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ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
「俺とビジネス婚しろ」
そう言って婚姻届を眼前に出され、高橋湊(たかはし・みなと)は驚いた。
「へ? 僕とせいちゃんが?」
「最近はウソのスクープやデタラメな記事が多すぎて面倒だ。それらを一掃するには結婚するのが一番だ」
「はあ」
食べていたシュークリームを飲み込む。自画自賛だが今日もいい出来だ。
「一般人と結婚となれば世間も少しは黙っとるだろ」
「はあ」
「あとはお前がサインするだけだ」
「あ、もう全部書いてるのね。別にいいけど、せいちゃんにとってメリットあるけど僕にはあるの?」
そう言うと結城星一郎(ゆうき・せいいちろう)はニヤリと笑った。
「ワーキングプアのお前を救ってやろう。その一、実家から出れる」
「やったー!」
「その二、お前の勤める魔法研究所に毎月の寄付を約束してやる」
「ホント!? いいの!? ちなみに寄付ってどれくらい…」
キラキラと目を輝かせると「耳貸せ」というので話を聞くと、その金額に目が飛び出そうになった。
「そんなに!? いいのせいちゃん!」
「寄付っつーのは芸能人にとってのメリットも高い。その三。既婚者っつー肩書が得られる」
「僕は別にそれいらない」
「……。ま、まあいい。で? どうする? 俺と結婚するか?」
「するー! これからよろしくせいちゃん! ところでせいちゃんって何のお仕事してるっけ?」
不思議そうに首を傾ぐと星一郎の額に青筋が浮かんだ。
「てめえ…幼馴染の職業ぐらい覚えとけ! モデル兼俳優だ!」
「ええー! 高橋くん結婚したの!? おめでとーっ!」
翌日、職場である魔法研究所に出勤して報告すると、所長が嬉しそうにそう言ってくれた。
「えっと、なので苗字が結城に変わりました」
「結城くんだね、今日から間違えないようにしないと!」
「おめでと、高橋…じゃない、結城」
「ありがとう、田所(たどころ)くん」
同僚である田所にもそう言われ、湊は笑った。
ーーここは湊が勤める魔法研究所。主に魔法省からの依頼物を処理するのが仕事だった。
「ところで相手の人ってどんな子? 男の子? 女の子?」
「えーっと、あ」
テレビが香水のCMを流し始めたのでちょうどいいや、と湊はテレビを指差した。
「テレビがどうかした? あ、結城星一郎だ。今度は高級ブランドの香水かー。同じ男としてムカつくぐらいイケメンだよねえ。なんであんなにシュッとしてんの? ホントに同じ人間? 二次元じゃないの?」
「ドラマにも出てませんでした? 俺の友達の女子がめっちゃ食いついて見てますよ。顔だけなのに何がいいんだか」
「この人です、僕の旦那さん。せいちゃん」
「…は?」
「この人と昨日結婚しました。せいちゃんってCMやってたんだあ。あはは、このブランドも香水も全く知らないや」
ていうかホントにモデル兼俳優なんだなー、と流れるCMを見ながらしみじみしていると、所長に肩を掴まれた。
「結城くん結城くん、現実に戻っておいで。あちらさんは芸能人だよ」
「あ、やっぱり芸能人なんだ。僕そこらへん疎くて」
「結城くん結城くん、現実に戻っておいで。そりゃ色んなファンがいるさ。自分と結婚する夢を見るファンだっていて当然だよ」
どうやって証明すればいいのかわからなくて、そうだ、とスマホを取り出した。
「せいちゃんと撮ったやついっぱいあるんで、見ます?」
そう言ってフォルダを見せてスクロールすると、自分と星一郎のツーショットがズラズラと並んでいるのを見た所長がごくりと唾を飲み込んだ。
「い、いや、今ってAIとかあるし、こういうツーショットってどうにでも作れるよね」
「んー、じゃこれはどうでしょう」
そう言って録画したものを見せた。
そこには不機嫌そうにマカロンを食べる星一郎が映っていた。
『わー、せいちゃん久しぶりに会うねー』
『んだよ、勝手に撮ってんじゃねえよ。金取るぞ』
『相変わらず口悪いなあ。せいちゃんが僕の作ったマカロン食べてまーす。どう? おいし? 自信作です!』
『外で食べるものをわざわざ作んじゃねえよ。うまいのがまたムカつく。つか俺ばっか撮らずお前も撮られろ。こっち来い』
ぎゅむぎゅむと頬を寄せ合うふたりをスマホが映し出す。
『ほれ、口開けろ』
『僕が作ったんだけど』
『いいから食え。うまいぞ』
『だから僕が作ったんだってば。あー! ちょっ! せいちゃん僕のスマホ投げないでー!』
『ははっ、いいザマ』
スマホが天井を映し出されたところで終わった。
狭い研究所に沈黙が走る。
「せいちゃんがスマホ投げたせいでケースのここんところ凹みました。新しいのせいちゃんに請求してやる」
「…マジでこの人と結婚したの?」
「はい」
