36 / 364
36 召喚主と鈴木さん
しおりを挟む「いらっしゃいませ……あれ、鈴木さん!?」
早朝。外はまだ暗く、お客さんもあまりいない時間。スーツ姿の見覚えのあるお客さんに驚いた。
どうやら、昨日は残業で私からのメールに気が付かなかったことをわざわざ伝えに来てくれたらしい。こんな朝早くから逆に申し訳なく思ってしまう。
「あ、いや。これから帰るところだったから。朝食でも買おうと思って、そのついで。……何にしようかな」
「あ、じゃあコーヒーとかいかがですか? 今キャンペーン中でして、こちらのパンとセットで買うとお得ですよ。あっ、でも帰ってから寝るんじゃコーヒーは駄目か」
「あ、いや。会社で仮眠は取れたから。帰ったら久々に思う存分ゲームをやるつもりなんだ。だからちょうどいい」
「ゲーム……あ、じゃあ、コーラとポテトチップスもついでにいかがですか? 新フレーバーが出てますよ。なーんて」
「あはは、いいね。アイツのこと思い出しちゃったし、食べたくなりそうだから買っていくよ。帰ったら出かけるのも作るのも面倒くさいし、昼飯もついでに買っていこうかな。どれにしよう?」
「あ、こちら新商品で人気です。スプーンだからゲームしながら食べられるかも」
「いいね」
その他、飲み物やらおでこに貼る冷却シートやら色々買い込んで鈴木さんは笑顔で帰って行った。ガチでやりこむつもりだな。
「知り合い?」
「あ、店長! ハイ。あの、すいません。なんか朝食買いに来てくれたみたいで」
店の前を掃除していた店長が戻ってきた。仕事中に話したりしてまずかったかな、そう思ったんだけど。
「ああ、いや知り合いみたいなのに、メッチャ新商品お勧めしているから感心しただけ。その調子で!!」
よく分からないが褒められた。この日を境に、鈴木さんはちょくちょく、買いに来てくれるようになる。
「昨日は鈴木さんにメールしたのか? 返事は?」
「え? うん。したよ。返事は来てないけど」
その日の午後。召喚そうそう王子の様子が変だった。昨日もそうだけど、なんかやたら鈴木さんを気にしている。
これは、もしかして……。
「鈴木さんとこに戻りたいの!?」
「は!? 違う! なんでそうなるんだ」
なんだ違うのか。良かった。安心した。久々に名前を聞いて里心でもついたのかと思った。
ん? なんで私、安心してんだ? あ、そうか。
「……ウチの待遇に不満があって、鈴木さんの家の方が良かったのかもと「それはない」」
かぶせ気味の即答ですか。まあ、ペット用の自動給餌器で召喚されるよりはウチの方がマシか。
でも、仕方ないよね。鈴木さんあんな早朝に退社するぐらいの大忙しの会社員だもん。むしろ、よく召喚を続けられていたものだと感心してしまう。
「そうじゃなくて……その、今まで連絡なんて取っていなかったのに、どうして急に……と」
「ああ、なんだ。そんなこと?」
確かに鈴木さんとはフリマでラグを購入してからずっと連絡していなかった。連絡先を教えてもらったけど、特に用事もなかったし。ただ……。
「王子が突然目の前で消えた後、召喚できなくなっちゃったじゃない? ずっと心配していたんだけど、偶然バイト先に鈴木さんが買い物に来たの。ちょうどいいから相談にのってもらって、その時にメールアドレス交換したんだけど……ああ、そういえばあの日以来、メールするの初めてかも」
「そうか! 僕の心配をしていたのか。しかもメールの返事も来てないんだな!」
「うん。直接会ったから」
「え」
バイト中に来てくれたことを伝えると、ああなんだ、とホッとしていた。どうしたのか。召喚が久しぶり過ぎて、なんとなく落ち着かないのかもしれない。
そういう時には大好物で落ち着かせるに限る。
「これ。新フレーバーのポテトチップス」
「おお、コレもうまそうだ!」
パリパリパリパリ。
「でしょー。鈴木さんにもお勧めしたの」
パリ……。
何か王子が固まった。数秒したら動き出したけど。
何なんだろういったい。
87
あなたにおすすめの小説
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
異世界から来た華と守護する者
桜
恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。
魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。
ps:異世界の穴シリーズです。
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい
はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。
義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。
それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。
こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…
セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。
短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる