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332 王子とお花見 前編
しおりを挟む「召喚主、まだか? まだなのか!?」
「王子ったら流石に気が早いわよ」
「そろそろか? そろそろじゃないか!?」
「うーん、もうちょい?」
「うう……正確な日付が判らないと、お花見の予定を僕の手帳に書き込めないじゃないか……!」
スケジュール手帳を買ってあげてからというもの、毎日毎日王子がうるさい。こちらへ召喚されるたびに桜の開花はまだかと私に聞いてくる。
いや、正確な桜の開花日なんて、そんなの簡単に判ったら誰も苦労しないって。わざわざ天気予報で開花予想とか出しているくらいなんだからさあ……。
でもまあ、そう言いたくなる王子の気持ちも解る。一年365日『幽閉』で自分の予定が埋まっていたら、そりゃあ楽しい予定の一つも書き入れたくなるだろう。
……ってか、王子も何で手帳にソレ書いちゃうかな。
幽閉とか王子にとっては生活の一部なんだから、わざわざ書き入れる必要ないでしょうに。そんな手帳、開く度に憂鬱な気分になりそうなんだけど。
とはいえ、今更そんなことを言っても始まらないし王子の『まだか、まだか』も終わらない。
色々と考えた結果、ここのところ日課になっている100均のお店に行くときに、少し遠回りをしてお花見スポットの公園を通ることにした。去年、王子と一緒にお花見を楽しんだあの公園だ。
開花予想である程度の日付は判っても、天気や日当たりとかで実際の日付は変わってきますからね。
これなら目的の場所の桜の状態を自分達の目で確かめられるし、まだかまだかとうるさい王子も静かになるし、ついでに毎日の運動量も増えるしで、まさにいいことずくめ!
100均とお花見の相乗効果で、幽閉慣れしたうちのゲーミング王子様も毎日楽しそうにお出かけをしてくれます。
そうして日々色づいていく桜を観察して。
少しずつ開いていくつぼみを見守って。
そして、ついに――!
「咲いたな……!!」
「咲いたね……!!」
一度咲いてしまえば桜の花はあっという間に広がって、今は七分咲きというところ。
満開には少し早いけれど、そろそろいいんじゃないかな?
休王子召喚日を挟むし、こういうのはお天気次第なところがありますからね。何より、明日の朝は私のバイトがお休みだから、寝る時間を気にしなくて済むし。
「じゃー、少し急だけど……今日の夜にでもお花見しようか?」
「宴会だな? 宴会をするんだな!? 去年約束したやつ!」
ああ、そういえば。『来年は一緒にお酒を飲もう』と王子と約束しましたね。
去年は半額のお惣菜+ソフトドリンクでお花見をしたけれど……今年の私は二十歳を迎えているから、お酒だって買えるし飲めちゃうのです!
ええ、ええ、いいでしょう。
約束したからにはちゃんと守りますとも。女に二言はありません。
お酒を買うとなると少し高くつくけれど、その分、料理の方を自分で作れば問題はない。全部手作りは大変だから、夜桜見物のついでにスーパーを覗いて、割引品でいいのがあったら少しだけ買い足すことにして……よし、それでいこう!
「うん。『来年は一緒にお酒を飲もう』って約束したもんね。お酒も色々と種類があるから、去年みたいに夜桜見物がてらスーパーに買い出しに行こうよ」
「やった! これでやっと手帳に予定が書ける! 楽しみだな」
たとえ当日の予定でも王子はきちんと手帳に書き込むようだ。よほどお花見が楽しみなのか、王子は桜の木を見上げてにこにこしている。
ぽかぽか。
そよそよ。
サァァ……。
王子につられて桜を見上げれば、青い空に浮かぶピンク色の隙間から暖かな日差しが差し込んでいて、風が吹くたびにキラキラとした光が揺れている。
道行く人たちの視線も自然と上を向いていて、聞こえてくる話し声もどこか楽し気だ。
冷たい空気の中に咲き誇る静かな夜桜もいいけれど、こうしてお日様の下で見る賑やかな桜もすごくキレイで、このまま家に帰っちゃうのは少しもったいない気がする。
「うーん……本格的なやつは夜にやるとして、せっかくこんなに天気もいいんだし、先にお花見の予行演習をしちゃおうか?」
「予行演習?」
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