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毎日ごはん
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「気安く話しかけんじゃねえよ!」
バンッ、と壁を叩きながらの怒号に思わず木村雫(きむら・しずく)はぎゅっと目を閉じた。
なんでこんなに怒っているのかわからない。
ただ話しかけただけなのに…。
「大体なあ! 俺がどんな思いでいるかわかってんのか!?」
「わ、わかんないよ…だって凛くん最近全然喋ってくれないし…。……そんなに僕のこと嫌いなの?」
思わず目元に涙が浮かぶ。
四歳年下の大好きな弟から嫌われているなんてイヤだ。
泣きそうになる顔で見上げると弟は…凛太郎(りんたろう)はチッと舌打ちをした。
「嫌いじゃねえから困ってんだよ」
勢いよく顎を掴まれた。
「あんたのことが好きだから困ってんだよ!」
重ねられる唇に雫は目を大きく見開いたーー。
数時間前。
「ただいまー」
数週間振りの実家へ帰りリビングへ行くと、ちょうど母と弟の凛太郎が夜ごはんの最中だった。
「あらおかえり。ごはん食べるでしょ?」
「うん食べる。お父さんは?」
「残業だから先に食べてんのよ~。今日は泊まってくの? 一応布団は用意してるけど」
「あー…仕事持ち帰ってるから帰ろうかな…」
ちらりと凛太郎を見ると、ギロリと睨まれたので雫は震え上がった。
(ひーっ! 今日も凛くん機嫌悪いっ!)
ついあたふたしながら「た、ただいま凛くん」と声をかけるも食事中というのに勢いよく立ち上がってリビングを出て行った。そのままドスドスと大きな音を立てて二階の自室への階段を登っている。
大盛りの白米の茶碗を手渡しながら母が笑った。
「あんたまた凛怒らせたの~?」
「そんな理由見当たらないけどねえ…。ていうか凛くん反抗期じゃないの?」
「あたしとお父さんにはそんなこと全くないわよ。家事だって手伝ってくれるし。今日だってこのエビチリあの子が作ったのよ」
「ええー、僕にだけ反抗期…」
ガックリと肩を落としながら「いただきます」。エビチリと共に白米をかっ込むと、辛いものが苦手な雫にも食べられる辛さのエビチリだったので嬉しかった。
「おいしい! これ凛くん作ったんだよね? 絶対一人暮らしの僕より家事スキル高いって」
「あの子器用だからね~」
「でも僕にだけ反抗期…」
エビチリがおいしいのにこれではおいしさ半減。…それでも自分の作るごはんより遥かにおいしいけれど。
母が笑った。
「何したか知らないけど、さっさと凛に謝っときなさい」
ーー雫は二階への階段を登っていた。
(謝っときなさい、って言われても何もしてないんだよお…)
二十歳の雫は仕事に通いながら近所のアパートで一人暮らしをしていた。時折こうやって休み前には夜ごはんを食べに実家へ帰るのだが、ここ一年ぐらい凛太郎の機嫌がずっと悪い。
現在高校一年生だから思春期真っ只中だと思うのに、どうやら両親には普通に接しているようでこんなにもギスギスした態度を取るのは兄の雫だけらしい。
コンコン、と部屋のドアをノックする。
「凛くーん、入っていいかな…?」
返事がない。待っていると一生待ちそうな気がするのでそっとドアを開けた。
部屋の中ではベッドの上で凛太郎がうつ伏せになっていた。
「あ、あの…」
「勝手に入ってくんじゃねえよ」
「だって何も言わないから…」
「だからって入ってくんな」
「ごめん…」
謝りながらドアを閉める。明かりも点けていない真っ暗な部屋、なんとか凛太郎の姿は見えた。
「…凛くん」
「んだよ」
「僕、凛くんに何かした?」
「何もしてねえよ」
「じゃあなんで僕にだけ…そんな態度なの? 僕…何かした?」
「だから何もしてねえって言ってるだろ。出て行け」
凛はぎゅっと両手を握りしめながら呟いた。
「そんなこと言わないでよ…。昔はよく一緒に遊んだし、一緒にお風呂に入ったり一緒に寝たり…。あの頃とまでは言わないけどさ、僕は凛くんと仲良くした…」
「気安く話しかけんじゃねえよ!」
バンッ、と壁を叩きながらの怒号に思わず雫はぎゅっと目を閉じた。
なんでこんなに怒っているのかわからない。
ただ話しかけてるだけなのに…。
「大体なあ! 俺がどんな思いでいるかわかってんのか!?」
「わ、わかんないよ…だって凛くん最近全然喋ってくれないし…。……そんなに僕のこと嫌いなの?」
思わず目元に涙が浮かぶ。
大好きな弟から嫌われているなんてイヤだ。
泣きそうになる顔で見上げると凛太郎はチッと舌打ちをした。
ベッドから起き上がりツカツカとこちらへ歩いてくる。
「嫌いじゃねえから困ってんだよ」
勢いよく顎を掴まれた。
「あんたのことが好きだから困ってんだよ!」
重ねられる唇に雫は目を大きく見開いたーー。
ピンポン、と鳴るチャイムに雫は目を覚ました。
「朝…」
閉じるのすら忘れ開かれたカーテンから朝日が差し込む。今日もいい天気だ。
雫は体を起こす。どうやって帰ったのか覚えていないが一人暮らしをするアパートへキチンと帰宅できたようだ。
「…凛くんにキスされちゃった」
思い出してはボッと顔を真っ赤にし、思わず口元を手で押さえる。
激昂した弟に顎を掴まれ勢いよくキスされた。
ーーあんたのことが好きだから困ってんだよ!
「凛くんって僕のこと好きなんだ…でも僕お兄ちゃんだよ…?」
兄弟でそんな関係なんてありえない、と熱い頬に触れていると再びチャイムが鳴った。
ピンポンピンポンピンポン…鳴り続けるチャイムに雫は慌てて立ち上がり玄関へ走った。
こんな朝早くに誰だろうーードアを開けるとそこには見知った顔が立っていた。
「へ…? 凛くん…?」
まさか先ほどまで考えていた相手が目の前にいるとは思わずぽかんと口を開ける。
まさか夢じゃないよね、と自分の頬をつねってみるも痛い。
「何してんだよ」
「いや、夢かと…」
「勝手に夢の中に俺を出すんじゃねえよ。さっさと入らせろ」
「あ、はい」
パタンと閉じた玄関の音にハッと我に返る。何も考えず通しちゃった! 昨日キスした弟を!
「座れ」
とっくに靴を脱ぎ小さなダイニングテーブルに腰掛けた凛太郎に指示されながら、僕の家なんだけどなあ、なんて思いながらとりあえず座る。
気まずい空気が流れた。
(…凛くん何しに来たんだろ)
昨日の今日である。しかもこんな早朝に。…あ、十時過ぎてる。
ギッ、と睨みつけながら凛太郎が口を開いた。
「昨日は悪かった」
「…それ謝る人の顔じゃないよね。めちゃくちゃ睨んでるけど…」
「あ? 人が下手に出てんのに何言ってんだよ」
「下手に出てるんですね…」
そんな態度でもないけどね。思わず滑りかけた口を手で押さえる。
ちらりと、凛太郎を見上げた。
聞こうか聞くまいか悩んだ末に口を開いた。
「…僕のこと好きなの?」
そう尋ねるとこくりと頷かれ、ボッ、と一瞬にして顔が真っ赤に染まる。
(ひーっ! 恥ずかしい! 照れるっ! で、でも僕はお兄ちゃんだから…!)
兄弟間でそういうことは絶対にダメ!
「で、でも凛くんの年齢だと年上の人に憧れるみたいな感じだと思うよ!」
凛太郎は盛大に眉間に皺を寄せた。
「は? あんたのどこに憧れられる要素があると?」
「辛辣だね…」
涙が出そうである。
「そりゃあ別に頭いいわけじゃないし顔だって普通だし特別何か秀でてるわけでもないし…」
「背は低いし頭は悪いし顔はちんちくりんだし足だって短え」
「うぅっ」
「でもなあ、好きなんだ。好きになったんだからどうにかしろ」
「そ、そう言われましても…ていうかむしろ僕にどうしろと…」
突然凛太郎がぽかんとする。
「そういや何も考えてねえな…」
「へ?」
「まさかそんな質問が返って来るとは思わなかったからむしろあんたをどうしたいか考えてなかった。いや、キスしたいしセックスしたいってのは決まってんだけどよ…それだけじゃねえっつか…」
腕を組んで急に考える素振りを見せる凛太郎に、今度は雫がぽかんとする。
(え…ぼ、僕とそんなことしたいんですか…)
キスもセックスもしたことない。…あ、昨日がファーストキスだ。
ぼぼぼ、と顔が真っ赤に染まりながら、ぐううう、と腹が鳴る。そういえば朝ごはんまだ食べてない、と焦って顔を上げると凛太郎にギロリと睨まれた。
「腹鳴らしてんじゃねえよ。ちったあタイミングを考えろ」
「うぅ…だってまだごはん食べてないもん…」
「…作ってやるよ」
盛大にため息を吐いた凛太郎が立ち上がり冷蔵庫の中を漁る。
しばらく待っていると目の前にとろけたチーズにまみれた食パンが出てきた。雫の顔がぱあっと輝く。
「何これおいしそう!」
「クロックムッシュ」
ナイフとフォークを差し出され受け取り、早速一口。
「! おいしい!!」
中にホワイトソースとハムが入り、とろとろのチーズに黒胡椒がアクセントになっている。
雫の顔が綻んだ。
「おいしーい!!」
「まだ食うんだったら二枚目作ってやるよ」
「食べる!」
あっという間に一枚目を食べ終えると早くも二枚目が登場。淹れてくれたカフェオレと共に食べるとやっぱりおいしくてしょうがない。
「すごいね凛くん! こんなおいしいの作れるんだ!」
「全然すごくねえだろ」
「すごいよ! だって昨日のエビチリもすごくおいしかった! 僕ね、一人暮らししてもう二年も経つのに全然料理うまくならないんだよねぇ。結構作ってるのに何が悪いんだろ…やっぱりセンスかな、僕もこれぐらいおいしいの作れたらいいなあ」
気付けば一人でペラペラ喋ってる、と顔を上げると、目の前の椅子に腰掛けテーブルに肘をついてこちらを見つめる凛太郎の視線とぶつかった。
目を細め口元が柔らかく上がり微笑んでいる。
ふ、と笑われる。む、と雫は頬を膨らませた。
「…なに」
「うまそうに食うな、って思って。そうやって兄さんがうまそうにメシ食ってる顔すげー好き」
「…なんか久しぶりに兄さんって呼ばれた」
「俺のメシうまいだろ?」
「悔しいけどおいしいです」
「うまいってあんたに言わせるためだけに頑張って勉強してんだよ。喜べ」
「…?? ありがとう…??」
お礼の言葉って引き出させるものだっけ?
こてんと首を傾いでいると「あ」と凛太郎が声を上げた。
「わかった」
「え?」
「最終的にあんたをどうしたいかがわかった」
凛太郎が、ニッ、と笑う。
「毎日メシを作ってほしい、って言わせたい」
「はあ…」
「わかったか? 毎日メシを作ってほしい、ってあんたが言ったら負けだからな?」
「はあ…」
なんでいきなり勝負なのだろう? というか何の勝負だ?
首を傾いでいると、ガタッ、と音をさせて凛太郎が立ち上がりこちらに近付く。
「すげー寝癖」
わしゃわしゃと頭を撫でられた。
そのままじっと見つめられ、思わず雫はドキッとしてしまう。
「俺だって不思議だよ。なんであんたのようなちんちくりんを好きになんなきゃいけねえんだ。しかも兄弟。しかもあんたが兄。でもな、悪いけど好きなんだよ。好きで好きでしょうがねえんだよ」
訴えかけるような瞳に、雫の心臓がドキドキと高鳴る。
なんでこんなに心臓が大きく跳ねるんだろう。
口元に手が触れ、はは、と凛太郎が笑った。久しぶりに見る楽しそうな笑い方に雫は思わず飛び上がりそうになった。
「パン屑ついてんぞ」
「だ、って…パン食べたから…」
「そういう隙だらけなとこもすげー好き。…悔しいけど好きなんだよ兄さん、あんたが」
唇が近づき、そっと重ねられた。
逃げることだってできたのにできなかった、いや、しなかった。
なんで逃げなかったのか…理由はわからないけれど、それでも目をつむって弟からのキスを受け入れてしまった。
「今日はオムライス作ってくれてるんだよねえ。楽しみ!」
仕事からの帰り道、雫はにこにことスマホを眺めながら帰路に着いていた。
凛太郎からのメッセージには何のコメントもなくただオムライスの写真のみが添付されていた。
突然のキスから一ヶ月、凛太郎はたまに学校帰りに雫の一人暮らしのアパートに寄っては食事を作っていた。いつ来るかわからずその日冷蔵庫にあるものだけで作ってくれるので、送られてくる写真だけが頼りだった。
鍵を差し込み玄関を開ける。ふわりとバターの香りが広がり、ぐううう、と雫の腹が鳴った。
「いただきます!」
洗った手をいそいそと合わせる。大きなスプーンを手に一口食べると途端に顔が綻んだ。
「おいしーい!!」
しかも大食漢の雫に合わせて巨大オムライスだ。食べごたえもあっておいしい!
あっという間に食べ終わり「ごちそうさまでした」。食器を洗いながらちらりと横を見ると、調理時に使用したフライパン類は全て洗われているのでなんともラクだ。
「凛くんって器用だよねえ、すごいよねえ」
ーー毎日メシを作ってほしい、って言ったらあんたの負けだからな。
あの日言われた言葉を思い返す。
「…結婚してください、って言ってるようなものだもんねえ…」
兄弟で結婚なんかできないよ、と言うと、一生いることはできるだろ、と返された。その通りである。
雫は水で濡れたシンクを見つめた。ピカピカだ、きっと凛太郎が磨いたに違いない。
「…なんで僕なんだろ」
凛太郎は自分と違って背も高いし体格も良いし顔だってかっこいいいし足だって長い。
それなのにこんなちんちくりんを選ばなくても…自分でちんちくりんと言って少し悲しくなってきた。
「…」
顔が熱い。
「…オムライスおいしかった」
合鍵を渡してしまうほどには弟を受け入れている確かな自分がいた。
金曜日、帰路に着きながらスマホを見るも何も連絡がない。
「今日は作ってないのかなあ」
がっかりする自分にハッと顔を赤くしながら玄関ドアを開けた。
凛太郎の靴がある。あれ、来てる?
そっと部屋へ入り寝室を覗くとシングルベッドで窮屈そうに体を縮めて眠る凛太郎がいた。
(あらら、寝てる)
学校帰りにそのまま来たらしい制服姿だ。ふふ、と笑いながら雫は枕元に腰掛けた。
「いつもありがとうねえ、凛くん」
真っ黒の髪の毛に触れながら弟の顔を見つめた。
いつの間にこんなに大人っぽくなったんだろう、寝顔が随分と成長してる。
(ここ一年ぐらいは僕にだけずっと反抗期だったから、寝顔なんて見るの久しぶりだなあ)
特別懐かれていたわけでもなければ特別嫌われていた兄弟仲でもない。本当に普通だった。
それが中学三年生の終わりぐらいから少しずつ喋らなくなり睨まれ、たまに話せたと思ったら怒号が飛んでずっと機嫌が悪い。
嫌われたのかなあと寂しかった。
だからこの一ヶ月はすごく楽しい。時折休みの日にも来てくれて、凛太郎が作ってくれたごはんを一緒に食べるのだ。
この間なんて一緒にスーパーへ出かけた。二人で出かけるなんて何年振りだろうと涙が出そうだった。
雫は凛太郎の頭を撫でる。
「凛くんの作ってくれるごはん、すごくおいしいよ」
頬に触れた時だった。カッと勢いよく目を開けた凛太郎に腕を掴まれベッドへ押し倒された。
突然の出来事すぎて雫の目がぱちぱちと瞬く。
「よお兄さん。弟の寝込み襲うとはいい度胸してんな」
「え、あ、え…? お、おそ、襲われてるのって僕だと思うなあ…」
「似たようなもんだろ」
凛太郎がニンマリ笑う。
「俺の作ったメシうまいか?」
「…おいしいよ?」
「毎日食いたいだろ?」
雫は唇を尖らせながらそっぽを向き「別に?」と精一杯の強がりを見せる。
「そ、それより早くどいてよっ。僕お腹すいたからごはん作って食べたいんだけど!」
「そういや今何時だ? 一眠りしようと思ったらもうあんたが帰って来てやがる」
そう言って凛太郎がスマホで時刻を確認するも「もうこんな時間か」と呟く。
ようやくここをどいてくれるとホッとしたのも束の間、顔が近づき思わずドキッとした。
「なあ」
「な、に…?」
「ゴホービくれよ。毎日あんたのためにメシ作ってんだから」
「…凛くんが勝手に作ってんじゃん。そりゃあありがたいけどさ…」
「じゃあくれ」
「んう」
唇が重なった。ちゅ、ちゅ、と角度を変えてかわいい音のするキスをしながら、べろ、と唇を舐められてほんの少し開いた隙間から舌が入ってきた。
雫の舌と強引に絡めながらどんどん奥へと入ってくる。
くちゅくちゅと水の音が混じる頃には息切れで目の前がぼーっと霞始める。
「ん、ん…」
「口じゃなくて鼻で息しろ」
あ、そっか。そんな単純なこともわからず驚くけれど、すぐに雫の瞳はとろんと落ちる。
歯の裏側をなぞられると体がゾクゾクする。唾液を注がれると溺れそうになるーーどれも初めての体験ですぐに息が上がってしまった。
「はっ、はっ…」
「あ? もう息上がってんのか?」
「だ、って…」
初めてだもん、と雫は頬を膨らませる。
凛太郎に見つめられ、ちゅ、と頬や目元にキスされる。くすぐったくて思わず目を細めた。
「なあ兄さん」
「ん…なに?」
「俺のキス、今までした中でどれくらい気持ちいい?」
「どれくらい、って言われてもわかんないよ…」
「比べられねえぐらいに数こなしてんのかよ」
「…反対だよ。初めてだもん」
「は?」
「……キスしたの凛くんが初めてだもん」
凛太郎の目が丸くなる。真っ赤な顔で雫がこくこく頷くと、いきなり倒れるように覆い被さられてびっくりした。
「り、凛くん!?」
「んだよ初めてかよ…言えよ!」
「何を…」
「俺が初めてだったら言えよ! もっとこう…ちゃんとしたあんたのファーストキスになりたかったよ!」
「し、知らないよっ。キミが勝手にキスしてきたじゃん!」
「俺のせいとでも言いたいのかよ!」
「それ以外に何もないでしょっ。て、いたっ」
ぶに、と頬を引っ張られた。そして凛太郎にギロリと睨まれる。あ。久しぶりにそうやって睨まれたかも。
「あんた自分がかわいいのわかってんのか?」
「へ?」
「ちんちくりんはちんちくりんでもすげーかわいいんだよ。だからてっきり経験済みだとばかり」
「貶してるのか褒めてるのか…」
「褒めてんだよ。兄さん、あんたはかわいい」
そう言って唇にキスされる。重ねるだけの優しい口付けに思わず目を閉じてしまう。
「ん、ん、ん…ん!?」
