149 / 364
149 夢見の悪い王子様
しおりを挟む「ううーん……やめてー。サクッとしないでぇぇー……!」
「ちょっと、ちょっと! 王子、大丈夫!? うなされてたけど」
「……はっ! 殺人鬼は!?」
肩を揺らし、うなされている王子を起こすとびっくりしたように飛び起きた。
キョロキョロと。周囲を見回し、ベッドと壁の隙間まで覗き込んでから。ほぅ……とため息をつくうなされ王子。最近のお昼寝では割と見慣れた光景だった。
あれから。受ける講義も決まり、バイトのシフトも落ち着いて、再び始まった召喚生活。とりあえずは映画を一緒に見ようと誘ってみたら賛成されたので、早速アレコレ用意した。
元々は、映画館に興味を持った王子に疑似的とはいえ、それっぽい体験をさせてあげるためにと考えたことだ。
なので、映画館気分を味わうためにもポップコーンは外せない。王子の大好きなコーラも用意した。映画を見てるとついつい食べたくなるし、食べると何か飲みたくなっちゃうからね。
――で、映画は王子に選ばせてあげたかったんだけど、お任せすると言われたんでつい……大好きなホラー映画ばかりを選んでしまった。
いや、ホラさ。日中はまだ夏みたいに暑いし。夏と言えばホラーだし。まあ、季節とか関係なく観たいけど。
映画も、ゲームも、実はホラーが大好きな私。その辺もオカルト研究会所属の先輩と意気投合した原因の一つでもある。
ただ――私はメチャクチャ怖がりだ。
ホラーゲームに関しては高校生の頃あまりに怖がり過ぎて、当時大学生で一人暮らしをしていた3番目のお兄ちゃんの部屋に押しかけて一緒にやってもらったこともある。
いや、だって。他のお兄ちゃんはそんなの付き合ってくれないし。かといって一人じゃ怖いし。
文句を言いながらもお兄ちゃんはクリアするまで付き合ってくれた。ついでにと頼んで、一緒にホラー映画も見まくった。結果、あまり付き合ってもらえなくなった。
だって、だって! ホラー大好きなんだもん!! 怖がりだけど、面白いんだもん!!!
ホラー映画とかって最強じゃない? 怖いし、ちょっぴりセクシーなサービスシーンもあって、ハズレが少ないと思うの。総合的な満足点が高いというか……。
とりあえず王子が一緒に見てくれるならチャンス……と思って、見たかったのとお勧めと面白そうなのをいろいろ用意した。王子は映画館気分を味わえて、私は安心してホラーを楽しめる。一石二鳥だ。
見始めると止まらなくて、毎日1本はホラー映画を見ていた気がする。
でも、流石に映画は長いから、その分大好きなゲームが出来なくなっちゃう王子がかわいそう。そう思ったから王子のゲーム時間確保のために夜の『オヤスミ☆ 私は寝るから後は勝手に帰ってね☆』召喚は続けてあげた。
……いえ、別に怖いの見たから隣に居て欲しいとか、そんなんじゃないですよ。そこは副産物というか何というか。
眠るまで手を繋いでてほしいなんてわがまま言ったのは最初のひと晩だけですし。王子のことだからゲームやりたさに日付が替わる寸前までは居てくれるだろうとの、妙な安心と信頼感がありますし。
強制召喚終了で外に出るのを怖がっていた時に、散々手をつないであげたんだからこのくらいはいいと思うの。
まあ、そんな訳で満足するまでホラー映画を楽しんだわけだけど。どうやら、王子にも苦手なものがあるらしいことが分かった。
幽霊やゾンビは珍しくもないし、居て当然だから怖くはないと王子は言っていた。それを聞いて私はますます怯えたわけだけど……。
世界が違うし! 物理が違うし!!
――そう自分に言い聞かせてそこはスルーした。
そんな、幽霊やゾンビが怖くない王子だが、殺人鬼とかストーカー的な悪役が出てくる、サスペンスに近いホラーは精神的にくるようだ。
「……この、殺人鬼やらストーカーって、つまりは暗殺者みたいなものだろう? あいつらはどこにでもいるからな。排除しても排除しても命を狙ってくる。幽閉前も幽閉後も何度狙われたことか。魔力目当てに他国からの策略で誘拐されかけたこともある。幽閉されてからは何かあるたびどんどん塔のセキュリティーは厳しくなるのに、どこからか入り込んでくるんだよなあ。幽霊やゾンビなんかは襲ってきたところで高が知れているけど、暗殺者は色々宿命的なのを背負って命懸けで僕の命を狙ってくるから質が悪い。遭遇率的には幽霊なんかより暗殺者の方がはるかに高いし。身につまされる分、身近で怖い。最後に死にかけたのいつだっけ」
いや……。幽霊よりゾンビより、殺人鬼や暗殺者が身近で怖いって……。
そんな訳で若干寝つきが悪くなってしまったようで、お昼寝王子が復活している。夢見が悪いせいか塔であまり眠れていないようだ。
王子のこれはどう考えても私のせいなのでどうにかしてあげたい。何か、夢見が良くなるいい方法でもないだろうか。枕を換えればグッスリ――なんてうまいこといかないだろうか。
……と、それで思い出した。
そうだ。枕と言えば……。
「王子、竜に持って行った枕どう? 気に入ってもらえたかしら??」
23
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?
みん
恋愛
1人暮らしをしている秘密の多い訳ありヒロインを、イケメンな騎士が、そのヒロインの心を解かしながらジワジワと攻めて囲っていく─みたいな話です。
❋誤字脱字には気を付けてはいますが、あると思います。すみません。
❋独自設定あります。
❋他視点の話もあります。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる