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246 鈴木さんと後輩君(前の召喚主視点)
しおりを挟む『う…ひっく……お願い、目を開けて……シーバス伯爵……お兄…様……っ!!』
『……はは…………は……。…やっと、俺の事をそう呼んでくれたな』
『良かった、意識が……!』
『嬉しいよ、これで、もう思い残すことは…何も……俺……の、大事…な――……』
『……お兄様? お兄様! 嫌よ、死なないで、お兄様!! お兄様ぁぁぁあ――――っ!!!!』
「――と、いう夢を見た」
「俺、コンビニチキンの利点って、食べたいと思った時に温かいチキンをすぐに、その場で食えることだと思うんですよね。何だかんだ買いたてが一番、味いいし。ただ、その分齧った時の油の滴り具合もすごくって、うっかりスーツやコートにつくとなかなか油汚れが落ちないじゃないですか。それを考えると近場のコンビニで買って、こんな風に帰社してから落ち着いて食堂で食べるのが一番かもとは思うんですが、やっぱジューシーさがまったく違うんだよなぁ……。まあ、こんなふうに別のコンビニチキンと食べ比べできるのは利点と言えなくもないですが。ああこっちも美味いなあ」
「いや、お前、俺の話聞いていたか??」
残業続きでちょっと疲れ気味の昼休み。昼食を摂りつつ、久々に仮眠中に見た癒し効果抜群の夢の話を後輩にしたら、無関係の話で適当に流された。
いや、確かにあの子に包んでもらうコンビニチキンはこの上なく美味しいが。ただ、時間帯によっては置いてないんだよなぁ……。準備中で。悲しい。
「いや、ちゃんと聞いていましたってば。悪夢を見たって話っスよね。鈴木さん今月入ってから残業続きだし、そりゃ、悪夢くらい見ますって。えーと、……今日で何連勤目でしたっけ?」
「お前、話聞いてないだろ。『お兄様』って呼ばれていただろ、『お兄様』って! 妹が出ているんだからいい夢に決まっているだろうが。俺としてはこれであと一週間は残業できる元気をもらったぞ(ニヤニヤニヤニヤ)」
「いやいやいやいや、鈴木さん夢で普通に死んでたじゃないですか。それのどこがいい夢なんですか。…ってか、これ以上の残業って、そろそろ本気で死にますよ!? ……あれ? そういえば、鈴木さんちゃんと休みとってます!??」
「俺の生死なんて、そんな些細なことはどうでもいいんだよ。妹からの『お兄様』呼びのバーゲンセール。いい夢か悪い夢かの評価基準において、これ以上の判断材料はないだろうが。まあ、確かに今月の残業続きは少しアレだが、年末はこんなもんだ。何より、あの案件対応できるの俺しかいないからな……。でも、今の俺は素晴らしい夢のお陰でやる気がみなぎっている。なんなら早出残業だってプラスできそうだ」
「だから、働き過ぎで鈴木さんの判断能力が鈍っているだけですって! ……はあぁ…」
「……ん? お前、もしかして昼飯それだけか? 食欲無いのか? 何か悩み事があるのなら聞くぞ?」
「いやまあ、実は妹のことで少し……って、よく分かりましたね? これ見てそう聞いてくれるのは妹と鈴木さんだけですよ」
カラになった各社・各種コンビニチキンの包み紙を片付けながら後輩がため息を吐く。
後輩の妹は兄の不調を敏感に感じ取ってくれるらしい。
やはり後輩は妹ととても仲が良いようだ――言葉の端々からリアル妹持ちの余裕を感じてムカつくが、最強メンタルの後輩が珍しく思い悩んでいる様子から嫉妬心をぶつけている場合ではないのは分かる。……ので、それは我慢する。
それにしても、後輩は何を言っているのか。
縦だけじゃなく少し横にも大きい後輩は、平常時ならばこれに弁当がつくのだから、様子がおかしいことなど誰がどう見ても一目瞭然だというのに。
そうでなくとも彼に一から仕事を教えた俺を見くびってもらっては困る。後輩の異変ぐらい判らないでどうすると言うのだ。教育係なめんなよ。
――――しかも、だ。
「妹についての悩みなんて一大事じゃないか。お前、何ですぐに言わないんだよ。それなら俺の話は後でもよかったのに」
「あ。どの道、さっきの夢の話は聞かされるんですね……まあいいですけど。――で、妹のことなんスけど、悩みというか……ちょっと判断に困るもの見ちゃって……」
「何を!? いったい妹の何を見たというんだ!?」
「なんスか、その食いつき具合……目が真剣過ぎて怖いです。ガチで引きます。いや、実は……妹が男と腕組んで歩いているトコ見ちゃったんですよ。まあ妹も大学生だし? そういう事もあるのかもしれないですけど……やっぱソレですかね? そんな様子なかったんだけどなあ。鈴木さんどう思います?」
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