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第一章
サプライズ
しおりを挟む俺が遠目で初めて見たセツィーリア・ノワールの第一印象は
いかにも気の強そうな典型的お嬢様
というものだった
* * *
4月15日
今日は俺の11歳の誕生日だ
って言ってもやる事はいつもと変わらないし特別何かしようとも思わない
強いて言うなら母さんにありがとうを伝えることくらい
でも、俺がいつも通りだったとしても俺の周りはそうじゃなかった
まあ、主に1人はだけど
数日前からセツがなんか変なのは気づいてた
出会ってから毎年セツは俺にプレゼントを用意してくれていた
そして決まって数日前からそわそわし出すのが常だった
それが今年はそんな素振りがない
まあ、ただ単に忘れているのかもしれないけど
「………」
こっちを見る回数が増えたのはなんでだろう
そして今日は主に母さんと行動する予定になっていたから少し嬉しかった
朝、お茶会の後に合流した母さんにいつもの一言を告げる
「母さん、産んでくれてありがとう」
「クロス、生まれてきてくれてありがとう。誕生日おめでとう」
母さんもお決まりの一言を言いながら俺の頭を撫でる
もう子どもじゃないから照れくさかったけど、今日は母さんに感謝する日だからいっか、と甘んじることにした
いつもと変わらない作業だったけど、少しだけ変に思ったのは妙に屋敷の端での仕事ばっかだったことだ
でもそれも、今日はここら一帯を全面的にやる日なのか、とすぐに納得した
お昼になって母さんが持ってきてくれたパンを食べて続けて作業に取り組む
そして夕方に差し掛かった時だった
「クロス、今日はもうこれでおしまいにしましょう」
「いいの?まだ全部やり終わってないけど」
「えぇ、あっ、でも最後に大広間に行ってみてくれない?母さん何かを忘れたような気がするんだけどその何かが思い出せなくて」
「いいけど…母さんはどうするの?」
「私は最後にここを少し片付けてから後で向かうわ。だから先に行っててくれない?」
「分かった」
そう言って俺は母さんを残して大広間へ続く長い廊下を歩く
そう言えば今日は珍しくセツたちとあまり会わなかったなぁ
いつもは仕事してる時にもちょくちょく来てはおふざけという名の邪魔をしていく奴なのに今日はお茶会以来顔を合わせていない
なんとなしにユーリと遊んでるのかもな、と思っているうちに大広間の扉が見えた
中に人がいるかもしれないから一応ノックをして入る
そして、真っ暗な部屋に足を一歩踏み入れた瞬間
パンッ!パンッ!パパンッ!!
と連続して鳴る爆発音に固まった
何が何だか分からないうちに一気に部屋が明るくなり、視界に映ったのは豪勢に飾り付けられた大広間と屋敷の人たち全員の姿がそこにはあった
旦那様も奥様もちゃんと正装している上にテーブルの上には数々の豪華料理
どう見てもパーティーをしてるようにしか見えなかった
まずい、今日そんなのあるなんて知らなかったけどこれは俺、そのパーティーに乱入したってことになるんじゃないか?
まずい、まずすぎる、いくら旦那様方が優しいからと言ってこれは許されないことだ
せめて俺だけ責任を取るような形で母さんを巻き込まないように
ぐるぐるとそんなことを考えていた時だった
「サプライズ大成功~!」
ドレス姿のセツが走り寄ってきて俺に向けてクラッカーをぶっ放した
人に向けちゃダメだろ、と言ってやりたかったが生憎まだ色々と追いついてない
あれ?ていうか今こいつサプライズって言った?
それにさっきも……クラッカーの音にびっくりしすぎて聞き逃してたけど、あの時みんなが言ってた言葉って…
ゆっくり考える暇も与えられないまま俺はセツに引っ張られてみんなの輪の中へと入った
そこで次々にかけられる言葉を聞いて漸く
これが俺の誕生日パーティーだっていうのを知った
屋敷の人たちにもみくちゃにされながら祝福をされる
誕生日おめでとう!