気持ちよくてつい体を委ねていると、さわさわと下腹部に触れられた。と思いきやすぐさまズボンのファスナーを下され性器に触れられた。
「もう勃ってんじゃねえか。弟のキスで感じるとは悪い兄さんだな」
パッと下を見ると、凛太郎の大きな手のひらに包まれた性器はすでに勃起しており、たらりと先走りの蜜さえ出す始末だ。
雫は顔を真っ赤にさせた。
「うぅ…だ、って…凛くんのキス気持ちいいんだもん…」
「ほう」
ニンマリと笑った凛太郎に「じゃあまだまだしねえとな」と再び唇を奪われた。
「んっ、ん……ふ、う…、んっんっ」
唇を重ねながらも凛太郎の手のひらは上下に動き、そのたびにぐちゅぐちゅと雫の性器から卑猥な音をさせる。
時折先端をぐりぐりと弄られるのが気持ちいい。
「腰動いてるぞ」
「ふ、う…だって、だってええ…」
「気持ちいいか? 俺に教えろ」
「きもち、い…凛くんの手で、ゴシゴシされるのきもちいい…」
凛太郎の目が鋭くなり睨まれる。と思いきやすぐにニッと唇を引き上げて嬉しそうに笑った。
「好きだぜ、兄さん。弟の手で気持ちよくなるあんたがな」
大きな手のひらの中に凛は吐き出した。
荒い呼吸を整えながらぼーっとしていると、凛太郎がティッシュで下腹部を拭いてくれる。
雫は真っ赤な顔を両手で隠した。
(凛くんにイかされた…しかも後処理までさせちゃってる…)
恥ずかしさやら何やらでいっぱいだ。「うがあああ」と変な声を上げてゴロゴロしていると狭いベッドである、すぐ凛太郎にぶつかった。
「んだよ、いてえ。おいコラ、無言で蹴るな。聞いてんのか」
ついでとばかりにゲシゲシ蹴っているとその足を掴まれなぜか体は凛太郎の腕の中。すっぽりと収まりが良く、あまりの居心地の良さに驚いた。
「…なんかすげージャストフィットするんですけど。兄さんあんたかわいいな…」
「こ、これは体格差だよっ。キミがどんどんでっかくなってくから…!」
「なあ兄さん」
「…なに」
聞き返しながらももうわかっている。さっきからグリグリと腰に固いものが当てられるのだ。
そっと、制服の上からそれに触れる。
熱い。硬い。そして大きい。
ぎゅ、と凛太郎に抱きしめられ、ちゅ、ちゅ、と頬や額に何度もキスされた。
雫はそっと目を閉じて受け入れ、弟のズボンのファスナーをゆっくりと下ろしていった。
(…これってよくないよねえ)
弟である凛太郎の腕の中で微睡みながら雫は考える。
お互いのものを抜きっこして早一ヶ月。凛太郎がアパートに来れば毎回のように抜きっこする仲になってしまった。
何度も止めようと思った…と言いたいが止めたことは一度もなく、毎回その気持ちよさに体を委ねていた。
(……でも気持ちいいんだよねえ)
腕枕をされながら頭にキスを落としてくれる。気持ちいい。このまま眠ろうかなあ、と微睡むと凛太郎が呟いた。
「は? 合コン?」
パッと顔を上げると凛太郎はスマホを見ている。誰か友達から合コンに誘われたのか? …高校生が?
むう、と雫は頬を膨らませる。
「凛くん合コン行くの? 僕がいるのに?」
凛太郎に白い目線を向けられた。
「それ無自覚で言ってんだよなああんたは」
「へ?」
「合コンは俺じゃねえよ、あんただよ」
「…あ! それ僕のスマホっ!」
よく見ると凛太郎が持っているのは雫のスマホである。「返してっ」と手を伸ばすもののスマホを掲げられては届かない。足だけでなく手まで短いとはっ。
「返してよー!」
「友達から合コンの誘いが来てますよ兄さん。行くのか?」
「行くわけないじゃん」
「なんで?」
「…知らないっ」
スマホを諦め凛太郎に背を向ける。しかしすぐにその小さな背中を包むように抱き込められた。
「俺もさ、来週誘われてんだよ。別のガッコの奴ら数人で遊びに行かね、って」
「…行くの?」
「どうして欲しい? あんたの返事次第で決める」
凛太郎の腕の中、雫は考える。しかし考える隙もないほどに答えなんて出てしまっているわけで。
むう、と頬を膨らませながら振り向いた。
「……行っちゃやだ」
凛太郎が目を細め「当然」と噛み付くようなキスを贈られ、雫は目を閉じて腕を伸ばした。
「ほい、大盛りごはん」
「わーい! いただきまーす! ふふふ、今日も凛くんのごはんがおいしいな」
「毎日食いたいだろ?」
「…知らない」
「いい加減認めてもいいんじゃねえの? 俺らの関係性についても」
「ごはん中はそういう話禁止っ。せっかく凛くんのごはんおいしいのに」
「へーへー。…兄さん」
「ん?」
「やっぱあんたがそうやってメシ食う顔好きだわ。すげーかわいい。うまい? 俺の作ったメシ」
にこっ、と雫は笑った。
「世界一!!」
きっかけは今でも覚えている。
高校受験の勉強の時だった。たまたま実家に帰っていた雫が、お夜食作ってあげる! と言いながら全くおいしくない夜食を作ったのだ。
さすがにこれで腹は膨れんと凛太郎が作り直すと、それをおいしそうに雫が平らげたのだ。
『凛くんってすごいね』
嬉しそうにおいしそうに食べる雫に、兄に、恋をした。
それ以降、自覚した恋心が恥ずかしいやら照れくさいやらで本人である雫につい当たってしまったが、最近になってようやく態度を軟化させることができた。
怒号の中でのあのキスが、状況を一変させたと凛太郎は思っていた。
相手は実の兄だ。悩まなかったと言えば嘘になるが、それでも好きだ。だから手に入れたい。
(俺のメシを一生食いたい、って絶対に言わせてやるからな)
兄弟は結婚できない。でも一生をそばに居させることはできる。今はまだ学生の身だ、だから口約束だけでいい。
効力も何もないのはわかっているーーでも子供の身分で他にどう雫を縛りつければいいのかがわからない。
だから今は言葉だけでいい。雫からの言葉が欲しい。
金曜日の夜、一度家へ帰って着替えてから雫のアパートへ向かった。貰った合鍵を手に中へ入り、今日は何を作ろうかと冷蔵庫と相談する。
(しっかし、合鍵くれって言ったらくれるとは)
それほどまでに胃袋を落としつつある…今日もうまいものを作ろうと凛太郎は頷いた。
ーー帰宅した雫はめずらしく機嫌が悪かった。
「今日は仕事でむしゃくしゃしたの」
「ああそう」
「だから!」
そう言って取り出したのは一本の酒だった。
「今日は飲みます!」
「アルコール度数3%の缶チューハイ一本…は? これだけ?」
「べろんべろんに酔えます!」
今日は酒に合いそうな蓮根とつくねのはさみ揚げを作っている、多分ちょうどいいだろう。
(そういやコイツが酔ったとこ見たことねえな)
そもそも二十歳になったばかりだ、つい最近飲み始めたのだろう。
果たして兄は酒に強いのか弱いのか…その結果は一時間も経たないうちに出た。
「ふへえ~…りんくぅ~ん…」
顔を真っ赤にし目がとろんと落ちる雫は酔いに酔いまくり、なぜかソファーに座る凛太郎の膝の上に向かい合わせに座り缶チューハイを飲んでいた。
「今日もごはんおいしかったあああ。ありがとにゃああ…」
「…あんた相当酒に弱いな」
「ふへえええ? なんでええ?」
雫から缶を取り上げ揺らしてみるも凛太郎の眉間に皺が寄る。まだ半分以上残っているのにこの状態とは。
(コイツでこんな感じなら俺も弱いんだろうな…)
きっと酒に弱い遺伝子なのだろう、自分は二十歳過ぎてもあまり飲まないようにしようと誓った。
雫の小さな手が伸びた。
「まだのむううう」
「もうやめとけ」
「なんでえ?」
「いいからやめとけ」
「ん~…じゃありんくんとお話するうう」
缶チューハイを遠ざけると雫に擦り寄られた。
この関係性はだいぶ進んだように思えたけれど、今のように膝の上に座ったり擦り寄られることはほとんどない。
単純に嬉しいけれど相手は酔っ払いである。
「ねえりんくん!」
「んだよいきなりうるせえな」
「僕はさみしかったんだからね! きみが…キミがいつも僕をゴミを見るかのような目で見るからあああ」
途端に泣き始めた。この酔っ払いが。
しかし凛太郎は硬直する。
(俺そんな目えしてたか?)