「え、あの、俳優さんだよねこの人。確かちっちゃい頃からモデルさんやってて…」
「そこらへん興味ないんで僕はよく知りませんけど、なんかそんな感じです」
「え、あの、なんで知り合いなの…?」
「幼馴染です。お母さんたちが友達同士で」
「え、あの、家帰ったらこの顔いるの?」
「昨日から一緒に住んでるんで、今日帰ったらこの顔いると思います」
「…そういやキミ、苗字って結城くんになったんだっけ?」
「あ、はい。せいちゃんって本名で活動してるみたいなんで」
「……マジで芸能人と結婚したんだね」
「せいちゃんってそんなに芸能人なんですか?」
興味ないからわからない、と首を傾ぐと、所長に掴まれた肩がメリメリと音を立てて悲鳴を上げた。
「所長、痛いです」
「キミなんで知らないの? キミなんで知らないの!? 結城星一郎だよ!? 検索してごらんよ!」
「エゴサはやめとけとせいちゃんに言われてるんで」
「いやいやいや旦那でしょ!? 自分の旦那でしょ!? なんでそういうとこわっかんないかなあ今時の子なのに!」
「所長、コイツの肩が死にそうです」
田所が止めに入った。
「あ、所長。せいちゃんがウチに寄付するって言ってました」
「それを早く言って確認するからー!」
そう言って所長はパソコンへと齧り付いた。
「大丈夫か、たかは…結城」
「高橋のままでいいよ。せいちゃんってそんなに人気者だったんだねえ」
「人気者っつーレベルじゃないけどな。ていうかコレいいのか? 芸能人のオフって感じだけど。つかテレビのときと全然違う…」
「せいちゃんから許可貰ってる。そういうとこ厳しいからせいちゃん」
「…ホントに結婚したんだな」
ビジネス婚だけどね。という言葉は飲み込んだ。
「高橋、お前ホントに幸せか?」
「んー、昨日結婚したばっかりだからねえ。まだわかんない」
「まあそうだけども。なんつーか、さっきの見てたらお前大事にされてなくね?」
「そう? せいちゃん昔からあんな感じだけど」
「俺の方が大事にできる」
「?? 何を?」
「……」
田所が何かを言いかけたが「寄付金すごいことになってるー!」とはしゃぐ所長の声に遮られて聞こえなかった。
夜ごはんも作り終えソファーに座っていると、玄関が開いた音がしたので湊はそちらへ向かった。
「あ、おかえりせいちゃん」
キャップにメガネ、マスクという出立ちの星一郎がマスクを外して嫌そうな顔をした。
「んだよそれ」
「へ?」
「違うだろ。笑顔で俺んとこ飛び込んで来いや!」
「へ?」
「ビジネス婚ってのは形から入んだよ。いいか、俺たちは新婚だ。旦那の帰りを待ちわびる嫁を想像してみろ」
もやもやもや~、と湊の頭に想像が浮かぶ。
新婚、嫁、旦那…しかしイマイチ想像し切れないので首を傾いでいると星一郎が叫んだ。
「笑顔で抱きついて来いってことだ! 湊! さあ来い!」
星一郎が両腕を広げるので、湊が数歩後ろへ下がり助走をつけそして走った。
「おかえりなさいせいちゃーんっ!」
広いその胸に飛び込むと抱きしめられた。
「そうだよコレだよコレ! 俺はこれがしたかったんだよ…! あ~、み~な~と~」
「せいちゃんメガネ壊れるよ」
ぐりぐりと頬寄せられるのでそう言うとキャップもメガネも外してさらに抱きしめられた。
「湊、俺は疲れた。俺を癒やせ」
「はいはい、わかったわかった」
「おざなりに言うんじゃねえよ。ったく俺の嫁は生意気だな」
「んもー、僕の旦那さんは面倒だなあ。ふふふ、そんな顔しないの。ほらおウチ入ろ?」
「気力がねえ。俺を癒せ」
「はいはい。いい子いい子、せいちゃんはいい子。えらいね、がんばってるね、せいちゃんはいい子いい子」
そう言って頭を撫でてやる。
小さい頃からのふたりの定番であるいい子いい子。仕事で疲れた星一郎にはコレがよく効く。
事実、顔を上げた星一郎は満足そうである。
「メシは?」
「作ってるよ。今日はねえ、つくねをレンコンで挟んで甘辛く焼いたのとー、にんじんのツナ和え、それと野菜たっぷりのお味噌汁!」
「お、栄養満点。やるじゃん」
「でしょー!」
おしくらまんじゅうのようにぎゅむぎゅむと押し合いながらリビングへ行き、食卓へ並んで「いただきます!」。
「うっま! お前料理だけはうまいよな」
「ずっと実家暮らしだからねぇ。お給料低いから家にそんなに入れられないからせめて料理ぐらいしないと…」
「ちなみに給料いくらだ。言ってみろ」
ゴニョゴニョと告げると、「は?」と星一郎の眉間に皺が寄る。
「そこら辺のバイトより低いじゃねえか」
「うぅ…それ言わないで…」
「やりがい搾取とは言うが、それじゃあワーキングプアは抜け出せねえよ」
「仰る通り…。でも今こんないいとこ住めて、僕もビジネス婚に感謝だよ」
セキュリティのしっかりしたマンションなんて生まれて初めて足を踏み入れた。コンシェルジュという人がいたけど、あれは一体何をする人なんだろう?
