王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

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第67話 土類元素魔法

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「我の声が聞こえるか?」

 再び頭の中で低い声が響く。
 俺はいつもリンネ達とやっているように頭の中で呼びかける。

『聞こえてます』
『!! よもや、我の声に反応するものが現れるとは。これは僥倖だ。貴様の名前は何というのだ?』

 凄い高圧的な声と態度である。

『ジークフリートです。貴方は?』

『我か、我はエウロの地より舞い降りし【ゼルシャ】という』

『エウロ?』

 聞いたことのない地名である。

『うむ。この地より遥か遠い空を旅してやってきたのだが、封印されてしまっていたのだ。我の【共鳴者】が現れるのを幾年と待っていたのだが、先ほど反応があったので、呼びかけてみたというわけだ』

 指輪に何かが封印されているというのか。だから【鎧換装】で収納できなかったということか。

『それで、何故指輪に封印されているのですか?』

『先住者が我の力を恐れてしまったのだ。まさか封印されるなどとは我も考えもしていなかったのだ。それにしても我は指輪に封印されているというのか?』

『外が見えないんですか』

『うむ。【共鳴者】である貴様と会話をするだけで精一杯だ。では、早速我の封印を解いてくれぬか? 我の私財が残っていれば、そこから十分な褒美は与えるぞ』

『どうやって? 指輪を壊すんですか?』

 お兄様からもらった指輪を壊すのはためらわれる。

『いやいや。そんなことをすれば、封印されし我も消えてしまうかもしれぬ。指輪型ということは【漆黒の牢獄】であろう。解錠する場所があるのではないか?』

『【漆黒の牢獄】ですか? 初めて聞く名前なんで、解錠する場所も知りませんが………』

『………地図は持っているか?』

『はい、持ってますけど』
『今すぐ広げるのだ。そして、南緯47°西経123°付近を見てみろ。そこはアッパド王国内にある【牢獄解放施設】があるはずだ』

 俺は部屋にある地図を引っ張り出し、言われる位置を探す。

『そこに行って、はまった指輪と一緒に手をつけば我の封印が解けるはずだ。我の知っているものであればな』

『……アッパド王国ですか? その付近は全て森になってますよ。他のところも見ていますけど、アッパド王国なんて国は存在しませんね』

『な、なんだと? では、南緯47°西経123°には何もないというのか?』

『いえ、シルベリアダンジョンがありますけど』

『ダンジョンだと? なんだそれは?』

『ダンジョンですか? 僕も言ったことはないんですけど。一言で言うと、この世界では手に入らないお宝を求めて冒険者たちが行くところですね。魔物なんかも、その中で生み出されているなんて話もあるんですが、全てはまだ解明されていない場所ですね』

『………何だそれは? アッパド王国が森になっているというのも気になる。我は、一体どのくらい封印されていたのだろうか………』

『分からないんですか?』

『最初のころは時間の感覚もあったのだが、無駄な事に気付いて考えるのをやめてしまっていたのだ。何か変化がある時以外は意識を切っていたのでな。ほんの数年のような気もするし、数千年のような気もするし。全く見当がつかぬ。しかし、もしアッパド王国が森になるほどの年月が経っていたのなら、最低でも数百年は経過しているのかもしれぬ。くそっ!! 忌々しい先住者め。叡智を授けてやったというのに、恩を仇で返されたわ!!』

 昔のことを思い出してゼルシャは呪詛を吐く。

『お気の毒なことです』
『まあいい。ひとまず、こうして【共鳴者】が現れたのは我にとっては幸運だった。早速シルベリアダンジョンとやらに向かってくれ。今はそれが唯一の手掛かりだからな』
『……いや、無理ですよ』
『何故だ。報酬か? 確かに、これだけの年月が経てば我の私財が残ってない可能性は高いが、必ず貴様に報いることを約束しよう』

『いや、ダンジョンは危険なんで、そんなところは行きませんよ』

 お兄様と危険なことはしないと約束したところである。ダンジョンなんて危険のある最たるところではないだろうか。

『ふむ………それなら我の力をお主に授けよう。【漆黒の牢獄】でつながっているのであれば、貴様に我の能力を使えるようにしてやろう』

『どんな能力です?』
『土類元素魔法というものだ』
『土類元素魔法?? ……もしかして、炭素、ケイ素それに鉛とかを操れるとかですか?』

 土類金属はたしか第14族の元素のことだったが、そのことだろうか。

『ケイ素は合っているが、それ以外が違う。ケイ素、アルミニウム、鉄を操ることができる魔法のことだ』

 アルミニウムと鉄は土類金属ではなかったはずである。ゼルシャは続ける。

『土魔法に含まれる元素のうち、主要な元素を抽出し、それのみを操ることを可能にした魔法だ。我は3元素まで操ることができる』

 なんだか凄そうな魔法だな。
『それを覚えれば土魔法も使うことができるのですか?』
『土魔法とは違うが同じようなことはできるし、金属も操ることができるかから、こちらの方が上位の魔法となる。それゆえ貴様がダンジョンとやらに赴いても、なんら危険など生じることはないだろう』
『どうやれば覚えられるのですか?』
『我と【漆黒の牢獄】を媒介にして【同期シンクロ】するのよ』
『【同期シンクロ】?』
『そうだ。目をつぶって、集中するのだ。こちらから干渉するゆえに、暗闇の中に一本の光の線が揺蕩ってくるはずだ。それを己の身体の中に引きこんでいくイメージを持つのだ。貴様の器が耐えうるならば、おのずと我の能力がリンクされるだろう』 

 俺は目をつぶり、集中する。暗闇の中に見えた光を身体の中心に持ってくるイメージをする。

『そうだ!! そのまま一気に行くぞ!! ………よしっ!! 【同期シンクロ】は成功だ。これで能力が使えるはずだ。使ってみるといい。元素構造を最小単位で頭に描きながら魔力を込めて、それを集めて立体構造を創造していくのだ。そうすれば望みの物質が作られよう』

 俺は半信半疑で、鉄の分子を頭に思い描きながら魔力を込める。そして、それを集めながら5本の細い鎖をイメージしていく。
 すると、それぞれの指輪から細い鎖が現れて、床へと音を立てて落ちていく。
 おお、いきなり成功したぞ。しかも鎖を俺の意思で動かすこともできる。
 もう、これはあれか。『絶対時間エンペラータイム』発動しちゃっていいっすか?
 

『むう、早速成功させるとは。最小単位のイメージが難しいはずなのだが………まあいい、この能力があれば危険にさらされるということはあるまい。早速ダンジョンとやらに向かうことにするぞ!!』

『………いや、今すぐには無理ですよ』

『何故だ?! 約束を反故にする気か!!』

『いや、そんなつもりはありませんけど。自分はまだ子供なので、そんな場所に一人で行くことはできないですよ。場所的に往復で1カ月はかかりそうなので、そんなに外出できません』

『こ、子供、だと? ではいつダンジョンへと向かうことができるのだ。来月か? それとも来年か?』

『………王立学校を卒業するまで無理ですから10年ちょっとはかかります………』

『………』

 ゼルシャは絶句した。






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