君に咲くはずだった春

夕暮れ狼

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第9章:最後の桜の花

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第9章:最後の桜の花
桜が満開を迎えた日のことだった。
病院の外に出て、澪と一緒に見上げた空には、まだ冷たい風が吹いていたけれど、あたたかな陽光が差し込んでいた。
「陽翔くん、桜がきれいだね」
澪の目には、少しだけ涙が浮かんでいた。
でも、それは悲しみの涙ではなく、どこか懐かしさを感じるような、優しい涙だった。
「うん、きれいだね。君と一緒に見る桜は、特別だよ」
その言葉を言った瞬間、澪が小さく微笑んだ。
その笑顔が、まるで僕の心を溶かしてしまいそうなほど、温かくて優しかった。
「ありがとう、陽翔くん」
澪はそう言うと、少し歩き出した。
その後ろ姿を見て、僕はふと、彼女の病気がどうしても心に引っかかることに気づいた。
「澪、無理しないで。ちゃんと休んだほうがいい」
「大丈夫だよ、もうすぐ退院できるって言われたから」
その言葉に、少しホッとしたけれど、心の奥底には不安が残っていた。
彼女が元気になって、また一緒に過ごせる日が来るのだろうか。
それが僕の最大の願いだった。
「陽翔くん」
澪が振り返り、少しだけ真剣な顔をした。
「私、もうすぐまたあの場所に戻ることになったの。……でも、最後にもう一度言いたいことがあるんだ」
「何?」
「ありがとう、陽翔くん。あなたと出会えて、すごく幸せだった。これからも、きっと大切な人だと思う」
その言葉を聞いた瞬間、僕は澪をしっかりと抱きしめた。
「僕も、澪が大切だよ」
桜の花びらが舞い散る中で、僕たちはお互いの温もりを感じながら、静かな時を過ごした。
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