王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

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第54話 BBQ

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 お風呂から出ると、かなりの時間が経ってしまっていたので、あたりはすっかり日が落ちてうす暗くなってきていた。

 「長かったですね」

 ピョートルさんが俺達に声をかける。

 「ピョートルよ、俺は新たな境地に達してしまった」
 「?? どうしたんだ、クルト?」

 ととのいすぎて、虚ろな目をしているクルトさんを心配そうな顔をしているピョートルさん。クルトさんはピョートルさんの問いに答えず、エアーで剣を持たずに素振りをゆっくりとしている。

「お風呂で何かあったんですか?ジークフリート様?」
「涅槃の境地に達して、悟りを開いてしまったようです」

 俺が合掌すると、ピョートルさんは首をかしげる。
 クルトさんの横では同じく虚ろな目をしたエドガエル君もゆっくりとエアーで素振りをしている。エドガエル君の素振りは、クルトさんが横で素振りをしていなければ華麗に舞っているようにしか見えない。2人ともエンドルフィン、エンドルフィンとぶつぶつ呟く声が聞こえる。早くも脳内麻薬を自在に分泌する極意を掴もうとしていらっしゃる様子である。

「せっかくお風呂に入ったのに、またあんなに動いたら汗をかいてしまうのに」

 それを見た赤髪のクインさんが呆れている。

「いや、バーベキューが終われば、もう一度入ればいいでしょう。もしかすると、もう一度入るためにしているのかもしれません。そんなことより、あのお肉達はもう焼いても大丈夫なんですか?」

 俺はピョートルさんに尋ねる。

「そうですね。もう準備は万端です。早速焼いていきますか。クルト!! エドガエル君!! 始めるから、自分のお皿を取ってください」

 ピョートルさんの呼びかけにクルトさんとエドガエル君は皿を持って集まってくる。魔法で炭火に火をつけた青髪のリーズさんは炭火の上にある金網にペンネ鳥の肉と、ペンネブルの肉を置いていく。

 「焼けたら自分でどんどんと取っていってください」とリーズさんが皆に促した。

 まずはペンネブルとやらを頂くか。俺は箸を使い、ペンネブルを1枚自分の皿へと入れて、タレをつけていただく。
 これは旨い。ハラミのような食感で、柔らかく、簡単に噛み切れる。そして、この独特のタレもこの肉に合っている。ペンネブルはこの地域で獲れる獲物なので、それに合うようにこの村で作られたタレなのだろう。
 屋敷で食べる肉料理も美味しいが、この野外でみんなで食べるという行為が肉の旨さを高めているように感じる。これで俺もリア充の仲間入りだな。
 次は違う部位も試すが、そこも違った食感が楽しめていい感じである。

「舌の部位とかってあるんですか?」
「舌ですか? 舌は捨てられる部位なので、ないですね。ジークフリート様は、食べたかったんですか?」

 ピョートルさんは解体を頼んだ時に捨ててしまったようである。

「舌なんて食べる部分じゃあないだろうに、モグモグ」

 クインさんは呆れながらも、肉を食べる手が止まる様子はない。
 なんと勿体ない。でも、舌って日本は食べるけど、他の国は食べないって聞いたことがあるな。クインさんが俺を卑しい豚でも見るかのような目をして俺に視線を向けている気がする。一周回ってそんなクインさんの目は最高な気がする。ありがとうございます。しかし、タンの良さを皆にも知ってもらいたい。

「それは勿体ないですね。舌も美味しいんですけどね」
「じゃあ、とって来ましょうか」
「あるんですか?」
「すぐ近くですし、まだ残ってる可能性はありますね。ちょっと行ってきます」
「すいません。ありがとうございます」
「いえ、自分も興味がありますしね」

 ピョートルさんは立ち上がって、解体してもらったところに向かってくれた。なんて優しい男なんだ。

「そんな部位がなくても、ここにある肉で十分だろうに、モグモグ」

 赤髪のクインさんは我儘な俺を諫めるようにつぶやいた。その手にはしっかりと肉が確保されていた。
 確かに、ここにある肉でも十分だろうけど、タンの事を考えてしまった俺の口の中はタンの口になってしまっているのである。と思いつつ、俺はペンネ鳥の肉へと箸を伸ばす。
 むぅ、これはモモの部分だろう。歯ごたえに弾力があり、肉汁が溢れて肉の旨味が溢れ出ている。肉についた皮の部分もカリッと香ばしく焼き上げられており、タレと絡めると焼き鳥のような味がして美味しい味わいである。こうなってくるとネギも欲しい所である。

