空白の時間

第3章 - まだ届かない

第3章 - まだ届かない
あの日の電話が、どうしても忘れられない。友香との最後の会話、あれがすべての終わりだったなんて、信じたくなかった。
「今日は少し遅れるかも。ごめんね。」
いつものように、少し笑ってそう言った友香の声が、今も耳に残っている。明るくて、少しおどけた感じ。あの声が、どうしても最後の言葉だなんて、思いもしなかった。
その後、僕はあのカフェで待っていた。友香が遅れるなんて珍しくなかったから、ただの小さなことだと思っていた。でも、あの時、僕が待ち続けた数時間が、僕たちの「最後の時間」になってしまったことを、僕はその瞬間、まだ気づかなかった。
帰り道、友香からの電話が鳴った。車が渋滞しているから少し遅れるかもしれないと言って、またすぐに電話が切れた。あれが最後の言葉だった。
その後、事故の報せを受け取るまでの時間、僕は何も考えられなかった。友香が事故にあったことを知らされた瞬間、頭が真っ白になり、どうしてもそれを現実として受け入れられなかった。
今でも、電話を手に取る度、最後に交わしたその言葉が胸に響いて、涙がこぼれそうになる。
「ごめんね」――それだけが、最後に僕に残された言葉だった。
友香がどんなに忙しくても、どんなに疲れていても、いつだって「ごめんね」なんて言わないで、彼女は笑ってくれた。あの優しい笑顔の裏に、どれだけの思いを抱えていたのか、今はもう分からない。
「君の声が、もう一度聞きたい。」
僕は心の中で何度もそう呟くが、その声は二度と届かない。