睨みつけていた自覚はある。好きなのにどうしていいかわからないイライラが態度に出たとは思うが、まさかそんな風に見えていたとは…。
凛太郎は盛大にため息を吐いた。
「はいはい、悪かった悪かった」
少々子供っぽいが背中をトントンしてやると、ぐすぐす鼻を鳴らしながらも雫が泣き止んだ。
ついでに目元の涙を舐め取ってやると途端に、にひひ、と笑った。
「ぼくねえ、りんくん大好き!」
「ほう?」
「だってさーりんくんかっこいいじゃん? 背だって高いしー、頼りになるしいいい。でもねえ、りんくん知ってるうう?」
「何をだ」
「ぼくたち兄弟なんだよ!!」
「知ってる」
「知ってたの!?」
びっくり顔の雫に、やっぱり酔っ払いだなと改めて感心する。
今にも眠りそうな目元を擦ってやった。
「兄弟でもなあ、好きなもんは好きなんだよ。俺はあんたが好きだ。…まあ酔っ払いに言ってもしょうがねえか」
頬を撫でると雫は早速目を閉じている。そろそろ限界だろう。
「んううう~…ぼくもりんくんすきだよお?」
「はいはい」
「ホントだからねっ。ホントに、ぼく、りんくんだいすきだから……」
あっという間に寝息を立てながら雫は眠ってしまった。
再度、凛太郎は盛大なため息を吐く。
「…どこまでホントなんだよ、この酔っ払いが…」
ーーりんくんだいすきだから。
この酔っ払いのセリフをどこまで信じ切っていいのやら。
でも、確実に喜んでいる自分がいる。
「…兄さん」
腕の中でくうくうとかわいらしい寝息を立てながら眠る雫を抱きしめた。
「好きなんだよ、あんたのことが」
ぐ、と穴に性器を押し付けられ雫は息を飲んだ。
眉間に皺を寄せながら再度、凛太郎に聞かれる。
「いいのか? 一線越えるぞ。もう戻れねえからな」
「い、今更もう遅いよ…」
真っ赤な顔で、ぎゅうう、と凛太郎の首元に抱きつくと「それもそうだな」と笑いながら腰を押し進めてきた。
「んっ! んんっ、う、あ、あ…っ」
大きな質量が体の中に挿ってくる。丁寧に解されはしたけれど、内臓が競り上がるような感覚にぎゅっと目をつむった。
「息しろ。こっちだって苦しい」
「あ、ごめっ……は、は、は……あ、あ…」
慌てて呼吸をすると、少しずつ凛太郎のものが挿ってきた。熱いーー。
根本まで全て飲み込んだところで前髪をかき上げられた。
「あーあ、もう戻れねえ。いいのか兄さん」
「…僕に聞かないでよ」
「責任は取る」
「……どうやって?」
「一生あんたのメシを作ってやるよ」
思わずくすりと笑ってしまった。凛太郎らしいセリフだ。
「でもまだあんたから言ってもらってない。毎日メシ作ってほしい、って。おい、目え逸らすな」
頬に手を添えられると思わず擦り寄ってしまった。
大きな手のひら。
この大きな手で触れられると気持ちいい。
「絶対に言わせてやるからな。覚悟しろ」
覚悟なんてもうとっくにーー雫は手を伸ばして覆い被さる凛太郎の前髪をかき上げた。
ぽたりと汗が落ちてくる、大人っぽい顔。僕の弟はいつの間にかこんなにも大人になってしまった。
顔が近づく、雫が目を閉じると唇を重ねられた。お互いに舌を出してお互いを求め合うキス。
腰を抱え上げられ、ぎゅ、と凛太郎に抱きついた。
「はあっ、あっ、あっ、…んんっ、んっああ、あ…っ」
「兄さん…」
優しくも奥を穿つ。凛太郎の腰に脚を絡め、雫も快感を追い求めていく。
やがて内側で凛太郎自身が果てた。これでもう完全に一線を超えてしまったーーそう思いながらちらりと見上げた凛太郎は嬉しそうに笑っており、雫の心臓がドキッと大きく高鳴った。
「はは、とうとう兄さんを俺のものにできた」
「…僕は僕のだよ」
「いーや、あんたはもう俺のだ」
「……じゃあ凛くんが僕のものってことで」
「うるせーやつ」
楽しそうに睨まれては雫の首元に噛みついた。
「あ、俺そろそろ試験勉強したいからしばらく来れねえわ」
「んー、わかった」
「浮気すんなよ。勝手に合コンとか行くなよ」
「…それを言ったら凛くんだってそうじゃん。僕なんかより遥かにかわいい子学校にいっぱいいるでしょ」
「は?」
ギロリと睨まれた。
「あんた以上にかわいい存在なんかいねえよ」
雫は顔を真っ赤に染める。
「ぼ、僕のことそんな風に言うのだって凛くんしかいないよ…」
「当たり前だろ。あんたは俺のだからな」
一線超えた辺りから独占欲強くなったなあ、なんて思うも居心地が良いと思う雫だった。
家までの道のりをとぼとぼと歩く。ここ一週間ほど、試験勉強に精を入れたいと言った凛太郎とは会っていない。
したがってこの一週間は凛太郎の作るごはんを食べていなかった。
飢えている。凛太郎ごはんに飢えている。
スマホを取り出し実家に連絡して、アパートへの道ではなく実家への道を歩いた。
「ただいまー」
実家と一人暮らしをするアパートは徒歩十分程度だ。
「あらおかえり」
「あ? なんで来てんだよ」
リビングでは母と凛太郎が夜ごはん中だった。相変わらず父は不在である。
「あんたの分あるから食べるでしょ?」
「食べるー」
「じゃあ俺は勉強戻るわ」
そう言って凛太郎が立ち上がる。すれ違う瞬間に目と目が合いニヤリと笑われる。
盛大に睨まれることはなくなったけれど、実家でこういう反応はやめてほしいと雫は頬を膨らませた。
食卓に着くと大盛りごはんがやってきた。
「いただきまーす! …あれ、お母さんの作るごはんだ。今日凛くん作らなかったの?」
「さすがに試験勉強してるからね~」
ワンチャン実家ごはんが凛の手作りではと期待してしまった。まあ勝手に期待した自分が悪いが。
久しぶりに母の手料理を食べていると聞かれた。
「ようやく凛の反抗期終わったみたいね~。あんただけに向かう反抗期。仲直りしたの?」
思わず雫は吹き出しそうになった。
ごめんなさい。仲直りどころか一線超えました。
(なんて言えないっ)
ーー静かな実家のキッチンに一人、雫は立っていた。
母は帰宅した父ともう寝ているだろうから静かに遂行しなくては。
「さーて、試験勉強がんばる凛くんにたまには僕が作ってあげないとね」
とは言ってもおにぎりを握るだけである。冷蔵庫を開けると昆布が入っていたのでそれを具材にしよう。
手に水をつけて炊き立てごはんを握るも「あつっ」とすぐに手からボロボロと落ちてしまう。
「むうぅ、がんばるもん」
しかし握っても握ってもうまく形にならない。炊き立てごはんは塩梅が難しいと思っていると「何してんだ」と声をかけられ振り向くと凛太郎が立っていた。
「凛くん。どうしたの?」
「あんたまだ帰ってなかったのか?」
「あはは…凛くんにお夜食としておにぎり作りたいなー、と思いまして…」
「ボロボロじゃねえか」
「…僕って料理センスないよね」
「ねえな」
ハッキリ言われて胸が痛い。「ですよね…」と声に出すと「どけ」と凛太郎に場所を取られてしまった。
凛太郎が素早く、綺麗に形の整ったおにぎりを握った。
「わー、おいしそう…」
「さっさと食え」
「え、だって僕が試験勉強がんばってる凛くんに作ってあげようと…」
「早く食え」
目の前にツヤツヤおにぎりを差し出され、ごくりと喉が鳴る。やっぱり凛太郎の作るごはんはおいしそうだ、「いただきます!」とそのおにぎりにかぶりついた。
「ん~…おいしい…しかもこれ塩むすびなのになんでこんなにおいしいの…」
「次は昆布を入れてやろう。ほれ」
「いただきます! おいしい~…」
もうほっぺたがとろけ落ちそうだ。熱々おにぎりをハフハフ言いながら食べていると、凛太郎が微笑んでいることに気付いた。
「ん? 凛くん?」
「…兄さんあんた覚えてるか? 俺の高校受験の時のこと」
「覚えてるよ。僕がまっずいおにぎり作ったことでしょ?」
「それ。おにぎりってまずく作れるんだなって感心するほどまずかった」
「で、作り直してくれた凛くんのおにぎりがおいしかったんだよね」
「…あれがきっかけだよ。あんたを好きになった」
「え? まっずいおにぎりが?」
「違う。俺が作ったおにぎりをうまそうに食べてくれるあんたを好きになった。すげー嬉しそうな顔で食ってんだよ、すげーかわいかった。好きだよ、兄さん」
実の弟から言われる二文字の言葉がまだ照れくさく、ついもじもじしてしまう。
もう一つ握ってくれた塩むすびを食べた。
「凛くんのごはんってホントおいしいね。毎日食べたいなあ」
呟いた瞬間「あ」と二人の声が重なる。恐る恐る見上げた先の凛太郎は、めずらしく頬を少し赤く染めていた。
「…言ったな」
「…言っちゃったねえ」
「……あんたの負けだな」
「……負けました。負けついでに昆布のおにぎりもう一個作ってください」
「はいはい」
隣でおにぎりを握る凛太郎の体に、凛はぴったりと体を寄せた。
ちらりと顔を上げれば、いつの間にこんなに背が高くなったんだろうと驚くほどの成長ぶりだ。
体も心も、すっかり大人だ。
「…ねえ凛くん」
「あ?」
「将来的に…毎日僕のごはん作ってくれる?」
「俺はその予定だが」
当たり前のようにそう言われて、ふふ、と雫は笑った。
握ってくれた昆布入りのおにぎりは、人生で一番おいしかった。
バンッ、と壁を叩きながらの怒号に思わず木村雫(きむら・しずく)はぎゅっと目を閉じた。
なんでこんなに怒っているのかわからない。
ただ話しかけただけなのに…。
「大体なあ! 俺がどんな思いでいるかわかってんのか!?」
「わ、わかんないよ…だって凛くん最近全然喋ってくれないし…。……そんなに僕のこと嫌いなの?」
思わず目元に涙が浮かぶ。
四歳年下の大好きな弟から嫌われているなんてイヤだ。
泣きそうになる顔で見上げると弟は…凛太郎(りんたろう)はチッと舌打ちをした。
「嫌いじゃねえから困ってんだよ」
勢いよく顎を掴まれた。
「あんたのことが好きだから困ってんだよ!」
重ねられる唇に雫は目を大きく見開いたーー。
数時間前。
「ただいまー」
数週間振りの実家へ帰りリビングへ行くと、ちょうど母と弟の凛太郎が夜ごはんの最中だった。
「あらおかえり。ごはん食べるでしょ?」
「うん食べる。お父さんは?」
「残業だから先に食べてんのよ~。今日は泊まってくの? 一応布団は用意してるけど」
「あー…仕事持ち帰ってるから帰ろうかな…」
ちらりと凛太郎を見ると、ギロリと睨まれたので雫は震え上がった。
(ひーっ! 今日も凛くん機嫌悪いっ!)
