僕の居場所と存在理由

ユーリ

文字の大きさ
1 / 3

前編

しおりを挟む
あの日生まれた純真無垢な存在。
お前のために失った右目なんかどうでもいい。お前がここにいてくれりゃそれで十分だ。
「クロガネくん」
高い声が、脳に甘く響く。
ハク、お前さえいりゃそれでいいんだよ。
欲しいのは謝罪じゃない。お前からの愛情だ。




オーブンから発せられる音に目を覚まし、クロガネがリビングへ向かうと甘い匂いが漂った。
「おはようクロガネくん!」
ミトンを両手に小柄な少年が…ハクが嬉しそうに笑いながらオーブンから何かを引っ張り出した。
「今日はなに作ったんだ?」
「ミルクティーのちぎりパン作ったんだよ!」
「相変わらず器用だなあ」
そう言いながら小さな体を後ろから抱きしめる。パンもいい匂いだが、ハクからもいい匂いが漂う。
首筋に顔を埋めるとさらに匂いが濃くなり、たまらず噛みついた。
「んっ…」
離すとくっきりと歯の跡がついた。
「なあ、そのパン今から食うのか?」
「これは…ちょっと冷ましてからアイシングするんだよ」
「アイシング? よくわかんねえけど食うまで時間あるんだろ? 先にお前を食わせろ」
「ぁ、ん…、昨日だって散々したじゃん…」
「昨日は昨日だろ」
その体を抱き上げ寝室へ戻る。ベッドへ下すとハクの両手にまだミトンが付けられていることに気付いて吹き出した。
「お前ずいぶんかわいいことになってんじゃねえか。なんだそれ」
「ミトン外す暇もなくキミが連れてきたんでしょ」
むう、と唇を尖らせる表情がかわいい。思わず奪うと「んんっ…」とくぐもった甘い声が聞こえた。
「愛してるよ、ハク」
ハクも笑う。けれども苦し紛れに笑っているように思えた。
クロガネは眉間に皺を寄せる。
ーー欲しいのは謝罪じゃない。愛情だ。




「はああ、あ、あ、あ……んっ! んん、ぁあ、んっ」
抱え上げられる腰にクロガネの大きな手のひらが食い込む。クロガネは力が強いから、きっとまた手の跡が残るだろう。
腰を打ちつけられながらハクは甘い声を上げる。
ずちゅずちゅと何度も打ち付けられ、水気を帯びた音が寝室に広がる。
クロガネが小さく呻き声を上げ、中で果てたことを知る。ハクは内側で熱いものが広がる感覚でぶるりと体を震わせた。
覆い被さられるクロガネの黒い髪の毛からぽたりと汗が垂れ、ハクの薄い胸に落ちた。
興味心から指先で拾い、ぺろりと舐める。
「しょっぱい…」
「汗だからな。こっちはどうだ?」
そう言ってなぜかハク自身が吐き出した精液を長い指先で掬い、口元に持ってくる。
ハクは眉間に皺を寄せた。
「…僕のじゃん」
「うまいけどなあ」
喉奥で笑いながらその指先をクロガネが舐めた。見せつけるように大きく長い舌が白い精液に絡みつく光景に、思わず下半身が反応してしまう。
すでに半勃ち状態のハク自身を見てクロガネがニヤリと笑うが何かを思い出したのか「あ」と呟いた。
「しまった。今日昼からお前の検査が入ってんだよ」
「え、今それ言うの?」
「今思い出したんだよ。許せ」
「えー…こんな、こんなドロドロの体で…。しかもクロガネくんの手の跡、僕のお腹にくっきり残ってる。さっきだって首に噛みつかれたから絶対跡残ってるし」
「服脱がねえ検査だけで終わらせるよう言っといてやるよ」
「…注射は、ありますか」
「血液検査があるな」
「……僕は注射が嫌いです。それもナシにしてください」
「むしろ血液検査がメインだろうが。しっかり血い取られてこい」
「えー…やだなあ…」
ブツブツ文句を言うと繋がったまま覆い被さられた。
「んぅっ」
繋がりが深くなる。前髪をかき上げられ、その大きな手のひらにハクは擦り寄った。
「検査終わったらお前の好きなもん食わせてやるよ。何がいい?」
「ホント!? ラーメン食べたいっ! ギョーザとチャーハンも一緒に食べたい! 全部大盛り!」
「お前のその小さい体のどこにそんだけのもんが入んだよ…」
さすさすとお腹を撫でられ、頬を膨らませた。
「今はキミのものでお腹いっぱいだよ…」
見上げた先のクロガネは目が点になっていた。え、どうしたの、とこちらもきょとんとすると吹き出された。
「ったくお前はかわいいなあ。検査までまだ時間あるからヤるぞ」
そう言われて再び腰を抱え上げられ奥まで穿たれ、ハクから声が上がる。
喘ぐ中でハクは見つめる。
クロガネの長めの前髪の奥…手を伸ばしてそっと、右目に触れた。
右眉から瞼を通り右頬へと大きく伸びる傷跡。瞼の下の右目はもう、見えない。
(…僕のせいだね)
唇を小さく動かした。ごめんね、と。
けれども最後までいつも言わせてくれない。必ずクロガネの唇によって遮られる。
そして必ずこう言う。
「欲しいのは謝罪じゃねえよ。お前からの愛情だ」
まっすぐな片目を向けられ、ハクは困ったように笑った。