「あ! 寄付もありがと! 所長が泣いて喜んでたよ」
「お前いい加減辞めろよその研究所。俺が養う」
「ビジネス婚だしさすがにそこまで面倒見てもらうのは…」
「定時には上がれよ。絶対にメシ作れよ」
「そこはがんばる!」
食べたものを食洗機に突っ込んで風呂の湯を沸かす。
「うーん便利…食洗機ってすごいなあ…。お掃除ロボットはいるしドラム式洗濯機だし部屋広いし…。もしかしてせいちゃんってめちゃくちゃ稼いでる?」
「なんだその稼いでる基準は。風呂沸いたから一緒に入んぞ」
「へ?」
「いいか湊。新婚っつーのはふたりで風呂に入るもんだ。さっきも言ったけどな、ビジネス婚ってのは形から入るんだ」
「なるほど!」
ぽん、と古典的に手を叩いてふたりで入った。
「ホントお風呂も広ーい。せいちゃんが足伸ばしても余裕だあ」
「お前溺れんなよ。背え低いから足滑らせたら溺れるぞ。しょうがねえから捕まえといてやるよ」
そう言ってふたりで浸かる湯船の中、ガッシリと腰をホールドされた。
「せいちゃんっていつの間にか大きくなったよね」
「お前はチビのままだな」
「せいちゃんは…そういえば所長がせいちゃんのことイケメンって言ってた。どれどれ」
向き合うようにして座り、改めてその顔を見た。
「イケメンって言っても昔からこの顔見てるしなー……え?」
明るい髪の毛から覗く瞳は鋭く、その瞳は髪と同じ色で光を吸収してはキラキラ光り輝いている。
鼻筋は通っており何より高い。唇は薄く、けれども色っぽい。肌なんてアイドル顔負けの透明感だ。
続く首は太めで喉仏が出ており男らしさがある。その下の胸筋から腹はいわゆる細マッチョ。服に隠れて見えなかったが、肩にも筋肉がついており頼もしい。
足は…長い、長すぎる。自分の倍はあるのではと思わず疑った。
湊の顔が徐々に真っ赤に染まる。
「え…せいちゃんって、え、せいちゃんって…こ、こここんなにイケメンだった…?」
「遅えよ気付くの」
「ひい、え、あの、ああああの…せ、せせせいちゃんってぼ、ぼぼぼ僕の…」
「お前の旦那」
「ひいいい!」
あまりにも近い存在すぎて気付かなかった。この幼馴染はイケメンすぎる!!
ハッ、と湊が気付く。こんなイケメンと一緒にお風呂に入ってる!
「ぎゃあああ! 僕もう出る! お風呂出るっ!」
「待て」
「なにーっ!?」
ぐいっと腕を引っ張られて足が滑り、バシャンとお湯が弾ける中で星一郎に受け止められた。
「ったく…さっきも言っただろ、溺れるなと」
「ご、ごめん…」
星一郎の腕の中、湊の心臓がばっくんばっくんと大きな音を立てる。
「か、からだ、当たってる…! 肌、はだっ!」
「そりゃ風呂だから全裸に決まってんだろ」
「わか、わかってますとも…!」
「んだよ急に意識しやがって。つか、ようやく意識させられた。なあ湊。ホントはビジスネ婚じゃないって言ったらどうする?」
「へ?」
「俺がお前のこと好きだから適当に言って結婚させた、って言ったらどうする?」
湊の目が点になる。
「へ…?」
「だから、お前のことが好きなんだよ。ビジネス婚でもなんでもいい。とにかくお前を繋いでおきたかった」
「つ、つ、つ…?」
「誰にも渡したくねーってこと。ーー好きだよ、湊」
唇に柔らかい衝撃。
キスされた、と思ったときにはすでに星一郎は風呂から出ていた。
ひとり湯船に取り残された湊は、キスされた唇をそっと撫でる。
「あ、ファーストキス…」
風呂の扉が開いて星一郎が顔を覗かせた。
「ちなみにお前のファーストキスはお前が五歳のときに俺が奪っとる」
「そうなの!?」
ニヤリと笑われ「のぼせんなよ」と扉はまた閉められた。
湊は真っ赤な顔を両手で押さえた。
「ひ、ひいいいい…」
そしてしっかりのぼせた。
(あの顔が僕の旦那さんかあ…)
職場にてパソコンで朝のメールチェックをしながらぼんやり思い出す。
(ていうかせいちゃんってイケメンなんだなぁ…)
長らく幼馴染という枠を超えなかったのでイケメンという認識が全くなかった。しかしよく見るとあれは綺麗な顔だ。俳優やモデルにふさわしそうな姿である。
ぼけーっとしているとスマホにメッセージが入った。
『今日遅くなる。先寝とけ。夜は軽いものを作れ』
星一郎だった。職業柄、夜遅くなるとあまり食べない方がいいのだろう。
