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第59話 ダリオ工房
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秋が過ぎ大分と肌寒く感じるようになった今日この頃。外の木々は大分寂しくなってきている。
ラズエルデ先生によれば、紙は早くも完成に近づいており、あとは量産体制に入るだけだということだ。
紙の製作において、俺の出番は特になかった。漂白するための植物が存在するのをラズエルデ先生が知っていたので、食塩水を電気分解して塩素を手に入れて、漂白するというアイデアは教えなくてもよくなったのだ。植物が安定供給できなくなったら、また提案すればいいだろう。
そしてその間俺が何もしていなかったかと言われれば否である。
俺は王都を散策して漫画文化発展のための第二の障壁である人材の獲得に動き出していた。
この世界で漫画という文化を知っているのは俺一人である。一番早いのは俺が書いて、それを販売して、流行させるところまでもっていくことだろう。そうすれば、人材が集まってくるかもしれない。しかし、それでは、俺が読む楽しみが当分訪れないし、描くのは非常に大変である。それに俺はお金を稼ぐ必要はないのだ。なんたって王族なんだからな。むしろ、これに関してはお金を投資して、俺の読んだこともないような面白い漫画を描いてもらわなければならない。
まずは絵の上手いものを探して確保しなければならない。絵の上手い奴隷を購入することも考えたが、俺の年齢では奴隷を購入することはできない。そこで俺は王都にある美術関係の仕事をしている工房に目をつけた。
王都には3つの工房が存在していて、それぞれの工房では石像や壁画、部屋に飾るための絵等を依頼を受けて製作している。1つの工房には親方を頂点として、多数の弟子が在籍している。俺はこの中の誰かを引き抜けないかと考えていた。
そして、4人くらい雇ってそれぞれに、俺の前世の知識を使って一作短めの漫画を描いてもらおう。原作を俺にして、作画を担当してもらうというやり方だな。原作は前世の知識を活かせば無限にあるから、複数俺が担当してもなんとかなるだろう。
そして、やり方を覚えた作画担当には自分でオリジナル作品を書いてもらうというようにすれば、俺も漫画を読むのを楽しむことができる。すごい長い期間を要するプロジェクトになるが、まだ見ぬ面白い作品のことを考えるといてもたってもいられない。
俺は厚着をして、今日も工房の下見をしに王都へと繰り出した。
そして、今日はダリオ工房という王都でも有名な工房を訪れることにした。
建物の外から中を覗くと、絵を描いてる者達や、石像を作ってる者達がいた。俺と同じように窓から覗いている青年が俺に話しかけてきた。
「君もこの工房に入りたいのかい? 最近たまに見かけるけど……」
「いえ……」俺の目的は最終的には漫画を描いてくれる人を引き抜くことが目的なのだが、まだそれは誰にも言わない方がいいだろう。「工房に興味がありまして」
「そうか。このダリオ工房はこの王都でも1,2を争う実績をもつ工房なんだ。王都にあるシスレ礼拝堂の天井壁画はこの工房の作品でね。僕はそれを見て感動したので、是非ここで働きたいと思って、ここからたまに見学しているんだ。今度採用試験があるから受けるつもりなんだけど。もし君もここで働きたいなら受けてみたらどうだい?」
わざわざライバルが増えるというのにそんなことを教えてくれるなんて不思議である。それともそんなことを考えてしまう俺の心が狭いのか。
「それっていつあるんですか? あと、どんな試験か知ってます?」
「今日からちょうど10日後だよ。試験は毎回違うみたいだね。石像を作ったり、絵を描いたり、グループで壁画を描いたりする試験が今までにあったって聞くね。受かる人数も毎回違うみたいで、才能があれば全員受かるみたいだよ。才能がある人を逃して、他の工房にとられたりしたら、その工房は見る目がないということになっちゃうからね」
