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第三章 夢の続き
世界が敵と成り果てても
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その後は、皆借りてきた猫のように黙って食事を続けた。まるで宴会から葬式に変わったようだった。アリスの衝撃発言に後を続ける者はいなく、分かったら黙って食え、との命令で何故かアリスをよく思っていなかった奴らも従っていた。
「・・・で、言い訳でも聞かせてもらおうか?」
「・・・・・・身体が勝手に」
「却下」
「・・・・・・口が勝手に」
「却下」
「グラスが宙に浮いたから止めようとしました!」
「なめてんのか」
「すみませんでした」
一方柚葉の方は、予想通りというか当たり前というか、アリスからの説教タイムだ。目立つ行動はするなと言われたのにあんな啖呵切って飛び出したのだから当然の流れなのだが、椅子に脚をくんで座るアリスの前に床に正座しているというこの構図は、そろそろ勘弁してほしい。足が痺れてきた。
「ったく、肝据わってんな、お前も。まるで猛獣の中に飛び込んだ小動物だったぞ」
「そ、それはありがとうございます」
「褒めてねぇわ」
「でも、武闘会に参加するなんて、よく言いましたね。そんな目立つこと」
「まあ、あんな下らない喧嘩の種は、多少潰しといてもいいと思ってな。俺を支持するしないは興味はないが、少なくとも”滅びの年に対応している第二王子”がどんなものかは分かるだろう」
それを是とするか、非とするかは個人が決めることだ、とアリスはそこは本当に興味がないらしい。
得体の知れないものに世界の運命を任せるとは不安なものだ。それが優秀な第一王子には敵わない、弟だと聞けば尚更。もし望む結果にならなかったときに、第一王子だったらと悔やむことは目に見えているからだろう。だったらせめて、その目でその得体の知れないものを確認すればいい。世界を託せるものかどうかを判断するのは、それからでも遅くはない。
ただ、それで納得を得られなかったからといって、アリスは役から降りることはできない。
その重圧に、耐え続けなければならない。
「アリスさんは、それでいいんですか?」
「何が」
「何がって・・・反感を買うのが平気な人はいませんよ?」
「あっそ」
箸にも棒にも掛からないアリスの反応に、柚葉は不満そうに唇を噛みしめた。そして、目尻をキッと上げてアリスを見上げる。
「分かりました!」
「は?」
「じゃあこの先、アリスさんのそのイケメンに靡く人がいなくなって、その冷たい態度に最初はかっこよさを感じていたけど飽きがきてしまってただのキザってる野郎と罵られて、実はめちゃくちゃ弱くって敵前逃亡しちゃうヘタレで、みんなみんなアリスさんを信用しなくなって、仕事しろって袋叩きに遭うようなことになっても!」
「ちょっと待て、もしかして俺今ディスられてる?」
「少しだけ」
「てめぇ」
アリスの片眉がピクリと動いたが、柚葉は構わず立ち上がって彼に詰め寄る。
「――――それでも、私はアリスさんの味方でいることにします」
僅かに見開いたアリスの目に、強く光を宿す柚葉の瞳が映った。
澄んだ声によく似合う、何にも染まらない気鋭な瞳だった。
「私が、アリスさんを守る盾となります」
こんな小さな身体で何を、とは思わせない覇気を宿した言葉。
同時に、それらを溶かして染み渡らせるようにヘラっと笑う顔。
「だから泣いちゃだめですよ?」
どこかはき違えている柚葉の言葉に、アリスは何も答えなかった。
いや違う。
何故か力を持つ柚葉の言葉に、答えることができなかったのだ。何人もの部下を統制する一国の王子が、こんな小さな少女に敵わなかったのだ。
「泣くか、馬鹿」
「あいて」
額をピン、と指で小突かれ、柚葉は肩を窄めた。
だがすぐに、へなへなとアリスの膝へ凭れ掛かった。思わずアリスが手を伸ばして支えてくれるが、デコピンしたくらいで一体何だ、と怪訝そうな顔をしている。
「あ、」
「あ?」
「足が痺れました・・・・」
***
元々寝かけていたところを起こして食事に行ったのだ。柚葉が布団に入って寝息を立てだすのに時間はかからなかった。ベッドは一つしかないと言っているのに、真ん中を陣取って気持ちよさそうに寝ている姿を、アリスは縁に腰かけて眺めた。
「あれだけ嫌がってたのに、堂々と寝てんじゃねーか」
短く息を吐き、柚葉の頬にかかる柔らかい髪を掬って耳へかけてやる。白い首筋や鎖骨に流れる髪はもう乾いているのに、その肌と共に濡れたような艶を放っていた。身体の細さの割に、抱き心地のよさそうな柔らかい曲線は保たれている。グラマラスとはとてもかけ離れているが、バランスのとれた四肢に色気を感じるのは無理もないだろう。
「んん・・・」
寝返りをうった勢いでネズミ捕りのように襲ってくる手をパシリと掴み、アリスはそれをそのままそっと布団の上に戻してやる。
「味方が襲ってくるなよ」