ついあたふたしながら「た、ただいま凛くん」と声をかけるも食事中というのに勢いよく立ち上がってリビングを出て行った。そのままドスドスと大きな音を立てて二階の自室への階段を登っている。
大盛りの白米の茶碗を手渡しながら母が笑った。
「あんたまた凛怒らせたの~?」
「そんな理由見当たらないけどねえ…。ていうか凛くん反抗期じゃないの?」
「あたしとお父さんにはそんなこと全くないわよ。家事だって手伝ってくれるし。今日だってこのエビチリあの子が作ったのよ」
「ええー、僕にだけ反抗期…」
ガックリと肩を落としながら「いただきます」。エビチリと共に白米をかっ込むと、辛いものが苦手な雫にも食べられる辛さのエビチリだったので嬉しかった。
「おいしい! これ凛くん作ったんだよね? 絶対一人暮らしの僕より家事スキル高いって」
「あの子器用だからね~」
「でも僕にだけ反抗期…」
エビチリがおいしいのにこれではおいしさ半減。…それでも自分の作るごはんより遥かにおいしいけれど。
母が笑った。
「何したか知らないけど、さっさと凛に謝っときなさい」
ーー雫は二階への階段を登っていた。
(謝っときなさい、って言われても何もしてないんだよお…)
二十歳の雫は仕事に通いながら近所のアパートで一人暮らしをしていた。時折こうやって休み前には夜ごはんを食べに実家へ帰るのだが、ここ一年ぐらい凛太郎の機嫌がずっと悪い。
現在高校一年生だから思春期真っ只中だと思うのに、どうやら両親には普通に接しているようでこんなにもギスギスした態度を取るのは兄の雫だけらしい。
コンコン、と部屋のドアをノックする。
「凛くーん、入っていいかな…?」
返事がない。待っていると一生待ちそうな気がするのでそっとドアを開けた。
部屋の中ではベッドの上で凛太郎がうつ伏せになっていた。
「あ、あの…」
「勝手に入ってくんじゃねえよ」
「だって何も言わないから…」
「だからって入ってくんな」
「ごめん…」
謝りながらドアを閉める。明かりも点けていない真っ暗な部屋、なんとか凛太郎の姿は見えた。
「…凛くん」
「んだよ」
「僕、凛くんに何かした?」
「何もしてねえよ」
「じゃあなんで僕にだけ…そんな態度なの? 僕…何かした?」
「だから何もしてねえって言ってるだろ。出て行け」
凛はぎゅっと両手を握りしめながら呟いた。
「そんなこと言わないでよ…。昔はよく一緒に遊んだし、一緒にお風呂に入ったり一緒に寝たり…。あの頃とまでは言わないけどさ、僕は凛くんと仲良くした…」
「気安く話しかけんじゃねえよ!」
バンッ、と壁を叩きながらの怒号に思わず雫はぎゅっと目を閉じた。
なんでこんなに怒っているのかわからない。
ただ話しかけてるだけなのに…。
「大体なあ! 俺がどんな思いでいるかわかってんのか!?」
「わ、わかんないよ…だって凛くん最近全然喋ってくれないし…。……そんなに僕のこと嫌いなの?」
思わず目元に涙が浮かぶ。
大好きな弟から嫌われているなんてイヤだ。
泣きそうになる顔で見上げると凛太郎はチッと舌打ちをした。
ベッドから起き上がりツカツカとこちらへ歩いてくる。
「嫌いじゃねえから困ってんだよ」
勢いよく顎を掴まれた。
「あんたのことが好きだから困ってんだよ!」
重ねられる唇に雫は目を大きく見開いたーー。
ピンポン、と鳴るチャイムに雫は目を覚ました。
「朝…」
閉じるのすら忘れ開かれたカーテンから朝日が差し込む。今日もいい天気だ。
雫は体を起こす。どうやって帰ったのか覚えていないが一人暮らしをするアパートへキチンと帰宅できたようだ。
「…凛くんにキスされちゃった」
思い出してはボッと顔を真っ赤にし、思わず口元を手で押さえる。
激昂した弟に顎を掴まれ勢いよくキスされた。
ーーあんたのことが好きだから困ってんだよ!
「凛くんって僕のこと好きなんだ…でも僕お兄ちゃんだよ…?」
兄弟でそんな関係なんてありえない、と熱い頬に触れていると再びチャイムが鳴った。
ピンポンピンポンピンポン…鳴り続けるチャイムに雫は慌てて立ち上がり玄関へ走った。
こんな朝早くに誰だろうーードアを開けるとそこには見知った顔が立っていた。
「へ…? 凛くん…?」
まさか先ほどまで考えていた相手が目の前にいるとは思わずぽかんと口を開ける。
まさか夢じゃないよね、と自分の頬をつねってみるも痛い。
「何してんだよ」
「いや、夢かと…」
「勝手に夢の中に俺を出すんじゃねえよ。さっさと入らせろ」
「あ、はい」
パタンと閉じた玄関の音にハッと我に返る。何も考えず通しちゃった! 昨日キスした弟を!
「座れ」
とっくに靴を脱ぎ小さなダイニングテーブルに腰掛けた凛太郎に指示されながら、僕の家なんだけどなあ、なんて思いながらとりあえず座る。
気まずい空気が流れた。
(…凛くん何しに来たんだろ)
昨日の今日である。しかもこんな早朝に。…あ、十時過ぎてる。
ギッ、と睨みつけながら凛太郎が口を開いた。
「昨日は悪かった」
「…それ謝る人の顔じゃないよね。めちゃくちゃ睨んでるけど…」
「あ? 人が下手に出てんのに何言ってんだよ」
「下手に出てるんですね…」
そんな態度でもないけどね。思わず滑りかけた口を手で押さえる。
ちらりと、凛太郎を見上げた。
聞こうか聞くまいか悩んだ末に口を開いた。
「…僕のこと好きなの?」
そう尋ねるとこくりと頷かれ、ボッ、と一瞬にして顔が真っ赤に染まる。
(ひーっ! 恥ずかしい! 照れるっ! で、でも僕はお兄ちゃんだから…!)
兄弟間でそういうことは絶対にダメ!
「で、でも凛くんの年齢だと年上の人に憧れるみたいな感じだと思うよ!」
凛太郎は盛大に眉間に皺を寄せた。
「は? あんたのどこに憧れられる要素があると?」
「辛辣だね…」
涙が出そうである。
「そりゃあ別に頭いいわけじゃないし顔だって普通だし特別何か秀でてるわけでもないし…」
「背は低いし頭は悪いし顔はちんちくりんだし足だって短え」
「うぅっ」
「でもなあ、好きなんだ。好きになったんだからどうにかしろ」
「そ、そう言われましても…ていうかむしろ僕にどうしろと…」
突然凛太郎がぽかんとする。
「そういや何も考えてねえな…」
「へ?」
「まさかそんな質問が返って来るとは思わなかったからむしろあんたをどうしたいか考えてなかった。いや、キスしたいしセックスしたいってのは決まってんだけどよ…それだけじゃねえっつか…」
腕を組んで急に考える素振りを見せる凛太郎に、今度は雫がぽかんとする。
(え…ぼ、僕とそんなことしたいんですか…)
キスもセックスもしたことない。…あ、昨日がファーストキスだ。
ぼぼぼ、と顔が真っ赤に染まりながら、ぐううう、と腹が鳴る。そういえば朝ごはんまだ食べてない、と焦って顔を上げると凛太郎にギロリと睨まれた。
「腹鳴らしてんじゃねえよ。ちったあタイミングを考えろ」
「うぅ…だってまだごはん食べてないもん…」
「…作ってやるよ」
盛大にため息を吐いた凛太郎が立ち上がり冷蔵庫の中を漁る。
しばらく待っていると目の前にとろけたチーズにまみれた食パンが出てきた。雫の顔がぱあっと輝く。
「何これおいしそう!」
「クロックムッシュ」
ナイフとフォークを差し出され受け取り、早速一口。
「! おいしい!!」
中にホワイトソースとハムが入り、とろとろのチーズに黒胡椒がアクセントになっている。
雫の顔が綻んだ。
「おいしーい!!」
「まだ食うんだったら二枚目作ってやるよ」
「食べる!」
あっという間に一枚目を食べ終えると早くも二枚目が登場。淹れてくれたカフェオレと共に食べるとやっぱりおいしくてしょうがない。
「すごいね凛くん! こんなおいしいの作れるんだ!」
「全然すごくねえだろ」
「すごいよ! だって昨日のエビチリもすごくおいしかった! 僕ね、一人暮らししてもう二年も経つのに全然料理うまくならないんだよねぇ。結構作ってるのに何が悪いんだろ…やっぱりセンスかな、僕もこれぐらいおいしいの作れたらいいなあ」
気付けば一人でペラペラ喋ってる、と顔を上げると、目の前の椅子に腰掛けテーブルに肘をついてこちらを見つめる凛太郎の視線とぶつかった。
目を細め口元が柔らかく上がり微笑んでいる。
ふ、と笑われる。む、と雫は頬を膨らませた。
「…なに」
「うまそうに食うな、って思って。そうやって兄さんがうまそうにメシ食ってる顔すげー好き」
「…なんか久しぶりに兄さんって呼ばれた」
「俺のメシうまいだろ?」
「悔しいけどおいしいです」
「うまいってあんたに言わせるためだけに頑張って勉強してんだよ。喜べ」
「…?? ありがとう…??」
お礼の言葉って引き出させるものだっけ?