なるほど。合格者に定員があるわけではないのか。そこで俺は考えた。工房にいる人を引き抜くよりも、試験に受けて落ちた人を雇う方が簡単なのではないだろうか。ただ、雇うのは誰でもいいわけではない。それなりに絵が上手い人でないと駄目である。上手いかどうかを確認しなくてはならない。それには試験を受けて、他の受験者の実力を把握するのがいい作戦なんじゃないだろうか。名づけて『裏試験で有能者を引き抜こう大作戦』である。
「いいことを教えてくれてありがとうございます。僕の実力では受からないだろうと思いますけど、受けてみようと思います」
「なんだ。やっぱり入りたかったのかい? 試験は年に一回あるからね。今回駄目でも、また受けることができるよ。あと万一合格した場合は、未成年の場合、親の許可もいるから気をつけてね。僕の名前はイノセントだ。分からないことがあれば、いつでも聞いてくれ」
「ありがとうございます。僕の名前は………グリフィスです。また試験の時にわからないことがあれば教えてください。あっ、ちなみに試験当日に持ってくるものってあるんですか?」
俺はお忍びだからな。ここは以前使った偽名で通すことにした。
「あそこに貼ってある紙に書いてあるよ」
イノセントさんは工房の玄関の方へと移動して、掲示板のようなところに貼ってある紙を指さす。そこには試験日時と持ち物が書かれていた。
「銀貨5枚ですか……」
試験を受けるのに5万円近いお金をとるのか。
「試験に使う画材等や監督官へのお金だからね。ある程度は仕方ないよ。本当に働きたい人だけが受けにくるんだ。それにこの工房に受かって修行を積めば銀貨5枚なんてあっという間にとりもどすことができるよ」
俺が金額にビビッてると思ってしまったようだが、むしろ俺としては期待が高まった。イノセントさんが言ってるように、この条件なら絵に自信がある人しか受けに来ないだろう。落ちてもいいという気持ちで受けようなんて奴は俺くらいのものだろう。試験に落ちた人の中でこれはという人に声をかけることにしよう。
俺はイノセントさんと別れた後にあと2軒ほど王都にある工房を回って試験に関する情報を手に入れた。どうやら、この年末にどちらも試験が開催されているようである。1軒は試験日程がかぶっているので、ダリオ工房とあと一軒の工房の試験を受けることに決めたのだった。
ラズエルデ先生によれば、紙は早くも完成に近づいており、あとは量産体制に入るだけだということだ。
紙の製作において、俺の出番は特になかった。漂白するための植物が存在するのをラズエルデ先生が知っていたので、食塩水を電気分解して塩素を手に入れて、漂白するというアイデアは教えなくてもよくなったのだ。植物が安定供給できなくなったら、また提案すればいいだろう。
そしてその間俺が何もしていなかったかと言われれば否である。
俺は王都を散策して漫画文化発展のための第二の障壁である人材の獲得に動き出していた。
この世界で漫画という文化を知っているのは俺一人である。一番早いのは俺が書いて、それを販売して、流行させるところまでもっていくことだろう。そうすれば、人材が集まってくるかもしれない。しかし、それでは、俺が読む楽しみが当分訪れないし、描くのは非常に大変である。それに俺はお金を稼ぐ必要はないのだ。なんたって王族なんだからな。むしろ、これに関してはお金を投資して、俺の読んだこともないような面白い漫画を描いてもらわなければならない。
まずは絵の上手いものを探して確保しなければならない。絵の上手い奴隷を購入することも考えたが、俺の年齢では奴隷を購入することはできない。そこで俺は王都にある美術関係の仕事をしている工房に目をつけた。
王都には3つの工房が存在していて、それぞれの工房では石像や壁画、部屋に飾るための絵等を依頼を受けて製作している。1つの工房には親方を頂点として、多数の弟子が在籍している。俺はこの中の誰かを引き抜けないかと考えていた。
そして、4人くらい雇ってそれぞれに、俺の前世の知識を使って一作短めの漫画を描いてもらおう。原作を俺にして、作画を担当してもらうというやり方だな。原作は前世の知識を活かせば無限にあるから、複数俺が担当してもなんとかなるだろう。
