空白の時間

第10章 - 忘れられないもの

第10章 - 忘れられないもの
あの交差点を通る度に、拓実はもう一度、彼女が帰ってくるのを待っている自分に気づく。朝の光が交差点を照らし、通り過ぎる車がひときわ速く感じられる。どこか懐かしさとともに、それらが過去の一部となったことを実感する。
でも、今日はいつもと違った。彼女のことを思い出すたびに、以前のようにただ悲しみに暮れるのではなく、少しだけ「ありがとう」と感じる自分がいた。
「もし君がいたら、どんな顔をして今の僕を見ているんだろう。」
友香が生きていたなら、今の自分に何を言ってくれるだろうか。優しく微笑んで「前を向こうよ」と励ましてくれたに違いない。
彼女がいない世界で、拓実はその言葉をずっと心の中で繰り返し、何度も何度も胸に刻んだ。
「前を向こう。」
その言葉が、少しずつ心に浸透してきた。