魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
257 / 364

257 負けず嫌い召喚主と≪精霊祭り≫

しおりを挟む

 この時期の夜の街並みは自分で思っている以上に見応えがあった。


 ちょっとコンビニへ……とか、そのくらいの外出はあるけれど。基本的に私、夜はあまり外に出ないからな。
 実家にいる時も夜の外出は家族から心配をされるから、親かお兄ちゃんのうちの誰かが付き添ってくれていたし……。


 その感覚が身についているせいか、一人暮らしを始めてからも夜の外出はなるべく控えていた。何だかんだ、私が夜にちょいちょい出かけるようになったのは異世界から王子様を召喚するようになってからだ。

 そう考えると、この日々の王子召喚は私にとっても大きなメリットがあると言えそうだ。


 お兄ちゃんに付き添ってもらっている感覚で安心して夜のスーパーに行ってお得なお値引き品が狙えるし。

 そのお陰で食費が下がって、王子のおやつ代も賄えるし。
 王子の好きなポテトチップスとコーラ代も馬鹿になりませんからね☆


 ……って、あれ?
 よくよく考えてみるとコレってプラマイゼロじゃない?? ううん、本物の他に偽王子が3人もいることを考えるとむしろマイナスかも……。

 偽王子(大)用の甘い系おやつに偽王子(猫耳)用の魚系おやつに偽王子(腹黒)用のエナジードリンクetcetc……で、エンゲル係数爆上がり……。


 …って、はっ!? いけない、いけない!
 これは冷静に考えたら確実にボロ負けしちゃうやつだ!! もっとテンション上げないと!

 大丈夫、年季の入った私の負けず嫌いは伊達じゃない!!! ――――よし!




 ……とか、気持ちの上で本末転倒からの巻き返しを図っているうちに、無事目的地≪駅前≫へと着きました。

 駅前には銀行から書店から飲食店まで、とにかくたくさんのお店がひしめいている。
 その一つ一つが丁寧にクリスマス仕様の飾りつけを行っていてとても華やかだ。ちなみに私のイチオシは眼鏡屋さん。

 ツリーにさりげなく飾られた眼鏡の飾りが素晴らしいですね☆


「これは凄い……光が溢れてキラキラしているな…………」


 ――と、王子もすっかりイルミネーションに魅了された様子であちこち眺めている。

 おお。中途半端翻訳が消えて、言葉もバッチリ通じるようになりましたね。どうやら順調に王子との信頼関係が深まっているようだ。

 行動可能範囲もじわじわ広がっているみたいだし、この分なら駅近のショッピングモールに行ける日も近いかも知れない。

 あっちのツリーも本格的でキレイなんだよね。色々なお店もあるし、フードコートも広いし、来年はぜひ、王子をそっちに連れて行ってあげたいものだ。

 うん! 来年の目標も出来て、イイ感じに興奮してきましたよ。


 王子召喚の勝ち負けを気にしている場合じゃなくなってきましたね――――ってか、むしろ勝ち。




 駅前のクリスマス装飾は昼間に見ても十分楽し気だったが、こうして夜に見ると電飾のキラキラも加わるせいか、より一層華やかさが増している。

 私も去年はピタッと召喚されてこなくなった王子を心配してクリスマスを楽しむどころじゃなかったし、それが今年はこうやって会話をしながら、一緒にイルミネーション見物ができているのだから素直に嬉しい。


 ――――何より、夜に見ると本当にキレイだ。


 一応、早朝バイトの都合上、朝方まだ真っ暗なうちに出勤はするけれど、わざわざ駅前の方までは来ないから、私もこうしてじっくり駅前のイルミネーションを見るのは初めてかもしれない。

 早朝の電飾がどうなっているのかは分からないけど、どのみち朝は私も楽しむ余裕がない。周りが住宅街で安全な道を通って出勤するとは言っても、やはり駅前に居酒屋がある影響か、朝方は酔っぱらいが騒いでいたりもしますのでね。

 そのため、たとえ時間があってもわざわざ見に行ったりしません。出来る限り危険は避けます。
 何かあって、一人暮らしを辞めさせられたら嫌だから。


 そういった意味でも、王子と夜に出歩けるのはやっぱり楽しいかもしれない。
 王子はお兄ちゃんと違ってお出かけするのに面倒そうな顔はしないし、一緒になってこういう季節の行事を楽しめるもの。

 うん。この王子召喚、やっぱ勝ち負けでいうなら私の勝ちだな! 王子様様です。

 そう思ってちらりと隣を見あげれば、王子はロータリーにある、ひと際大きい木に魅入っていた。


 どれどれ、と王子につられるようにして私もそちらに目をやった。


 クリスマスツリーに見立てられたその木には多くの電飾が付けられていて、どの店先に置いてあるソレよりも華やかだ。しかも、電飾自体少し凝っていて、一斉に点滅したり時間をずらして光の線を描いたりと、飾り付けた人の拘りが見える素晴らしい出来だった。

 いつもならわざわざ立ち止まってまでこんなにじっくり見たりはしないから、視界の隅で流れていくだけの日常風景にここまでの仕事がしてあるとは気が付かなかったかもしれない。

 王子と一緒にその幻想的な電飾にしばし見惚れていると、すぐ横から、


「精霊祭りみたいだ――」


 ハッキリと――それでいてどこか心あらずと言うように呟く王子の言葉が聞こえた。


(精霊祭り……?)


 何だろう。聞き覚えがあるような、ないような。王子の世界の、クリスマスを彷彿とさせる祭り的な何かだろうか。
 不思議に思って隣を見あげると。



 イルミネーションの光に照らされた王子の目から、ポタポタと涙が伝っていた――――。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされ、谷に落ちた女は聖獣の血を引く

基本二度寝
恋愛
「不憫に思って平民のお前を召し上げてやったのにな!」 王太子は女を突き飛ばした。 「その恩も忘れて、お前は何をした!」 突き飛ばされた女を、王太子の護衛の男が走り寄り支える。 その姿に王太子は更に苛立った。 「貴様との婚約は破棄する!私に魅了の力を使って城に召し上げさせたこと、私と婚約させたこと、貴様の好き勝手になどさせるか!」 「ソル…?」 「平民がっ馴れ馴れしく私の愛称を呼ぶなっ!」 王太子の怒声にはらはらと女は涙をこぼした。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

悪役令嬢は高らかに笑う。

アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。 エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。 たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。 男爵令嬢に教えてもらった。 この世界は乙女ゲームの世界みたい。 なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。(話し方など)

婚約を破棄したら

豆狸
恋愛
「ロセッティ伯爵令嬢アリーチェ、僕は君との婚約を破棄する」 婚約者のエルネスト様、モレッティ公爵令息に言われた途端、前世の記憶が蘇りました。 両目から涙が溢れて止まりません。 なろう様でも公開中です。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】深く青く消えゆく

ここ
恋愛
ミッシェルは騎士を目指している。魔法が得意なため、魔法騎士が第一希望だ。日々父親に男らしくあれ、と鍛えられている。ミッシェルは真っ青な長い髪をしていて、顔立ちはかなり可愛らしい。背も高くない。そのことをからかわれることもある。そういうときは親友レオが助けてくれる。ミッシェルは親友の彼が大好きだ。

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!  ※少しだけ内容を変更いたしました!! ※他サイト様でも掲載始めました!

処理中です...