魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

１７２ 偽王子と夜のお散歩

　結果だけ言えば大丈夫だった。

　一緒に出掛けるにあたり、一番困るのが靴問題。王子を初めて散歩に連れ出す時もそれで困ったのだ。
　私が買ってあげた王子用のスニーカーは下駄箱に入っているが、体格がまるで違う偽王子（猫耳）にはでかすぎる……と、一瞬焦ったんだけど。この偽王子（猫耳）は何と靴を持参してました。

　突然靴が出てきたからどこから取り出したのか不思議だったんだけど、何か、影さん達が着ているローブには旅行カバン一つ分くらいの収納機能が付いているらしい。王子の空間魔法みたいなものかもしれない。

　仕組みは分からないが眼鏡ケースサイズしか仕舞えない王子よりも使い勝手はよさそうだ。

　……あれ？　よく考えてみたらこの偽王子（猫耳）ってば、実は本物よりも優秀なんじゃ……。



　――と、いう訳でとりあえず靴問題は解決。しかも、偽王子（猫耳）の中で何故か出かけるときは私と手を繋ぐのが基本になっているようで、安心して移動することができた。

　お手手に肉球がないのがちょっと残念。そんなことを考える余裕もあった。


　そして、道すがらの雑談で新情報をゲットした。


　どうやら。幽閉中の塔の地下ダンジョンは、一応、塔の中扱いとなっているらしい。なので、ダンジョン内を王子が歩き回る分にはセーフ……だったらしいのだけど。

　幽閉中の塔の地下ダンジョンは竜の寝床まで。そこから先は別ダンジョンの扱いとなるらしい。


「まーねー。塔の地下ダンジョンはころっころ構造が変わっていたから、影も完全には把握しきれてなかったんだよね。キリないじゃん。竜も起こしちゃまずいしさ。気楽に竜の寝床に行っていたのは王子とこっそり護衛してた当番の影くらい……いや、オレが王子だけどね？　そこから先は『城の地下ダンジョン』扱いになるからさ。ちなみにこっちの世界での活動可能範囲も塔の中扱いらしいよ。なんか、段々と広がってない？　範囲内の魔力の濃度変わってるんだけど。ずるいよ、オレだってお外の散歩したいのに。ほら、ドアとか開いてると無性に散歩行きたくなるじゃん。え？　ならない？　種族的な習性かなー。いや、オレは人間だし王子だけどね？　幽閉中だけどね？」


　ってな感じらしい。


　そして。


　――スーパーではシャケが半額になっていたので私的には大満足だった！！


　ツイてる…！
　お目当ての物が値引きで買えるとか最高じゃん。

　二切れ入っているので両方焼いておいて、半分は自分の朝食にすれば朝も楽できる。これで多少夜更かししてもダイジョーブ☆　平気平気！　猫ちゃんには一切れ丸々使って美味しいシャケお握り作ってあげようね。そうだ、浮いた分でお魚のおやつも買ってあげようかな☆
　よーし、楽しくなってきたぞ！！

　とか考えながら一緒にお買い物をしていたら。


「なるほど。これが深夜テンションの召喚主かー。確かにテンション高いな！」


　とか偽王子（猫耳）に冷静に分析された。え。私、夜ってそんなにテンション高いの？　慣れない夜更かしには気を付けた方がいいのかもしれない。

　そうやって、気を引き締めてみたのはいいものの。


　無事に買い物を終わらせて。来た時と同じように偽王子（猫耳）とお手手をつないで帰宅する途中に予想外の事態に見舞われた。


「あ、ヤベ。魔力節約モードに入る」

　そんな言葉を残し、手の中の感触が急に無くなって。
　偽王子（猫耳）の姿が消えたのだ。