こてんと首を傾いでいると「あ」と凛太郎が声を上げた。
「わかった」
「え?」
「最終的にあんたをどうしたいかがわかった」
凛太郎が、ニッ、と笑う。
「毎日メシを作ってほしい、って言わせたい」
「はあ…」
「わかったか? 毎日メシを作ってほしい、ってあんたが言ったら負けだからな?」
「はあ…」
なんでいきなり勝負なのだろう? というか何の勝負だ?
首を傾いでいると、ガタッ、と音をさせて凛太郎が立ち上がりこちらに近付く。
「すげー寝癖」
わしゃわしゃと頭を撫でられた。
そのままじっと見つめられ、思わず雫はドキッとしてしまう。
「俺だって不思議だよ。なんであんたのようなちんちくりんを好きになんなきゃいけねえんだ。しかも兄弟。しかもあんたが兄。でもな、悪いけど好きなんだよ。好きで好きでしょうがねえんだよ」
訴えかけるような瞳に、雫の心臓がドキドキと高鳴る。
なんでこんなに心臓が大きく跳ねるんだろう。
口元に手が触れ、はは、と凛太郎が笑った。久しぶりに見る楽しそうな笑い方に雫は思わず飛び上がりそうになった。
「パン屑ついてんぞ」
「だ、って…パン食べたから…」
「そういう隙だらけなとこもすげー好き。…悔しいけど好きなんだよ兄さん、あんたが」
唇が近づき、そっと重ねられた。
逃げることだってできたのにできなかった、いや、しなかった。
なんで逃げなかったのか…理由はわからないけれど、それでも目をつむって弟からのキスを受け入れてしまった。
「今日はオムライス作ってくれてるんだよねえ。楽しみ!」
仕事からの帰り道、雫はにこにことスマホを眺めながら帰路に着いていた。
凛太郎からのメッセージには何のコメントもなくただオムライスの写真のみが添付されていた。
突然のキスから一ヶ月、凛太郎はたまに学校帰りに雫の一人暮らしのアパートに寄っては食事を作っていた。いつ来るかわからずその日冷蔵庫にあるものだけで作ってくれるので、送られてくる写真だけが頼りだった。
鍵を差し込み玄関を開ける。ふわりとバターの香りが広がり、ぐううう、と雫の腹が鳴った。
「いただきます!」
洗った手をいそいそと合わせる。大きなスプーンを手に一口食べると途端に顔が綻んだ。
「おいしーい!!」
しかも大食漢の雫に合わせて巨大オムライスだ。食べごたえもあっておいしい!
あっという間に食べ終わり「ごちそうさまでした」。食器を洗いながらちらりと横を見ると、調理時に使用したフライパン類は全て洗われているのでなんともラクだ。
「凛くんって器用だよねえ、すごいよねえ」
ーー毎日メシを作ってほしい、って言ったらあんたの負けだからな。
あの日言われた言葉を思い返す。
「…結婚してください、って言ってるようなものだもんねえ…」
兄弟で結婚なんかできないよ、と言うと、一生いることはできるだろ、と返された。その通りである。
雫は水で濡れたシンクを見つめた。ピカピカだ、きっと凛太郎が磨いたに違いない。
「…なんで僕なんだろ」
凛太郎は自分と違って背も高いし体格も良いし顔だってかっこいいいし足だって長い。
それなのにこんなちんちくりんを選ばなくても…自分でちんちくりんと言って少し悲しくなってきた。
「…」
顔が熱い。
「…オムライスおいしかった」
合鍵を渡してしまうほどには弟を受け入れている確かな自分がいた。
金曜日、帰路に着きながらスマホを見るも何も連絡がない。
「今日は作ってないのかなあ」
がっかりする自分にハッと顔を赤くしながら玄関ドアを開けた。
凛太郎の靴がある。あれ、来てる?
そっと部屋へ入り寝室を覗くとシングルベッドで窮屈そうに体を縮めて眠る凛太郎がいた。
(あらら、寝てる)
学校帰りにそのまま来たらしい制服姿だ。ふふ、と笑いながら雫は枕元に腰掛けた。
「いつもありがとうねえ、凛くん」
真っ黒の髪の毛に触れながら弟の顔を見つめた。
いつの間にこんなに大人っぽくなったんだろう、寝顔が随分と成長してる。
(ここ一年ぐらいは僕にだけずっと反抗期だったから、寝顔なんて見るの久しぶりだなあ)
特別懐かれていたわけでもなければ特別嫌われていた兄弟仲でもない。本当に普通だった。
それが中学三年生の終わりぐらいから少しずつ喋らなくなり睨まれ、たまに話せたと思ったら怒号が飛んでずっと機嫌が悪い。
嫌われたのかなあと寂しかった。
だからこの一ヶ月はすごく楽しい。時折休みの日にも来てくれて、凛太郎が作ってくれたごはんを一緒に食べるのだ。
この間なんて一緒にスーパーへ出かけた。二人で出かけるなんて何年振りだろうと涙が出そうだった。
雫は凛太郎の頭を撫でる。
「凛くんの作ってくれるごはん、すごくおいしいよ」
頬に触れた時だった。カッと勢いよく目を開けた凛太郎に腕を掴まれベッドへ押し倒された。
突然の出来事すぎて雫の目がぱちぱちと瞬く。
「よお兄さん。弟の寝込み襲うとはいい度胸してんな」
「え、あ、え…? お、おそ、襲われてるのって僕だと思うなあ…」
「似たようなもんだろ」
凛太郎がニンマリ笑う。
「俺の作ったメシうまいか?」
「…おいしいよ?」
「毎日食いたいだろ?」
雫は唇を尖らせながらそっぽを向き「別に?」と精一杯の強がりを見せる。
「そ、それより早くどいてよっ。僕お腹すいたからごはん作って食べたいんだけど!」
「そういや今何時だ? 一眠りしようと思ったらもうあんたが帰って来てやがる」
そう言って凛太郎がスマホで時刻を確認するも「もうこんな時間か」と呟く。
ようやくここをどいてくれるとホッとしたのも束の間、顔が近づき思わずドキッとした。
「なあ」
「な、に…?」
「ゴホービくれよ。毎日あんたのためにメシ作ってんだから」
「…凛くんが勝手に作ってんじゃん。そりゃあありがたいけどさ…」
「じゃあくれ」
「んう」
唇が重なった。ちゅ、ちゅ、と角度を変えてかわいい音のするキスをしながら、べろ、と唇を舐められてほんの少し開いた隙間から舌が入ってきた。
雫の舌と強引に絡めながらどんどん奥へと入ってくる。
くちゅくちゅと水の音が混じる頃には息切れで目の前がぼーっと霞始める。
「ん、ん…」
「口じゃなくて鼻で息しろ」
あ、そっか。そんな単純なこともわからず驚くけれど、すぐに雫の瞳はとろんと落ちる。
歯の裏側をなぞられると体がゾクゾクする。唾液を注がれると溺れそうになるーーどれも初めての体験ですぐに息が上がってしまった。
「はっ、はっ…」
「あ? もう息上がってんのか?」
「だ、って…」
初めてだもん、と雫は頬を膨らませる。
凛太郎に見つめられ、ちゅ、と頬や目元にキスされる。くすぐったくて思わず目を細めた。
「なあ兄さん」
「ん…なに?」
「俺のキス、今までした中でどれくらい気持ちいい?」
「どれくらい、って言われてもわかんないよ…」
「比べられねえぐらいに数こなしてんのかよ」
「…反対だよ。初めてだもん」
「は?」
「……キスしたの凛くんが初めてだもん」
凛太郎の目が丸くなる。真っ赤な顔で雫がこくこく頷くと、いきなり倒れるように覆い被さられてびっくりした。
「り、凛くん!?」
「んだよ初めてかよ…言えよ!」
「何を…」
「俺が初めてだったら言えよ! もっとこう…ちゃんとしたあんたのファーストキスになりたかったよ!」
「し、知らないよっ。キミが勝手にキスしてきたじゃん!」
「俺のせいとでも言いたいのかよ!」
「それ以外に何もないでしょっ。て、いたっ」
ぶに、と頬を引っ張られた。そして凛太郎にギロリと睨まれる。あ。久しぶりにそうやって睨まれたかも。
「あんた自分がかわいいのわかってんのか?」
「へ?」
「ちんちくりんはちんちくりんでもすげーかわいいんだよ。だからてっきり経験済みだとばかり」
「貶してるのか褒めてるのか…」
「褒めてんだよ。兄さん、あんたはかわいい」
そう言って唇にキスされる。重ねるだけの優しい口付けに思わず目を閉じてしまう。
「ん、ん、ん…ん!?」
気持ちよくてつい体を委ねていると、さわさわと下腹部に触れられた。と思いきやすぐさまズボンのファスナーを下され性器に触れられた。
「もう勃ってんじゃねえか。弟のキスで感じるとは悪い兄さんだな」
パッと下を見ると、凛太郎の大きな手のひらに包まれた性器はすでに勃起しており、たらりと先走りの蜜さえ出す始末だ。
雫は顔を真っ赤にさせた。
「うぅ…だ、って…凛くんのキス気持ちいいんだもん…」
「ほう」
ニンマリと笑った凛太郎に「じゃあまだまだしねえとな」と再び唇を奪われた。
「んっ、ん……ふ、う…、んっんっ」
唇を重ねながらも凛太郎の手のひらは上下に動き、そのたびにぐちゅぐちゅと雫の性器から卑猥な音をさせる。
時折先端をぐりぐりと弄られるのが気持ちいい。
「腰動いてるぞ」
「ふ、う…だって、だってええ…」
「気持ちいいか? 俺に教えろ」
「きもち、い…凛くんの手で、ゴシゴシされるのきもちいい…」
凛太郎の目が鋭くなり睨まれる。と思いきやすぐにニッと唇を引き上げて嬉しそうに笑った。
「好きだぜ、兄さん。弟の手で気持ちよくなるあんたがな」
大きな手のひらの中に凛は吐き出した。
荒い呼吸を整えながらぼーっとしていると、凛太郎がティッシュで下腹部を拭いてくれる。
雫は真っ赤な顔を両手で隠した。
(凛くんにイかされた…しかも後処理までさせちゃってる…)
恥ずかしさやら何やらでいっぱいだ。「うがあああ」と変な声を上げてゴロゴロしていると狭いベッドである、すぐ凛太郎にぶつかった。
「んだよ、いてえ。おいコラ、無言で蹴るな。聞いてんのか」
ついでとばかりにゲシゲシ蹴っているとその足を掴まれなぜか体は凛太郎の腕の中。すっぽりと収まりが良く、あまりの居心地の良さに驚いた。
「…なんかすげージャストフィットするんですけど。兄さんあんたかわいいな…」
「こ、これは体格差だよっ。キミがどんどんでっかくなってくから…!」
「なあ兄さん」
「…なに」
聞き返しながらももうわかっている。さっきからグリグリと腰に固いものが当てられるのだ。
そっと、制服の上からそれに触れる。
熱い。硬い。そして大きい。
ぎゅ、と凛太郎に抱きしめられ、ちゅ、ちゅ、と頬や額に何度もキスされた。
雫はそっと目を閉じて受け入れ、弟のズボンのファスナーをゆっくりと下ろしていった。
(…これってよくないよねえ)
弟である凛太郎の腕の中で微睡みながら雫は考える。
お互いのものを抜きっこして早一ヶ月。凛太郎がアパートに来れば毎回のように抜きっこする仲になってしまった。
何度も止めようと思った…と言いたいが止めたことは一度もなく、毎回その気持ちよさに体を委ねていた。
(……でも気持ちいいんだよねえ)
腕枕をされながら頭にキスを落としてくれる。気持ちいい。このまま眠ろうかなあ、と微睡むと凛太郎が呟いた。
「は? 合コン?」
パッと顔を上げると凛太郎はスマホを見ている。誰か友達から合コンに誘われたのか? …高校生が?
むう、と雫は頬を膨らませる。
「凛くん合コン行くの? 僕がいるのに?」
凛太郎に白い目線を向けられた。
「それ無自覚で言ってんだよなああんたは」
「へ?」
「合コンは俺じゃねえよ、あんただよ」
「…あ! それ僕のスマホっ!」
よく見ると凛太郎が持っているのは雫のスマホである。「返してっ」と手を伸ばすもののスマホを掲げられては届かない。足だけでなく手まで短いとはっ。
「返してよー!」
「友達から合コンの誘いが来てますよ兄さん。行くのか?」
「行くわけないじゃん」
「なんで?」
「…知らないっ」
スマホを諦め凛太郎に背を向ける。しかしすぐにその小さな背中を包むように抱き込められた。
「俺もさ、来週誘われてんだよ。別のガッコの奴ら数人で遊びに行かね、って」
「…行くの?」
「どうして欲しい? あんたの返事次第で決める」
凛太郎の腕の中、雫は考える。しかし考える隙もないほどに答えなんて出てしまっているわけで。
むう、と頬を膨らませながら振り向いた。
「……行っちゃやだ」
凛太郎が目を細め「当然」と噛み付くようなキスを贈られ、雫は目を閉じて腕を伸ばした。
「ほい、大盛りごはん」
「わーい! いただきまーす! ふふふ、今日も凛くんのごはんがおいしいな」
「毎日食いたいだろ?」
「…知らない」
「いい加減認めてもいいんじゃねえの? 俺らの関係性についても」
「ごはん中はそういう話禁止っ。せっかく凛くんのごはんおいしいのに」
「へーへー。…兄さん」
「ん?」
「やっぱあんたがそうやってメシ食う顔好きだわ。すげーかわいい。うまい? 俺の作ったメシ」
にこっ、と雫は笑った。
「世界一!!」
きっかけは今でも覚えている。
高校受験の勉強の時だった。たまたま実家に帰っていた雫が、お夜食作ってあげる! と言いながら全くおいしくない夜食を作ったのだ。
さすがにこれで腹は膨れんと凛太郎が作り直すと、それをおいしそうに雫が平らげたのだ。
『凛くんってすごいね』
嬉しそうにおいしそうに食べる雫に、兄に、恋をした。
それ以降、自覚した恋心が恥ずかしいやら照れくさいやらで本人である雫につい当たってしまったが、最近になってようやく態度を軟化させることができた。
怒号の中でのあのキスが、状況を一変させたと凛太郎は思っていた。
相手は実の兄だ。悩まなかったと言えば嘘になるが、それでも好きだ。だから手に入れたい。
(俺のメシを一生食いたい、って絶対に言わせてやるからな)
兄弟は結婚できない。でも一生をそばに居させることはできる。今はまだ学生の身だ、だから口約束だけでいい。
効力も何もないのはわかっているーーでも子供の身分で他にどう雫を縛りつければいいのかがわからない。
だから今は言葉だけでいい。雫からの言葉が欲しい。
金曜日の夜、一度家へ帰って着替えてから雫のアパートへ向かった。貰った合鍵を手に中へ入り、今日は何を作ろうかと冷蔵庫と相談する。
(しっかし、合鍵くれって言ったらくれるとは)
それほどまでに胃袋を落としつつある…今日もうまいものを作ろうと凛太郎は頷いた。
ーー帰宅した雫はめずらしく機嫌が悪かった。
「今日は仕事でむしゃくしゃしたの」
「ああそう」
「だから!」
そう言って取り出したのは一本の酒だった。
「今日は飲みます!」
「アルコール度数3%の缶チューハイ一本…は? これだけ?」
「べろんべろんに酔えます!」
今日は酒に合いそうな蓮根とつくねのはさみ揚げを作っている、多分ちょうどいいだろう。
(そういやコイツが酔ったとこ見たことねえな)
そもそも二十歳になったばかりだ、つい最近飲み始めたのだろう。
果たして兄は酒に強いのか弱いのか…その結果は一時間も経たないうちに出た。
「ふへえ~…りんくぅ~ん…」
顔を真っ赤にし目がとろんと落ちる雫は酔いに酔いまくり、なぜかソファーに座る凛太郎の膝の上に向かい合わせに座り缶チューハイを飲んでいた。
「今日もごはんおいしかったあああ。ありがとにゃああ…」
「…あんた相当酒に弱いな」
「ふへえええ? なんでええ?」
雫から缶を取り上げ揺らしてみるも凛太郎の眉間に皺が寄る。まだ半分以上残っているのにこの状態とは。
(コイツでこんな感じなら俺も弱いんだろうな…)
きっと酒に弱い遺伝子なのだろう、自分は二十歳過ぎてもあまり飲まないようにしようと誓った。
雫の小さな手が伸びた。
「まだのむううう」
「もうやめとけ」
「なんでえ?」
「いいからやめとけ」
「ん~…じゃありんくんとお話するうう」
缶チューハイを遠ざけると雫に擦り寄られた。
この関係性はだいぶ進んだように思えたけれど、今のように膝の上に座ったり擦り寄られることはほとんどない。
単純に嬉しいけれど相手は酔っ払いである。
「ねえりんくん!」
「んだよいきなりうるせえな」
「僕はさみしかったんだからね! きみが…キミがいつも僕をゴミを見るかのような目で見るからあああ」
途端に泣き始めた。この酔っ払いが。
しかし凛太郎は硬直する。
(俺そんな目えしてたか?)
