カイルとリーシャと異世界の理

エルザ

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20話・手品か奇跡か、強欲な剣士の絶望

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20話・手品か奇跡か、強欲な剣士の絶望





ギルドに鳴り響く、カツカツという硬質な靴音。
リーシャの前に現れたのは、磨き抜かれた銀の軽鎧を纏った、凛とした佇まいの女剣士でした。

彼女の視線は、リーシャの背に無造作に背負われた『竜の顎』に釘付けになっています。

「……その剣、王都のオークションですらお目にかかれない名品よ。私がずっと探していたものだわ」

女性は一歩踏み込み、リーシャを射抜くような鋭い視線で見つめました。

「悪いけれど、それをあなたが持っているのは『宝の持ち腐れ』というより、もはや罪悪ね。……それをまともに扱えるの?」

「扱える……? ええ、もちろんです! お掃除の時とか、とっても便利そうですよ!」

リーシャが屈託のない笑顔で答え、ひょいと、その巨剣を片手で軽々と引き抜きました。本来なら屈強な大男が両手で支えるべき重厚な大剣が、リーシャの手の中ではまるでおもちゃのステッキのように軽やかに空を切ります。

「(……っ!)」

女性の目が驚愕に見開かれました。
しかし、彼女はすぐに自分の中で「納得」の理由を作り上げました。

「……なるほど。相当な金額を積んで、超一流の魔術師に『軽量化(フェザー・ウェイト)』の付与をさせたのね。成金らしいやり方だわ。でも……」

女性は腰の細剣(レイピア)の柄に手をかけ、冷ややかに言い放ちました。

「剣を軽くしたところで、持ち主に技術がなければただの棒切れと同じ。あなたはそれを振るうための筋肉も、間合いの取り方も、実戦の覚悟も持っていない。……だから、それを私に売りなさい。その方が、その剣も幸せよ」

「えっ、嫌です。これ、カッコいいから気に入ってるんです」

リーシャは、相手の圧に押されることもなく、即答しました。

「カッコいい……? あなた、命を預ける武器をファッションか何かだと思っているの?」

「ファッションというか、憧れです! それに、いつかドラゴンに会った時に、これでカッコよく『お掃除完了!』ってやりたいんです」

女性の顔が、侮蔑と怒りでわずかに引きつりました。

「……ドラゴン。笑わせないで。一流の騎士団ですら命懸けの相手を、そんな浮ついた気持ちで口にするなんて。いいわ、どうしても譲らないというなら、少し分からせてあげる」

一触即発の空気。
カイルは横で、剣の束を握ろうとする女性の手元を見ながら、内心で深い溜息をついていました。

「(やめておけ。こいつに『技術』なんて必要ないんだ。こいつが剣を振るうのは、技術で斬るためじゃない。ただの『演出』なんだからな……)」

カイルは、この「分かっていない」女性剣士が、リーシャのデタラメな力の犠牲(精神的な意味で)にならないか、少しだけ同情し始めていました。

「……ふん。意地っ張りなこと」

女性剣士はリーシャの言葉を鼻で笑うと、奪い取るように『竜の顎』の柄を掴みました。

「いい? 剣の重さを消すなんて小手先の細工に過ぎないわ。本当の重みを知らない者に、名剣を持つ資格はないのよ」

女性が剣を引き寄せると、その顔に一瞬、驚きの色が浮かびました。
彼女の手に伝わってきたのは、決して「羽毛のような軽さ」ではありません。ずっしりとした、霊銀特有の重厚な手応え。剣士として長年培ってきた感覚が、「これは本物の名剣だ」と、その確かな質量を通じて告げていました。

しかし、おかしいのです。
女性は両手でしっかりと踏ん張り、その重みを支えながら剣を構えましたが……それはどう見ても「全力で扱わなければならない大剣」の挙動でした。

「……ええ、確かに重いわね。軽量化なんてされていない、まぎれもない本物。……でも、だとしたらどういうことなの?」

女性は困惑した瞳で、隣に立つリーシャを見ました。
リーシャは、先ほどまでこの巨剣を、まるでお菓子の袋でも持つかのように片手で、軽々と、何の力みもなく振り回していたのです。

女性が持てば「相応の重さを持つ名剣」。
リーシャが持てば「質量を無視したステッキ」。

「……あなた、これをどうやって持っているの? 私が持つと、こんなにしっかりとした『重み』があるのに……。あなたにはこれが重くないとでも言うの?」

「重いですよ! でも、なんて言うか……『私にとっては、ちょうどいい重さ』なんです」

リーシャは、女性の手からひょいと剣を受け取りました。その瞬間、リーシャの手の中で剣は再び物理法則を無視したような軽やかな軌道を描きます。

「あ、分かりました! おじさん、これを私専用に、**『私が持つ時だけ最適化される』**ようにオーダーメイドしてくれたのかも! さすが、高いお金を払っただけありますね!」

リーシャが天然の笑顔で「ズレた」納得をしました。
実際には、リーシャ自身が「私が使う剣なんだから、私が使いやすい重さであるべき」と、無意識に自分への物理干渉だけを「否定」しているのですが、それを知らない女性には、空前絶後の高度な魔導技術によるパーソナライズに見えました。

「……オ、オーダーメイドの、最適化……? あなたが、持つ時、だけ……?」

女性の喉がヒクりと鳴りました。
「持つ者の感覚に合わせて質量を最適化する」なんて技術、王室の宝具にすら聞いたことがありません。それを、ただの村娘が「カッコいいから」という理由だけで、日常使いの掃除道具として持ち歩いている。

「あ、呆れた……。技術がないどころか、道具に甘えきって……! 魔法の力で重さを誤魔化して、それで剣を扱っているつもりなの!? あなたがやっているのは剣術じゃない、ただの手品よ!」

女性はプライドを粉々にされながらも、必死に声を荒らげました。

カイルは隣で、もはや顔を覆わんばかりの表情で天を仰いでいました。
(……違うんだ。最適化なんて高尚な仕掛けじゃない。こいつはただ、自分の都合がいいように『世界のルール』を掃除してるだけなんだよ……。それを『手品』なんて言葉で片付けられたら、まだ平和だったんだがな……)
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