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Act 9. 歯車が狂いだす鳥
過ち
しおりを挟む朝日の眩しさで目が覚めた。
いつの間にか寝てしまっていたようだった。隣にいたはずの伊吹はどこかに行っていて、部屋は殺伐とした雰囲気が漂っていた。
起き上がろうとした時、ふと感じた違和感の正体が明らかになった。
ジャラっとした金属音。音の出所を辿れば、足枷のようなものが足首に重く取り付けられていた。
「なんだこれ……」
思わず絶句する。
外そうと力を入れてもびくともせず、錠前によって固く閉ざされていた。
「伊吹っ!!」
大声を上げて伊吹を呼んでも部屋の主は現れない。
思わず舌打ちをして、鍵を探すべくベッドから降りようとすれば、予想外の鎖の短さに脚をとられ危うく床へと衝突しそうになる。顔面から衝突するのは避けられたものの、膝を思いっきり強打し、思わず声にならない悲鳴を上げた。
「いっっ……」
床にしばらく蹲って痛みが遠のくのを待って、ベッドへと再び上がった。力を入れると打った膝がジンジンと痛んだ。
いつの間にか服はパジャマに着替えており、身体もスッキリとしている所を見ると、伊吹が後処理をやってくれたんだろう。
そこまでは理解できたが、これはなんだ。
なんでこんなことになったのかが理解出来ず、外れない枷を抱えながら逡巡するが、答えが見つかるべくもなかった。
―――じゃあ、兄弟じゃなくなるまですれば良いのかな?
ぞくっとした感覚と共に、昨日の伊吹の言葉が蘇ってくる。
「まさか、このまま夏休みが終わるまでずっとこのままじゃないだろうな……」
悪い予感はどこまでも当たるらしい。
「さすが、織。なんでもお見通しなんだね」
いつの間にか戻ってきていた伊吹の絶望的な言葉に、俺は二の句が紡げなかった。
帰ってきた伊吹は手に袋を抱えたを開け、飲み物とおにぎりやらサンドイッチやらをバラバラとベッドの上に投げ出した。
「昼食は好きなの選んで?」
この不自然でおかしな状況にも関わらず、いつもの調子で進める伊吹にどんどんと事の重大さを認識し始める。ドクンドクンと警告音のように胸が大きく跳ねる。
「伊吹っ、」
「ごめんね、一人で寂しかったでしょ?」
そういう伊吹が一番寂しいのではないか。そう思ったものの、口に出すのは憚られた。
「伊吹、ふざけてないでこれ外せ」
「やだ」
「伊吹っ」
「だって外したら織、部屋に帰るんでしょ?」
「帰らない。だから早く外してくれ」
とにかくこの場を納めるには、この枷を外してしまいたかった。
「嘘。織はこれ外したら、絶対部屋に帰るよ」
「そういう問題じゃない。自分が何をしてるのか分かってるのか?」
「分かってるに決まってるでしょ。織を監禁してるの」
「……」
頭が痛くなった。
信用がない上、自分がやっていることを認識した上でこの暴挙だと言われれば、兄としてなんて言っていいかわからなくなる。
「俺なんか監禁してどうするんだ」
「夏休みが終わるまでずっと一緒にいようと思って。もちろん、夏休みが終わったらちゃんとこれ外してあげるから」
「悪戯にも限度がある」
「悪戯じゃないよ。僕は本気だ」
そう言った伊吹は熱に灼けたような目をして、真っ直ぐに俺を見ていた。
俺はその時ようやく犯した罪の重さを知った。
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