「ヒイイッ! やっぱヤダ! 注射はイヤだーっ!」
「コラ逃げんな! 待て! 待てって言ってんだろうが! おい! ハク!!」
診察室をネコのように暴れ回ったハクを抱き込み、膝に乗せて後ろから羽交締め。
目で合図をし、素早くハクの左腕を掴んで注射針を刺させた。
「ヒイイイ…血が、僕の血が…っ」
「注射が嫌ならガン見すんじゃねえよ。むしろ好きだろそれ」
「ヒイイイ…」
すでに顔が真っ青だが大丈夫だろうかと思いながらも血液検査は無事(?)終わり、これから身長体重などまだ別の検査が続くもののクロガネは立ち上がる。
「クロガネくんどこ行くの?」
「他のヤツと話があるからお前はちゃんと検査受けろよ」
「…ラーメン」
「終わったら食わせてやるから頑張ってこい」
「うん!」
ぱあっ、とかわいい笑顔を見せるのでその額にキスをしてやり、部屋を出た。
部屋の外では主治医の西条(さいじょう)が立っていた。
「どうだ、ハクは。なんか問題あるか?」
「たぶん大丈夫だと思いたい。何しろ本物のキメラを診るのは初めてだからね、このデータが正しいのかも不明だし」
「まあな」
ドアを開けてちらりと部屋を覗き込むと、ハクは何をされているのかよくわからないという顔をしながら血圧検査を受けていた。その不思議そうな顔にクロガネは吹き出す。
「アイツおもしろい顔してんな」
「…ずいぶんとまあキメラに入れ込んでるね」
「かわいいだろアイツ。俺のだ」
ニヤリと笑って指を差した先のハクは、メリメリ音を立てる腕の血圧計に「ぎゃー!」と叫び、再びクロガネは吹き出した。
ーー数ヶ月前のことだった。
魔法省に勤める魔法使いのクロガネはたまたまその場に居合わせただけだった。
違法でキメラ製造を行っているとのことで調査が入ると聞き、興味心がてら現場に乗り込んだのだ。
タイミングよくキメラの製造現場を見ることができ、研究所で巨大な煙を撒き散らす魔法陣に座り込んでいたのがハクだった。
生まれたばかりなのだろう、何も身に纏わない状態で不思議そうな顔でそこにいた。
その少年の周りには、肉体こそないもののおびただしいほどの血が魔法陣に飛びかかっていた。
それを物影から見ていたクロガネは心を鷲掴みにされた。
純真無垢ーーまさにその言葉がぴったりな少年だった。
瞳が光り輝いている。
真っ白な肌と血だらけの床。
自分の出自を知らない純真無垢な存在と、キメラ製造の違法の魔法陣。
その対比がクロガネを惹きつける。
自分がどういう状況に置かれているか全くわかっていないそのキラキラと輝く存在にクロガネは目が離せなかった。
しかしその魔法陣の外側では白衣を着た研究者数人が何かを話し合い、どういう結論に達したのかわからないが、突然少年に向けてナイフを振り上げた。
咄嗟にクロガネは飛び出てハクの前に立っていた。その時右目を失った。
まさかそんな大怪我をするとは思ってもいなかったクロガネが激昂し、その場にいる研究者全員を殴り殺した。
だが、問題はここからだった。
魔法陣に座り込む少年の見た目があまりにも人間すぎて本当にキメラかどうかが疑われたのだ。
キメラは見つけ次第即刻処分、そんな決まりはあるが実行に移せないほど、目の前にいる少年は完璧なまでに人間の姿をしていた。
その場にいた魔法使い全員が処分を躊躇う。