「なに作ろうかなぁ。サラダ…なんかこう…色とりどり? のサラダかなぁ…」
「なにブツブツ言ってんだ」
「あ、田所くん。今日の夜ごはんは軽いものにしたいんだけど、軽いものってなんだと思う?」
「…サラダ?」
「やっぱサラダだよねぇ。サラダ、サラダ…アボカド? …アボガド? 水菜? あ、ゆで卵は入れたい…」
「たかは…結城はしっかり奥さんするんだな」
「高橋でいいよー」
「高橋はしっかり奥さんするんだな。…いいなあ。俺も高橋に奥さんされたかった」
「へ?」
「返却されたらいつでも俺が貰うから」
「はあどうも」
湊は首を傾ぐ。返却ってなんだろう。借りた本でも返し忘れてるのかな。
よくわからないままメールチェックをしていると、不穏なメールが届いていた。
「所長…魔法省からのアレ、納期短くなりました…」
「えー!?」
真後ろで作業をしていた所長が目を丸くしている。
「いつ!? いつ!?」
「…明日」
「いやいや無理無理ムリムリ! それ絶対嫌がらせ!」
「元はと言えばあんたが魔法省と喧嘩して帰ってくるからだろ」
「田所くん冷たいっ。ていうかそれもう何年も前の話だよ!? キミたちが入ってくる前の話だよ!?」
「あ、僕定時で上がりますんで」
「俺も見たい配信あるんで定時で上がります」
「今時の若い子ったらー!!」
シクシク泣き始めたので湊はため息を吐いた。
「なんかもう疲れた…。ねえ田所くん、僕アレが見たい」
「はいはい」
そう言うと田所がデスクに手をかざした。途端に、ふわりとボールペンやメモ帳といった筆記用具が浮かんだ。
「いいなあ魔法使えて。僕も使いたかった」
「て言っても小さいもの浮かべるぐらいだ。これじゃあ魔法使いとして魔法省の登録はできねえ」
「それでもいいなー。せいちゃんも薄っすら魔法使えるし」
「ふーん。…俺とどっちがすごい?」
「たぶん田所くん」
「じゃあ俺のほうが高橋を笑顔にできるな」
そう言う田所の方がニコニコの笑顔である。意味もよくわからないが湊も笑った。
すると、ボフン、と背後で小さな爆発音が聞こえた。
「…所長のアレも魔法なのかな」
「単に機械類との相性が悪いだけだろ。今月入って何回目だ…直すこっちの身にもなれ…」
「あー! 壊れたー! 誰か直してー!!」
「所長! とりあえず手離してください! そこ触っちゃダメなとこです!」
「バカ所長が!」
ーーなんやかんやで昼を迎え、げっそりした顔で「気分転換してきます…」と湊は外へ出た。
「だめだ…絶対納期間に合わない…」
しかし残業はしたくない。ただでさえ薄給なのに残業なんかしたら恐ろしいことになる。
「あ、せいちゃん」
本屋のショーウインドウに飾られる雑誌の表紙に星一郎が載っていた。湊は本屋へ寄る。
(へー、せいちゃんだー。何の雑誌だろ。僕とは縁遠そうだなあ)
雑誌なんか買ったことがない。オシャレ雑誌なんて尚更。
絶対に読まないのはわかっているがさてどうしようと立ち尽くしていると、若い女性が次から次へとその雑誌を手に取っていくことに謎の危機感を覚え一冊手にした。
宣言通り定時で上がった湊はマンションへ帰り家事を済ませてからその雑誌を読んだ。内側にも星一郎は載っている。
「…? 結局何の雑誌なんだろ…?」
読んでも意味がわからなかった。とりあえずテーブルに置く。
オシャレ雑誌は僕には早かったとソファーで横になるといつの間にか眠っていたらしい、玄関ドアが開く音で目が覚めた。
素早く玄関へ向かうと星一郎が靴を脱ぎ終わった後だった。湊は叫んだ。
「せいちゃんストップ!」
「うおっ」
ビクッとする星一郎向かって湊は勢いよくジャンプした。
「おっかえりせいちゃーん!」
見事星一郎がキャッチ。そのまま抱っこされた。
「び、びっくりした…」
「?? だってせいちゃんこういう歓迎されたかったんでしょ?」
「なんか違う気がせんでもないが…まあいい。合格点をやろう。っあー癒される…! 湊の匂い! もっと嗅がせろ!」
「せいちゃんのほうがいい匂いだけど。まあ人の感性ってそれぞれだよね」
「そういうことだ。まだ起きてたのか? 先寝てていいっつったろ」
「ソファーで寝てた。お風呂入っておい……ぎゃー! イケメン!!」
星一郎の顔がイケメンだということを思い出し、さらには昨日のことも思い出してしまった。
(そうだよ! この人僕のこと…!)
