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第一章
出会ってくれてありがとう
しおりを挟む旦那様たちを見送った後、エドさんからはずっと読みたかった本を貰って、一番お世話になってる庭師のトビさんからは新しい腰道具の専用ケースセットを貰った
これじゃあ俺まるでトビさんの弟子みたいだな、って少し笑いそうになったけどすごく嬉しかった
また緩みそうになった顔を引き締め直そうとした時
「クロスさん!」
そう呼ぶ声と共に腰に来る衝撃
少しよろきそうになりながら後ろを振り返る
「こらユーリ、走ったら危ないぞ」
「えへへ、ごめんなさい。クロスさんを見失う前に早く渡したくて」
はにかみながらユーリが後ろ手に持っていた袋を俺に差し出す
その中に入っていたのはきれいなキツネ色に焼けたクッキーだった
「クッキーか?」
「うん、クロスさんが作ったのとは比べ物にならないのは分かってるんだけど、でも一番最初に食べたクロスさんのクッキーがきっかけで僕は少しずつ人と関われるようになったから…だから、その…僕にとっての思い出の品をプレゼントしたかったんだ」
少し恥ずかしそうにしながらニコッと笑うユーリ
本当に…たくさん笑うようになったな
「ユーリ、ありがとうな。慣れないことをやるのは大変だったろ」
「ううん!そりゃ最初は失敗しちゃったりもしたけど、チェイスさん(料理長)たちも手伝ってくれたし、うまく焼けた時すごく嬉しかったんだ!お菓子作りがこんなに楽しいなんて知らなかった!」
「おっ、じゃあ今度一緒に作るか?俺もユーリと一緒に作ってみたいんだけどいい?」
「え!?いいの!?作る!一緒に作りたい!クロスさんとなら一段と楽しくなりそう!」
「じゃあ、約束な。あっ、セツには内緒な?驚かせてやろうぜ」
「任せてよ!セツ姉、僕とクロスさんが二人でお菓子作りしたなんて知ったらまた拗ねるね」
「そうだな、まあそん時は俺達が作ったお菓子でご機嫌とれば一発だろ」
「確かに」
指切りをしながら二人してクスクス笑う
「さってと、クロスさんセツ姉探してるんでしょ?さっきバルコニーに行くのが見えたからそこにいるんじゃない?」
「そうか、それじゃあちょっと行って来るな」
「…仕方ないから、今日は譲ってあげるね」
「?何か言ったか?」
「ううん、なーんでもない!あっあと、クロスさん」
「なんだ?」
「誕生日おめでとう」
「…あぁ、ありがとう」
笑顔で見送られ俺はユーリが言ったバルコニーへ向かおうとしたその時だった
「クロス」
母さんが笑顔を浮かべながら後ろに立っていた
「母さん、知ってたんだね」
「えぇ、お嬢様から頼まれたら、断るわけにはいかないでしょ?」
子どもみたいな笑顔を浮かべる母さんは何気にこういうのが好きだから困ったものだ
苦笑いを浮かべていたら母さんは俺に視線を合わせるようにしゃがんで、手を握ってきた
「クロス、あなたがいつも誕生日の時に母さんに感謝の言葉をくれるのは本当に嬉しいわ。でも、自分の誕生日なのだからもっとあなた自身のことを考えてあげて?」
俺自身のこと?
「今日みんなからお祝いされてどうだった?」
どうって、そんなの決まってる
「…すごく嬉しかったよ、今までで一番楽しい誕生日だった」
「ふふ、そうよね。みんなクロスに喜んでほしくて色々準備してたの。…特にお嬢様が一番あなたのことを考えてたのよ?」
「セツが?」
そう言えば、さっき旦那様と奥様もうそう言ってた
「"みんなクロスのことが大好きで大切なの。だからそんな大好きなクロスの誕生日を祝わせてほしい"って、お嬢様が私に言ったの。それを聞いちゃったら、手伝わないわけにはいかないじゃない。あなたは私にとっても一番大切で一番愛おしい存在なのだから」
俺は今どんな顔をしているのだろう
母さんに頭を撫でられているから顔が熱いのか?それとも母さんの言葉で照れているのか?
ぐるぐると頭がこんがらがりそうになりながらも、俺は頭の中でセツのことを思い浮かべていた
「クロス、あなたは幸せ者ね。お嬢様みたいな素敵な女の子がこんなにもストレートにあなたのことを大好きって言ってくれたのよ?これ以上自分を顧みないのを続ければ、それはあなたを大切に思ってる私達やお嬢様に対して失礼じゃない?」
「あ…その……」
「ふふ、少しからかいすぎたかしら。でも、今言った事は全て本当のことよ?クロス、もっと自分のことを大事にしてね?」
母さんの言葉に辛うじて頷くことが出来たけど
色々とキャパオーバーしそうだし、本人の口からじゃないとは言え、真っ直ぐに好意をぶつけられるのは、その…なんというか……かなり恥ずかしい
「お嬢様はバルコニーにまだいるみたいね、早く行ってあげなさい」
背中を押されて何歩か前に歩き出してから後ろを振り返る
母さんはずっと笑顔で俺を見送っていた
バルコニーへ行けば、セツは手すりに寄りかかって何やらぶつぶつ呟いていた
こいつはまた、一人で変なこと考えてるな
そんなこと思ったら自然と笑いがこみ上げてきた
そしてさっきの母さんの言葉が蘇る
さすがに顔がまた赤くなることはなかったが、照れてないと言ったら嘘になる
でも、いざセツの顔を見たら、ごちゃごちゃとほかの事を考えてるのが馬鹿らしくなった
ただこいつと一緒にいれるだけでいっか
そう思うようになったのはいつの頃からだったのか
声をかければすごい顔して振り返るおよそお嬢様らしくないセツ
コロコロと表情は変わるし、変態というか変人な女の子
一緒にいると退屈しないし、むしろ毎日が騒がしくなった
でも、その騒がしさが心地よかった
心の底から楽しそうに笑う顔が好きだと思った
コロコロ変わる表情が面白いと思った
悲しい顔はしてほしくなかったし、何か悩んでいたら力になりたいと思った
未だにこの気持ちの正しい表し方は分からないが
一つだけ言えるのは
セツ
俺もお前のことが大切で大好きだよ
俺の方こそ、出会ってくれてありがとう
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