魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
140 / 364

140 魅了堕ち幽閉王子と終わらぬ悪夢(王子視点)

しおりを挟む

 ひどい……ずっと食べるのを楽しみにしていたのに。
 なんという悪夢だろうか。しかし、悪夢はコレでは終わらなかった。


『喉が渇いた』
「え」
『飲み物』
「あ、ハイハイ。水だな」


 目と口で。僕に何やら訴えかける守り神。

 奪われてしまったので食べていないから分からないが、非常食はクッキーみたいな見た目だし、飲み物がないと辛いだろう。確かに鈴木さんもいつも飲み物と一緒に食べていた。

 仕方ない。僕はリクエストに応えてやることにした。

 大丈夫。僕には召喚主が用意してくれた飲み物がある。レジャーシートの重しに使っていたが、男二人が乗っているのだから飲んじゃってもシートが瘴気で飛ばされる事はないだろう。

 一人……というか、一匹は本体が巨大な竜だし。
 そもそもレジャーシートを飛ばす原因が乗っているんだし。


 僕は隅に置かれた水に手を伸ばした。


 召喚主が僕に持たせてくれたのは水とスポーツドリンクの二種類。非常食をとられてしまった以上、僕に残された楽しみはスポーツドリンクだけだ。


 スポーツドリンク。


 これは、前召喚主の鈴木さんと現召喚主が出会うきっかけとなった飲み物だ。公園で熱中症とかいうのを起こしかけている鈴木さんに、召喚主が渡したらしい。

 感動した鈴木さんが召喚主のことをスポーツドリンクの女神とか呼び続けていたくらいだ。よほどうまいのだろう。

 話を聞いて一度は飲んでみたいと思っていたけれど、召喚主に何を飲みたいか聞かれるとつい大好物のコーラをリクエストしてしまうので、今まで一度も飲んだことがなかった。

 いい機会だから飲んでみたい。国が滅亡する以上、最後の機会でもあることだしな!

 だから、竜には水の方を提供――。


 ゴクゴクゴクゴク☆


 するつもりでキャップを開けて差し出したのに、竜は反対側のレジャーシートの角っこに置いていた、重し代わりのスポーツドリンクを勝手に手に取り飲みだした。

 どうやら僕の動きを見本にスポーツドリンクのキャップを開けたらしい。闇堕ちしても流石は高知能の守り神。油断も隙もない。


 やめてー。ゴクッとしないでぇぇー……!!


『うむ! コレは寝起きの体に染みわたるな!!』


 満足そうにそう言って口元を拭う竜。ペットボトルの中身は空だ。

 機嫌が良くなったせいか、竜から放出される瘴気がほぼ消えた――が、僕の最後の楽しみが根こそぎ奪われた。


 サクッとされた上にゴクッとされた。

 今ならうなされる気持ちが良く分かる。
 ――ひどい悪夢だ。召喚主に愚痴りたい。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?

みん
恋愛
1人暮らしをしている秘密の多い訳ありヒロインを、イケメンな騎士が、そのヒロインの心を解かしながらジワジワと攻めて囲っていく─みたいな話です。 ❋誤字脱字には気を付けてはいますが、あると思います。すみません。 ❋独自設定あります。 ❋他視点の話もあります。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...