「ネギとかってあるんですか?」
「ネギはありますよ。ピョートルさんがもらってきているみたいです」

 青髪のリーズさんがネギを金網の上に置いてくれる。

「肉だけで十分だろうに、モグモグ」

 赤髪のクインさんは野菜はあまり好まないようである。その箸は留まる事をしらないようである。

「このネギを焼いたものに、この焼肉のタレをからませて鶏肉といっしょに食べると美味しいですよ」

 俺はみんなにも勧める。

「野菜は苦手ですけど、肉の箸休めにはいいですね」
「うむ」

 クインさん以外はネギをタレに絡ませて食べて、満足そうにしている。子供のうちから野菜もしっかり食べないとね。
 俺達の反応を見て、クインさんもネギを一つ箸でとり、鶏肉と一緒に口の中にいれる。

「これはこれで………有りだな…」

 そんなことを言いながら、金網の上にあるネギを皿に入れていく。それを見たリーズさんは苦笑いをしている。
 そうこうしてるうちに、ピョートルさんが戻ってきた。

「まだ、残っていましたよ」

 その手には、ペンネブルのタンの塊があった。

「どうやって食べますか?」
「僕が切ってもいいですか?」
「ジークフリート様が? 大丈夫ですか?」
「大丈夫です。家でも料理はしたりするんで」
「王族なのに、自ら料理をしているとは………」

 クインさんにまたもや呆れられてしまった。
 俺はタンのいらない部分を処理して、薄くタンを切って、皿にのせていく。

「本当に料理できるんですね。包丁さばきが様になっていますね」

 ピョートルさんがタンを切っただけで感心してくれる。
 タンにはさっきまで使っていたタレでは美味しさが引き出されないので、タレモ作成することにする。しかし、置いてある野菜にはレモンがないので、代用品ですますことにする。

「ちょっと屋敷に鞄を取りにいってきます」
「鞄ですか?」
「そうです」

 俺は屋敷に戻り、自分の鞄を取って戻ってくる。
 俺は鞄の中に手を入れて闇魔法でアスフォデルスの実を取り出した。

「そ、それは、アスフォデルスの実ではないですか? もしかして、本物の迷宮産ですか?」
「ピョートルさんも知っているんですか? 残念ながら迷宮産ではなくて、種を庭で植えて育ててみたんですよ」
「栽培に成功したんですか?」
「いや、これは失敗作ですね。味が美味しいとはいえないものになってしまいましたから。でもこのタンを食べるのには適した味になってると思いまして、せっかくなんで使おうかと」
「タンに合う味ですか……それにしても、迷宮産の植物の実は迷宮以外で育てようとしても実がすらできにくいと聞いたんで、実をつけるだけでもたいしたものですよ。ジークハルト様はご自宅でそのような実験もされているんですね」

 ピョートルさんは俺に感心しきりである。
 実は成功した実もあるのだが、それは光魔法を浴びせていた実だけが成功していたのだ。リンネの甘いものを食べたいという執念がそうさせているのか、どうなのか。迷宮産のものを食べたことがないので、それと比較して味がどれだけ違うか分からないので、厳密には成功したというわけはないが、その味はかなり甘く、ジューシーであった。問題があるとすれば、光の妖精リンネが自分の手柄を主張して、その甘い果実たちをほいほいと食べることを禁じられたことだろうか。実を数えるリンネの顔が小判を数える悪代官の顔のようであったのを思い出すと怖気が走る。リンネの暴走は誰にも止めることができないので、ここは従う以外の選択肢がない。
 というわけで、今回は闇魔法で育てたアスフォデルスの実である。
 この実はどういうわけか、酸っぱいレモンのような味がしたのである。これが甘いアスフォデルスの実と一緒に混ざっていれば、ロシアンルーレットができてしまうぐらいの酸っぱさである。
 しかし、この酸っぱさが今回のタンに合うのではないだろうか。
 俺は実を絞って、全員分の小皿に入れていく。
 種はしっかり回収しておくことにする。
 迷宮産の食物は外で育て続けると、例え実をつけるのに成功したとしても、第二世代、第三世代と味が落ちていってしまうらしいが、ここはいろいろと試してみたいところである。

