弟との恋は前途多難ー柘榴編ー

ユーリ

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第4話「五年前」

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目尻が赤い。頬には涙が伝った跡がたくさん残っている。体は…噛み跡だらけであちこち血が滲んでいる。
快感か恐怖かはわからないが、何度も抱く間に柘榴は気絶していた。
(傷つけたいわけじゃないんだけどなあ…)
ただ独占したいだけだ。
ただ兄を独り占めしたいだけなのにうまくいかない。
そっと、頬に触れてみた。泣きすぎて熱い上に、まだ涙も乾いていない。
指についた涙をぺろりと舐め取った。
(まだあの男のこと考えてんのかな…)
五年前に失踪したと判断された男…ハッキリと柘榴は言わなかったが、当時の恋人のはずだ。
孔雀は五年前を思い出していた。
当時、小学校高学年だった孔雀は自分の感情に悩んでいた。
十歳離れた実の兄を好きになってしまい、兄弟でこれはダメだと毎日ぐるぐる悩んでいた。
しかしある事件をきっかけに、思いは吹っ切れた。
学校の帰り道、兄を見かけた。隣を歩く知らない男と共に路地裏に入って行くの見て思わず追いかけた。
そこで見てしまった。兄が他の男とキスをする場面を。
孔雀は学校へ行けなくなった。日々頭の中を回り続けるあの場面に、ただひたすら引きこもった。
そんな弟を心配して、何も知らない兄は必要以上に話しかけたり食事の用意をするなどして献身的に寄り添った。
そして気づいた。兄を独占したいと。
そこからの行動は早かった。スマホを操作し兄に成りすまして男を呼び出し、隙を見て男にコードを突き刺した。
孔雀は薄々気づいていた。自分が魔法を使えることに。しかも、摩訶不思議な魔法を。
自分の首に刺したからコードを通して電子機器を操作し、情報の波を泳いでハッキングしたり、得た情報を自分もしくは相手に送り込むことができる。また、相手の記憶や感情といったものも読み取れる。
孔雀は男に情報を送った。自分がどれほど兄を好きで愛しているかを。
そして同時に、電流と電波を送った。
男は目を回し泡を吹き、耳や鼻から血を流し、最終的に頭が吹っ飛んだ。びちゃびちゃと大量の血を浴びて、孔雀は満足してのんびり家へ帰った。
帰宅すると兄にとんでもなく心配されたが、タヌキが爆発したと言ったら信じてくれた。兄はバカなのかなと思いながらもかわいいと思った。
数日後だった。魔法省から男数人が話を聞きたいとやってきた。
拘束するつもりでもなさそうなので何をしたか全部話した。兄を取られたから殺したこと、魔法の使い方、どれほど自分が兄を好きか…魔法省の人間は面白そうに話を聞いてくれた。
あの男は失踪者で処理した、死体も片付けた。何も心配することはないと言われた。
話を持ちかけられた。情報をハッキングしたり魔法省が表立ってできないことをしてほしい、と。この魔法は自分にしか使えないらしいので活用したいと。
金の話も出た。それなりの報酬はくれるようだし、年齢が達したら魔法省で働くことができるとも。
孔雀は言った。両親がいなくなったら全てを了承すると。
三日後に両親が事故に遭って亡くなった。
孔雀は興奮した。これで兄が手に入るかもしれないと鼻血を出すほどに。
実家の肉屋を受け継いだものの、兄は経営のセンスが全くなくすぐに傾くのは目に見えていた。
そして最高の金の使い道を考え今に至る。
「兄さん…」
眠る柘榴をそっと抱き寄せた。
欲しいのに手に入らない。身も心もこんなに近くにあるはずなのにとんでもなく遠い。
ここにいるのに。
「好きだよ、兄さん…。大好き…」

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