魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

１３９ 魅了堕ち幽閉王子と悪夢(王子視点)

　個包装されて中身の見えない非常食。人化した竜の手の平に載せてやると竜は大人しくそれを受け取った。手の大きさは僕と大差ない。

　竜は真っ赤な長い髪に黒い瞳の美丈夫だった。座っていても僕より少し大きいから、身長は高そうだ。

　まあ、今までも竜の本体は何度か見ているし、寝ていても見上げるほどに大きかったのが一瞬で人間に化けているのだから、体の大きさなどは自由に変えられるのだろう。

　人化した竜は、渡された個包装をまじまじと見ている。腹を空かしているようなのに食べないのだろうか。

　人間のように毒を警戒することはないはずだ。竜は丈夫で毒耐性があるし、わりかし何でも食べるのだ。(ただし美味しいものに限る)


　アレ？　……と、いうことは竜が食べるかどうかでコレの味の評価が分かるということか？　まだ自分で食べてもいないのに僕は少し楽しくなってきた。
　最後の晩餐、こうでなくっちゃな！！


　しばらく非常食を見ていた竜は何を思ったのか個包装ごとそのまま口に入れようとしたので慌てて止めた。


「待て。包装は取って、中だけを食べるんだ。あ、もしかして開け方が分からなかったのか？　よし、僕が見本を見せるぞ！」


　知能が高いとされている竜だが異世界の食材には詳しくないようだ。コレを食べたことはないけれど、毎日のようにアチラで日替わりで色んなおやつを出されてきたからお菓子を開けることには慣れている。今ではゲームをしながら片手間に食べられるくらいだ。

　なので、ここは僕が先輩として見本を見せてやることにした。異世界召喚のおやつ食いガチ勢としてちょっと楽しい。
　あ、召喚主曰くコレは食事だけどな！

　目の前で包装を破ると竜もマネをした。本体は大きくとも人化した竜は中々手先が器用らしい。キレイに中身を取り出している。うん。やっぱ美味しそう。

　そして。


『！！！！！！！！』


　サクッ☆　サクサクサク……。


　非常食を一口齧るや否や。すごい勢いで食べる竜。あっという間に完食した。


『うまい……。栄養が染み渡る……』


　瘴気がやや薄まって。竜の口元が緩んだ。……これは、よっぽど美味しいに違いない。僕の中で期待値が上がった。舌の肥えた竜が認めるのだからもう間違いないだろう。


「そうだろう、そうだろう。コレは食事代わりに食べるクッキーだからな！　カロリー高いからな！！」


　取り分は減ってしまったが、喜んでもらえるのは素直に嬉しい。召喚主の受け売りでドヤる僕。

　よぉし！　味の確認もできたし、これでゆっくり最後の食事を楽しめる！！　早速、自分の分を食べようとしたら。


『ああ、だが、ワシにはコレでは足りぬ……』


　サクッ☆　サクサクサク……。


　いつの間にか。
　僕の分の非常食が竜にサクッとされていた。


　は！？　ちょ……っ！
　やめてー。サクッとしないでぇぇー……！！