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347 偽王子(猫)のささやかな抵抗
しおりを挟むまさかの可能性に気付いて私が軽くショックを受けている間も、王子のマシンガントークは続く。
「日当たりは良くないというかまったくないが、塔地下ダンジョンは僕の庭みたいなものだからな。特に、封印中の闇堕ち竜が目覚めてリセットボタンを押されなくなった今は、コロコロ配置が変わることもなくなったから目をつぶっていても攻略できるぞ。実際に試してみたこともあるが、目を開けると僕を襲ってきたらしい強そうな魔物が地面に倒れているからな。原理はよく分からないが、これも元王太子だった僕の人徳というか、至って真面目に、かつ前向きに幽閉生活に取り組んでいる、僕の日頃の行いの成せる技なのだろう。きっと神的な何かが僕の努力を見てくれているのだな。そんなわけで、勝手知ったる地下ダンジョンのここぞというポイントに罠を張り、魚のおやつをエサにターゲットをおびき出して、連日連夜ダンジョン中を追いかけまわしてようやくコイツを捕まえたのだが、思いのほか抵抗をされてしまってな。噛むわ、蹴るわ、暴れるわで手が付けられなかったんだ。酷いだろう、おかげで僕もご覧の有様だ。まあ、監視の目を誤魔化すために、僕が着ている服にはあらかじめ国内最高レベルの品質保持魔法をかけてあるから、中身以外は痛くもかゆくもないがな! たとえ攻撃魔法で燃やされても無傷だし、見ての通り驚きの白さだ。どうだ、見事なものだろう!」
フフン! と、装飾過多の真っ白ジャラジャラ服でドヤ顔している王子様の腕の中で、猫ちゃんがイライラと自分のしっぽを王子に叩きつけている。いや、誤魔化すも何も、まさにその子が王子の言う監視側なんですけどね……
それと、王子が目をつぶっている間に魔物を倒してくれたのも、神的な何かではなく監視側の誰かだと思う。
ジト目で王子を見ると、いつもは整っている髪型が乱れてどことなく顔が煤けている。どうやら、かなり激しく抵抗されたようだ。
まあ、それはそうだろう。監視対象が自分を捕まえにきたら、全力で抵抗するに決まってる。同じ立場なら私だってそうするもの。
「……そっか、それは大変だったね(猫ちゃんが)。ほらほら、猫ちゃんこっちおいでー」
「にゃーぉ」
ああもう、いつも元気な猫ちゃんが情けない声を上げてるじゃない。可哀想に……おっと、手を伸ばしたら猫ちゃんがソッコーでこちらに飛び移ってきましたよ。
その際、さりげなく王子に蹴りをいれているところを見ると、猫ちゃんも相当頭にきているようだ。どんなに爪を立てても魔法効果で王子のジャラジャラ服は無傷だし、相変わらずキラキラのままだけど。
なるほど。だから『服以外』が汚れているんですね。それでも王子に大した傷が無いところを見ると、猫ちゃんもちゃんと手加減はしているようだ。
そりゃあ護衛対象にケガなんてさせられないだろうしなあ……。これはストレスが溜まっても仕方がない。
よしよしと頭を撫でてやると、猫ちゃんがスリスリと甘えてきた。おっと、王子に追い回されてよほど怖い思いをしたのか、猫ちゃんがデレモードに入っていますよ。
王子GJ☆
…………じゃなかった、反撃できない相手にあまり可哀想なことをしてはダメですよ。
まったくもう。よしよし、悪い王子様には私がガツンと言ってあげますからね。
あらあら、甘えちゃって。猫ちゃんたら、か~わいい♪
「ああ、召喚主。一見可愛く見えるが、ソイツもダンジョンに生息している凶悪な魔物だからな? 油断すると最大級の攻撃魔法を仕掛けてくるから気を付けた方がいい。僕もここ数日で何度も食らった。まあ、僕は魔力量も多いし超強いから、魔力を節約しつつ同程度の防御魔法を発動して、全て相殺してやったけどな! だけど、君は魔力がないし魔法も使えないから、当たったら間違いなく瞬殺されるぞ」
どうやら、猫ちゃんも完全に無抵抗というわけではなかったようだ。割とガチ目にやり返している。
……ってかさ、心配してくれるのはありがたいけど、王子もそんなに猫ちゃんが危険だと思っているなら、なんでウチに連れてきちゃったんですかね?
私はこの子の正体が偽王子(猫耳)だって知っているからいいけど、普通に考えて危ないでしょうが。
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