「ようやく思い出したってか?」
星一郎がニヤニヤ笑う。
「好きだぜー、湊。お前と結婚できてすげー幸せ」
「び、び、ビジネス婚です…!」
「いいんだよお前と結婚できりゃなんでも。そのうち俺を好きになってもらうからな。その気でいろ」
「そ、そそそその気ってどんなキ…!」
「こんなキ」
湊の小柄な体を抱っこされたまま、ちゅ、と頬にキスされた。
ーー風呂から上がった星一郎がサラダを食べていると、テーブルに置かれた雑誌を見て目を丸くした。
「お前…とうとう俺に興味持ったのか!? 今までこんなん買ったことねえだろ」
「あー…なんかみんな買っていくから買わなきゃいけないのかなーっていう謎の危機感…」
「お前は流されるタイプだからなあ。で、表紙の俺はどうだった?」
「雑誌」
「…お前はそういうやつだよ」
ガックリと肩を落とし「ストレッチして寝る」というので湊も一緒に寝室へ。
「わー! せいちゃん体柔らかーい! すごーい!」
「…お前のそれはなんだ」
「前屈! これが僕の精一杯!」
「手伝ってやろう。ほーれほれほれ」
「ぎゃー! やめて! やめてっ! 僕の体がああああ!」
星一郎に大笑いされながらストレッチを終え、いざベッドへ入るもののなぜか向き合って微笑まれた。
「なんですか…」
イケメンの微笑みは破壊力がすごすぎる。心臓が高鳴りすぎてすでに痛い。
雑誌の表紙とは違う微笑み方ーー湊にとってはお馴染みの表情だけれど、よくわからない謎の優越感に包まれた。
「お前とこうやって過ごす時間は楽しいと思ってなあ」
「それはよかったですネ」
「ああ、すげーいい。幸せだ。俺は今幸せの絶頂期にいる。お前がいるから明日の俺も幸せだ」
「…それはわかんないよ? 僕は明日もしかしたら…なんかこう…なんか、なんか悪いことしちゃうかもよ?」
「捻ってでも例えを出せよ」
吹き出され湊が唇を尖らせると、その唇をむにむにと触られる。
「むー」
「なあ湊。お前はいつ頃俺を好きになるんだ?」
「え、何その時限爆弾みたいな発言。ていうか僕がせいちゃん好きになるの前提で話してるじゃん…」
「は? 違うのか?」
「えー…なにその自信…」
星一郎に微笑まれ思わず湊は目線を逸らす。
頬を撫でられた。
「お前は俺の魔法使いだな」
「へ?」
「いつも俺を幸せにしてくれる」
「…僕は魔法使えませんよ。でもそう言われるとちょっと嬉しい。僕は魔法使えないから」
えへへ、と笑うと唇に優しいキスを落とされた。
「おやすみ、湊。お前も幸せだと嬉しい」
ぎゅ、と抱きしめられ、これは眠れそうにない…、と心臓をドキドキさせながら頑張って眠ろうと目を閉じた。
スマホが着信を告げた。星一郎からだった。
あらめずらしいと思いながら通話に出る。
「もしもしせいちゃん?」
『ああ湊。電話もたまにはいいもんだな。お前の声がかわいい』
「僕今仕事中なんだけどー。ご用件をお願いしますー」
『お前今日も定時だろ? 俺も早めに終われそうだから車で迎えに行く。そのままドライブしよう』
「へ? いいの? ていうか僕と一緒にいて大丈夫?」
『結婚したことはもう発表してんだから、嫁さんとデートぐらいするだろ』
「なるほど」
公にするとそういうメリットもあるのか、と思わず頷いた。
しばらく話をしてから通話を切り「所長」と湊は振り返った。
「今日せいちゃんが迎えに来ます。所長に挨拶したいって言ってました」
所長の手にしていたマグカップが落ち、それを見越していたのだろう田所が器用にキャッチする。
「…え? 挨拶?」
「挨拶」
「誰に?」
「所長に」
「……みんなで掃除しよう! こんな、こんな埃だらけのところに芸能人さん呼べないっ!」
かくして大掃除大会になった。
定時を少し過ぎた頃、微笑みながら星一郎がやってきた。
「初めまして。結城星一郎です。いつも妻がお世話になっております」
つまらないものですが、と百貨店の有名菓子の袋を手渡すと、所長は緊張した面持ちで挨拶をし、一生懸命掃除をして綺麗にした研究所へ通した。
「あ、コレもしかしてクッキーのおいしいヤツ? サクサクってしてフワってしてるヤツ」
「湊コレ好きだろ? 家用にもあるから帰ったら一緒に食べよう」
「わーい、やった」
綺麗に片付けた、普段あり得ないほどの荷物を置いて底面が見えないテーブルの上に所長が熱いお茶を置くも、
「粗茶でござる」
「…所長、そんなに緊張しなくても」
「キミにとっては旦那さんだけどこっちにとっては芸能人さんだからね! 緊張するさ!」
「すみません、突然来てしまって。ご迷惑でしたよね」
「まままままさか! こここ心行くまでどうぞ…!」
星一郎が渡した菓子を開けた田所が無遠慮にドンと置く。
「田所くんっ。もっと丁寧にっ」
「すんませーん」
「わーいいただきまーす。ん! やっぱコレおいしい!」
