カイルとリーシャと異世界の理

エルザ

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21話・ゴブリンの掃討、手品と言い張る剣士の矜持

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21話・ゴブリンの掃討、手品と言い張る剣士の矜持


「……本当は、今ここで剣の何たるかを叩き込んでやりたいところだけど」

女性剣士は、リーシャがひょいひょいと軽快に振り回す大剣を忌々しげに睨みつけ、拳を固く握りしめました。

本来なら模擬戦を申し込んで、魔法に頼り切ったその「手品」を叩き潰してやるつもりでした。しかし、先ほど自分が手にした時のあの『本物の質感』と、それを羽毛のように扱うリーシャの異常な対比を見て、本能が警鐘を鳴らしたのです。

(……得体が知れない。もし仮に、あの質量を自在に操る付与(エンチャント)が本物なら、不用意に打ち合えばこちらの細剣(レイピア)が粉々にされるわ)

彼女はプライドを辛うじて保つため、剣を抜く代わりに冷たい言葉を投げかけました。

「最近、この街の近くで『ゴブリンジェネラル』が討伐されたという噂を聞いたわ。あれほどの大物が、不自然に、まるで『消滅』したかのように倒されていたそうね」

女性は一瞬、隣に立つ無口なカイルに疑いの視線を向けましたが、すぐにリーシャへと戻しました。

「あんな特異種が二度も現れる可能性は、万に一つもないでしょう。……だから、せいぜい普通のゴブリン退治で、その高価な『おもちゃ』がどれだけ役に立つか見せてちょうだい。……ついてきなさい、私が監督してあげるわ」

「えっ! ゴブリン退治ですか? やったぁ、初仕事ですね、カイルさん!」

リーシャは、監督という名の「監視」を付けられたことにも気づかず、純粋に初任務を喜んで飛び上がりました。

「……おい。勝手に盛り上がるな。面倒なことに巻き込まれるのは御免だと言ったはずだ」

カイルは深々と溜息をつき、頭を押さえました。
彼が危惧しているのは、リーシャがゴブリンに襲われることではありません。
**「ゴブリンの群れが、リーシャの『お掃除』によって、文字通り塵一つ残さずこの世から消去される光景」**を、このプライドの高い女性剣士に見せてしまうことです。

「いいじゃないですか! ドラゴンへの第一歩ですよ! さあ、行きましょう!」

リーシャは『竜の顎』を背中に担ぎ直し(やはり物理法則を無視した軽快な足取りで)、ギルドの出口へと駆け出しました。

「……待ちなさい! まったく、礼儀も知らないんだから……!」

女性剣士が後を追い、カイルは「……やれやれ」と肩をすくめて最後尾につきました。

『……ねえ、カイル。あの女剣士、たぶん後悔するわよ。自分の目で「世界のバグ」を目撃することになるんだから。……ま、私としては、あの高飛車な顔が絶望に染まるのが楽しみだけどね』

キルケがリーシャの肩の上で、邪悪に目を細めて笑いました。



「はあっ、えいっ! ……お掃除、完了です!」

森の茂みから飛び出してきた三匹のゴブリンに対し、リーシャは背中の大剣『竜の顎』を力いっぱい振り回しました。

その動きは、やはり訓練を受けた剣士のそれではありません。重い物を遠くへ放り投げるような、遠心力に任せた素人のなぎ払いです。本来なら、剣の重さに振り回されて隙だらけになるはずの挙動。

ところが。

ズバッ、ズババッ!

名剣の驚異的な切れ味(と、リーシャが無意識に「重さ」と「空気抵抗」を否定しているスムーズな加速)が、ゴブリンの棍棒ごと、その身体を鮮やかに切り裂きました。

「……えっ?」

後ろで見ていた女性剣士は、思わず声を漏らしました。
彼女の目に見えたのは、**「超高性能な剣が、持ち主の未熟さを補って余りある働きをした」**という光景でした。

ゴブリンたちは深手を負い、あるいは絶命して転がっています。先ほどの「消滅」のような怪奇現象ではありません。血も出れば、死骸も残る。……ただ、その切り口が、あまりにも「綺麗」すぎるのです。

「……ふう。やっぱりこの剣、すごいです! 私が適当に振っても、吸い込まれるみたいに当たってくれるんですよ!」

リーシャは、刀身についた僅かな汚れをハンカチで丁寧に拭き取りながら、無邪気に笑いました。

「………………ちょっと、見せなさい」

女性剣士は、震える手で転がっているゴブリンの死骸を確認しました。
驚いたことに、切り口には一切の「ささくれ」がなく、まるで熟練の料理人が研ぎ澄まされた包丁で一気に引き斬ったかのような、滑らかな断面になっていました。

(……おかしいわ。あんなデタラメなフォームで、これほど正確に骨を断ち切るなんて。……いえ、それだけじゃない。返り血が、彼女に一滴も飛んでいないのはどうして?)

女性は納得がいきませんでした。
リーシャが「普通に」振ったのは間違いありません。魔力による爆発も、空間の歪みもなかった。……けれど、結果があまりに「効率的」すぎるのです。

「……今の、本当にただ振っただけなの? 何か特殊な魔力付与(エンチャント)を発動させたんじゃないの?」

「えっ? 付与……? いえ、ただ『汚いからあっちに行って!』って思いながら、お掃除するみたいに振っただけですよ。……ね、カイルさん?」

「……ああ。こいつは、掃除の邪魔になるものには容赦がないからな」

カイルは、あえて「剣の性能」に話を逸らすように、女性剣士に視線を向けました。

「見ての通り、剣が良すぎるんだ。持ち主の殺意……いや『掃除したいという意思』を、この霊銀が過剰に汲み取って、最適な軌道に導いているんだろう。……さすが、数千万ゴルドの名剣だな」

「……そ、そうね。そうに違いないわ。道具が持ち主を助けるなんて話、たまに聞くけれど……。それにしても、あんまりだわ。剣術の研鑽も積んでいない娘が、名剣の力だけでこれほど『鮮やか』に立ち回るなんて……!」

女性剣士は、唇を噛みました。
「魔法で消した」わけではないからこそ、逆に「道具の性能だけで、自分の技術の領域に土足で踏み込まれた」ような屈辱感と、それ以上の不可解な違和感が、彼女の胸の中で渦巻いていました。

「……納得いかない。もう一度よ! 次の群れでは、あなたの動きを瞬き一つせずに見てやるんだから!」

彼女は自分を納得させるための「決定的な証拠」を探すように、鼻息荒く次の獲物を探し始めました。
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