49 / 130
第二章
消失
しおりを挟む「ユーリ様~!」
遠くの方からシェイルスさんが僕を呼ぶ声が聞こえる
でも今の僕はそれに手を振り返す余裕なんてなかった
「ユーリ様、お待たせして申し訳ございません!強盗は捕まえて荷物もご婦人に返せたので一件落着ですね」
シェイルスさんが何かを言ってるけどその言葉はほとんど僕の中に入ってこない
どうしようどうしようどうしようどうして?
なんでなんでなんでなんで??
おかしいおかしいおかしいおかしい!!
「ユーリ様、セツィーリア様とキュアラはどちらに?……ユーリ様?」
ここで漸く様子の違う僕に気づいてシェイルスさんが膝を折って僕と目を合わせた
僕はきっと酷い顔をしているんだろうな、自分でも血の気が引いてるって分かるんだ、きっと真っ青になってるに違いない
「シ、シェイルスさん…」
「はい」
「セツ姉が……二人が消えた…」
「…え?」
僕もえ?って言いたい
でも、本当に消えたんだ
あの後、すぐにセツ姉達がいた辺りまで走っていってもそこに二人の姿はなく周りを見渡してもそれは変わらなかった
最初はセツ姉の悪戯で僕を驚かそうとしているのかと思って呆れながらちょっと探そうと思ったけどよくよく考えたらキュアラもいるのにそんな幼稚なことをするはずがない、あの人年下にはかっこつけだから
それに……子どもの足だけで一瞬にしてこの場から姿を消せるはずないんだ……
そう思い始めたら不可解な点がいくつも見つかり、最悪な仮説が過ぎった瞬間血の気が引いて僕は震えが止まらなくなっていた
そのすぐ後にシェイルスさんが来てくれたけど状況は何一つ改善されてない
心配そうに顔を覗き込んでくるシェイルスさんを見つめながら恐る恐るその仮説を口にした
「誘拐、されたかもしれない…」
震えた声によって紡がれた言葉は形となった瞬間現実味を増した
僕のそれを聞いたシェイルスさんは徐々に目を見張っていき、僕の肩を掴んでいる手にも力が入り始めたのが分かった
僕はこんなにも焦っているシェイルスさんの顔を見たことない
「…それは、どういうことですか?」
それでもやっぱりシェイルスさんは大人だからか、必死に冷静に状況を把握しようと努めていた
さっきの出来事を簡単に説明すればシェイルスさんの眉がだんだんひそめられていく
そして僕はついさっき拾ったそれをシェイルスさんに手渡した
なんとなく無関係じゃないと思ったから
「あと、これ。セツ姉たちがいた辺りに落ちてた…関係ないかもしれないけど、なんか気になって」
それを、懐中時計を受け取ったシェイルスさんはさっきの非じゃないくらい目を見開いた
そしてなぜか、とても怒っているように見えた
「シェイルスさん?」
様子のおかしいシェイルスさんに今度は僕から声をかける
ビクッと体を震わせてからシェイルスさんは僕を安心させるために笑顔を向けようとしたけど、ぎこちない上に引きつってたから無理しなくいいと伝えた
それにこの状況で僕が安心できることはセツ姉とキュアラが戻ってくることだけだから、笑顔を向けられたとしても今の僕は愛想笑いすら出来ない
「ユーリ様、今すぐ護衛の方と屋敷に戻って旦那様に今の状況を伝えてください」
「えっ!?待っ!」
言うや否や一緒に戻ってきていたであろう護衛の人に僕を連れ帰るよう頼んでから懐中時計を仕舞ってどこかを睨みつけるように遠くを見つめるシェイルスさん
今にも飛び出していきそうなシェイルスさんの腕を掴んでこっちに振り向かせた
「待ってよ!!僕も行く!僕はあの二人と一緒にいたのに守れなかった!シェイルスさんどこか心当たりがあるんでしょ!?僕もセツ姉たちを助けに」
「いけません!!」
「!」
初めてシェイルスさんに怒鳴られる
いつも優しい笑顔を浮かべてるシェイルスさんは本気で怒ってた
「ユーリ様!これはあなたのせいじゃない!むしろこれは私のせいです…あなたたちの側を離れたばかりに……本当に申し訳ございません…!」
僕の肩を掴んで頭たれるシェイルスさんの声も、よく聞いたら震えていた
そうだ、誘拐されたのはセツ姉だけじゃない、キュアラも…シェイルスさんの妹も今危険の中にいる
シェイルスさんはきっと今にも飛び出して行きたいはずなのに僕のことを落ち着かせようとしてる、そして何も悪くないのにこうして謝っている
一分一秒だって惜しいはずなのに
「違う!シェイルスさんは何も」
「違うんです!!本当にこれは俺のせいなんです!!俺が!!……セツィーリア様を巻き込んでしまったんです…!!」
セツ姉から聞いたことがある、シェイルスさんは取り乱すと一人称が変わるって
それに、シェイルスさんの今の訴えはまるで悲痛の叫びみたいで…ビリビリと鼓膜が揺れている
「ユーリ様…これをエドナルクさんに渡してくれませんか?それで全て伝わるはずです」
そう言って渡されたの万年筆だった
随分年季が入っている物だったけど一目で大事に使われているのが分かる
でも、なんでこれをエドさんに?