「湊、お前が食べてどうするんだ? 食べるんだったらゆっくり食べろ。口の周りすごいことになってる」
そう言って湊の口の周りをくすくす笑いながら星一郎の手で拭われる。
その様子を所長がポカンと口を開けて見ていた。
「すご…指先までめっちゃ綺麗…。ていうかキミってホントにあの結城星一郎と結婚したんだね…」
トイレのため席を外して戻ると、余裕の微笑みを浮かべる星一郎とド緊張顔の所長との対談が面白くてしばらく遠くから眺めてしまった。
「高橋。食うか?」
同じように眺めていた田所からおやつを貰った。
「あ、おせんべえだ。ありがとう田所くん。んふ、おいしい」
「所長めちゃくちゃ緊張してんな」
「なんで緊張してんだろ。不思議~」
「前にお前に見せてもらった動画あるだろ? マカロンのアレ。ホントに同一人物か?」
「せいちゃんよそ行きの顔してるからね今」
「ふーん」
じっと田所に見つめられる。
「二重人格っぽいけど大丈夫かアレで」
「あはは、せいちゃんアレ呼ばわりされてる」
「俺は真面目に聞いてんだよ。ホントにいいのか? 引き返すなら今のうちだろ」
引き返すも何も、お互いにメリットありのビジネス婚だからなあ。
「別に今はバツがひとつつくぐらい誰にもである。俺は気にしない」
「田所くん優しいねえ」
「…高橋」
バリバリ音を立てて煎餅を飲み込むと、不意に田所から手が伸びてきた。
なんだろうと不思議そうに首を傾いでいると、途端にぐいっと引っ張られて見上げると星一郎の腕の中。
「湊、そろそろ帰ろうか」
「あ、せいちゃん」
「お前また何か食っただろ。口の周りすげーことになってる」
くすくす笑われながらまた口元を拭われる。星一郎が顔を上げて、田所へ微笑んだ。
「妻がどうも」
「…どーも」
「いつもお世話してもらってると妻に聞いております。もう結婚した身ですので、これからは遠慮してくださると」
「高橋は鈍臭いんでねえ、ついつい世話したくなるんスよ」
「え、僕そんなに鈍臭い!? ひどっ」
「さ、湊。帰ろうか」
相変わらずのよそ行き顔だなあ、なんて思いながら職場を出て星一郎の運転する助手席に乗った。
「せいちゃん運転するんだねー」
「今まで記者が面倒であまり出来んかったが、これからはたくさんお前を乗せてやる。行きたいとこあったら遠慮なく言えよ」
「わーいっ。ところでどこ行くの?」
「とりあえず海の方でも行ってみるか。ところで湊」
湊は顔を上げて運転席に座る星一郎を見る。
流れる風景と相まって、何かのCMのように思えた。
やっぱり絵になるなあと思わず見惚れてしまう。
「あの田所ってヤツはなんだ」
「僕の同期」
「…お前気づいてんのか? アイツ…」
「もちろん気づいてるよ。僕が食べたあのおせんべえ、きっと賞味期限切れてる」
「は?」
「所長はおいしいものは隠すクセがあるからね。定期的にあちこち探すんだけど、たまに賞味期限切れを迎えてるんだ。でもまあ大丈夫だよね!」
「…お前が鈍臭いヤツでよかったと、俺は生まれて初めて思った」
頭を撫でられ「僕は鈍臭くないよっ」と抗議するも星一郎に笑われただけで終わった。
それからコーヒーを買って海辺を歩いたり、束の間の時間を楽しんだ。
そして後日。
「おーおー、平和な記事だな。見てみろ湊」
そう言って星一郎にスマホを見せられた。
「んんー? 『モデルで俳優の結城星一郎、結婚発表後初のスクープ。奥さんと手繋ぎほのぼの海デート!』……ん? これ、もしかして僕?」
記事の中の写真は手を繋ぐふたりが写っていて、ひとりは星一郎、もうひとりは顔にモザイクがかけられているが明らかに湊だった。
「これ僕? これ僕!?」
「どう見てもお前だろ。足短けえな。タヌキみたいでかわいい」
「タヌキっ? 僕タヌキなの!?」
「お前は顔もタヌキみたいなもんだろ。足も短けえし。いいじゃんタヌキ。可愛くて俺好きだけど?」
「た、たぬ…っ」
「もちろんお前も好きだぜ湊。足短くてもかわいいよ」
「足短い短い言わないでっ」
「お前と結婚して一ヶ月かあ」
しみじみとする星一郎に膝枕をして、その頭を湊が撫でてやる。
「この一ヶ月どうでしたか、奥さん」
「んー、結城くん、って所長に呼ばれても僕のことだとは一瞬わかんない。まだ慣れないなあ。せいちゃんはどうですか?」
「家に帰ったらお前がいるのがすげー幸せ」
「…ふーん」
「こうやって膝枕してくれるし、帰ったら飛んで抱きついてくれるし」
「…ビジネス婚は形から入る、ってせいちゃんが言ったんですよー」
「はは、それもそうだな。で? 俺のことは好きになった?」
湊が唇を尖らせて明後日の方向を見る。
「お、これはだいぶ俺に傾いてますなあ。よしよし。その調子だ湊」
伸びた手で頬を触られた。
「ん…。せいちゃんはさあ、僕でいいの?」
「何が?」
