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203 先輩の後悔(先輩視点)
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「ダメだ……先輩、全然ケータイ出ない」
――――出られないんだよ。ホラ、着信はあるのに触っても反応しないんだ……
「メールは……駄目だ。返事ない」
――――届いてる。届いているのに、返事が返せない
「先輩、よっぽど失恋がショックだったんだなあ……。『やけ食いなら付き合います』……って、思い出させるようなことはメールに書かない方がいいかな?」
――――違うっ! アイツのことは関係ないっ……
ドンッ!
「ひ……っ!?」
――――しまった、つい、また……
「何、今の……? あ、電車来た。とりあえず、送信……」
着信は鳴る。読める。しかし、返事が送れない。
――――ルカ……
「あらやだ。貴方、部室にまだ居たの? こんな時間まで残って、警備員さんに見つかったら怒られるわよ」
「……皮肉ですか?」
「皮肉も何も、力を悪用して悪い事したらますます阻害が進むわよ。社会のルールは厳守。まあ、今日はお祭り気分でこっそり残ってる人もいるから制約からもお目こぼしされると思うけど」
「……俺のことはほっといてください」
ルカの目の前に居ても姿が認識されない。せっかく、存在自体は認識されているのに。目の前で心配してくれているのに。
見えない何かに阻害をされて電話もメールも返事を返せない。彼女の目の前で眺めることしかできない自分。
そのことがつら過ぎて俺は部室へと戻った。この状態で、一人家に帰る勇気は無かった。
これで家族にまで認識されなかったら、この世界から存在自体が消え去ってしまったかのような絶望を味わうことになる。
♪♪♪~
ルカからの着信。今度は電話か。いつもならアイツ寝ている時間なのに。
♪♪♪~
♪♪♪~
なかなか切れない。今度は長いな……頬が緩む。でも、やっぱり何故か電話には出られない。着信がある度に心が癒されるが、鳴りやむ度に不安になる。再びかかってくることはあるのだろうか。
『先輩、今どこですか?』
『先輩、家に着いたら電話ください』
『メールでもいいので連絡ください。急にいなくなったから心配です』
『先ぱーい! つらい時にはやけ食いですよ。もし太ってもダイエットなら付き合いますから☆』
『先輩、もう寝ちゃいましたか?』
『夜中でもいいので返事を……』
何度も、何度もルカからのメールを読み返す。大丈夫、まだ認識はされている。ただ、目の前に居ても気が付かれないだけだ。
着信はある。着信の数だけ俺は必要とされている。
返事を返せないだけで。
……でも、それって、存在しているっていえるのか?
不安になって、着信履歴を見る。ああ、また鳴った。一件増えた。まだ、大丈夫……。
「あーもー、重症ねえ。話を聞いて拒絶されたならともかく、あの耳栓のせいで……おかげで、何一つ彼女の耳に入っちゃいないんだから、むしろセーフでしょ。今回のは独り言での予行演習のようなものだったんだから。ルカちゃんだってこちら側にくるでもなく、今まで通りにしてるじゃないの。貴方のことだって見えてなくても覚えているんだから、そのうち元に戻るわよ」
「そんな保障どこにも……」
「ないわね。だから、慎重にするべきだったのよ。巻き込むなら巻き込むで、嫌われる覚悟で引きずり込めば良かったの。それが嫌なら、次はきちんと手順を踏みなさい」
出来るものならそうしてる。既に後悔でいっぱいだ。
何で高校のあの時、儀式を実行しなかったのか。恐怖で部活に縛ろうとしたときに、今回の決断をしていればよかったんだ。何の警戒心もないあの時だったら成功していた。
くだらない怪談話なんかで自ら選択させようとしないで、今日の話をしていれば強制的に引きずり込めていた。
そうすれば今頃、こんな思いをすることもなく、ルカはこちら側に在ったのに。
でも。
そうしたらアイツが大学に入学してから今日までの思い出は作れなかった。
アイツに先輩風を吹かせて。色々教えてやって。
サークルに誘って。受け入れられて。
学食で一緒に食事したり、一緒の講義を受けたり。
ケーキ屋さんで寄り道したり。
そんな『普通』の生活が、どれだけ俺を惹きつけたか。
そうか。俺は、普通の生活が送りたかったんだ。
学校で友達を作って、部活を楽しんで、後輩をからかって。……少し、胸がドキドキするような恋をして。
ごくごく普通の、誰もが当たり前に手に入れられる暮らし――。
それをアイツと出会ってほんの少しでも体験することが出来たから、つい、もっともっとと欲が出た。
大事なことはたった一つだったのに。
アイツと出会って希望が産まれた。普通に生きているって思えた。アイツといる時間が好きなんだ。だから、大事な部活を共有したかった。
正直、アイツだって普通じゃない。魔力が無いことだけじゃなく、こだわりが強いし、強情だし、俺のことマイペースだなんだって言うけれど、お互い様だと思っている。
でも――それでも、そんなルカが好きなんだ。
大事な居場所だったオカルト研究会。失っても形を変えて再び得ることが出来たように、ルカとも今まで通り普通に話せる日が来るだろうか。
今度は間違わない。無理強いしたりしない。騙し討ちもしない。ちゃんと手順を踏むから。
だから――。
どうか、もう一度だけチャンスが欲しい。
今度こそ、制約を逸脱しないで頑張るから――。
再びルカからのメールを読もうとするも、気が付いたら携帯の電源は切れていた。
電池切れだ。
これで確かめる術がなくなった。
俺は、まだルカに覚えてもらっているのだろうか……。
――――出られないんだよ。ホラ、着信はあるのに触っても反応しないんだ……
「メールは……駄目だ。返事ない」
――――届いてる。届いているのに、返事が返せない
「先輩、よっぽど失恋がショックだったんだなあ……。『やけ食いなら付き合います』……って、思い出させるようなことはメールに書かない方がいいかな?」
――――違うっ! アイツのことは関係ないっ……
ドンッ!
