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秘密

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 リリは今までにない神妙な表情をしていた。

「本来、私のような子は生まれて来ちゃいけないの。魔力が誰よりも強くて、周りが私を恐れてしまう。このワンピースに刻まれた刺繍は、私の力を封じるためのものらしいわ」

 いままで話したことがないことを、リリは明かしていく。

 女性の姿になること。

 白いワンピースの刺繍。

 長い髪。

 どれもリリの能力を恐れた皆が、強制してきた。

 

「私にとって、こんなことはなんの意味もないけど。知らない方が彼らのためでしょう? で、そんな私が生かしてもらえる理由は、私が怖いってだけじゃないの」

 リリに押し付けられた重荷。それは天災が起きたときに捧げるため。

 アーディは絶句した。

 なぜ逃げないのとか、そんな軽率なことは聞けなかった。

 リリにも家族や親族がいるだろう。

 もしかしたら、兄弟もいるかもしれない。

 優しいリリはきっと皆を見捨てられないだろう。


 リリは空を仰ぐ。

 この泉の真上は空がポッカリと空いている。

「アーディ、あなたがここに来てから雨は降ったかしら?」

「雨? いやでも泉は……」

「この泉には守り神がいるからね。枯れることはないの」

 雨が降らない、リリはそう呟く。

 アーディが目が覚めてこの森に来てから、雨は一度も降らなかった。

 日数は数えていないけれど、軽く2ヶ月は晴れたまま。

 水を蓄えておくことが出来ないなら、水不足というよりもっと危機的なーー。

「アーディ、だから今日でお別れ。今までありがとう、楽しかったわ」

「待ってリリ、君が犠牲になったとして……本当に君の家族は救われるのか? 俺はリリに生きていて欲しい」

 そんな言葉にリリは、頭を振る。

 まるでアーディにはどうにも出来ないことだと言っているようだ。

「家族が皆、仲良しだと思うの? だとしたらアーディの家族は幸せだったのね。私は疎まれる存在なのよ。誰もこの事実を変えることは出来ない。アーディでもね」

 そう言い切るリリは達観していた。

 そんなことを納得して欲しくない。

「雨乞いの儀式は明日の朝。アーディが何とかしたいというなら、その時までしか時間はないわ」

 期待のこもらない声が、リリから零れる。

 それでも可能性があるなら、アーディは何とかしたいと強く願う。

「言い伝えなんだけどね、この森には一匹の竜がいるの。水を操り、天災を鎮める。私は見かけたことはないけど」

「分かった、明日の朝だな」

 ずっと空を仰いでいたリリは驚いてアーディを見た。そしてその目から涙がほろりと、落ちる。

 リリが初めて年相応に見えた。

 幼く独りで不安を抱え、家族にも疎まれたリリ。

「アーディ、あなたには出来ない」

「それでも、その竜を見つけなきゃいけないだろう? 家族がリリをどう思っても、リリが家族を大切にしているなら」

 ここでようやくリリは、声を出して泣き出した。

 独りで耐えるには重すぎる。

 日が傾く頃にリリは泣きやむ。

 そしてにっこりと笑った。

「アーディ、ありがとう。この世界で私を大切に思ってくれる人と出会えてよかった」

 リリはそう言い残し、森を去っていく。

 
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