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94 偽王子(腹黒)の忠告
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腹黒さんの唇が当たったおでこから何かが流れ込み、体の力が抜けていく。
記憶……それ、だけ?
サクッと……殺されるんじゃ…ない、の……?
ああ、でも。消されちゃったら最初から無いのと同じじゃない。
目の前のこの腹黒っぽい眼鏡だって非常によくお似合いだし、偽王子(腹黒)さんの有能さがにじみ出ていて素晴らしいチョイスなのに。
そりゃあ何度見てもこの眼鏡には感動はするだろうけども。……せっかくだから忘れたくはないな。
薄れゆく意識の中でそんなことを考えた。定まらぬ視線の中でぼんやりと見えたのは――眼鏡の奥の寂しそうな腹黒さんの目。
「……王家の影として散々腹黒だの冷酷眼鏡だの言われてきましたが、誉め言葉として言われたのは初めてでした。貴女は最初からそうでしたね」
そう言った腹黒さんの声音は優しかった。
「ご安心ください。消すのは主に与えすぎた情報です。あの王子の心身の安定のためにもこの魔法陣は必要だと判断しました。ある程度の制限はかけさせていただきますが、今まで通りお過ごしいただけますよ。ただし、コレは影としての決定です。この件に関して王族と影は必ずしも一枚岩ではないのです」
え……なに。やめてー…。
ココに至って追い機密情報とかやめてー…。
私の心からの叫びにクスリと笑いを溢す腹黒さん。何、その訳知り顔。そんなだから周囲に腹黒って思われちゃうんだからね……。
「記憶をいじる魔法は細やかな調整が難しいですから――かなり大雑把なものとなります。何を忘れて、何を覚えていられるか。わたくしにも予想はできませんし、あなた自身にも判別がつかないことでしょう。……わたくしのことも覚えていてくださると嬉しいですが」
眠い。温かい。心地よい。
なんだろうこれ。美味しいものを食べたとき……食べさせてもらったときのそれに似てる。
最近も…そうだ……ケーキ…先輩――の?
頭がボーっとして。夢うつつで。
このあたりのことは正直あまり覚えていない。どこまでが現実だったのか分からない。
「良くも悪くもあなたのような人は巻き込まれやすい。サクッと殺っちゃう方が正直、簡単ではあったのですがね。塔を管理してきた長い長い年月の中で。短時間とはいえ、裏方の我々に癒しの時間を与えてくださった貴女への僅かばかりの感謝の気持ちです。本来ならば、サクッ記憶を消したうえで魔法陣からは切り離して差し上げた方が一番良かったのかもしれませんが――癒されて心に余裕が出たせいか、わたくしにも少しばかり欲が出ました。ああ、それから忠告します」
目が、開けていられない。瞼を閉じて、既に見えないはずの腹黒さんの眼鏡に自分の顔が映る。
あれ――? 私、こんな顔してたっけ??
「貴女は厄介な者に目をつけられているようです。草の者……とでも言いましょうか。かつてコチラに渡った同族がいるのですよ。その流れを汲む者でしょうね。貴女はどこかでそれを見つけてしまったのでしょう。魔力のない者には認識阻害が効かないせいですね。我々影と祖を同じとするモノは、時にその存在を認識してくれる者に縋ります。『執着』すると言ってもいい。闇に身を置き、影に生きてきた者の反動なのかもしれません。いずれにしても身内の不始末です。念のため軽い守りは施しますが――ご自身でも充分お気を付けくださいね。もっともこの記憶も消えてしまうかもしれませんが。それに――」
執着についてはわたくしも人のことは言えませんね――……
……そんな言葉と共に再びおでこに広がる感触。そこから徐々に体が温まり意識はますます遠のいていく。
眼鏡だけではなくて。顔や雰囲気だけではなくて。
声も先輩とよく似てる――。
そんな風に思ったのは夢か現実か。
腹黒さんの声を思い出せなくなった私には確かめようもなかった。
記憶……それ、だけ?
