【完結】昭和アイドル好きの悪役令嬢、中途半端ぶりっこヒロインが許せないのでお手本を見せる

堀 和三盆

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番外編

11 記憶を封印された影

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 目が覚めると商業地区にある宿屋に居た。

 ココにいる、ということはそういうことなのだろう。任務が完了し、記憶を消されたということだ。ここから数日間は記憶を安定させるための休暇になるはずだ。

 ベッドに寝かされ、枕元には俺以外には認識阻害のかかったマジックバッグが置いてある。中身を確認すると、ギルドの口座に165,000,000エルが入っていた。明細がないから分からないが、金額からすると、10年以上仕事をしていたようだ。

 その他に、指令書が入っていた。

「休暇は1カ月……か。長いな」

 とりあえずやることもないので……食事のために街に出ることにした。

 特に食事に興味はないので適当に店を選んで入った。メニューを渡されたが、正直、どれを頼めばいいのか分からない。早く決めないと目立ってしまう。

 みんなは何を頼んでいるのだろうか――さりげなく周りを見渡すと。

 女性客の元へ、赤いスープが運ばれていた。

 ……もやり……

 それを見て、何やら落ち着かなくなった。何故だかソレから目が離せない。

 タイミング悪く、店員が注文を取りに来た。店員は俺の視線に気が付くと、

「ああ、あれは本日のランチのトマトスープです。このあたりの名物ですよ! いかがですか?」

 とお勧めしてきた。仕方ないのでソレを注文した。

 運ばれてきたトマトスープは熱々で、正直なところ失敗したと思った。影の仕事では温かい食事を摂ることなどできない。だから、嫌いなはずの食べ物だ。――なのに。

 一口食べたら、あっという間に食べてしまった。ふうふう、と冷ましながら、手慣れた様子で食べる自分に戸惑いを隠せない。消された記憶に関係があるのだろうか?


 街を散策していると、再びもやりとした。雑貨屋の店先で、若い女性が置物を指さしながら「可愛いー☆」ときゃぴきゃぴしている。

 え? まさかこんなのも消された記憶に関係あるのか?
 ちなみに魔物を模したその置物はちっとも可愛くはなかったのが別の意味でもやりとした。


 あちこち歩きまわり気が付けば夕方で。やたら賑わっている店があったので、近づいてみたら公衆浴場だった。店先に「本日ラベンダー湯」と書いてある。

 ……もやり……

 何か落ち着かないものを感じたが、せっかくだからと入ってみた。影の仕事ではゆっくり湯につかるなどできるわけがない。魔法で済ますのが当たり前だ。だから、先ほどの感覚は間違いだ。

 熱い湯につかると、体が温まりラベンダーの匂いが心地よかった。気持ちよくてスッキリする……思った途端にまた、もやりとした。

 何なのだろう。この感覚は。


 風呂で考え事をしたせいでのぼせてしまった。火照った体を冷まそうと、のんびり歩いていたら町はずれの修道院まで来てしまった。

 商業地区にあるこの修道院は大きい。王都の商業地区にあるので寄付金が集まるのだろう。ただ、20年くらい前の戦争のせいで、一時期経営難になっていたはずだ。建物自体は立派だが、修繕が行き届いていない場所が目に入る。これでも前に比べたらマシなのだが。……前?

 ……もやり……


 記憶を弄った直後はこういった不具合が出るのだと聞く。時が立てば、ああいつものだ、と気にならなくなるらしい。確かに。もやりもやりとすることの多い一日だったが、不思議と嫌な感じはしない。むしろ心地いいとすら感じてしまう。
 ずっと歩き回っていたせいだろうか。そんなことを考えていたら、あっという間に睡魔が襲ってきた。

 ラベンダーの香りに包まれて眠るのはとても心地が良かった。




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