「ではこれを焼いていきましょう」

 リーズさんにタンが載った皿を渡すと、タンを綺麗に金網に並べていってくれる。

「このタレをつけて食べると美味しいですよ」

 俺は全員にアスフォデルスの実の絞り汁の入った皿を渡す。

「もう大丈夫そうですね。では、頂くとしますか」

 俺はタンを1枚とって、タレをつけて食す。さっきまでのパンチのある味とは違い、爽やかな味わいで、口の中がリセットされるような気分になる。

「これは、本当に美味しいですね。薄いのに弾力も丁度良くて、この酸味が絶妙な味わい深さを出していますね。今まで舌の部位を捨てていたのが悔やまれますね」
「うむ……」
「○▽×(美味しい!!)」
「ほ、本当です。噛めば噛むほど旨味が溢れてきます。さっぱりした味なんで、何枚でも食べれそうです」

 男性陣もリーズさんも気に入ってくれたようである。
 クインさんは箸でつかんで、表裏を確認していたが、皆の評判を聞いて口へと放り込む。その顔を見れば気に入っているのが分かる。

「何だこれは、これを食べてすっきりしたら、またこちらのこってりとした焼肉が食べれるじゃないか。どういうことだ。無限に食べれてしまうじゃあないか。すっきりとこってりの波状攻撃だと。ぬぐぐ、こんな食べ物を知っているから、そんな体になってしまったということか………私も気をつけないといけないというのに、食べる手が止まりそうにないぞ」

 失礼な。そんな食べ物を知っていることと関係なく俺の体はこんな我儘ボディーなのだよ。そんなクインさんにさらなる食べ物を食べて我儘ボディーの仲間入りをしてもらうことにしよう。
 俺は鞄に手を入れて、闇魔法を使い、庭で取れたトウモロコシ(光)を取り出した。これはスイーツではないため、リンネは興味を示さなかったので、自由に食べることができる。

「これも庭で取れたものなんで、バーベキューで食べましょう」
「また食べもの!? その鞄にどれだけの食べものをいれているんだ? ジークフリート様は一体何を想定して、そんなに食べ物をもってきたのだ」

 怪訝そうな目を向けるクインさん。

「もうこれで終わりですよ。ほら」

 大量に食糧を持ち歩いている男とは思われたくないので、俺は鞄の中を見せる。

「?!………まさか、食糧しかもってかなかったのか?」

 クインさんは驚愕の表情を見せる。俺を食いしん坊を見るような目で見つめてくる。まあ、いい。クインさんもこちらの道へ引き込めばいいだけだ。
 皆にトウモロコシを渡していく。
 輪切りにしていくなんてケチ臭いことはしない。一人一本ずつ配っていく。金網にのせて焼いていく。理想は醤油とバターがあればベストなんだが、それは今回は諦めるしかないだろう。しかし、このトウモロコシの味はかなり甘味成分が濃縮されているので、焼いただけでも美味しいだろう。

「焼けましたね。早速、いただきます。………こ、これは。市販のものより甘さがかなりありますね。これをジークフリート様が庭で?」
「そうですね」
「どうやれば、こんなに甘く………」

 ピョートルさんは興味津々である。ピョートルさんも家庭菜園を始めるかもしれないな。クルトさんとエドガエル君も黙々とトウモロコシを食べている。

「ほ、本当ですね。ジークフリート様は野菜を育てる才能があるんですね。こんな甘いトウモロコシは食べたことがありません」

 リーズさんも気に入ってくれたようである。

「……【キングオブイモ】という枠に嵌めてはいけなかったか。もう、ここまでくれば、ヤサイを作る人達、ヤサイ人の王と呼ぶしかないのか………」

 なんだその戦闘民族のエリートみたいな、かませ犬臭がする呼び名は……
 断固拒否である。


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