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紫陽花の咲く頃に 転1-1
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吹く風が涼しくなった頃も、スミレは葵と行動を共にしていた。
別に何かするわけでもない、ただ弁当を一緒に食べたり放課後一緒に帰るぐらい。
たまに葵に暴走されるけれど、楽しいと思い始めていたそんな時だった。
「お前のユーレイ、片腕無くなってんぞ」
「へ?」
見えない背後につい振り向く。
「昨日まで確かにあった左腕がない。別に血まみれってわけじゃないから安心しろ」
どっちみち安心できない。
葵が首を傾いだ。
「なんでだ? 別のユーレイがもぎ取ったか?」
「べ、別のユーレイ!?」
「俺は基本的に悪さをする系のユーレイしか見えん。まあ…お前に憑いてるユーレイはこの一ヶ月、何かしたようには見えんけどな」
目線は相変わらずの背後だ。しかし眉間に皺が寄っているところから、葵の知識外らしい。
「手を出せ」
「はい…って! 何すんの!」
あー、と口を開けて噛もうとされ、即座に腕を引っ込めた。
「何って、片腕のないユーレイをお前に見せてやろうとだな」
「だったら別に噛む必要ないでしょ!」
「噛みたい。それだけだ」
「~!!」
「さっさと手を出せ。噛まれたくないんだったら舐めてやる」
「…唾液だったらキミがかじったパンの欠片とかを食べるでいいんじゃないの?」
「それじゃあ俺がつまらん。せっかく見せてやるんだからありがたいと思え」
「何もありがたくな…いった! 痛いって! だからいたい…んぐぅっ!」
手首を掴まれ勢いよくかじられる。血が出たんじゃないかという比で痛かった。
しかしその余韻に浸る暇もなく、今度はその噛まれた手首を口に突っ込まれる。
べったりと葵の唾液が付着している手首が舌に触れ、咄嗟に鼻で息ができず否応なしに嚥下するしかなかった。
「げほっ…苦し…っ」
「お前の苦しそうな顔がエロいと思ってる俺は大丈夫か?」
「え? なに…」
「なんでもない。後ろ、確認しろ」
「ひっ!」
ユーレイに確かにあったはずの左腕がない。元からではあるが頭部もない。
「あ、あわわわ…なんでこんなことに…。あ、消えた…」
効果はほんの一時的なもので、すぐにユーレイは見えなくなった。
「葵が何かしたわけじゃ…」
「俺は何もしていない。そもそも本当に俺に除霊の力があるかも知らん。…紫陽花」
ぽつりと、葵は口にした。
「紫陽花は梅雨前に亡くなったんだよな。それと何か関係があるんじゃ…」
「違う!」
咄嗟に声を荒げ葵を突き飛ばした。
体格差があるので転ぶことはなかったが、めずらしく葵の目が丸くなる。
「どうした」
スミレの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちるその瞳には怒りが混じっていた。
ーー伝えたはずなのに。
あーちゃんとの楽しい思い出をたくさん話したはずなのに…。
「なんであーちゃんを悪者にするの!? あーちゃんは、あーちゃんは僕のお姉さんで…絶対に悪いことはしない!」
スミレは踵を返して走った。
必死で足を動かしながら、なんで、なんで、と悔しさから唇を強く噛んでしまう。
ーー僕にユーレイが憑いたのはあーちゃんのせいだって言いたいの!? 絶対に違う!
口の中に血の味が広がる。
紫陽花を疑われたのも悔しいが、葵自身にそう誤解されたことも悔しかった。
想像以上に葵を信頼している。
想像以上に葵に期待している。
想像以上に…葵は自分を理解してくれていると勘違いしていた。
その時だ。
スミレの足が、ぐにゃりと曲がる。いや、正確には地面がひん曲がった。
世界の色が反転する。明るかったはずなのに一瞬にして暗くなった。
意識が薄れる瞬間、スミレを名を呼ぶ葵の大声と共に、猫の鳴き声が聞こえた気がした。
別に何かするわけでもない、ただ弁当を一緒に食べたり放課後一緒に帰るぐらい。
たまに葵に暴走されるけれど、楽しいと思い始めていたそんな時だった。
「お前のユーレイ、片腕無くなってんぞ」
「へ?」
見えない背後につい振り向く。
「昨日まで確かにあった左腕がない。別に血まみれってわけじゃないから安心しろ」
どっちみち安心できない。
葵が首を傾いだ。
「なんでだ? 別のユーレイがもぎ取ったか?」
「べ、別のユーレイ!?」
「俺は基本的に悪さをする系のユーレイしか見えん。まあ…お前に憑いてるユーレイはこの一ヶ月、何かしたようには見えんけどな」
目線は相変わらずの背後だ。しかし眉間に皺が寄っているところから、葵の知識外らしい。
「手を出せ」
「はい…って! 何すんの!」
あー、と口を開けて噛もうとされ、即座に腕を引っ込めた。
「何って、片腕のないユーレイをお前に見せてやろうとだな」
「だったら別に噛む必要ないでしょ!」
「噛みたい。それだけだ」
「~!!」
「さっさと手を出せ。噛まれたくないんだったら舐めてやる」
「…唾液だったらキミがかじったパンの欠片とかを食べるでいいんじゃないの?」
「それじゃあ俺がつまらん。せっかく見せてやるんだからありがたいと思え」
「何もありがたくな…いった! 痛いって! だからいたい…んぐぅっ!」
手首を掴まれ勢いよくかじられる。血が出たんじゃないかという比で痛かった。
しかしその余韻に浸る暇もなく、今度はその噛まれた手首を口に突っ込まれる。
べったりと葵の唾液が付着している手首が舌に触れ、咄嗟に鼻で息ができず否応なしに嚥下するしかなかった。
「げほっ…苦し…っ」
「お前の苦しそうな顔がエロいと思ってる俺は大丈夫か?」
「え? なに…」
「なんでもない。後ろ、確認しろ」
「ひっ!」
ユーレイに確かにあったはずの左腕がない。元からではあるが頭部もない。
「あ、あわわわ…なんでこんなことに…。あ、消えた…」
効果はほんの一時的なもので、すぐにユーレイは見えなくなった。
「葵が何かしたわけじゃ…」
「俺は何もしていない。そもそも本当に俺に除霊の力があるかも知らん。…紫陽花」
ぽつりと、葵は口にした。
「紫陽花は梅雨前に亡くなったんだよな。それと何か関係があるんじゃ…」
「違う!」
咄嗟に声を荒げ葵を突き飛ばした。
体格差があるので転ぶことはなかったが、めずらしく葵の目が丸くなる。
「どうした」
スミレの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちるその瞳には怒りが混じっていた。
ーー伝えたはずなのに。
あーちゃんとの楽しい思い出をたくさん話したはずなのに…。
「なんであーちゃんを悪者にするの!? あーちゃんは、あーちゃんは僕のお姉さんで…絶対に悪いことはしない!」
スミレは踵を返して走った。
必死で足を動かしながら、なんで、なんで、と悔しさから唇を強く噛んでしまう。
ーー僕にユーレイが憑いたのはあーちゃんのせいだって言いたいの!? 絶対に違う!
口の中に血の味が広がる。
紫陽花を疑われたのも悔しいが、葵自身にそう誤解されたことも悔しかった。
想像以上に葵を信頼している。
想像以上に葵に期待している。
想像以上に…葵は自分を理解してくれていると勘違いしていた。
その時だ。
スミレの足が、ぐにゃりと曲がる。いや、正確には地面がひん曲がった。
世界の色が反転する。明るかったはずなのに一瞬にして暗くなった。
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