そして、やり方を覚えた作画担当には自分でオリジナル作品を書いてもらうというようにすれば、俺も漫画を読むのを楽しむことができる。すごい長い期間を要するプロジェクトになるが、まだ見ぬ面白い作品のことを考えるといてもたってもいられない。
俺は厚着をして、今日も工房の下見をしに王都へと繰り出した。
そして、今日はダリオ工房という王都でも有名な工房を訪れることにした。
建物の外から中を覗くと、絵を描いてる者達や、石像を作ってる者達がいた。俺と同じように窓から覗いている青年が俺に話しかけてきた。
「君もこの工房に入りたいのかい? 最近たまに見かけるけど……」
「いえ……」俺の目的は最終的には漫画を描いてくれる人を引き抜くことが目的なのだが、まだそれは誰にも言わない方がいいだろう。「工房に興味がありまして」
「そうか。このダリオ工房はこの王都でも1,2を争う実績をもつ工房なんだ。王都にあるシスレ礼拝堂の天井壁画はこの工房の作品でね。僕はそれを見て感動したので、是非ここで働きたいと思って、ここからたまに見学しているんだ。今度採用試験があるから受けるつもりなんだけど。もし君もここで働きたいなら受けてみたらどうだい?」
わざわざライバルが増えるというのにそんなことを教えてくれるなんて不思議である。それともそんなことを考えてしまう俺の心が狭いのか。
「それっていつあるんですか? あと、どんな試験か知ってます?」
「今日からちょうど10日後だよ。試験は毎回違うみたいだね。石像を作ったり、絵を描いたり、グループで壁画を描いたりする試験が今までにあったって聞くね。受かる人数も毎回違うみたいで、才能があれば全員受かるみたいだよ。才能がある人を逃して、他の工房にとられたりしたら、その工房は見る目がないということになっちゃうからね」
なるほど。合格者に定員があるわけではないのか。そこで俺は考えた。工房にいる人を引き抜くよりも、試験に受けて落ちた人を雇う方が簡単なのではないだろうか。ただ、雇うのは誰でもいいわけではない。それなりに絵が上手い人でないと駄目である。上手いかどうかを確認しなくてはならない。それには試験を受けて、他の受験者の実力を把握するのがいい作戦なんじゃないだろうか。名づけて『裏試験で有能者を引き抜こう大作戦』である。
「いいことを教えてくれてありがとうございます。僕の実力では受からないだろうと思いますけど、受けてみようと思います」
「なんだ。やっぱり入りたかったのかい? 試験は年に一回あるからね。今回駄目でも、また受けることができるよ。あと万一合格した場合は、未成年の場合、親の許可もいるから気をつけてね。僕の名前はイノセントだ。分からないことがあれば、いつでも聞いてくれ」
「ありがとうございます。僕の名前は………グリフィスです。また試験の時にわからないことがあれば教えてください。あっ、ちなみに試験当日に持ってくるものってあるんですか?」
俺はお忍びだからな。ここは以前使った偽名で通すことにした。
「あそこに貼ってある紙に書いてあるよ」
イノセントさんは工房の玄関の方へと移動して、掲示板のようなところに貼ってある紙を指さす。そこには試験日時と持ち物が書かれていた。
「銀貨5枚ですか……」
試験を受けるのに5万円近いお金をとるのか。
「試験に使う画材等や監督官へのお金だからね。ある程度は仕方ないよ。本当に働きたい人だけが受けにくるんだ。それにこの工房に受かって修行を積めば銀貨5枚なんてあっという間にとりもどすことができるよ」
俺が金額にビビッてると思ってしまったようだが、むしろ俺としては期待が高まった。イノセントさんが言ってるように、この条件なら絵に自信がある人しか受けに来ないだろう。落ちてもいいという気持ちで受けようなんて奴は俺くらいのものだろう。試験に落ちた人の中でこれはという人に声をかけることにしよう。
俺はイノセントさんと別れた後にあと2軒ほど王都にある工房を回って試験に関する情報を手に入れた。どうやら、この年末にどちらも試験が開催されているようである。1軒は試験日程がかぶっているので、ダリオ工房とあと一軒の工房の試験を受けることに決めたのだった。
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