「せいちゃんって一応芸能人でしょ? その…僕で釣り合うのかなあ、とか…」
「お前がいいんだよ。まあもうちょっと俺に興味持てとは思うが」
「だってテレビとかドラマとか興味ないし」
「じゃあしょうがねえか」
ケラケラ笑いながら起き上がり、唇にキスをされる。
「ん…ん……」
「好きだよ、湊。さっさと俺のこと好きになれ」
「…それはどうかなあ」
「強がりはいつまで持つかなあ? 根気比べといくか?」
「なんか負けそう」
「負けとけ負けとけ」
笑いながらキスをされて湊は目を閉じた。
「あれ? 所長は?」
ふと所長がいないことに気付いた。
「今日早く帰るとか言ってたっけ」
「魔法省に行くんだとさ。また喧嘩して帰ってこなきゃいいが」
「あー、所長って意外と喧嘩っ早いみたいだしねぇ」
そう言ってスマホの待ち受けで時計を見た。あと五分もすれば上がれる。
ひょいと田所がスマホを覗き込む。
「高橋、待ち受け変えたのか?」
「うん。せいちゃんに無理矢理変えられた」
ロック画面は高級老舗アパレルブランドに全身を包んでポーズを取る星一郎だった。
前髪を上げ、メイクもしている星一郎は普段と違った姿を見せている。
「なんかの撮影って言ってたけど、なんだったかな…。なんか、なんかカタカナいっぱい並んでた」
「お前そういうの興味ないよな」
「まあねー、オシャレとはほど遠い生活送ってるもん」
「なんでそんなヤツと結婚してんだよ」
ビジネス婚なので。とは言えない。あははと笑って湊は濁した。
「正直、高橋に釣り合うとは思わねえ」
「言葉の使い方おかしくない? 僕のほうが釣り合わないと思うけど」
「じゃあますますなんで結婚してんだよ。あれか? 幼馴染だからって弱み握られてんのか?」
「う、うーん?」
あながち間違いではない。
(僕が実家出られたりここに寄付してもらったりだから、ある意味弱みで合ってるのかな。んん?)
「俺はもうすぐここを辞める」
「え、そうなの? 転職?」
「魔法省からスカウトが来た」
「魔法省から!? すごーい! 田所くんすごーい!」
ぱちぱちぱち、と手を叩くとその手を握られた。
「田所くん?」
「なあ、高橋。俺に乗り換えろ。芸能人なんかどうでもいいだろ。身近な俺にしとけ」
乗り換えるとは。
僕は車持ってないし乗り換えられる何かは何も持っていない気がする。
「?? 何を乗り換えるの?」
「ホントに鈍いし鈍臭いな…。ーー高橋。お前が結婚していようとどうでもいい。好きだ。ずっと好きだった。芸能人なんかやめて俺にしとけ。なあ、高橋」
ーー気づけば目の前の星一郎が腰を屈めていた。
「何してんだ、湊。めずらしくおかえりの突撃もなかったぞ」
「え…? あれ? いつの間に家に帰ってたんだろ…」
「その様子だとメシは作ってないみたいだな。たまには何か頼むか? 湊?」
ソファーに座る湊の前に膝をつき、前髪をかき上げられた。
「マジでどうした。様子がおかしいぞ。体調でも悪いのか?」
何が起こったのかようやく思い出せた湊の左目から、ぽろりと涙が溢れた。
「湊?」
「ぼく…田所くんにキスされた…好きでもない人にキスされた…」
ずっと好きだったと言われてキスをされた。好きでもなんでもない同僚にキスされた。
ボロボロと涙が溢れる。湊の大きな瞳にあふれ、容赦なく頬を伝い落ちる。
星一郎は手で顔を覆った。
「だから言わんこっちゃねえ」
「え…僕が悪いの…? なんで、だって、だって、同僚だよ? 同じ職場の人だよ…? なんで僕キスされて…」
「お前は何も悪くねえよ。ちょっと鈍すぎるだけだ。ほら、こっち来い。上書きしてやる」
両手を広げられ湊は迷うことなく飛び込んだ。
顔を上げると涙だらけの頬を服で拭われた。湊も擦り付けて涙を乾かす。
「目え閉じろ」
そう言われて目を閉じると、柔らかくキスをしてくれた。途端に荒れていた湊の心が平穏を取り戻す。
唇が重なると気持ちいい。
重ねているだけなのになんでこんなにあったかい気持ちになるんだろう。
一度唇を離し、重ね、離し、重ね…ちゅ、ちゅ、と可愛らしく鳴る音に湊は思わず笑った。
「ふふ、くすぐったい」
「まだだ。じっとしてろ」
「ん…」
数度唇を食まれ、名残惜しむように離れていった。
途端に何故か星一郎が複雑そうな顔をする。
「これは…怪我の功名とでも言えばいいのか?」
「せいちゃん?」
「お前さっき言ったよな。好きでもないヤツにキスされた、って。んでもってお前は泣いた。じゃあ俺はなんだ? 俺にはキスされていいのか? 俺がキスしてもお前は泣いてねえよ」
「…ホントだ。せいちゃん!」
「うおっ」
湊に押し倒された星一郎の目が丸くなる。
湊は真っ赤な顔で叫んだ。
「僕をせいちゃんのお嫁さんにして!」
「もう嫁だが」
「そうじゃなくてっ! ビジネス婚じゃヤダ! 僕をせいちゃんのホントのお嫁さんにして!」
星一郎が肩を震わせて笑い始めた。
「ホントにお前は俺を飽きさせねえな…」
「せいちゃん聞いてる!?」
「聞いてる聞いてる。初めから言ってんだろ? お前を繋ぎ止めるためだけに結婚した、お前が好きだ、って」
「…ハッ!」
「ようやく自覚しやがって。遅せえよ」
くすくす笑われながら抱きしめられ、むう、と唇を尖らせながらも湊も抱きつく。
「なーにむくれてんだ?」
「だって、なんか、僕だけ振り回されてるみたいだもん」
「バカ言え。振り回されてんのはこっちだろ。ほら、なんか言うことあんだろ?」
ちゅ、と湊からキスをして、そして言った。
「せいちゃん大好き!」
「いやあすごいよねー。あの顔がウチの研究所に来たんだよ。こんな埃っぽいところに。結局掃除しても埃っぽかったねー」
CMで流れる高級車を運転する星一郎を見て、感慨深げに所長が言う。
「指先まで綺麗だったねー。なんていうか所作がイチイチ綺麗だった。家でもあんな感じなのかい?」
「せいちゃん手づかみで唐揚げ泥棒しますよ。立膝ついてごはん食べるし」
「うっそーん」
「所長はせいちゃんに夢見すぎだと思います」
そう言ってパソコンを弄っていると、す、とスマホを差し出された。
なんだろうと思って見るとその画面には『某モデルすでに不倫か!?』とデカデカ書かれたゴシップ記事だった。
湊が顔を上げる。
田所に見つめられていた。
にこ、と湊は笑った。
「僕も怒るよ?」
「チッ。騙されないか」
「素人が作った記事感満載じゃん。作ったの田所くんでしょ?」
「うん」
「別に嘘の記事とわかっててネットに載せてもいいけど、僕はそんなぐらいじゃあ揺らがないよ?」
「ずいぶんと強くなりやがって」
「せいちゃんが僕のこと大好きなのわかってるし、僕もせいちゃんのことが大好きだし。なんかね、ようやく色んなことがわかったっていうか、今まで見えてなかったな、って思ったの。だからこの前のと今回のは黙っとく。でも次何かしたら怒るから」
そう言って笑うと田所は舌打ちをし、同時にチャイムが鳴ったので玄関へと出て行った。
「田所くん辞めちゃうんだよねえ。なんで魔法省なんだろう」
「そりゃあ所長、ここよりはるかに給料いいからですよ」
「…求人出したけど人来るかなあ」
「そういえばメールに大量の応募がありましたよ。多すぎてまだ全部は見きれてません」
「…へ?」
驚く所長に田所が「ポストに入らねえぐらいの応募が来てる」と言って両手に大量の郵便物を持ってきた。
「え、なに、なに!? ウチってそんなに人気あったっけ!? あるわけないじゃん!」
「これですよ所長」
そう言って湊はとあるホームページを見せた。
「これ、せいちゃんの所属事務所のページです。ここの事務所って寄付に力入れてるみたいで、所属してる人っていっぱい寄付してるみたいなんですよ。みんな病院とか事業所とかそういうところに」
「うわー、有名人しかいない。みんな見たことある」
「で、それぞれの紹介ページに寄付先の名前入れてるんですけど、ほら、ここ。せいちゃんのページにウチの研究所の名前が書かれてるんです」
「え、ウソ。ホントだ。え、なんでなんでなんで。……結城星一郎のファンクラブに入会させていただきます」
「え、せいちゃんのファンクラブってあるんですか? あはは、初めて知った」
「キミはもうちょっと旦那さんに興味持った方がいいと思うよ! 旦那さん泣いちゃうよそのうち!!」
ーー家へ帰り夜ごはんの準備をして星一郎の帰宅を待つ。
玄関がロック解除された音がした湊が一目散へ玄関へ走ると、星一郎は両腕を広げて待っていた。
「よっしゃ来い! 湊!」
「おっかえりーせいちゃーんっ!」
その腕に勢いよく飛び込んで、ふふふ、と笑う。
「せいちゃんいい匂い。僕せいちゃんの匂い好き」
「お、嬉しいこと言うじゃねえか。今日のメシはなんだ?」
「今日はねえ、ささみとチーズの梅入り春巻き、小松菜の煮浸し、野菜たっぷりのお味噌汁! デザートに手作り豆乳プリンを用意しております!」
「今日もうまそうじゃねえか。やるな湊」
「えへへ~。うーん、せいちゃんって今日もイケメンだねえ」
抱っこされたまま前髪をかき上げ湊はしみじみ言う。
「お、慣れたか?」
「うん、ようやく慣れました。せいちゃんは世界一かっこいい僕の旦那さん」
「当たり前だろ? 世界一かわいい俺の奥さん。そうだ、今度劇場版アニメのゲスト声優になったんだ。そのアニメ配信されてるから一緒に見ようぜ」
「アニメに興味ないからいいや」
「お前はいい加減俺に興味を持ってくれ」
ガックリと肩を落とされ、くすくす笑いながら額にちゅっとキスをした。
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