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354 白猫王子と召喚主
しおりを挟む「よいしょっと」
「なっ!? しょ、召喚主、いったい何を……」
「ほらほら、王子、暴れないの。上手くお水が飲めないんでしょ? 飲みやすいように、私が王子の体とお皿を支えていてあげるから」
「そ、そうか……。ゔゔ……厳しい王太子教育で各国のマナーを完璧に身に付けたこの僕が、水すらまともに飲むことができないとは。まさか、魔物の食事マナーが必要になる日がくるなんて思いもしなかった……」
……いや、まあ、それはそうでしょうね。
私だって、日常的に異世界から王子様を召喚するようになるなんて思わなかったし。そんでもって、その王子様が突然猫の姿になるなんて思いもしなかったし。
……ってかさ、頑なに認めようとしないけど、今の王子はどこからどう見たって猫なのに、どうしてそこまで魔物にこだわるかな。
まあ、可愛いから私としては別にどっちでもいいけど。
自称魔物姿の王子を抱っこして口元に皿を近づけてやれば、小さな舌を動かして一生懸命に水を飲んでいる。本人は必死なんだろうけど、見ている分にはすごく和みます。
そして、時間はかかっているが、お水もしっかりと飲めているようだ。
「よく頑張ったわね、いい子いい子」
「こ、こら撫でるな。僕は猫じゃないぞ!」
「あー、はいはい。『猫っぽい魔物』なのよね、ちゃんと分かってるって。よ~しよし♪」
「あっ、ちょ、召喚主、そこ……は……っ(ゴロゴロゴロ♡)」
顎の下を優しく撫でると、文句を言いながも気持ち好さそうに目を細めて、ゴロゴロと喉を鳴らす白猫ちゃん……って、ああもう、今日の王子ってばホント可愛いな!!
偽王子(猫)も触り心地がいいけれど、王族という最高の血統のせいか、単純に食べ物がいいからなのか、猫になった王子様は毛艶も良くて、本職(?)の猫ちゃんにも引けを取りませんよ。
これは、ついつい構い倒してしまいたくなりますね。
「ささっ、せっかくだからお魚もどうぞ。はい、あーんして」
「ま、待て、召喚主! 僕は魚とかそんなに好きじゃな……ってあれ? 意外と美味しいニャ」
どうやら、今の王子は味覚の方も外見に引っ張られているようだ。ほぐした魚を小さくちぎって口元に運んでやれば、もっとよこせと自らお口を開けて、次から次へと美味しそうに食べている。
こういうところは偽王子(猫)よりも素直ですね。あの子、気分が乗らないときはたとえ自分の好物でも、絶対にお口を開けてくれないからなあ。
気まぐれな偽王子(猫)と比べて、王子は性格も素直でとっても飼いやす……じゃなかった、もてなしやすいです。ブラッシングも素直に受け入れてくれるし、生まれながらの王子様だけあって、人から甲斐甲斐しく世話を焼かれることにあまり抵抗がないのかもしれない。
そのうち私の膝の上で気持ちよさそうにうとうとし始めたので、白猫ちゃんを起こさないように気を付けながら、この日は前期試験に向けての勉強をすることにした……ところまでは覚えているんだけど。
気が付くと翌朝になっていて、可愛い白猫ちゃんはアパートの部屋から消えていた。
おかしいな。バイトで朝は早いけど、せっかくだから王子をモフりながら限界まで頑張るつもりだったのに。
でもまあ、起きた時にはちゃんとベッドで眠っていたから、適当なところで試験勉強を切り上げたのだろう。
王子も自分で帰ったみたいだし、特に問題は無いはずだ。
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