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180 先輩の事情 中編(先輩視点)
しおりを挟む正確に言えばとっくに出会ってはいた。
図書委員会の集まりで。やたらアイツと目が合うことが多かったのだ。そのくらいよくあることなのかもしれないが、俺にとっては天地がひっくり返るくらいの衝撃だった。
存在感が薄く、誰からも、それこそ親からも注目されることは少なくて。誰かと目が合う事なんて滅多になかったから。
俺の方でも相手を気に掛けるようになり、すぐにソレに気が付いた。ああ、コイツは俺ではなくて眼鏡を見ているのだと。
男女問わず、眼鏡をかけている人間を見ては幸せそうにしているアイツを俺は観察するようになった。――と、同時に眼鏡の手入れを怠らないようになった。
そんな風に眼鏡にこだわっているうちに、アイツの視線を集めることに成功した。見ているのが眼鏡だと分かっていても見られるのは嬉しいし、眼鏡を見ているだけと分かっていても、アイツが他の人間を見ているのは何となく面白くなく感じていたから。
俺を、俺達を見つけることの出来る希少な存在。
オカルト研究会も全員が眼鏡を着用しているので他の部員にもアイツの存在に気づき始めている者がいるかもしれない。けれど、アイツを先に見つけたのは俺なんだ。
その、興味津々の目で。ずっと俺だけを見ていてほしい。その為にも俺は眼鏡の手入れを頑張った。
眼鏡目当てでも存在を気にかけてもらえる幸福感。
そんな僅かな癒しで満足していたのに。ある日、本に夢中になりすぎて図書室内に取り残された俺を、アイツが見つけて助けてくれた。
嬉しかった。例え家に帰らなかったところで両親が気付いたとも思えない。部活の仲間なら気が付いてくれただろうが、何の関係もないアイツが自ら見つけてくれたことに意味があると思った。
それからは顔を合わせるたびに会話が出来るようになって、名前を呼べるくらいには親しくなった。そして、気が付いた。
アイツには――ルカには本来全ての人間に備わっている筈のものがない。器はあるが空なのだ。
人間は多かれ少なかれソレを持っているはずなのに。
それで分かった。生まれつき制御が難しいほど高レベルの認識阻害能力を持っている俺を難なく見つけることが出来たのはそのせいだ。そして――それは、生きる上で非常に危うい。危険を避けるべき勘とでもいうべきものが、一切機能しないようなものだから。
観察しているうちに、どうやら第三者のソレで、かろうじて生きているようなのを知った。おそらくは、アイツを大事に思う第三者が無意識に分け与えているのだろう。
彼女はたびたび学食で食事を摂っていたから、偶然を装って俺も自分の持つソレを彼女に分け与えた。口から摂取するのが一番効率的だからだ。アイツの食の好みは徹底的に調べ上げたし把握済みだ。だから、こっそりと守るのは簡単だった。
生まれつきソレ――魔力が多い俺。
そのせいで同じようなルーツを持つ他の誰よりも先祖絡みの過去の制約に縛られ苦労していたが、そのお陰でアイツを守ることが出来たのは嬉しかった。
もっとも、この年齢まで生き抜いているのをみると、偶然に頼るだけではなく同じように守ってきた者がいるのだろうし、調べる中でそれが誰かも見当がついている。
だから、俺が動かなかったところで何が変わる訳でもなかったのだろうが、俺の魔力を共有して生きる時間が長くなることで、ルカと俺との繋がりは濃くなっていく。
おそらくはその影響もあって。アイツの周りからも人が減る。
割と人付き合いが広かったアイツが孤立し、一人でいることが増えたが俺はそれを嬉しく思っていた。
だって。周囲から人がいなくなればアイツは更に俺を見る。
そんなことに夢中になっていたら、いつの間にか俺の居場所であった高校のオカルト研究会が消滅の危機になっていた。
上の学年が卒業し、人数が減ったために部活としての最低人数を割り込んでしまったのだ。もっと上の世代には結構能力持ちがいたらしいが、既に血が薄くなっているせいか、俺の学年では同じ境遇の者はほぼいなかった。かろうじてうっすらかかわっている者が、幽霊部員として人数合わせに協力してくれている程度だ。
この先も部活として在る為には人が足りない。
俺はアイツを――ルカを部活に誘った。
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