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106 はぐれセイレーンとハイブリッド鼻眼鏡(王子視点)
しおりを挟む「でも、一つだけ心配があるの。私は何もしていないけど、私のフリをした妹……偽者が船人に迷惑をかけていたそうなのよ。なので、素顔のまま島に近寄るのはちょっと怖いというか……」
契約の変更を喜んでくれたはぐれセイレーンだが、まだ心配事があるようだった。
話を聞いてみれば、なるほど。厄介な身内がいるらしい。
それを聞いて、あの、まったく話の通じない美少女セイレーンを思い出す。そういえば彼女ははぐれセイレーンの妹を自称していた。確かに顔も似ていたな。
しかも、ふと気が付けばあの美少女セイレーンの方が急に老け込んで、美熟女セイレーンとなってしまったから見た目の年齢差が逆転していて厄介だ。どっちが姉か妹か分からない。顔が似ているせいで問題が出てくるかもしれない。
僕も幽閉中の身だからフラフラと外を出歩くときには身バレに気を遣う。事情は違えど素顔を晒したくない彼女には共感できる。
このはぐれセイレーンにはかなり世話になったから、どうにかしてやりたい。どうにかできないか。
――で、僕は考えた。
「なるほど。顔バレをしたくないのだな。そうだ! それならば君も僕のように眼鏡で変装をすればいい。僕が丁度いい物を持っているぞ!!」
確か、ここに……。僕は空間魔法で仕舞っておいたあるモノを探す。
ああ、あった。眼鏡ケース20個分しか仕舞えないのに、一個だけケース2個分使う特殊な形状の眼鏡。気に入ってはいたが、召喚主の反応がイマイチだったので、使う機会が無くて正直ちょっと邪魔になってきている。
そうして僕が取り出したのは。
眼鏡に、鼻とひげ。
そう、鈴木さんに貰った『鼻眼鏡』だ。
コレは僕が塔の地下で発見した眼鏡コレクションとは違い異世界の物だから他での入手は不可能だろう。一応、悪意ある偽者は島には近づけないようにはしたが、保護範囲外で偽者が島民に悪さをする可能性もある。用心の為の変装は必要かもしれない。
異世界の品でもあることから、偽造防止の観点から見てもこの鼻眼鏡は素晴らしいと思う。
更に言えばコレをくれた鈴木さんによると、仕事の宴会で使った仮装用との事なので、彼女が仕事で使う変装用としては一番用途が近いのではないだろうか。
このままでもいいが、僕は異世界の耳栓に魔法をかけて性能を補助することで完全に音声を遮断できる耳栓を作りあげることに成功している。なので、その経験を活かし、この眼鏡には顔の判別がしづらくなるような認識阻害の魔法をかけることにした。
ジャージや貸し出し中のクマちゃんに対し何度も認識阻害魔法をかけているので、僕はモノへの付与は慣れている。
科学技術と魔法のハイブリッド鼻眼鏡。
これで、彼女の顔はさらに認識されづらくなったはずだ。
「すごい……認識阻害付きの眼鏡だなんて……! こんなことが出来る人間がまだいたのね。不思議なデザインだけど、きっとこれが今の人間の流行なのでしょう。ありがとう、これをかけている限り、男性に振り回されることなく、好きなだけ仕事に打ち込めるわ……!!」
そう言って、鼻眼鏡をかけたはぐれセイレーンの顔は僕から見ても認識しづらくなった。だから似合うかどうかは分からないが目的は達成したのでこれでいいはずだ。これなら彼女の希望通りに好きなだけ仕事に打ち込めることだろう。
セイレーンは鼻眼鏡を気に入ったようで早速つけて帰るそうだ。
ようやく相応しい対価を支払えたことに僕は安心をした。
彼女がもたらしてくれた――この3D酔い防止機能を付与された眼鏡はそれほどまでに僕の愁いを取り去ってくれたから。
こうして希望の品を手に入れて、仮病を止めた僕は無事に塔へと戻されることになった。
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