また一つ大きくなったな!
ますますいい男になっちゃって!
ほらもっと笑え!めでてえ日なんだからよ!
次々にかけられる言葉が真っ直ぐすぎて気恥ずかしくなる
ローソクを消した後、本格的に始まったパーティーは異例の光景だった
主人も使用人もみんな同じように楽しんでいる
だからすぐに分かった
こんなことを考える奴は一人しかいなかったから
「クロス、誕生日おめでとう」
「クロスちゃん、おめでとう!また一つ大きくなったわね!」
「旦那様、奥様も、本当にありがとうございます。使用人ですらない俺なんかの誕生日にこんな」
「もー、だめよクロスちゃん!俺なんか、なんて言っちゃいけないわ。私たちはクロスちゃんが大好きなのだから」
「そうだ、ユーリは俺たちの息子だが、お前も私たちの子どもだと思っているよ」
つくづく思う
ここの人達は優しすぎる
心配になるくらい優しいし甘すぎる…
「あ、りがとうございます」
まさかお二人からそんな言葉が貰えるとはつゆ知らず俺は今多分すごく情けない顔をしてる
「いけない!忘れるところだったわ!はい、クロスちゃん、これは私たち2人からの誕生日プレゼントよ」
「え!?い、いえ!これ以上何か貰うなんて」
「いいから、受け取りなさい。まさか、私たちからの物を受け取れない、なんて言わないよな?」
威圧感を出して有無を言わさないようにしてる旦那様だけど、俺はそんな旦那様が実はすごく家族思いで優しい人だって知っているから全く怖くなかった
だからこそ、そこまでしてくれる旦那様のお気持ちが嬉しかった
「いえ、そんな。本当にありがとうございます…!」
「クロスちゃんが気に入ってくれると嬉しいわ!」
奥様から包みを受け取って包装を外していく
俺の反応をワクワクしながら待っている奥様が一瞬だけセツと重なった
そして箱から現れたのはループタイだった
しかもただのループタイじゃない
飾りのところにノワール家の紋章である三日月と黒猫が彫ってある物だった
この2人から贈られるものだから相当な物だとは思ってたけどこれは相当すぎる!
箱を持ったままタイとお二人の顔を交互に見る
それを気に入らなかったと取られたのか奥様が悲しそうな顔をした
待ってください早まらないで!
「クロスちゃん、もしかして」
「あの!ち、違うんです!とても素敵です!!た、ただ、俺が紋章付きの物を頂いていいのか」
「それならなんの問題もない。俺たちがクロスに贈りたかったから贈ったまでだ。文句を言う者などいやしないし、言わせないさ」
ニヤリと美しく笑う旦那様
いや、本当に楽しそうに笑っていらっしゃるのはいいんですが結構怖いこと言ってるんだよなこの人
「でも良かったわー!クロスちゃんが気に入ってくれて!選んだ甲斐がありましたわねヴァーシス様!」
「あぁ、そうだなアメリア」
あっ、もうダメだ
完全にお二人だけの世界に入っちゃった上に、これがノワール家当主とその奥方が直々に選ばれた物だなんて知ったら口が裂けても貰えないなんて言えない
と、とりあえず絶対に無くさないように傷つけないように大事に保管しておこう
うちの家宝にもなり得る代物だよ
慎重に箱を閉じて包装を包み直していく
そろそろ終わりそうというところで旦那様から再びお声がかかった
「もう分かっているかもしれないが、このパーティーの発案者はセツィーリアだ、だから後であの子に何か一言でも言ってあげてくれないか?きっと喜ぶから」
「そうね、あの子、クロスちゃんを喜ばせたいって一番張り切ってたのよ?だから、あの子のことよろしくね?」
そう言って去っていく2人に俺は会釈をしながら見送った
やっぱり…これはセツの考えだったか
予想通りだけど、あいつはいつも俺の予想外のことをしてくれる
未だ会釈をしたまま上げていない顔に、いつの間にか笑顔が浮かんでいたことに気づかない俺だった
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