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255 お持ち帰り王子
しおりを挟む「…眠れない……」
二日間ほど休・王子召喚日を挟んでの、本日二度目となる夜の召喚。
昼間、おやつの時間に一度目の召喚をしたときも少し気にはなっていたんだけど。寝る前の夜召喚では昼間より更に目の下のクマが色濃くなった、どこからどう見ても睡眠時間が足りていない寝不足王子があらわれた。
そんな王子を前にして心底思う。
―――でしょうね!!!!
いや、もう当然と言うかなんというか……。
人によってカフェインに強い弱いはあるだろうけど、今回だけでなく以前にも飲みなれている筈の紅茶で同じような状況になっていたことから、王子はそこまでカフェイン耐性が強くないと思われる。
それなのに、グビグビ☆ ごくごく☆
あんなにコーヒーばっか飲んでいたら、そりゃそうなるわ!!
しかも、インスタントではない本格派……の、私のお財布に厳しい少々お高いやつ。
……ったく、こうなることぐらい王子にだって予測できたでしょうに。
まあ、本格派のコーヒーが美味しいのは分かるけどさ。香りもいいし? イメージ的にも何とな~くカッコいいし?
でも、それにしたって限度がある。
――――しかも。
「王子ったら、召喚休みの前に、うちのドリップコーヒーのストック、ごっそり持ってったでしょう?」
「(――ぎくっ)よ、よく分かったな!?」
「随分と気に入ったみたいだから、買い置き切らして王子がガッカリしないように、毎日残りの個数をチェックしていたのよ。減った分、補充するためにね」
「(ぱぁあああ…)そ、そうか! 召喚主は僕のことをそこまで考えてくれているのか!!(キラキラ)」
――って、なに瞳を輝かせて感動しているんだか。今そういう流れじゃなかったでしょうよ。空気読め――は難しいか。この王子様は安定して斜め上の解釈をしちゃうから。
そうなのだ。この王子ときたら私の召喚が無い日でもすっかり魅了されちゃったお気に入りの本格派コーヒーを飲めるように、なんと異世界へドリップコーヒーをお持ち帰りしていた。しかも袋ごと。
いや、もうね。そこまでコーヒーにハマっちゃったのかと驚きましたよ。確かに『私に断らなくても自由にお茶飲んでいいよ』とは言ったけどさ(いちいち聞かれるのが面倒だから)。
でもまさか、塔にお持ち帰りまでしているとは思わなかった。
「……いや、まあ楽しみにしているみたいだから私も気を付けて補充はしていたけどさ。持って帰るのもいいけどさ。それで自分の健康を害しちゃ意味ないでしょうよ。王子は楽しく遊ぶためにこっちに来ているんでしょ?」
「あ、ああ。夜も呼んでもらえるようになったから、召喚主が寝た後コーヒーを飲みながら夜中までゲームするのが楽しくて、つい、な。あとちょっとだけゲーム進めたいけど眠いからもう一杯、あと一杯だけ――と。そんな感じでだらだら飲んでいるうちにハマってしまった。なんかあれ飲むと眠気もとれるから」
あーそれはよく分かる! うんうん。当たりのゲームにハマっているとき、キリが悪いのに途中でセーブとか無理ゲーだよね☆ 乙女ゲームやりつつ、ついつい――はよくあるよくあるぅ――――って、私が王子に流されちゃってどうすんだ!!
「…でも、それで体調不良を疑われてまた秘密の離宮に送られちゃうのも嫌でしょう? ……私だって、王子がウチに来なくなるのは嫌だし…………」
そうすると、もれなく偽王子がウチにわらわら来ちゃいますからね。そんでもってそれには命の危険が伴いますからね。
「そそ、そうか。それはももも、もちろんだ!!(かぁああ……////) 僕も、自由でのびのび快適な秘密の離宮暮らしはもう嫌だ。……あそこはゲームが出来ないし…………(サァアア……||||)」
何故だか赤くなったり青くなったりと忙しい王子の顔色は謎だったが、とりあえず秘密の離宮の環境はすこぶる良いらしい。
そんでもって、王子の中ではそんな素晴らしい住環境よりゲーム環境の方が上位に位置するのは分かった。
うん、まぁ分かるし、そこは私も激しく同意。
面白いもんね、ゲーム。ゲームのない生活なんて私も考えられない。
私だって、大学進学に合わせて一人暮らしをしたことでようやく好きなだけ自由にゲームができる環境を整えたんだもの。
だからこそ新作乙女ゲームが出るとついつい無茶して頑張っちゃうのよ……早朝からバイトだってのに。
でも、こればかりは仕方が無い。乙女ゲームは私にとって心のオアシスだもの。特に眼鏡キャラなんか攻略している日にはやめられないし止まれない、ここはコーヒー飲んででも――――って、だから私が王子に流されちゃ駄目だって!!
ゲーム好き同士。
いい香りのするコーヒーの美味しさとゲーマー魂は私にだって理解できちゃうが、とりあえず今はゲームより王子の不眠を解消することの方が最優先、ということで。
ここはひとつ、以前から何となく考えていたことを実行に移すことにした。
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