この少年について聞こうにも、すでに研究者はあの世へ行ってしまった。
クロガネは自身の血や返り血だらけのジャケットを少年に羽織らせ、抱き上げた。
『コイツは俺が預かる』
抱き上げたその存在はあたたかった。
生きている…この少年の心臓は動き、あたたかさを維持しながら生きている。
途端に愛おしさが増したクロガネは笑いながら少年を抱きしめた。
ーーその場にいる魔法使い三名の秘密となった。
「で、僕も巻き込まれたと」
医師の西条を合わせて総勢四名の秘密である。
「しょうがねえだろ。ハクに何かあった時に診れるやつがいねえとな」
「まあそうだけどさあ…。とりあえず僕の部下には僕の知り合いの検査ってことにしてるからバレることはないと思うよ。あ、次の検査の前には最終的な結論が出るよ。恐らくあの子の製造元が」
「あんまり興味ねえけどとりあえず聞きに来てやるよ。終わったみたいだな。ハク! 帰るぞ!」
ドアを開けると、ぴょん、とクロガネの腕の中にハクが飛び込む。抱き上げてやるとハクの目は真っ赤だった。
「どしたその目は」
「アレ…」
そう言ってハクが指さしたのは血圧計。叫ぶために何回もやり直しになったのだろう、クロガネは吹き出す。
「はは、そうかそうか、かわいそうに。よーし、ラーメン食いに行くか!」
「行く!」
降ろしたハクの腰を抱いて部屋を出ようとしたところで西条に呼び止められる。
「んだよ」
「入れ込むのは別に構わないけどさ、どうするのそれ」
「どうするとは」
「…キメラだよ? わかってる?」
「一生かけて愛すんだよ」
ひらひらと手を振って、クロガネはハクに笑いかけながら部屋を出た。





「お前すげー腹膨れてんな…。つかあの量食ってこれで済むってのもどうなんだ…?」
「お腹いっぱーい。クロガネくん、僕は抱っこを所望します。お腹いっぱいで歩けないのです」
「偉そうに。ったく、しょうがねえなあ」
「ふふ、クロガネくんの顔が近い。…目、痛い?」
「もう痛くねえよ」
「……僕を助けたこと後悔してない?」
「なんでだ?」
「だって僕を助けなかったら右目は…」
「右目ひとつでお前が手に入ったんなら安いだろ。安心しろ、最後までかわいがって飼ってやる」
「えー、その言い方じゃあ僕は犬とか猫になっちゃうよ」
「違うのか?」
「違いますーっ!」
「ははっ、そうやってお前は笑っときゃいいんだよ。俺の心配なんかすんじゃねえ。笑っとけ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

竜神様の番

田舎
BL
いつかX内で呟いた、 『えーん、えーん…💦 竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…! 後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』 という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。 「番」とは何かも知らされず、 選択肢すら与えられなかった人間リオと、 大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。 ちゃんとハッピーエンドです。

処理中です...