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2 悪役令嬢様の回答

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 その後もお小遣いで買える範囲で、色々なワインで試してみたが駄目だった。

 そもそも酒が飲めないメリーにはワインの良し悪しなど分からない。銘柄も分からない。

 うっかり最初と同じワインで試してしまったときは、メリー名指しで『お・の・み・な・さ・い』をやられてしまった。

 飲んだ後のことはよく覚えていないが、ふと気が付けばメリーの隣にはリキッドがいて、金貨を持つ手を上から重ねるようにして支えられていた。

 リキッドは真っ赤な顔をして、なぜか部長は不機嫌な顔をしていたのを覚えている。

 小遣いを前借りして買える一番高いワインで試してみても駄目だった。

『悪役令嬢様』はかなり舌が肥えているらしい。



「これならいけると思う」

 これ以上は無理だとメリーが諦めかけたとき、部長が桁違いに高そうなワインを持ってきた。

「ふふん。王国歴794年の赤ワインだ。この年は稀にみる当たり年でね。でも何故かワインの回収騒ぎが起きて、数が少ない。父の投機用のワインコレクションから譲ってもらった」

 メリーには当然価値など分からない。

 しかし、いつものように少し離れた場所で静かに本を読むリキッドに目を向けると「本気か!?」と言わんばかりの顔をしている。

 ……どうやらかなりの品らしい。


「流石にそこまでしていただく訳には……。とてもじゃないけど私には払えません」

「金など取る訳がないだろう。個人的に興味があるんだ。メリー嬢、ぜひ協力させてほしい。俺は本気だ」


 ワインを持ってずずい、とメリーに迫る部長。

 部長の目には妙な熱がある。ただしメリーに対してではない。

 なぜならば。


「これで霊の存在の解明に一歩近づけるのだから!!」


 彼の興味はそこに尽きる。霊の研究、オカルト研究会部長はそれだけに情熱を注いでいた。


 彼もまた転生者だ。前世でもオカルト研究会に所属していたという筋金入りの心霊好き。

 メリー含め転生者はその辺に理解があるが、この世界では霊の研究はかなりの少数派に入る。

 この世界には「魔法」が実在するからだ。

 ポルターガイストなどの心霊現象、幽霊。全てが魔法で説明出来てしまう。

 そんな世界で霊にこだわる部長は学園でもかなりの変わり者だった。

 しかし、苦手な者は苦手。好きな者はどこまでも好き。両極端なのが心霊関係の話題。

 そしてどこまでも好きな者に入る部長はこうなったら一歩も引かないのは分かっている。


 ……それに、メリーにはどうしても確かめたい事がある。


 だからメリーはありがたくワインを使わせてもらうことにした。




『し・つ・も・ん・は・?』

 高級ワインの効果は絶大だった。

 現れた悪役令嬢様にウェルカムドリンクを溢される事はなかった。順調に次の段階に進んだ。

 どうやら気に入ってもらえたらしい。


 ようやく質問が許可された。

 メリーは緊張を紛らわそうとひとつ、大きく深呼吸をした。そして、ずっと聞きたかったことを質問した。


「悪役令嬢様、悪役令嬢様。私の婚約者のシャイン様に、お付き合いをしている方がいるというのは本当でしょうか」

『もちろんですわ』


 迷うことなく答えに向かって金貨が動く。

 メリーはそれを、絶望的な目で見た。

 ふと机の上のワイングラスに目をやれば、グラスからワインが減っている。どうやら、質問ごとに減るらしい。

 メリーが部長を見ると小さく頷いた。彼もグラスを確認したようだ。


「悪役令嬢様、悪役令嬢様。シャイン様が心を寄せる方のお名前をお教えください」

『ゔ・ぃ・お・ー・ら』


(ああ、噂通りだ……)

 それは、最近学園内で囁かれている噂と同じだった。

 ヴィオーラ・ホルテンズィー子爵令嬢。菫色の髪に、赤みの深い紫の目を持つ可愛らしい女の子。

 メリーも何度か見たことがある。確か、一つ下の学年で――彼女も転生者だ。

 彼女とメリーの婚約者であるシャインが一緒にいるところは多くの生徒に目撃され、学園内でもかなりの噂になっていた。


 再びグラスのワインが減った。残量からすると、あと5問、というところだろうか。1問は帰ってもらうために残しておかなくてはならないから、実質4問。

 いや、おとなしく帰ってもらえなかったときのために、少し質問の予備は残しておくべきだろう。でも……。

 冷静でいるようで、メリーはやはり動揺していた。

 婚約者の心変わりがはっきりしたのだ。そもそも解決する方法なんてあるのだろうか。何を聞けばいいのか。

 そして、


「どうすれば……」


 つい、メリーがそれを口に出したとき。


 キラリ。
 金貨が光り、一瞬熱を帯びた。


 と、次の瞬間。


『わ・い・ん・か・け・ろ』

『き・ょ・う・か・し・ょ・か・く・せ』


 すごい速さで金貨が動く。どうやら、質問と受け止められてしまったらしい。


「悪役令嬢様、悪役令嬢様。止まってください……止まれって!!」


 部長が慌てて質問をするが、言葉を発している最中も金貨が動き回って、つい焦りから口調が荒くなる。


『の・ー・と・や・ぶ・れ』


 そこまで回答したところで。


『もちろんですわ』


 ……の位置まで金貨が動き、定位置である階段に戻るとようやく止まる。

 そして一気にしゃべって乾いた喉を潤すように。ごそりとワインが減る。

 それを見て、部長とメリーは間違いに気が付いた。ワインが減るのは質問の数じゃない。回答の数だ。

 大丈夫。まだ、1問分ワインは残っている。


「「悪役令嬢様、悪役令嬢様。ありがとうございました。どうぞ、お帰りください」」


 声を合わせて質問をする部長とメリー。しかし。


『ありえませんわ』


 悪役令嬢様は帰ってはくれなかった。



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