指示の元、俺は魔導盤に魔力を注ぎながら念じる。すると駒が自動で動き思った位置へと配列されていく。魔導盤の駒は手で動かすのではなく、魔力で動かすのか。たしかにこうしなければ、相手に場所がばれてしまう。駒が相手に見えなくなっている意味がない。これは魔力持ちにしかできない遊びということになる。

 「こっちは終わったぞ」
 アレン君は早くも駒の配置を終わらせる。

 「こちらも終わったよ」

 「では始めるか。ワイが先に配置を終わらせたから、ワイが先行やな」

 アレン君の手元にある数字が次々に減って0になる。
 「じゃあ、次はお前や」

 今度はこちらの数字の表示が現れる。
 『偵察をF16に、弓兵をJ8へ……』
 ワムウさんの指令通りに俺は魔力を使って駒を動かす。1つの駒を動かす度に数字が減っていく。0になったら、次はアレン君の番である。
 俺達は交互に駒を動かしていく。
 俺は何も考えずに言われるままに駒を動かしているだけなので、少し暇であるのでアレン君に質問してみることにした。

 「君っていくつ?」

 「なんや? 余裕やのぅ。ワイは10歳や。そっちは?」

 6歳だけど、6歳でこんなところに1人で来てるのはよろしくない気がする。俺の我儘ボディはアレン君の容積に匹敵しているので少々歳を盛っても大丈夫だろう。身長が全然なのは気にしてはならない。そのうち伸びるだろう。

 「8歳」

 「年下かいな。同い年くらいかと思っとったわ。その割にはなんかふてぶてしいな」

 「戦棋を始めて長いの?」

 「あぁ、ものごころついた頃からやな。お前らボンボンと違て、俺みたいな庶民が成り上がるにはこれしかないからな」

 「成り上がる? 戦棋で?」

 「知らんのか? まぁ、貴族なら簡単に王立学園に入れるからな。知らんで当然か。戦棋の上手いやつは王国の軍師候補として、登用されるのを目指しているんや。大会でいい成績を残せば、王国の中枢で働けるからな。でも今は新しい道があってな。新しくできた王立学園が、才能ある子どもなら無料で受け入れをしているんや。ワイは戦棋の能力で、王立学園の入学を目指しているんや」

 「へ~、王立学園を目指してるのか」

 王立学園にはそのようにして入学もできるのか。そんなことを話していると、いくつかの相手の駒が可視化されていく。同じく俺の駒もいくつか色が変わっているものもある。これは相手に見られているということらしい。
 「流石は貴族ってところか。ちゃんと兵法の基本は知っているようやな」

 そうなの?ラズエルデ先生の授業の中でそんなのは一切習ってない気がする。普通の貴族はそういう事も習っているのだろうか。そこで気付く。8歳の貴族は知っているのかもということに。俺の学習内容はまだ基礎の基礎ばかりなのだろう。ここは話を合わせておこう。

 「まぁ、それなりにね」

 「相変わらず何考えているか分からん顔やな」

 正確には何も考えてないが正しいのだが、ここは考えてる振りでもした方がいいかな。でもワムウさんの指し手が早いからな。逆にアレン君のターンでの時間が増え始めている。

 「くぅ、もしかして、ワイは罠に嵌められたんか。いや、まだまだ、これからや」

 アレン君の指し手が終了すると同時にワムゥさんからの指示がとぶ。

 「これもあかんのか。どないなっとるんや。ワイの戦法が通じんのか? いや、そんなことはない」

 どうやら、ワムゥさんに一方的にやられている模様である。わかるよ。その気持ち。俺も駒落ちで全然歯が立たなかったからね。

 「くそっ。これもあかんのか。あっ!!………」

 どうやら、大将がやられてしまったようである。

 「………ま、まいりました」

 頭を垂れてしまっている。
 横でやっていた人達もざわざわとし出す。

 「おいおい、アレンが負けたのか!!?」

 「誰だよあの豚は?!!」

 「おい、そんな口の利き方はよせ。見るからにいい服を着ているぞ。どこぞの貴族様かもしれんぞ」

 おいおい、しっかり聞き取ってしまったぜよ。誰が豚だって。ああ~ん。ワムゥさんの力で銀貨を巻きあげてやんぞ。
 その時、アレン君の方に近づいてくる一人の女の子が現れた。

 「アレン!! あんた、本当に負けたの?!」

 「………」

 アレン君は相当ショックだったみたいで、盤上を見つめたまま動かない。

 「アレン!!」

 「あ、ああ。姉貴か……。ああ、負けちまった……」

 「こういうところではお姉ちゃんって呼ぶように言ってるだろ。それにいつも言ってるだろ。どんな相手にも油断するなってな。そんな事じゃあ、王立学園に特待生として受かる事なんて絶対にできないよ」

 「ゆ、油断? ………た、たしかにそうか。いや、この盤面を見る限り、はるかに………」

 「しょうがないねぇ。どきな。ぼくぅ、今度は私と打とうじゃないの。アレンよりは強いからね」

 できれば、子供じゃなくて強い大人と打ちたいところなのだが、空気を読まないわけにはいかない。

 「わかりました。それで、賭けますか?」

 「ほぉ、言うじゃないか。あたいとニギろうとするなんて、威勢のいい坊やだねぇ。あんんたいくら負けたんだい?」

 「……銀貨1枚や…」

 「銀貨1枚も負けたのかい? わかった。姉ちゃんが取り返してやる。銀貨1枚でどうだい?」

 この姉弟ギャンブルで身を亡ぼすタイプだな。まあいい。銀貨1枚賭けてれば、本気でやってくれるだろう。

 「それでお願いします」

 アレン君の姉が席につき、勝負が再び始まった。

 
 
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