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第一話
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あ、しまった。
(鎌がない…!)
手にしていたはずの鎌がない。死神としての仕事道具である鎌がない!
(落とした!? うそっ! なんで!? どこに…うそでしょどうしよう!!)
「おい」
フードを深く被った少年が振り向くと、目の前に銃口があった。
見上げると背の高い男が眉間に皺を寄せながらこちらに拳銃を向けている。
「んだよ、いきなり慌てやがって…死ぬのが怖くなったか? 普段は人間の魂を狩りまくってる死神のくせに。最後にどんなツラしてるか見てやろう。ま、死神に顔はないがな」
そう言って銃口でフードを捲り上げた瞬間、男の目が丸くなる。
「お前…死神のくせに顔があるのか?」
しかし少年はそれどころじゃなかった。
自分に拳銃を向ける男に涙目で飛びついた。
「僕の鎌知りませんか!?」
「ほー、コレが死神ねえ」
「顔アリは初めて見たな…」
「最近は突然変異で顔アリの死神が生まれると話には聞いていたが」
「思ったよりかわいい顔してんなあ」
大きく真っ黒い羽根を持った屈強そうな男たちに囲まれた少年はオドオドする。
「なあ、これ俺が食っていいか? 物理的に」
「死神食ったら何かいいことあんのか?」
「魔力上がりそうじゃね? ただでさえ顔アリの死神なんかめずらしいってのに」
少年は顔を青くした。物理的に食べるって…パクって食べるってことだよね!?
ニマニマ笑う男たちに囲まれていると部屋のドアが開き「散った散った」と手をひらひらさせながら、先ほど助けを求めた男が入ってきた。
「レイアス、お前が捕まえたのか?」
「ああそうだ、だから何をするかの権限は全て俺にある。さあ帰れ帰れ」
屈強そうな男たちが部屋を出ていき、男と…レイアスと少年の二人が残った。
レイアスが少年を見る。
「お前、名前は?」
「名前…なまえ?」
「ないのか? じゃあとりあえず…今日は満月だからルナでどうだ」
「ルナ? 僕の名前ですか?」
少年は…ルナは何度も自分の名前を呟いて、にこっ、と笑った。
「ありがとうございます! あなたは…」
「レイアス」
「じゃあレイくんですね! ありがとうレイくん!」
「…お前すげー拍子抜けするなあ…。まあいい、座れ」
椅子を差し出され腰掛けると、目の前にレイアスも座ってきた。
「ここは魔法省死神対策本部が置かれている部屋だ。俺は地界から魔法省に派遣されてきた悪魔だ。ここでイレイザーとして働いている」
「あ、だから!」
ぽん、とルナは両手を叩いた。
「だから僕を殺そうとしたんだ!」
「直前まで追いかけっこしてたの覚えてねえのか?」
「…??」
全く覚えがなく首を傾ぐとレイアスも首を傾いだ。
「…顔アリの死神は突然変異で生まれると聞くが…もしかして俺と追いかけっこしてる間にただの死神が顔アリの死神として生まれ変わったのか?」
「さあ…」
「自分のことなのにわかんねえのかよ」
「わかんないです。気付いたら鎌がなくて…ハッ!」
ルナは勢いよく「鎌!!」と叫びながら立ち上がった。
「僕の鎌! 僕の鎌知りませんか!?」
「お前さっきもそんなこと言ってたなあ。んだよ、そんなに大事なのかよ」
「だってアレがないと僕が死神かどうかわかんないじゃないですか! あい、あいで…」
「アイデンティティ?」
「アイデンティティ! そう! 死神としてのアイデンティティが失われます! だから僕の鎌知りませんか!?」
「知らん」
「もおおおおどこに落としちゃったのー!?」
わああああ! とルナは頭を抱える。だってアレがないとただのフードを被った少年である。
レイアスが顔を覗き込んできた。
「そんなに大事なわけ?」
「たぶん!」
「曖昧だな…」
「だって、死神として鎌を持ってることは知ってるけど、僕が鎌を持って人間の魂を狩ってた記憶がないもん…。覚えてるのは鎌がないって思ったことと、振り向いたらキミがいたことぐらい…」
「お前の記憶の最初は俺か。ほー、それは良いことを聞いた」
「??」
「お前、これからどうするんだ?」
「どうするって、鎌を探します。僕のあい…アイ…アイデンティティ!」
「どうやって?」
「へ?」
「簡単に言えば今のお前は顔アリの死神として生まれたばかりだろ? どうやって生きてくんだ?」
ルナは涙目になった。
「どうやって生きましょう…」
「ちなみにお前が死神という事は、イレイザーである俺が殺す義務がある」
「ヒイイイッ!」
「たとえ殺さなかったとしても、お前は魔法省が捕まえた顔アリの死神第一号だ。研究をする義務もある」
「…研究?」
レイアスが唇の端を引き上げ笑う。
「意識のあるまま体を八つ裂きにして研究される。痛かろうがなんだろうがお前に拒否権はねえだろうなあ」
「…!!」
「ちなみにこれからお前は地下にある留置場に一旦入れられる。明日の朝にならねえと研究員が来ねえんだよ」
「レイくん!!」
ルナがレイアスに抱きつくとレイアスは目を丸くした。
「僕は死にたくないです! ついでに言えば僕の鎌を探したいですー!」
頭上でレイアスが盛大に吹き出した。
「お前はおもしろい奴だなあ」
「だってさっき生まれたばかりだもん! 死ぬには早いよー!」
うわあああん! とボロボロ泣いていると、喉奥で笑いながらレイアスに頭を撫でられた。
「よしよし、可哀想な死神め」
「うわあああん!」
「そんなお前に選択肢をくれてやろう。その一、明日の朝まで待って研究体となる」
「いやだー!!」
「その二、俺と結婚する」
ルナの涙がピタリと止まった。
ケッコンって…あの結婚?