サクッと……殺されるんじゃ…ない、の……?
ああ、でも。消されちゃったら最初から無いのと同じじゃない。
目の前のこの腹黒っぽい眼鏡だって非常によくお似合いだし、偽王子(腹黒)さんの有能さがにじみ出ていて素晴らしいチョイスなのに。
そりゃあ何度見てもこの眼鏡には感動はするだろうけども。……せっかくだから忘れたくはないな。
薄れゆく意識の中でそんなことを考えた。定まらぬ視線の中でぼんやりと見えたのは――眼鏡の奥の寂しそうな腹黒さんの目。
「……王家の影として散々腹黒だの冷酷眼鏡だの言われてきましたが、誉め言葉として言われたのは初めてでした。貴女は最初からそうでしたね」
そう言った腹黒さんの声音は優しかった。
「ご安心ください。消すのは主に与えすぎた情報です。あの王子の心身の安定のためにもこの魔法陣は必要だと判断しました。ある程度の制限はかけさせていただきますが、今まで通りお過ごしいただけますよ。ただし、コレは影としての決定です。この件に関して王族と影は必ずしも一枚岩ではないのです」
え……なに。やめてー…。
ココに至って追い機密情報とかやめてー…。
私の心からの叫びにクスリと笑いを溢す腹黒さん。何、その訳知り顔。そんなだから周囲に腹黒って思われちゃうんだからね……。
「記憶をいじる魔法は細やかな調整が難しいですから――かなり大雑把なものとなります。何を忘れて、何を覚えていられるか。わたくしにも予想はできませんし、あなた自身にも判別がつかないことでしょう。……わたくしのことも覚えていてくださると嬉しいですが」
眠い。温かい。心地よい。
なんだろうこれ。美味しいものを食べたとき……食べさせてもらったときのそれに似てる。
最近も…そうだ……ケーキ…先輩――の?
頭がボーっとして。夢うつつで。
このあたりのことは正直あまり覚えていない。どこまでが現実だったのか分からない。
「良くも悪くもあなたのような人は巻き込まれやすい。サクッと殺っちゃう方が正直、簡単ではあったのですがね。塔を管理してきた長い長い年月の中で。短時間とはいえ、裏方の我々に癒しの時間を与えてくださった貴女への僅かばかりの感謝の気持ちです。本来ならば、サクッ記憶を消したうえで魔法陣からは切り離して差し上げた方が一番良かったのかもしれませんが――癒されて心に余裕が出たせいか、わたくしにも少しばかり欲が出ました。ああ、それから忠告します」
目が、開けていられない。瞼を閉じて、既に見えないはずの腹黒さんの眼鏡に自分の顔が映る。
あれ――? 私、こんな顔してたっけ??
「貴女は厄介な者に目をつけられているようです。草の者……とでも言いましょうか。かつてコチラに渡った同族がいるのですよ。その流れを汲む者でしょうね。貴女はどこかでそれを見つけてしまったのでしょう。魔力のない者には認識阻害が効かないせいですね。我々影と祖を同じとするモノは、時にその存在を認識してくれる者に縋ります。『執着』すると言ってもいい。闇に身を置き、影に生きてきた者の反動なのかもしれません。いずれにしても身内の不始末です。念のため軽い守りは施しますが――ご自身でも充分お気を付けくださいね。もっともこの記憶も消えてしまうかもしれませんが。それに――」
執着についてはわたくしも人のことは言えませんね――……
……そんな言葉と共に再びおでこに広がる感触。そこから徐々に体が温まり意識はますます遠のいていく。
眼鏡だけではなくて。顔や雰囲気だけではなくて。
声も先輩とよく似てる――。
そんな風に思ったのは夢か現実か。
腹黒さんの声を思い出せなくなった私には確かめようもなかった。
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