204 / 364
204 鈴木さんの休日(前の召喚主視点)
しおりを挟む「あれ? 鈴木さん、何でここに?」
日曜日。フラリと訪れた大学祭をアレコレ見て回っていると聞き慣れた元気な声がした。
そして、見慣れない姿に驚く。
心の妹は全身を覆うような真っ黒なローブを着込んでいた。艶やかな長い黒髪に黒いローブが良く似合う。どうやら俺の心の妹は中二属性があったようだ。新たな魅力発見に心が躍る。
「ああ、ルカちゃん。この前、大学祭があるって言っていたからさ。会社行くついでに覗いてみたんだ。何か、学生時代が懐かしくなってね。まさか会えるとは思わなかったよ」
「えっ! 会社って、今日、日曜日ですけど……」
「いつもは休みなんだけどね。業者が入るからって、カギ開けるのを頼まれたんだよ。夕方には作業が終わるから、時間つぶすのにちょうどいいかと思って」
「いやいやいや、待って、鈴木さん。昨日の早朝、徹夜残業明けで朝食買いに来ましたよね? その前の日も早朝にお弁当買いに来ましたよね? 無理が利くからって、無茶ばかりしてちゃ駄目ですよ!? ちゃんと休んでますか? いや、本当に……っ!!」
「ははは。心配してくれてありがとう。休めるときに休んでいるから大丈夫だよ。ルカちゃんは優しいね」
「いや、鈴木さんが働きすぎなだけですって! もうっ、ホント自重してください。あの、すいません。せっかく会えたし案内してあげたいんですけど、ちょっと人を捜していて」
「あー、いいよ、いいよ。暇つぶしに来てみただけだから俺のことは気にしないで。適当に少し見て回ったら帰るから」
会社に、だけどな。
開けたら閉めるはセットだからな。仕方ない。
「暇つぶし――ああ、それなら占いがお勧めですよ。私の所属するサークルがお店出してて、結構当たるって評判なんです。私も練習で占ってもらったけど、仕事運とか健康運とか的中率がすごいんですよ」
「占い……ああ、それでそのローブなのか。雰囲気あるな」
「皆コレお揃いで着ているから場所は見ればすぐ分かると思います。じゃ、無理しないでくださいね。ああ、今日は天気もいいし、ちゃんと水分補給はしてくださいね。いつかみたいにトイレ行きたくないからって我慢しちゃ駄目ですよ!」
「ハイハイ。俺の心の妹は心配性だな。ホラ、用事があるんだろう? ルカちゃんもしっかりと学生生活を楽しめよ」
心配そうに。チラチラとこちらを振り返りながら去って行くローブ姿の心の妹を見送って。
しまった、これってかわいい心の妹と一緒に写真を撮るチャンスだったんじゃないかと気が付くも、いやいや、『心の妹』は俺が勝手に言っているだけで、実際は家族でも何でもないのにそんなこと言ったら気持ち悪いと思われるかも……むしろこれくらいで良かったんだ、と思い直す。
大丈夫。俺は物覚えがいい方だ。
ローブ姿も、コンビニの制服も、心の妹はとても可愛く着こなしている。だから絶対忘れない。
……うん、これで正解。
それにしても、『学生生活を楽しめ』なんて、ついつい説教じみた言い方をしてしまった。
まあ、仕方ないよな。あの悪魔……王子に振り回されたせいで俺はまともな学生生活を送れなかったし、彼女には俺のようになって欲しくない。
やっかいな魔法陣を押し付けてしまった身としては、その辺のことはしっかりと伝えておかなければ。
「しかし、占いの店なんてあったかな?」
今までも適当に敷地内をプラプラしていたが、該当の店を見た記憶はない。それでも心の妹が見れば分かると言うのだからそうなのだろう。
若干衣装に照れている、かわいい心の妹のローブ姿を思い出しながら見回すと、既に通り過ぎた場所に黒いローブの集団が見えた。
ああ、あれか。ルカちゃんが言っていた通りだ。すぐ分かった。さっきまで全然気が付かなかったのに不思議だな。
コレが妹パワーか。
俺のお兄ちゃんセンサーは今日も精度が高いようだ。
俺は心の妹のお勧めを体験すべく、黒いローブの集団の方へと歩き出した。
34
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされ、谷に落ちた女は聖獣の血を引く
基本二度寝
恋愛
「不憫に思って平民のお前を召し上げてやったのにな!」
王太子は女を突き飛ばした。
「その恩も忘れて、お前は何をした!」
突き飛ばされた女を、王太子の護衛の男が走り寄り支える。
その姿に王太子は更に苛立った。
「貴様との婚約は破棄する!私に魅了の力を使って城に召し上げさせたこと、私と婚約させたこと、貴様の好き勝手になどさせるか!」
「ソル…?」
「平民がっ馴れ馴れしく私の愛称を呼ぶなっ!」
王太子の怒声にはらはらと女は涙をこぼした。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
悪役令嬢は高らかに笑う。
アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。
エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。
たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。
男爵令嬢に教えてもらった。
この世界は乙女ゲームの世界みたい。
なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。(話し方など)
婚約を破棄したら
豆狸
恋愛
「ロセッティ伯爵令嬢アリーチェ、僕は君との婚約を破棄する」
婚約者のエルネスト様、モレッティ公爵令息に言われた途端、前世の記憶が蘇りました。
両目から涙が溢れて止まりません。
なろう様でも公開中です。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
【完結】深く青く消えゆく
ここ
恋愛
ミッシェルは騎士を目指している。魔法が得意なため、魔法騎士が第一希望だ。日々父親に男らしくあれ、と鍛えられている。ミッシェルは真っ青な長い髪をしていて、顔立ちはかなり可愛らしい。背も高くない。そのことをからかわれることもある。そういうときは親友レオが助けてくれる。ミッシェルは親友の彼が大好きだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる