12 / 27
番外編
11 記憶を封印された影
しおりを挟む
目が覚めると商業地区にある宿屋に居た。
ココにいる、ということはそういうことなのだろう。任務が完了し、記憶を消されたということだ。ここから数日間は記憶を安定させるための休暇になるはずだ。
ベッドに寝かされ、枕元には俺以外には認識阻害のかかったマジックバッグが置いてある。中身を確認すると、ギルドの口座に165,000,000エルが入っていた。明細がないから分からないが、金額からすると、10年以上仕事をしていたようだ。
その他に、指令書が入っていた。
「休暇は1カ月……か。長いな」
とりあえずやることもないので……食事のために街に出ることにした。
特に食事に興味はないので適当に店を選んで入った。メニューを渡されたが、正直、どれを頼めばいいのか分からない。早く決めないと目立ってしまう。
みんなは何を頼んでいるのだろうか――さりげなく周りを見渡すと。
女性客の元へ、赤いスープが運ばれていた。
……もやり……
それを見て、何やら落ち着かなくなった。何故だかソレから目が離せない。
タイミング悪く、店員が注文を取りに来た。店員は俺の視線に気が付くと、
「ああ、あれは本日のランチのトマトスープです。このあたりの名物ですよ! いかがですか?」
とお勧めしてきた。仕方ないのでソレを注文した。
運ばれてきたトマトスープは熱々で、正直なところ失敗したと思った。影の仕事では温かい食事を摂ることなどできない。だから、嫌いなはずの食べ物だ。――なのに。
一口食べたら、あっという間に食べてしまった。ふうふう、と冷ましながら、手慣れた様子で食べる自分に戸惑いを隠せない。消された記憶に関係があるのだろうか?
街を散策していると、再びもやりとした。雑貨屋の店先で、若い女性が置物を指さしながら「可愛いー☆」ときゃぴきゃぴしている。
え? まさかこんなのも消された記憶に関係あるのか?
ちなみに魔物を模したその置物はちっとも可愛くはなかったのが別の意味でもやりとした。
あちこち歩きまわり気が付けば夕方で。やたら賑わっている店があったので、近づいてみたら公衆浴場だった。店先に「本日ラベンダー湯」と書いてある。
……もやり……
何か落ち着かないものを感じたが、せっかくだからと入ってみた。影の仕事ではゆっくり湯につかるなどできるわけがない。魔法で済ますのが当たり前だ。だから、先ほどの感覚は間違いだ。
熱い湯につかると、体が温まりラベンダーの匂いが心地よかった。気持ちよくてスッキリする……思った途端にまた、もやりとした。
何なのだろう。この感覚は。
風呂で考え事をしたせいでのぼせてしまった。火照った体を冷まそうと、のんびり歩いていたら町はずれの修道院まで来てしまった。
商業地区にあるこの修道院は大きい。王都の商業地区にあるので寄付金が集まるのだろう。ただ、20年くらい前の戦争のせいで、一時期経営難になっていたはずだ。建物自体は立派だが、修繕が行き届いていない場所が目に入る。これでも前に比べたらマシなのだが。……前?
……もやり……
記憶を弄った直後はこういった不具合が出るのだと聞く。時が立てば、ああいつものだ、と気にならなくなるらしい。確かに。もやりもやりとすることの多い一日だったが、不思議と嫌な感じはしない。むしろ心地いいとすら感じてしまう。
ずっと歩き回っていたせいだろうか。そんなことを考えていたら、あっという間に睡魔が襲ってきた。
ラベンダーの香りに包まれて眠るのはとても心地が良かった。
ココにいる、ということはそういうことなのだろう。任務が完了し、記憶を消されたということだ。ここから数日間は記憶を安定させるための休暇になるはずだ。
ベッドに寝かされ、枕元には俺以外には認識阻害のかかったマジックバッグが置いてある。中身を確認すると、ギルドの口座に165,000,000エルが入っていた。明細がないから分からないが、金額からすると、10年以上仕事をしていたようだ。
その他に、指令書が入っていた。
「休暇は1カ月……か。長いな」
とりあえずやることもないので……食事のために街に出ることにした。
特に食事に興味はないので適当に店を選んで入った。メニューを渡されたが、正直、どれを頼めばいいのか分からない。早く決めないと目立ってしまう。
みんなは何を頼んでいるのだろうか――さりげなく周りを見渡すと。
女性客の元へ、赤いスープが運ばれていた。
……もやり……
それを見て、何やら落ち着かなくなった。何故だかソレから目が離せない。
タイミング悪く、店員が注文を取りに来た。店員は俺の視線に気が付くと、
「ああ、あれは本日のランチのトマトスープです。このあたりの名物ですよ! いかがですか?」
とお勧めしてきた。仕方ないのでソレを注文した。
運ばれてきたトマトスープは熱々で、正直なところ失敗したと思った。影の仕事では温かい食事を摂ることなどできない。だから、嫌いなはずの食べ物だ。――なのに。
一口食べたら、あっという間に食べてしまった。ふうふう、と冷ましながら、手慣れた様子で食べる自分に戸惑いを隠せない。消された記憶に関係があるのだろうか?
街を散策していると、再びもやりとした。雑貨屋の店先で、若い女性が置物を指さしながら「可愛いー☆」ときゃぴきゃぴしている。
え? まさかこんなのも消された記憶に関係あるのか?
ちなみに魔物を模したその置物はちっとも可愛くはなかったのが別の意味でもやりとした。
あちこち歩きまわり気が付けば夕方で。やたら賑わっている店があったので、近づいてみたら公衆浴場だった。店先に「本日ラベンダー湯」と書いてある。
……もやり……
何か落ち着かないものを感じたが、せっかくだからと入ってみた。影の仕事ではゆっくり湯につかるなどできるわけがない。魔法で済ますのが当たり前だ。だから、先ほどの感覚は間違いだ。
熱い湯につかると、体が温まりラベンダーの匂いが心地よかった。気持ちよくてスッキリする……思った途端にまた、もやりとした。
何なのだろう。この感覚は。
風呂で考え事をしたせいでのぼせてしまった。火照った体を冷まそうと、のんびり歩いていたら町はずれの修道院まで来てしまった。
商業地区にあるこの修道院は大きい。王都の商業地区にあるので寄付金が集まるのだろう。ただ、20年くらい前の戦争のせいで、一時期経営難になっていたはずだ。建物自体は立派だが、修繕が行き届いていない場所が目に入る。これでも前に比べたらマシなのだが。……前?
……もやり……
記憶を弄った直後はこういった不具合が出るのだと聞く。時が立てば、ああいつものだ、と気にならなくなるらしい。確かに。もやりもやりとすることの多い一日だったが、不思議と嫌な感じはしない。むしろ心地いいとすら感じてしまう。
ずっと歩き回っていたせいだろうか。そんなことを考えていたら、あっという間に睡魔が襲ってきた。
ラベンダーの香りに包まれて眠るのはとても心地が良かった。
110
あなたにおすすめの小説
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した
葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。
メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。
なんかこの王太子おかしい。
婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
聖女の力は使いたくありません!
三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。
ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの?
昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに!
どうしてこうなったのか、誰か教えて!
※アルファポリスのみの公開です。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。
水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。
しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。
マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。
当然冤罪だった。
以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。
証拠は無い。
しかしマイケルはララの言葉を信じた。
マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。
そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。
もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。
【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること
夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。
そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。
女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。
誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。
ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。
けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。
けれど、女神は告げた。
女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。
ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。
リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。
そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる