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148 鈴木さんと後輩君(前の召喚主視点)
しおりを挟むニヤニヤニヤニヤ…………。
「鈴木さん、何かいいことでもあったんですか? 朝からニヤケ顔してますけど。ってか、最近ずっと機嫌がいいですよね」
「分かるか? そうか、聞いてくれるか」
「えっ。いや、その」
やべえ、面倒くせえ。会社の後輩がそんな表情をしたが、向こうから聞いてきたのだから別にいいだろう。
会社の昼休み。食堂でコンビニ弁当を食べていたら後輩が話しかけてきた。彼は実家暮らしのため、弁当持参のことが多い。外に食べに行く者が大半なので、必然的に後輩と一緒に食べることが多かった。
「また、コンビニ弁当っすか?」
「ああ。妹のお勧め弁当だ」
「いや、鈴木さん末っ子ですよね、姉しかいませんよね?」
「血のつながりなど大した問題じゃないだろう。心の妹だ」
「なるほど。ある意味その通りだと思いますが、とりあえず鈴木さんの方に問題があるのは理解しました……それで? 随分と楽しそうですけど」
「今日も会社来る前に、昼飯買うためにコンビニに寄ったんだよ。他に客がいなくてさ、そしたらさぁ……」
まずい、ニヤニヤが止まらない。
今朝のこと。最近、残業明けだけではなくて、朝の出勤時に昼食を買っていく習慣ができたのだが、なんと今朝。心の妹が栄養ドリンクを差し入れてくれたのだ。
なんでも、わざわざ俺に渡すために事前に購入しておいてくれたらしい。
彼女は仕事中のため長く会話はできなかったが、過去に色々あった王子とのことで労われたらしい。
どれだろう。本当に色々ありすぎて心当たりしかないが、彼女が気にするようなことじゃないのに。
でも、王子ありがとう。相変わらずの激務だが、おかげで素晴らしく元気が出たよ。あの悪魔にはアレコレ最悪なことをやられたが、コレだけで全て許せそうな気がするよ……!
せっかくの栄養ドリンク。賞味期限ギリギリまで取っておいて楽しもうかとも思ったが、せっかくなのですぐに頂いた。
お陰で仕事も捗る捗る。
勿論、飲み終わった瓶を捨てることはしない。キレイに洗って、部屋に飾るつもりだ。
きっと、この先も空瓶を見るだけで元気がみなぎってくることだろう。ああ、なんて俺の妹は可愛いのだろう。
後輩に聞かれるままそんなことを話すも、大した反応はない。母親に作ってもらったという弁当の卵焼きを頬張りながら「うーん。卵焼きだけは妹の方が美味いなあ」なんて、聞き捨てならないことを言っている。
…………。
まさか……それはつまり……。
「お前、妹に弁当なんて作ってもらったことあるのか」
「ああ、母親が風邪ひいた時、自分の分を作るついでに作ってくれたんすよ。食えるのかよ、なんて文句言ったけど、卵焼きは甘くて俺好みだったなあ。母親、しょっぱくしちゃうんで。まあ、兄妹だし妹とは味覚が近いのかな」
「爆発……」
「え、鈴木さん今、何か言いました?」
「いいや?」
言いながら、心の妹お勧めのコンビニ弁当の卵焼きを口に放り込む。うん、うまい!! 大丈夫。リアル兄妹エピソードに心魅かれたが、俺はこれで十分満足だ。それに……。
「それだけじゃなくてさ、ちょっと前に俺、残業続いていただろ? 明け方に朝食買いに行ったらさ、なんか心の妹が恥ずかしそうにしてて、『あの、少し前髪切りすぎちゃったかも……おかしいかな。鈴木さんどう思います?』とか聞いてくるんだよ。そんなの可愛すぎるだろ。正直ちょっと切りすぎだとは思ったが、そんなのどうでもいいくらいに可愛かった」
「あー、ウチの妹もよくそんな感じのこと聞いてきますね。それでなんて答えたんですか?」
「当然、おかしくないと答えたさ。そうか……リアル兄妹でもそんな会話するのか。一歩本物に近づいたな」
「あーあ、やっちゃいましたね。正直に言ってあげた方が親切なのに」
「な、何だよ。じゃあ、リアル妹がいるお前ならどうすんだ」
「ウチの妹、男兄弟の中で育ったせいか行動が中途半端に豪快ですからね。後で気にするくせに思いっきりザクっといくから、聞かれたときは正直に答えて大笑いしますよ。じゃないと治らないんで。そんで、ひとしきり笑った後に、違和感ないようにそれっぽく整えてやってました」
「……お前、地味にスペック高いよな」
「慣れですよ、慣れ。本当に小さい頃からなんで。まあ、最初の頃は整えるのを失敗したりもしてましたけど、お兄ちゃんがなおしてくれた! って機嫌は直るのでそのままですね」
「チッ、自慢か……」
「え?」
「いや、いい。そろそろ昼休みも終わりだな。よし、妹のお陰でやる気も出たし、今日こそ残業せずに定時で上がってゲームをしよう」
「そッスね! あとまた『心の』つけ忘れてますよ」
後輩のツッコミは気にせず午後もバリバリ仕事した――が、結局定時には帰れなかった。
でも、大丈夫。コレ飲んだからな! 妹から貰った栄養ドリンクの空瓶を見ながら俺は残りの仕事を頑張った。
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