「魔法省は今な、大量の悪魔を雇って大量に発生した死神の殲滅に当たってんだ。悪魔は魔法省の魔法使いとして登録されて報酬が貰える。でもなあ、あんまりメリットが悪魔側にねえんだよ。だからバックレる悪魔も多くて、基本的に信用されてねえ。…ルナ、お前は知ってるか? 人間ってのは結婚するとなぜか社会的信用が上がる。それは悪魔も同じらしく、イレイザーの中には結婚している奴もいるが、そいつは人間からの信用がかなりでかい。どうせ仕事するなら少しでも上に登りてえからなあ…と言うわけで俺と結婚してくれ」
ルナの大きな目がぱちくりとし、先ほどの涙がぽろりと落ちたのを見てレイアスが笑った。
「はは、でっけー目だな。かわい」
そう言って目元を擦られてはなんだかくすぐったい。
「僕…生まれたばかりだけど大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねえの?」
「結婚しても僕は自分の鎌探してもいいですか?」
「いくらでも探しとけ」
「じゃあ結婚します!」
体を八つ裂きにして研究対象とされるよりはるかにマシだ! それに早く鎌を探したい!
悪魔がにっこり笑った。
「じゃあこれからよろしく、奥さん」
顔が近づいたかと思ったら唇にキスされた。
生まれたばかりだけれどもちゃんとこの行為の意味を知っているルナは、ボッ、と一瞬にして顔を真っ赤にした。
(鎌がない…!)
手にしていたはずの鎌がない。死神としての仕事道具である鎌がない!
(落とした!? うそっ! なんで!? どこに…うそでしょどうしよう!!)
「おい」
フードを深く被った少年が振り向くと、目の前に銃口があった。
見上げると背の高い男が眉間に皺を寄せながらこちらに拳銃を向けている。
「んだよ、いきなり慌てやがって…死ぬのが怖くなったか? 普段は人間の魂を狩りまくってる死神のくせに。最後にどんなツラしてるか見てやろう。ま、死神に顔はないがな」
そう言って銃口でフードを捲り上げた瞬間、男の目が丸くなる。
「お前…死神のくせに顔があるのか?」
しかし少年はそれどころじゃなかった。
自分に拳銃を向ける男に涙目で飛びついた。
「僕の鎌知りませんか!?」
「ほー、コレが死神ねえ」
「顔アリは初めて見たな…」
「最近は突然変異で顔アリの死神が生まれると話には聞いていたが」
「思ったよりかわいい顔してんなあ」
大きく真っ黒い羽根を持った屈強そうな男たちに囲まれた少年はオドオドする。
「なあ、これ俺が食っていいか? 物理的に」
「死神食ったら何かいいことあんのか?」
「魔力上がりそうじゃね? ただでさえ顔アリの死神なんかめずらしいってのに」
少年は顔を青くした。物理的に食べるって…パクって食べるってことだよね!?
ニマニマ笑う男たちに囲まれていると部屋のドアが開き「散った散った」と手をひらひらさせながら、先ほど助けを求めた男が入ってきた。
「レイアス、お前が捕まえたのか?」
「ああそうだ、だから何をするかの権限は全て俺にある。さあ帰れ帰れ」
屈強そうな男たちが部屋を出ていき、男と…レイアスと少年の二人が残った。
レイアスが少年を見る。
「お前、名前は?」
「名前…なまえ?」
「ないのか? じゃあとりあえず…今日は満月だからルナでどうだ」
「ルナ? 僕の名前ですか?」
少年は…ルナは何度も自分の名前を呟いて、にこっ、と笑った。
「ありがとうございます! あなたは…」
「レイアス」
「じゃあレイくんですね! ありがとうレイくん!」
「…お前すげー拍子抜けするなあ…。まあいい、座れ」
椅子を差し出され腰掛けると、目の前にレイアスも座ってきた。
「ここは魔法省死神対策本部が置かれている部屋だ。俺は地界から魔法省に派遣されてきた悪魔だ。ここでイレイザーとして働いている」
「あ、だから!」
ぽん、とルナは両手を叩いた。
「だから僕を殺そうとしたんだ!」
「直前まで追いかけっこしてたの覚えてねえのか?」
「…??」
全く覚えがなく首を傾ぐとレイアスも首を傾いだ。
「…顔アリの死神は突然変異で生まれると聞くが…もしかして俺と追いかけっこしてる間にただの死神が顔アリの死神として生まれ変わったのか?」
「さあ…」
「自分のことなのにわかんねえのかよ」
「わかんないです。気付いたら鎌がなくて…ハッ!」
ルナは勢いよく「鎌!!」と叫びながら立ち上がった。
「僕の鎌! 僕の鎌知りませんか!?」
「お前さっきもそんなこと言ってたなあ。んだよ、そんなに大事なのかよ」
「だってアレがないと僕が死神かどうかわかんないじゃないですか! あい、あいで…」
「アイデンティティ?」
「アイデンティティ! そう! 死神としてのアイデンティティが失われます! だから僕の鎌知りませんか!?」
「知らん」
「もおおおおどこに落としちゃったのー!?」
わああああ! とルナは頭を抱える。だってアレがないとただのフードを被った少年である。
レイアスが顔を覗き込んできた。
「そんなに大事なわけ?」
「たぶん!」
「曖昧だな…」
「だって、死神として鎌を持ってることは知ってるけど、僕が鎌を持って人間の魂を狩ってた記憶がないもん…。覚えてるのは鎌がないって思ったことと、振り向いたらキミがいたことぐらい…」
「お前の記憶の最初は俺か。ほー、それは良いことを聞いた」
「??」
「お前、これからどうするんだ?」
「どうするって、鎌を探します。僕のあい…アイ…アイデンティティ!」
「どうやって?」
「へ?」
「簡単に言えば今のお前は顔アリの死神として生まれたばかりだろ? どうやって生きてくんだ?」
ルナは涙目になった。
「どうやって生きましょう…」
「ちなみにお前が死神という事は、イレイザーである俺が殺す義務がある」
「ヒイイイッ!」
「たとえ殺さなかったとしても、お前は魔法省が捕まえた顔アリの死神第一号だ。研究をする義務もある」
「…研究?」
レイアスが唇の端を引き上げ笑う。
「意識のあるまま体を八つ裂きにして研究される。痛かろうがなんだろうがお前に拒否権はねえだろうなあ」
「…!!」
「ちなみにこれからお前は地下にある留置場に一旦入れられる。明日の朝にならねえと研究員が来ねえんだよ」
「レイくん!!」
ルナがレイアスに抱きつくとレイアスは目を丸くした。
「僕は死にたくないです! ついでに言えば僕の鎌を探したいですー!」
頭上でレイアスが盛大に吹き出した。
「お前はおもしろい奴だなあ」
「だってさっき生まれたばかりだもん! 死ぬには早いよー!」
うわあああん! とボロボロ泣いていると、喉奥で笑いながらレイアスに頭を撫でられた。
「よしよし、可哀想な死神め」
「うわあああん!」
「そんなお前に選択肢をくれてやろう。その一、明日の朝まで待って研究体となる」
「いやだー!!」
「その二、俺と結婚する」
ルナの涙がピタリと止まった。
ケッコンって…あの結婚?
「魔法省は今な、大量の悪魔を雇って大量に発生した死神の殲滅に当たってんだ。悪魔は魔法省の魔法使いとして登録されて報酬が貰える。でもなあ、あんまりメリットが悪魔側にねえんだよ。だからバックレる悪魔も多くて、基本的に信用されてねえ。…ルナ、お前は知ってるか? 人間ってのは結婚するとなぜか社会的信用が上がる。それは悪魔も同じらしく、イレイザーの中には結婚している奴もいるが、そいつは人間からの信用がかなりでかい。どうせ仕事するなら少しでも上に登りてえからなあ…と言うわけで俺と結婚してくれ」
ルナの大きな目がぱちくりとし、先ほどの涙がぽろりと落ちたのを見てレイアスが笑った。
「はは、でっけー目だな。かわい」
そう言って目元を擦られてはなんだかくすぐったい。
「僕…生まれたばかりだけど大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねえの?」
「結婚しても僕は自分の鎌探してもいいですか?」
「いくらでも探しとけ」
「じゃあ結婚します!」
体を八つ裂きにして研究対象とされるよりはるかにマシだ! それに早く鎌を探したい!
悪魔がにっこり笑った。
「じゃあこれからよろしく、奥さん」
顔が近づいたかと思ったら唇にキスされた。
生まれたばかりだけれどもちゃんとこの行為の意味を知っているルナは、ボッ、と一瞬にして顔を真っ赤にした。
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