睨みつけていた自覚はある。好きなのにどうしていいかわからないイライラが態度に出たとは思うが、まさかそんな風に見えていたとは…。
凛太郎は盛大にため息を吐いた。
「はいはい、悪かった悪かった」
少々子供っぽいが背中をトントンしてやると、ぐすぐす鼻を鳴らしながらも雫が泣き止んだ。
ついでに目元の涙を舐め取ってやると途端に、にひひ、と笑った。
「ぼくねえ、りんくん大好き!」
「ほう?」
「だってさーりんくんかっこいいじゃん? 背だって高いしー、頼りになるしいいい。でもねえ、りんくん知ってるうう?」
「何をだ」
「ぼくたち兄弟なんだよ!!」
「知ってる」
「知ってたの!?」
びっくり顔の雫に、やっぱり酔っ払いだなと改めて感心する。
今にも眠りそうな目元を擦ってやった。
「兄弟でもなあ、好きなもんは好きなんだよ。俺はあんたが好きだ。…まあ酔っ払いに言ってもしょうがねえか」
頬を撫でると雫は早速目を閉じている。そろそろ限界だろう。
「んううう~…ぼくもりんくんすきだよお?」
「はいはい」
「ホントだからねっ。ホントに、ぼく、りんくんだいすきだから……」
あっという間に寝息を立てながら雫は眠ってしまった。
再度、凛太郎は盛大なため息を吐く。
「…どこまでホントなんだよ、この酔っ払いが…」
ーーりんくんだいすきだから。
この酔っ払いのセリフをどこまで信じ切っていいのやら。
でも、確実に喜んでいる自分がいる。
「…兄さん」
腕の中でくうくうとかわいらしい寝息を立てながら眠る雫を抱きしめた。
「好きなんだよ、あんたのことが」
ぐ、と穴に性器を押し付けられ雫は息を飲んだ。
眉間に皺を寄せながら再度、凛太郎に聞かれる。
「いいのか? 一線越えるぞ。もう戻れねえからな」
「い、今更もう遅いよ…」
真っ赤な顔で、ぎゅうう、と凛太郎の首元に抱きつくと「それもそうだな」と笑いながら腰を押し進めてきた。
「んっ! んんっ、う、あ、あ…っ」
大きな質量が体の中に挿ってくる。丁寧に解されはしたけれど、内臓が競り上がるような感覚にぎゅっと目をつむった。
「息しろ。こっちだって苦しい」
「あ、ごめっ……は、は、は……あ、あ…」
慌てて呼吸をすると、少しずつ凛太郎のものが挿ってきた。熱いーー。
根本まで全て飲み込んだところで前髪をかき上げられた。
「あーあ、もう戻れねえ。いいのか兄さん」
「…僕に聞かないでよ」
「責任は取る」
「……どうやって?」
「一生あんたのメシを作ってやるよ」
思わずくすりと笑ってしまった。凛太郎らしいセリフだ。
「でもまだあんたから言ってもらってない。毎日メシ作ってほしい、って。おい、目え逸らすな」
頬に手を添えられると思わず擦り寄ってしまった。
大きな手のひら。
この大きな手で触れられると気持ちいい。
「絶対に言わせてやるからな。覚悟しろ」
覚悟なんてもうとっくにーー雫は手を伸ばして覆い被さる凛太郎の前髪をかき上げた。
ぽたりと汗が落ちてくる、大人っぽい顔。僕の弟はいつの間にかこんなにも大人になってしまった。
顔が近づく、雫が目を閉じると唇を重ねられた。お互いに舌を出してお互いを求め合うキス。
腰を抱え上げられ、ぎゅ、と凛太郎に抱きついた。
「はあっ、あっ、あっ、…んんっ、んっああ、あ…っ」
「兄さん…」
優しくも奥を穿つ。凛太郎の腰に脚を絡め、雫も快感を追い求めていく。
やがて内側で凛太郎自身が果てた。これでもう完全に一線を超えてしまったーーそう思いながらちらりと見上げた凛太郎は嬉しそうに笑っており、雫の心臓がドキッと大きく高鳴った。
「はは、とうとう兄さんを俺のものにできた」
「…僕は僕のだよ」
「いーや、あんたはもう俺のだ」
「……じゃあ凛くんが僕のものってことで」
「うるせーやつ」
楽しそうに睨まれては雫の首元に噛みついた。
「あ、俺そろそろ試験勉強したいからしばらく来れねえわ」
「んー、わかった」
「浮気すんなよ。勝手に合コンとか行くなよ」
「…それを言ったら凛くんだってそうじゃん。僕なんかより遥かにかわいい子学校にいっぱいいるでしょ」
「は?」
ギロリと睨まれた。
「あんた以上にかわいい存在なんかいねえよ」
雫は顔を真っ赤に染める。
「ぼ、僕のことそんな風に言うのだって凛くんしかいないよ…」
「当たり前だろ。あんたは俺のだからな」
一線超えた辺りから独占欲強くなったなあ、なんて思うも居心地が良いと思う雫だった。
家までの道のりをとぼとぼと歩く。ここ一週間ほど、試験勉強に精を入れたいと言った凛太郎とは会っていない。
したがってこの一週間は凛太郎の作るごはんを食べていなかった。
飢えている。凛太郎ごはんに飢えている。
スマホを取り出し実家に連絡して、アパートへの道ではなく実家への道を歩いた。
「ただいまー」
実家と一人暮らしをするアパートは徒歩十分程度だ。
「あらおかえり」
「あ? なんで来てんだよ」
リビングでは母と凛太郎が夜ごはん中だった。相変わらず父は不在である。
「あんたの分あるから食べるでしょ?」
「食べるー」
「じゃあ俺は勉強戻るわ」
そう言って凛太郎が立ち上がる。すれ違う瞬間に目と目が合いニヤリと笑われる。
盛大に睨まれることはなくなったけれど、実家でこういう反応はやめてほしいと雫は頬を膨らませた。
食卓に着くと大盛りごはんがやってきた。
「いただきまーす! …あれ、お母さんの作るごはんだ。今日凛くん作らなかったの?」
「さすがに試験勉強してるからね~」
ワンチャン実家ごはんが凛の手作りではと期待してしまった。まあ勝手に期待した自分が悪いが。
久しぶりに母の手料理を食べていると聞かれた。
「ようやく凛の反抗期終わったみたいね~。あんただけに向かう反抗期。仲直りしたの?」
思わず雫は吹き出しそうになった。
ごめんなさい。仲直りどころか一線超えました。
(なんて言えないっ)
ーー静かな実家のキッチンに一人、雫は立っていた。
母は帰宅した父ともう寝ているだろうから静かに遂行しなくては。
「さーて、試験勉強がんばる凛くんにたまには僕が作ってあげないとね」
とは言ってもおにぎりを握るだけである。冷蔵庫を開けると昆布が入っていたのでそれを具材にしよう。
手に水をつけて炊き立てごはんを握るも「あつっ」とすぐに手からボロボロと落ちてしまう。
「むうぅ、がんばるもん」
しかし握っても握ってもうまく形にならない。炊き立てごはんは塩梅が難しいと思っていると「何してんだ」と声をかけられ振り向くと凛太郎が立っていた。
「凛くん。どうしたの?」
「あんたまだ帰ってなかったのか?」
「あはは…凛くんにお夜食としておにぎり作りたいなー、と思いまして…」
「ボロボロじゃねえか」
「…僕って料理センスないよね」
「ねえな」
ハッキリ言われて胸が痛い。「ですよね…」と声に出すと「どけ」と凛太郎に場所を取られてしまった。
凛太郎が素早く、綺麗に形の整ったおにぎりを握った。
「わー、おいしそう…」
「さっさと食え」
「え、だって僕が試験勉強がんばってる凛くんに作ってあげようと…」
「早く食え」
目の前にツヤツヤおにぎりを差し出され、ごくりと喉が鳴る。やっぱり凛太郎の作るごはんはおいしそうだ、「いただきます!」とそのおにぎりにかぶりついた。
「ん~…おいしい…しかもこれ塩むすびなのになんでこんなにおいしいの…」
「次は昆布を入れてやろう。ほれ」
「いただきます! おいしい~…」
もうほっぺたがとろけ落ちそうだ。熱々おにぎりをハフハフ言いながら食べていると、凛太郎が微笑んでいることに気付いた。
「ん? 凛くん?」
「…兄さんあんた覚えてるか? 俺の高校受験の時のこと」
「覚えてるよ。僕がまっずいおにぎり作ったことでしょ?」
「それ。おにぎりってまずく作れるんだなって感心するほどまずかった」
「で、作り直してくれた凛くんのおにぎりがおいしかったんだよね」
「…あれがきっかけだよ。あんたを好きになった」
「え? まっずいおにぎりが?」
「違う。俺が作ったおにぎりをうまそうに食べてくれるあんたを好きになった。すげー嬉しそうな顔で食ってんだよ、すげーかわいかった。好きだよ、兄さん」
実の弟から言われる二文字の言葉がまだ照れくさく、ついもじもじしてしまう。
もう一つ握ってくれた塩むすびを食べた。
「凛くんのごはんってホントおいしいね。毎日食べたいなあ」
呟いた瞬間「あ」と二人の声が重なる。恐る恐る見上げた先の凛太郎は、めずらしく頬を少し赤く染めていた。
「…言ったな」
「…言っちゃったねえ」
「……あんたの負けだな」
「……負けました。負けついでに昆布のおにぎりもう一個作ってください」
「はいはい」
隣でおにぎりを握る凛太郎の体に、凛はぴったりと体を寄せた。
ちらりと顔を上げれば、いつの間にこんなに背が高くなったんだろうと驚くほどの成長ぶりだ。
体も心も、すっかり大人だ。
「…ねえ凛くん」
「あ?」
「将来的に…毎日僕のごはん作ってくれる?」
「俺はその予定だが」
当たり前のようにそう言われて、ふふ、と雫は笑った。
握ってくれた昆布入りのおにぎりは、人生で一番おいしかった。
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