魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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179 先輩の事情 前編(先輩視点)

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 小さい頃から俺は影が薄かった。

 わざとではないものの、家や学校で、ふと気が付けば忘れられていることが多かった。

 家族とのお出掛けであったり。
 学校での班分けであったり。

 虐待されているわけでも、いじめに遭っているわけでもないのに、ただただ存在感がなく影が薄い。居ても居なくても変わらない。そんな、あいまいな存在だった。

 ただ、どんなに影が薄くても話しかければそれが当然であるように相手は普通に応じてくれるし、親に構って欲しいからと、いい成績をとれば褒められる。
 しかしそれも一瞬のことで、すぐに記憶の底へと埋没してしまう。

 常に学年で一番を取っていた自分よりも。弟がクラスで10番以内に入ったと親に報告していたときの方が確実に盛り上がっていた。それを家族からは少し引いた場所から、一人冷静に眺める自分。

 それでも。親は俺を蔑ろにするわけでもないし、望むものは与えてくれる。だから、やさぐれたり荒れたりはしなかった。
 ……まあ、不貞腐れたところで、気が付かれなかったに違いないが。そのぐらいの影の薄さだったのだ。

 高校に入り。自分と同じような境遇の奴らに出会って、ようやくすべてを理解した。コレは、生まれついてのモノなのだ。自分でどうにかできるようなものではないので仕方がない。

 部活の先輩からの説明によれば先祖絡みの能力だそうだ。気になって調べてみれば、昔から俺の家には似たような特性を持つ者が産まれていた。

 陰に、日向に。先祖はその特性を利用してそれなりに成功してきたそうだ。その影響もあってか家はかなり裕福だし、探せば親戚の中にも多かれ少なかれ仲間はいた。同じ境遇の――部活の仲間の中にも、遠い親戚の者がいた。

 彼らは仲間を見つけるたびに、部活に引き入れて相互協力をしているらしい。それで、俺にも声がかかったというわけだ。


 彼らのお陰で対処法も分かったし、影の薄さも最低限、日常生活を送れるくらいまでは抑えることが出来るようになった。存在感の無さは相変わらずだが、歳をとる毎に悪化していたその症状が安定しただけでもかなり大きい。

 服装面での制約はあるが、そこは生来の影の薄さで気が付かれることもないので問題ない。何より、一人ではなくなったのだから、それくらいはどうということもない。
 少数とはいえ、直接的な仲間が出来たことの方が俺には大きかった。

 それでも。部活中はともかく、一人ではやはり存在が埋没してしまう。そんな俺は読書をするのが好きだった。本を読んで、物語に夢中になっている間だけは、影の薄い俺でも物語の登場人物になりきれたから。

 本が好きだった俺は部活以外に必ず何かやらなくてはならないクラスの係決めでは図書委員を必ず選んだ。貸出当番や本の修繕など、雑用ばかりが多くて希望者が少なかったから、持ち前の存在感のなさを利用して、毎回サラリと自然にもぎ取った。

 部活と、図書室で過ごす時間だけが俺にとっての癒し――そんなふうに感じていた頃に。


 ――――俺は、アイツと出会った。




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