魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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245 駅前散歩の置き土産――召喚主の誤算

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 その後は何となくいつもの習慣でスーパーの半額コーナーに寄ってから帰宅した。

 ――で、ついでに野菜嫌いのしょんぼり王子にドレッシングを買ってあげた。


 いや、ちょっと……王子が色々やらかしていることに対する制裁なのは分かっているんだけど、夕食の時間が近づくにつれて王子の元気がなくなっちゃってるし、召喚早々あそこまで憔悴しているのを見ちゃうと、何かねぇ……。

 まぁ、私も無理にサラダを食べさせたりとかしているから人のことを言えないけど。

 どうやら王子の話を聞く限り塔での食事……特にサラダなんかについては、素材は良くても塩コショウなどのシンプルな味付けが多いようなのだ。

 野菜が好きな人からしたら素材の味が楽しめるそれらは食が進みそうだけど、野菜の風味や青臭さが苦手な人からしたら、少し食べるのがツライかもしれない。しかも野菜嫌いに拍車がかかってしまいそうな予感もする。

 だから、その辺を味の濃いドレッシングで誤魔化すことが出来れば、多少野菜への苦手意識も減るのでは……と考えたのだ。

 実際、半分だけとはいえ、王子はモーニングに付いていた野菜サラダを、食べ始めたら美味しそうにペロリと食べていたし。あれにも濃いめのドレッシングがかかっていた。
 前にも何度か似たようなことはあったから、味付け次第で食べられるのなら試す価値はあるのではないだろうか。

 上手くすれば王子の好き嫌いを直すきっかけになるかもしれないし。……まあ、気休め程度かもしれないけれど。


 ただ、そこで問題となってくるのはドレッシング開封後の保存方法だ。


 偽王子(猫耳)が時間停止型のローブ収納を使いこなしていたからもしや……と思い王子(本物)に偽王子の存在には触れずに遠回しに聞いてみたところ(ダイレクトに聞けないのが地味に面倒くさい……)やはりというか何というか、王子の空間魔法にも似たような機能がついているらしい。

 そのうえで冷やしたりとか温めたりとか、温度を指定してからの時間停止とかもできるそうだ。

 何それスゴイ! ――と感動した。

 だって。それってつまり、完全劣化防止機能の付いた、しかも一切場所の取らない冷蔵庫とか冷凍庫とか電子レンジとかの複合機を持ち歩いているようなものじゃない。

 それならたとえ異世界に冷蔵庫がなくたってドレッシングの保存には困らないし、そのうえ賞味期限も気にしなくていいとか超便利――と、そこまで考えてとある疑問が湧いてきた。


 ……あれ? 前に、王子ってば冷蔵庫と電子レンジにメッチャ食いついてたよね??

 ……ってか、ぶっちゃけそんな便利魔法があるのなら、冷蔵庫も電子レンジもいらなくない? 場所もいっさい取らないし……。

 そう思って王子にツッコミ入れたら



「いや……だって、その分魔力を食うじゃないか」



 ――と、分かったような、分からないような回答が返ってきた。



 …………。
 まあ、どうせ王子のことだから、

『そんな余分な魔力があったら、魔法陣の改良をしたり、こっちに遊びに来るのに使いたい』

 ……とかいういつものアレだろう。そう思い聞いてみたら、やはりいつものソレだった。

 そのうえでメッチャいい笑顔で「…あ……♡」とか変な声を出していたからまた例の範囲が広がったみたいですね……。


 あー、もう、本当にちょっとしたことで広がるな、コレ!!

 王子が調子づきそうだから目に見えて反応するのは避けたけど、ダメだ……!
 コレは気を付けないと本当にダメだ……!!

 そのうち電車乗れそうとか、王子ならやりかねないとか、余計なことを考えたら絶対にダメなやつだ!!!

 …とにかく、一度冷静になろう。
 …………ヨシ!!



 ――で。そんな冷蔵庫・電子レンジいらずで便利な王子の空間魔法も、やはり眼鏡ケース20個分しか入らないというのは結構使い勝手が悪いのだそうだ。

 眼鏡ケースに入る物しか保管できないし、眼鏡ケース二つ分使ったりする裏技もあるにはあるが、そうするとフタが閉まらない分、魔力の消費量も若干上がってしまうという妙にリアリティーのある謎仕様。

 でも眼鏡ケースに入りさえすれば、ケースごとに冷たいもの温かいものと分けて保管できるとか、冷温設定オフにすると必要魔力が下がるから眼鏡やエコバッグ、それに塔の地下ダンジョンを暇に飽かせて攻略したときに見つけた、はぐれセイレーンから受け取り拒否された曰く付きの宝石なんかはそれで保管してる――――って、眼鏡やエコバッグはいいけど、曰くつきのソレはこっち持ってくるなって言ったよね!?

 いや、違う『押すな、押すな』じゃないってば。
 怖いからガチで止めて。ってか、少しは自重しろ。



 ……そんな、芸人気質をお持ちの王子様。

 購入するドレッシングについては王子の気に入った物の方がいいと思って好きな商品を選ぶように言ったんだけど、私に遠慮してか半額コーナーに置いてあった見たことのないメーカーのドレッシングが良いと言って譲らなかった。


 コレについては私も若干責任を感じているけれど……王子は『半額』とか『お得』とか『節約』とかいった言葉が大好きだ。

 王子は元々、自分がこだわるところに一点集中する為に、労力使ってまで本来便利なはずの魔力を節約する生活をしていたみたいだから素養はあったんだろうと思うんだけど……覚えたことは即実践したい遊び感覚もあるのだと思う。


 …あの……。


 でもですね、ソレ……見たことのないメーカーだけど、見るからに高そうで実際ちょっぴりお高くて……。たとえ半額になっていても、私が日頃購入している安くても十分美味しい、有名メーカー品の二倍くらいのお値段が…………(ボソボソ)。


 ……とまあ、悩みはしたけれど、王子も気に入っているし、これで腹黒さんの対王子制裁☆お野菜増量キャンペーン週間が乗り切れるのなら安いものか(高いけど)と考え、思い切って購入。


 お土産を手に、にっこにこの大満足で帰った王子様に後日聞いたところによると、出されたサラダに追いドレッシングする勢いで大満足の美味しさだったらしい。
 うん……まあ、厳選素材で高いしね……。

 まあ、良かった。良かった――けど。


 コーヒーショップのモーニングにタピオカに高級ドレッシングに今後散財確定の巨大ゲーセン……


 バイト――もうちょい頑張らないと、だな。うん。



 そんな王子大満足の、魅了堕ち幽閉王子と行くぶらり腕組み手繋ぎ駅前散歩――だったのだが。



 ……その様子を一番見られてはいけない人に目撃されてしまっていた――のだった……






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