その疑問を口にする暇もなくシェイルスさんは俯いてた顔を上げてしっかり僕と向き合った
「それと、旦那様にも伝言をお願いしてもいいですか?…セツィーリア様は必ず無事に救い出してみせます、そしてこれら全ての責任は私にあるので罰はいくらでも受けます、だから今だけは勝手な行動をする私を許してください"と」
消えてしまいそうなくらい儚く笑うシェイルスさんと離れたら、なぜかもう二度と会えない様な気がしてならなかった
立ち上がってそのまま去ろうとしたシェイルスさんの背中に呼びかける
せめて、どんなものでもいいからせめて安心できる何かをシェイルスさんの口から聞きたい
「約束してくれる?!絶対、三人揃って戻ってくるって…!」
一度止まってゆっくり振り返ったシェイルスさんは何も言わず真意が読み取れない笑顔を浮かべて、そのままどこかへと走っていった
もう止まらないその背中に叫び続ける
「約束だよ!!破ったらダメだから!セツ姉もキュアラもきっと許さないから!!」
あっという間に遠くに消えた背中をいつまでも見ている暇はなく、僕はすぐに待機していた馬車に乗り込んだ
行きとは違い馬車がすごいスピードで駆けていく
きっと護衛の人たちもかなり焦っているんだ
それでも荒々しさを感じないのはさすがだと思った
屋敷に着いた途端に僕は馬車から転がり落ちるように飛び出し、挨拶をしてくれる使用人たちの声も全部無視してお父様がいつもいる書斎へ飛び込んだ
どうやら来客中だったみたいだけど、それを気にしてる余裕はない
僕がいきなり飛び込んできたことに驚くお父様に事情を全て話す、もちろんシェイルスさんの伝言も伝えた
「馬鹿者めっ!」とお父様は呟いていたがこれは怒りではなく心配から来るものだと僕には分かった
本当はノワール家のお嬢様が誘拐されたなんて他人のいるところで話していい内容じゃない
だけど、僕はそんな暗黙の了解よりセツ姉のほうが大事なんだ…なりふり構ってられるか!
話し終えた頃にはお父様も顔面蒼白になっていた
そしてすぐさまシェイルスさんに頼まれていた物をエドさんに渡せば、エドさんはハッ!としたような顔になりお父様に何か耳打ちした
それを聞いたお父様の顔もみるみるうちに険しくなり、エドさんが離れた瞬間お父様は素早くかつ的確に指示をエドさんに出していた
これで、一先ずは一安心かもしれない
そう思った時だった
「僕にも救出の手助けをさせてもらえないだろうか?ヴァーシス卿」
僕とそう変わらない年頃の少年?がお父様の名前を呼んで前に出た
この部屋にいる人は最初から限られているから、すぐに客人がこの子だと分かったけど…
父の名を呼ぶこの少年は一体何者なんだ?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが
侑子
恋愛
十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。
しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。
「どうして!? 一体どうしてなの~!?」
いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした
タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる