魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
73 / 374

73 鈴木さんとモーニングコールの思い出(前の召喚主視点)

しおりを挟む

 学生にとっては夏休み。とはいっても社会人である俺にはそんなものは関係ない。休みがとりやすい時期ではあるが、何だかんだと家庭がある者優先だし、人数が少なきゃ少ないで、急ぎの仕事がある場合には残業になったりもする。

 ここ最近は海外案件の仕事が続いていて時差の関係で残業になることが多かった。でも、お陰で自身の夏休み前にはある程度の目処がつきそうだ。

 そんな中。俺にとっての癒しの存在であるスポーツドリンクの女神改め『心の妹』の姿が最近見えない。

 残業はつらいが、朝食を買うために訪れる早朝のコンビニで彼女に会えるのをちょっとだけ楽しみにしていたのに。


 大袈裟かもしれないが彼女は俺の命の恩人だ。熱中症を起こしかけているところを渡されたスポーツドリンクで救われたし、残業で顔を合わせるたびにお疲れ様ですだの、お仕事大変ですねだの、声をかけてもらえるのが少なからず癒しになっていた。

 そんなある日。急な出張でかなりの早起きをしなくてはならなくなり起きられるか心配していたところ、彼女が親切にもモーニングコールで助けてくれた。

 かなり昔の話だが。入社したての頃、同じような出張であの悪魔……王子に目覚まし時計をいじられて、寝坊をしたことがある。始発に間に合わずタクシーを使う羽目になった時の心と財布の痛みは今も忘れられない。

 おかげで恐怖心から眠ることが出来ず、早朝からの出張はかなり無茶な徹夜で乗り切ることが多かったのだが。雑談の中、そんな事情を知った彼女がモーニングコールを引き受けてくれたのだ。

 あの時の感動は忘れられない。


♪♪♪~

「……はい、鈴木…」

『あっ、鈴木さんお早うございます』

「ああ……うん。起き……(うとうと)」

『あっ、まだ寝てるでしょー。ダメですよー。ほら、しっかり起きて! お兄ちゃん……じゃなくて鈴木さん!!』

「……今、なんて」

『あ、起きました?』

「いいから、今なんて?」

『鈴木さん?』

「もっと前!!」

『しっかり起きて?』

「その後!!!」

『お兄ちゃん……? あ、すいません。よく兄にも電話してるんでついうっかりと間違えて』

「素晴らしい」

『え?』

「あ、いや。素晴らしい寝覚めだった。おかげでしっかり目が覚めたよ。ありがとう!!」

『あ、そうですか? ふふふ。じゃ、気を付けて出張に行ってきてくださいね。お兄ちゃん……じゃなくて、鈴木さん。じゃあ』


 ……お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん…………


 あまりの嬉しさに泣きたくなった。こんな形で憧れの『お兄ちゃん』呼びが味わえるなんて。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】遅いのですなにもかも

砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。 王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。 数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」

みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。 というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。 なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。 そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。 何か裏がある―― 相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。 でも、非力なリコリスには何も手段がない。 しかし、そんな彼女にも救いの手が……?

隣の芝生は青いのか 

夕鈴
恋愛
王子が妻を迎える日、ある貴婦人が花嫁を見て、絶望した。 「どうして、なんのために」 「子供は無知だから気付いていないなんて思い上がりですよ」 絶望する貴婦人に義息子が冷たく囁いた。 「自由な選択の権利を与えたいなら、公爵令嬢として迎えいれなければよかった。妹はずっと正当な待遇を望んでいた。自分の傍で育てたかった?復讐をしたかった?」 「なんで、どうして」 手に入らないものに憧れた貴婦人が仕掛けたパンドラの箱。 パンドラの箱として育てられた公爵令嬢の物語。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...