「ひ……っ!?」
――――しまった、つい、また……
「何、今の……? あ、電車来た。とりあえず、送信……」
着信は鳴る。読める。しかし、返事が送れない。
――――ルカ……
「あらやだ。貴方、部室にまだ居たの? こんな時間まで残って、警備員さんに見つかったら怒られるわよ」
「……皮肉ですか?」
「皮肉も何も、力を悪用して悪い事したらますます阻害が進むわよ。社会のルールは厳守。まあ、今日はお祭り気分でこっそり残ってる人もいるから制約からもお目こぼしされると思うけど」
「……俺のことはほっといてください」
ルカの目の前に居ても姿が認識されない。せっかく、存在自体は認識されているのに。目の前で心配してくれているのに。
見えない何かに阻害をされて電話もメールも返事を返せない。彼女の目の前で眺めることしかできない自分。
そのことがつら過ぎて俺は部室へと戻った。この状態で、一人家に帰る勇気は無かった。
これで家族にまで認識されなかったら、この世界から存在自体が消え去ってしまったかのような絶望を味わうことになる。
♪♪♪~
ルカからの着信。今度は電話か。いつもならアイツ寝ている時間なのに。
♪♪♪~
♪♪♪~
なかなか切れない。今度は長いな……頬が緩む。でも、やっぱり何故か電話には出られない。着信がある度に心が癒されるが、鳴りやむ度に不安になる。再びかかってくることはあるのだろうか。
『先輩、今どこですか?』
『先輩、家に着いたら電話ください』
『メールでもいいので連絡ください。急にいなくなったから心配です』
『先ぱーい! つらい時にはやけ食いですよ。もし太ってもダイエットなら付き合いますから☆』
『先輩、もう寝ちゃいましたか?』
『夜中でもいいので返事を……』
何度も、何度もルカからのメールを読み返す。大丈夫、まだ認識はされている。ただ、目の前に居ても気が付かれないだけだ。
着信はある。着信の数だけ俺は必要とされている。
返事を返せないだけで。
……でも、それって、存在しているっていえるのか?
不安になって、着信履歴を見る。ああ、また鳴った。一件増えた。まだ、大丈夫……。
「あーもー、重症ねえ。話を聞いて拒絶されたならともかく、あの耳栓のせいで……おかげで、何一つ彼女の耳に入っちゃいないんだから、むしろセーフでしょ。今回のは独り言での予行演習のようなものだったんだから。ルカちゃんだってこちら側にくるでもなく、今まで通りにしてるじゃないの。貴方のことだって見えてなくても覚えているんだから、そのうち元に戻るわよ」
「そんな保障どこにも……」
「ないわね。だから、慎重にするべきだったのよ。巻き込むなら巻き込むで、嫌われる覚悟で引きずり込めば良かったの。それが嫌なら、次はきちんと手順を踏みなさい」
出来るものならそうしてる。既に後悔でいっぱいだ。
何で高校のあの時、儀式を実行しなかったのか。恐怖で部活に縛ろうとしたときに、今回の決断をしていればよかったんだ。何の警戒心もないあの時だったら成功していた。
くだらない怪談話なんかで自ら選択させようとしないで、今日の話をしていれば強制的に引きずり込めていた。
そうすれば今頃、こんな思いをすることもなく、ルカはこちら側に在ったのに。
でも。
そうしたらアイツが大学に入学してから今日までの思い出は作れなかった。
アイツに先輩風を吹かせて。色々教えてやって。
サークルに誘って。受け入れられて。
学食で一緒に食事したり、一緒の講義を受けたり。
ケーキ屋さんで寄り道したり。
そんな『普通』の生活が、どれだけ俺を惹きつけたか。
そうか。俺は、普通の生活が送りたかったんだ。
学校で友達を作って、部活を楽しんで、後輩をからかって。……少し、胸がドキドキするような恋をして。
ごくごく普通の、誰もが当たり前に手に入れられる暮らし――。
それをアイツと出会ってほんの少しでも体験することが出来たから、つい、もっともっとと欲が出た。
大事なことはたった一つだったのに。
アイツと出会って希望が産まれた。普通に生きているって思えた。アイツといる時間が好きなんだ。だから、大事な部活を共有したかった。
正直、アイツだって普通じゃない。魔力が無いことだけじゃなく、こだわりが強いし、強情だし、俺のことマイペースだなんだって言うけれど、お互い様だと思っている。
でも――それでも、そんなルカが好きなんだ。
大事な居場所だったオカルト研究会。失っても形を変えて再び得ることが出来たように、ルカとも今まで通り普通に話せる日が来るだろうか。
今度は間違わない。無理強いしたりしない。騙し討ちもしない。ちゃんと手順を踏むから。
だから――。
どうか、もう一度だけチャンスが欲しい。
今度こそ、制約を逸脱しないで頑張るから――。
再びルカからのメールを読もうとするも、気が付いたら携帯の電源は切れていた。
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