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第二章
サイコパス
しおりを挟む「……ンッ………ッ」
あ、あれ?私いつの間に寝てたんだ?
えっと、確か…シェリーと護衛の人に強盗を任せて私はユーリとキュアラの元に戻って……こっちに駆け寄って来たキュアラと一緒にユーリとも合流しようと………その後どうしたっけ?
もうキュアラを無事教会まで送り届けられた?でも、全然記憶が………
あれ?ちょっ、ちょっと待って
な、なんか身体が……
ハッ!とさっきまで曖昧だった意識が一気に覚醒する
頬から地面の冷たい感触がダイレクトに伝わってくる
手を動かそうとしても後ろ手に縄で縛られているんか全く動かない
なんとか上半身だけを起こせば私のすぐ後ろに私と同じように手を縛られて倒れているキュアラちゃんがいた
「キュアラちゃん!」
呼びかけても返事がない、けどよく見たら呼吸もしているし目立った外傷もなくただ寝ているだけみたいでとりあえずホッと一息つく
でも…もしかしなくても今かなりやばい状況にいるのは確実だな
深呼吸をして辺りを見回す
一目見ただけでここが廃墟だって分かった
しかも壁は黒く煤がついてるし、恐らくこれら全て焼け焦げた跡
そして多分私とキュアラちゃんは誘拐されたんだ……
冷静になって状況を把握しようとすればするほど冷や汗が出てくる
ここは一体どこで私達はなんで手を縛られてここにいるのか
なんとか頭を働かせようとしていたその時
「なんだ、もう起きたのか?」
突如聞こえてくる男の声にバッ!と顔を上げた
男は半壊している扉の方からゆっくりと歩いてくる
警戒心全快でとりあえず後ろにいるキュアラちゃんを庇うように前に出た
「あなた誰?どうして私達を攫ったりしたの?」
誘拐犯のくせに堂々と顔を晒しているなんて随分奇特なことをするのね
捕まらない自信でもあるのかしら
「俺が誰とかどうでもいいだろ。お前らはただのエサなんだから大人しくしてろよ」
ニヒルな笑みを浮かべて部屋の中にあった椅子に腰掛ける男
右眉から瞼にかけての傷が印象的だった
「エサですって?あなた私が誰か知っててこんなマネをしているのかしら?」
「どうでもいいなそんなこと、お前が誰であろうと俺の目的はただ一人だ」
この様子は本当に私がノワール家の令嬢だってことは知らないようね
てっきり知っていて私を誘拐して父を脅そうなどと命知らずなことを企んでいるのかとも思ったけど違うみたいね
でも…それじゃあこの人の狙いは一体……!ま、まさか!
チラッと未だに眠っているキュアラちゃんと見下ろす
この男は私のことを知らない、ということは私は想定外の存在
なのに、私も攫われた、それはなぜか?……キュアラちゃんと一緒にいたからだ
そして、この男は私達…キュアラちゃんのことをエサと言った……つまりこいつの狙いは
「シェリー…?」
小さく呟いた名前に眉を顰める男
ああ、そうだ、シェリーは私がつけたあだ名だから
「シェイルス…あなたの目的はシェイルス・アーレスね」
確認のために一応聞いたけど多分十中八九ビンゴだ
その証拠にその名前を聞いた男はさらに笑みを深めた、ああ気持ち悪い
「へえ、お前あのガキのことも知ってんのか。やっぱ連れて来て正解だったな」
途中でどっかに捨てようと思ったけど
そんな恐ろしい事が聞こえて不覚にも身体が震えた
怖いからっていうのもある、だけど一番はもしそうなった場合キュアラちゃんは一人でこの状況に陥っていたかもしれないという事実が私の身体を震わせた
そういうことなら、こんなことを言うのも可笑しな話だけど誘拐されて良かったよ
この子を一人にしなくて済んだんだから
キュアラちゃんは絶対に守ると再度心の中で誓ってから男を睨みつける
「シェイルスに何の用?私達を誘拐してまで会いたいなんて随分熱烈なのね」
「だろ?つっても俺はこの二年間あいつのことずっと見続けてきたけどな。でも…あいつのほうが俺に会いたかったと思うぜ?」
「気持ち悪いわ…どうしてあなたなんかにシェイルスが」
「そりゃあいつの親を殺したのは俺だからな」
「何…………は?」
今なんて…
「あいつの親を殺したのは俺、ここの火をつけたのも俺、あいつの肩を火傷させたのも、俺。あいつの人生を潰した俺に会いたいのは当然だろ?」
組んだ足に肘を置いて頬杖をついて笑う男
本当に楽しくってしょうがないっていう感じで笑うそいつの顔を見てるだけで今まで感じたことのない感情に思考が飲み込まれる
「……このクズがっ…!」
セツィーリア・ノワールになることも忘れて辛うじて言葉に出来たのはその一言だった