切り揃えられた前髪ごと頭を撫でると、足元に蹴られている布団を首元まで引き上げて、柚葉の身体を覆った。
それをしばらく見つめたあと、アリスは掛けてあった自分の上着をとってソファに寝転がって静かに目を閉じた。
「・・・で、言い訳でも聞かせてもらおうか?」
「・・・・・・身体が勝手に」
「却下」
「・・・・・・口が勝手に」
「却下」
「グラスが宙に浮いたから止めようとしました!」
「なめてんのか」
「すみませんでした」
一方柚葉の方は、予想通りというか当たり前というか、アリスからの説教タイムだ。目立つ行動はするなと言われたのにあんな啖呵切って飛び出したのだから当然の流れなのだが、椅子に脚をくんで座るアリスの前に床に正座しているというこの構図は、そろそろ勘弁してほしい。足が痺れてきた。
「ったく、肝据わってんな、お前も。まるで猛獣の中に飛び込んだ小動物だったぞ」
「そ、それはありがとうございます」
「褒めてねぇわ」
「でも、武闘会に参加するなんて、よく言いましたね。そんな目立つこと」
「まあ、あんな下らない喧嘩の種は、多少潰しといてもいいと思ってな。俺を支持するしないは興味はないが、少なくとも”滅びの年に対応している第二王子”がどんなものかは分かるだろう」
それを是とするか、非とするかは個人が決めることだ、とアリスはそこは本当に興味がないらしい。
得体の知れないものに世界の運命を任せるとは不安なものだ。それが優秀な第一王子には敵わない、弟だと聞けば尚更。もし望む結果にならなかったときに、第一王子だったらと悔やむことは目に見えているからだろう。だったらせめて、その目でその得体の知れないものを確認すればいい。世界を託せるものかどうかを判断するのは、それからでも遅くはない。
ただ、それで納得を得られなかったからといって、アリスは役から降りることはできない。
その重圧に、耐え続けなければならない。
「アリスさんは、それでいいんですか?」
「何が」
「何がって・・・反感を買うのが平気な人はいませんよ?」
「あっそ」
箸にも棒にも掛からないアリスの反応に、柚葉は不満そうに唇を噛みしめた。そして、目尻をキッと上げてアリスを見上げる。
「分かりました!」
「は?」
「じゃあこの先、アリスさんのそのイケメンに靡く人がいなくなって、その冷たい態度に最初はかっこよさを感じていたけど飽きがきてしまってただのキザってる野郎と罵られて、実はめちゃくちゃ弱くって敵前逃亡しちゃうヘタレで、みんなみんなアリスさんを信用しなくなって、仕事しろって袋叩きに遭うようなことになっても!」
「ちょっと待て、もしかして俺今ディスられてる?」
「少しだけ」
「てめぇ」
アリスの片眉がピクリと動いたが、柚葉は構わず立ち上がって彼に詰め寄る。
「――――それでも、私はアリスさんの味方でいることにします」
僅かに見開いたアリスの目に、強く光を宿す柚葉の瞳が映った。
澄んだ声によく似合う、何にも染まらない気鋭な瞳だった。
「私が、アリスさんを守る盾となります」
こんな小さな身体で何を、とは思わせない覇気を宿した言葉。
同時に、それらを溶かして染み渡らせるようにヘラっと笑う顔。
「だから泣いちゃだめですよ?」
どこかはき違えている柚葉の言葉に、アリスは何も答えなかった。
いや違う。
何故か力を持つ柚葉の言葉に、答えることができなかったのだ。何人もの部下を統制する一国の王子が、こんな小さな少女に敵わなかったのだ。
「泣くか、馬鹿」
「あいて」
額をピン、と指で小突かれ、柚葉は肩を窄めた。
だがすぐに、へなへなとアリスの膝へ凭れ掛かった。思わずアリスが手を伸ばして支えてくれるが、デコピンしたくらいで一体何だ、と怪訝そうな顔をしている。
「あ、」
「あ?」
「足が痺れました・・・・」
***
元々寝かけていたところを起こして食事に行ったのだ。柚葉が布団に入って寝息を立てだすのに時間はかからなかった。ベッドは一つしかないと言っているのに、真ん中を陣取って気持ちよさそうに寝ている姿を、アリスは縁に腰かけて眺めた。
「あれだけ嫌がってたのに、堂々と寝てんじゃねーか」
短く息を吐き、柚葉の頬にかかる柔らかい髪を掬って耳へかけてやる。白い首筋や鎖骨に流れる髪はもう乾いているのに、その肌と共に濡れたような艶を放っていた。身体の細さの割に、抱き心地のよさそうな柔らかい曲線は保たれている。グラマラスとはとてもかけ離れているが、バランスのとれた四肢に色気を感じるのは無理もないだろう。
「んん・・・」
寝返りをうった勢いでネズミ捕りのように襲ってくる手をパシリと掴み、アリスはそれをそのままそっと布団の上に戻してやる。
「味方が襲ってくるなよ」
切り揃えられた前髪ごと頭を撫でると、足元に蹴られている布団を首元まで引き上げて、柚葉の身体を覆った。
それをしばらく見つめたあと、アリスは掛けてあった自分の上着をとってソファに寝転がって静かに目を閉じた。
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