他にも言いたいことは山ほどある、むしろ蔑む言葉しか出てこない、それが多すぎて言葉に出来ないなんて自分でもびっくりだ
憎悪、軽蔑を含めて本気で睨んでもそいつはニヤニヤ笑ってるだけ
ああ…そのニヤついた顔潰してやりたい…!こんなに人に対して殺意を抱けるなんて思わなかった
「……どうして今更シェイルスの前に現れるの?まさか今になって当時のことを謝りたいなんてこと言わないわよね?」
自分で言ってて鼻で笑える
もし万に一つでもその可能性があったらまず誘拐なんてするはずないしあんな笑顔で自分の行った卑劣な行為を話せるはずがない
「俺が?クハハ、笑えるなそれは。試しにあいつが来たら謝ってみるか?お前の大好きな両親を殺しちゃって悪かったな~って、クハハハハハ!!」
高笑いしてる男の口に鉛流し込んでやりたいと本気で思った
「シェイルスは過去を乗り越えて今を生きてるの。その幸せの邪魔は許さないわ」
「幸せだからだよ」
「は?」
「あいつが絶望の中再び幸せを掴んだから俺は現れたんだよ……あいつの幸せをもう一回この手でぶち壊す為にな!!」
手を前に出して何かを握りつぶすかのような動作をとる男を見てると心底反吐が出る
サイコパスというのを初めて見たけど、ただただ狂ってるようにしか見えない
「俺がなんでお前みたいなガキにこんな事を話してると思う?」
「知らないわ、というより知りたくもない、あなたと思考が同じなんて真っ平ご免よ」
そう吐き捨てながらもどこかでこいつは私のことを殺すつもりでいるからだろうなとは思った
「俺がこの後お前を殺すからだ」
見事それは的中したけど
「ただし、あいつの目の前でお前を犯してからだけどな」
まさかここまで頭おかしいとは思わなかった
「本当はお前じゃなくてそこに転がってる妹の方をヤッてからお前を殺してやろうかとも思ったけど……どうやらお前もあいつにとって相当大事な奴みたいだからな」
子どもに何言ってんだとか、よく子ども相手にそういう思考になれるなとか色々言いたいことはあるけど悔しいことに言葉が出てこない
それでもこんなクズに怯みたくなんてなかったから歯を食いしばって睨み返した
「あなたよくもいけしゃあしゃあとそんなふざけた事を口に出来たものね。その絶対的自信はどこから来るのかしら…宣言するわ、あんたの未来は捕まって牢にぶち込まれて終わるとね!」
今頃私がいなくなったことはきっとあの場にいたユーリがお父様に伝えてくれているはず。捜索に時間はかかるかもしれないけどこいつは私達をエサにシェリーわ釣った。つまりシェリーにこの場所のヒントを渡しているはずだ
だから遅かれ早かれきっとここにお父様の救援が来る…それまでできるだけ時間稼ぎをして…最悪私が犯されたとしてもこいつさえ捕まれば……!!
「おいおい、威勢がいい割りに声が震えてるぜ?本当は怖いんだろ?だったら強がってないでもっと恐怖に満ちた顔を晒せよ」
怖い?何が?この状況が?
…………ふふ
ふふふふふふふふふふふ
怖くないわけないじゃない!!人生初誘拐に目の前には殺人犯+放火犯の男
しかも殺害予告を受けただけじゃなく犯されるとまで言われて平気でいられる子どもがいると思う!?
死ぬほど怖いし一瞬でも気が緩んだら身体がガタガタ震えて涙が出そうよ!!
でもね!!
「冗談じゃないわ!!!あんたに弱みを見せるくらいなら私は最後の最後まで胸を張って笑ってやるわ!死んでもあんたみたいなクズになんか屈したりしない」
腹の底から怒鳴ってやれば一瞬だけ目を見張った男は今までで一番の高笑いをし始めた
救いようのない狂人がっ
そう心の中で吐き捨てながら睨み続ける
「はははははははは!!!お前、ガキのくせにおもしれえこと言うじゃねえか。いいねえ、面白いもんを見せてくれた礼にいい事教えてやるよ」
「聞きたくないわ」
あと呼吸もして欲しくないんですけど
「お前はシェイルスの奴が増援でも引き連れてやってくるとでも思ってるみてえだけど、それはありえねんだよ!なぜかって?」
その時扉の方からコツコツとした足音が聞こえて来た
「だってこいつは俺を殺したくて殺したくてたまんねえからなあ!それなのに…その邪魔をする増援なんて連れて来るわけねえだろ?なあ、シェイルス・アーレス」
俯きながら部屋に入ってくるその人の…シェリーの顔が見えない
ただ一つ分かったのは
「このガキをお前の前で犯して殺したら、お前はまた絶望してくれるよなあ?」
「………絶対に殺す」
シェリーが今にも人一人を殺してしまいそうなくらい怒っているということだけだった
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